雇止めとは?吸収合併後も再雇用契約は更新される?【東光高岳事件】
Recently updated on 2025-06-22
- 川崎市でシステム開発の会社を経営しています。当社は、A社を吸収合併したのですが、A社のもとで有期雇用契約を締結していた従業員について、契約期間満了後は当社の基準で再雇用を希望した人のみ契約したいと考えています。なにか注意点はありますでしょうか?
- ①過去に反復して更新されたことがあり、契約期間満了時に当該有期労働契約をせずに終了させることが、無期雇用契約を終了させる(解雇)と社会通念上同視できること、または②契約期間満了時に、当該労働者が契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があること、のいずれかに該当する場合は、従業員の契約の申込みを承諾したものとみなされることがあります。
ご相談の件においては、「労働者が契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある」と評価されると従業員の更新の申込みに承諾したとみなされる可能性があります。
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雇止めとは
有期労働契約とは
有期労働契約とは、契約期間が定められている労働契約のことです。
有期労働契約が締結されると、会社は、契約期間の間は、やむを得ない事由がある場合を除いて、労働者を解雇することができません。
労働条件明示ルールにも注意を
令和6(2024)年4月1日から施行された労働条件明示ルールでは、有期労働契約については、通算契約期間または更新回数の上限がある場合、契約の締結時と契約の更新のタイミングごとに、更新上限の内容について具体的に明示しなければならないなど、新しいルールが定められました。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
雇止めには雇止めの予告が必要な場合も
有期労働契約は、契約期間の満了日が設定されていますが、契約を更新することもできます。
また、有期雇用契約を更新せずに終了させる「雇止め」も、直ちに違法になるものではありません。
しかし、使用者は、次のいずれかに該当する有期労働契約を締結している労働者について、雇止めをする場合、少なくとも契約の期間が満了する30日前までに、その予告をしなければなりません(あらかじめ契約を更新しない旨が明示されている場合を除く。)。
① | 3回以上更新されている場合 |
② | 1年以下の契約期間の有期労働契約が更新または反復更新され、最初に有期労働契約を締結してから継続して通算1年を超える場合 |
③ | 1年を超える契約期間の有期労働契約 |
雇止め法理が適用されると契約が更新されたものとみなされる
このように有期労働契約については、契約を更新せずに終了することもできます。
しかし、「有期」であるとはいえ、雇用契約の更新が繰り返されていた場合には、労働者側には、「次も契約は更新されるはずだ」という期待が生じてきます。
そこで、労働契約法19条は、このような労働者の期待を保護する観点から、雇止めについても解雇に準じて考えるという「雇止め法理」が規定されています。
具体的には、以下の場合には、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働者申込みを承諾したものとみなされます。
① 前提(次のいずれか) | 有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあり、契約期間満了時に当該有期労働契約をせずに終了させることが、無期雇用契約を終了させる(解雇)と社会通念上同視できること(1号) | 使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働者申込みを承諾したものとみなされる |
契約期間満了時に、当該労働者が契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があること(2号) | ||
② 労働者が | 有期労働契約の期間が満了する前または期間満了後遅滞なく、有期労働契約の締結を申し込んだとき | |
③ 使用者が | ②の申し込みを拒否することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない場合 |
有期労働契約の締結は慎重に
有期労働契約においては、特に「雇止め」をめぐりトラブルが生じることが多くあります。
上述のとおり、雇止めには労働契約法上、雇止め法理が適用され、従前と同様の労働条件で有期労働契約が更新されたものとみなされることもあります。
また、使用者が、契約を1回以上更新し、かつ、1年を超えて継続して雇用している有期契約労働者との契約を更新しようとする場合には、契約の実態および労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするように努めるなどすることも求められています、
したがって、有期労働契約を締結する場合には、有期契約労働者の雇用安定に配慮することが大切です。
裁判例のご紹介(東光高岳事件・東京高裁令和6年10月17日判決)
さて、今回は、会社の吸収合併後の再雇用契約更新の成否が問題となった事案(東光高岳事件)をご紹介します。
※これまでは原審判決(東京地裁令和6年4月25日判決)をご紹介していましたが、控訴審判決を受けて、本記事もアップデートしています。

事案の概要
本件は、A社との間で期間1年の有期労働契約(本件契約1)を締結したXさんが、同社を吸収合併したY社に対し、同契約満了時、契約更新の合理的期待があり、本件契約1と同一条件によるXさんの更新申込みをY社が拒絶したことは、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当といえないため、労働契約法19条に基づき、本件契約1と同一条件で有期契約が成立・反復更新されたと主張して、未払賃金等の支払い、および労働契約上の地位の確認を求めた事案です。
事実の経過
XさんとA社の有期労働契約の締結
A社は、システム事業とソフトウウェア事業等を営んでいました。
Xさんは、A社との間で無期労働契約を締結していたところ、令和2年9月に60歳定年を迎え、同年10月1日、A社との間で、以下の内容を条件とする有期労働契約(本件契約1)を締結しました。

A社継続雇用制度規程
A社は、60歳定年後の再雇用について、高齢者継続雇用規程を作成しており、本件契約1は、これに沿って締結されていました。
この規程では、
①原則として希望者は65歳まで再雇用し、その契約期間は1年ごととすること
②再雇用社の労働条件については、同社が個別に決定すること
などとされていました。
A社とY社の吸収合併契約
令和3年7月30日、経常赤字の状態が続くA社を、完全親会社のY社が吸収合併する合意が成立し、同年10月1日、本件合併が行われました。
なお、Y社の連結決算をみると、令和3年3期は、経常利益34億200万円、純利益14億800万円であり、本件合併後の令和4年3月期は、経常利益41億7200万円、純利益32億7900万円であり、業績は堅調、資産は健全でした。
従業員への説明
A社は、令和3年4月以降、本件合併に関する全従業員向け説明会を開き、定年後再雇用者については、同年8月20日に、A社継続雇用規程をY社の定年後再雇用規程と同内容に変更する方針等を説明しました。
Xさんの更新申込み
Xさんは、令和3年7月1日、A社に対し、本件契約1と同一条件で労働契約を更新する旨の申込みをしました。
A社の役員らは、同年8月23日、Xさんと面談し、本件契約1の期間満了後のY社との労働契約の条件を、本件提案1または2のいずれかとすることを提案しました。
なお、これらの提案内容は、当時のY社の規程に沿ったものでした。
《本件提案1》

《本件提案2》

Xさんの拒絶と新しい提案
しかし、Xさんは、本件提案1及び2は、本件契約1と比較して労働条件の低下が大きい等として、これを受け入れられない旨を回答しました。
これを受けて、A社及びY社は、令和3年9月13日、Xさんに対して、
・本件提案1の業務内容を「システム事業のソフトランディング、システム製品の営業に関する管理補助業務」と改めた案(本件提案3)
・本件提案2の業務内容を「システム事業のソフトランディング、システム製品の営業業務ならびに付随的業務」と改めた案(本件提案4)
を提案しました。
契約期間の満了
しかし、Xさんは、やはり同意せず、これに代わる提案が提示されないまま、本件契約1の期間は満了しました。
Xさん以外の労働者とY社の雇用契約締結
Y社は、Xさん以外のA社の定年後再雇用者にも本件各提案(本件提案1〜4)と同様の提案をし、有期労働契約を締結しました。
令和3年12月31日当時、Y社の定年後再雇用者は計125名いたところ、いずれもY社の規程に基づく条件で労働契約を締結しており、これと異なる労働条件で契約を締結した者はいませんでした。
本件訴えの提起
その後、Xさんは、本件契約1の満了時、契約更新の合理的期待があり、本件契約1と同一条件によるXさんの更新申込みをY社が拒絶したことは、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当といえないため、本件契約1と同一条件で有期契約が成立・反復更新されたと主張して、Y社に対し、未払賃金等の支払い、および労働契約上の地位の確認を求める訴えを提起しました。

本件の争点
Xさんの主張
Xさんは、本件契約1の満了時、Xさんには契約更新の合理的期待があり、本件契約1と同一条件によるXさんの更新申込みをY社が拒絶したことは、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当といえないとして、労働契約法19条2号に基づき、本件契約1と同一条件で有期契約が成立・反復更新されたと主張していました。

問題になったこと
そこで、本件では、
・本件契約1の期間満了の時点において、Xさんが、本件契約1が更新されると期待したことについて、合理的な理由があるかどうか(労働契約法19条2号)
・Y社がXさんの申し込みを拒絶することについて、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないときに当たるかどうか
が問題となりました。
裁判所の判断
裁判所は、Xさんが本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が存在したものと認められる、と判断しました。
もっとも、本件において、更新申込拒絶には客観合理的理由があり、社会通念上相当性があるとして、Xさんの請求を棄却しています。
本判決のポイント
本件契約1の期間満了の時点において、Xさんが、本件契約1が更新されると期待したことについて合理的な理由があった
労働契約法19条2号の定める「更新」とは
まず、裁判所は、労働契約法19条2号の「当該有期労働契約が更新されるものと期待すること」とは、「従前の契約と同一条件で有期労働契約が更新されるものと期待することに限定されず、従前の契約から労働条件が変更されたうえで有期労働契約が更新されるものと期待することも含まれる」と解釈を示しました。
契約更新の期待に合理的な理由があるか
その上で、裁判所は、XさんがY社との間で本件契約1と同一条件で労働契約が締結されると期待することについて、合理的な理由があるか否かを検討し、
- ・本件契約1は1回目の定年後再雇用契約であり、その後、Xさん・A社間で同契約が更新されたことはないものの、同契約は高年齢者雇用安定法に基づき導入されたA社継続雇用規程に沿って締結されていること
- ・同規程は、①原則、希望者を65歳まで再雇用することや、②定年後再雇用者の契約更新後の労働条件につき、本人の希望を聴取したうえでその都度決定する旨を定めていること
を指摘し、これらによれば、「本件契約1の期間満了時、XさんがA社の地位を包括承継したY社との間で、従前の契約と同一条件か否かはともかく(…)、本件契約1が更新されるものと期待することについて合理的な理由が存在した」と判断しました。
Y社による更新申込拒絶には客観合理的理由があり、社会通念上相当性がある
本件各提案に合理性があった否かも含めて判断
そして、裁判所は、「Y社による更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときに当たるか否かについては、本件各提案に合理性があったか否かも含めて(…)検討する」との判断枠組みを示しました。
Y社による更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときには当たらない
その上で、裁判所は、
- ・本件契約と同一の労働条件で更新されることが期待される状況ではないこと
- ・本件各提案はY社の定年後再雇用者に適用されている規程に沿ったものであること
- ・経営難に陥ったA社を吸収合併するに際して、A社の定年後再雇用者についてY社の定年後再雇用者より有利な労働条件で契約すれば、Y社の定年後再雇用者が著しい不公平感を抱き、その士気を損ねる恐れがあるため、両者を同一の労働条件とする必要性は高いこと
- ・Xさん以外のA社の定年後再雇用者3名がY社の提案に同意していたこと
などからすれば、賃金を大きく減少することやY社の業績が堅調であることを考慮しても本件各提案には合理性があり、「本件契約1の更新拒絶が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときに当たるとはいえない」と判断しました。
結論
よって、裁判所は、本件契約1は更新されておらず、Xさんの請求は認められないと判断しました。
原審との判断の違い
原審の判決では、労働契約法19条2号にいう「更新」とは、「直近に締結された労働契約と同一の労働条件で契約を締結することをいう」と定義していました。
もっとも、本判決は、「更新」とは、「従前の契約と同一条件で有期労働契約が更新されるものと期待することに限定されず、従前の契約から労働条件が変更されたうえで有期労働契約が更新されるものと期待することも含まれる」との解釈を示しています。
有期雇用契約においては、更新の際に、当該労働者の勤務評価などに応じた労働条件の見直しが図られることがあります。このような観点からすれば、「更新」の意義については、本判決のように解する方が妥当といえるでしょう。
ただし、本判決も、更新申込拒絶の客観合理的理由・社会通念上相当性を判断するにあたり、本件契約と同一の労働条件で更新されることが期待される状況であったことを指摘しており、やはり従前と労働契約と同一の労働条件で契約を締結することへの期待という点も重要であるとはいえます。
弁護士にもご相談ください
今回ご紹介した裁判例では、会社の組織再編に伴い再雇用契約の更新の成否が争われました。
吸収合併などの組織再編が行われる場合、これを契機として、従業員の労働条件の変更が行われることも多々あります。
しかし、労働者にとって労働条件の変更(特に不利益な変更)は生活にも大きな影響を来すものであり、使用者側とのトラブルを生じさせるリスクがあります。
組織再編を行う場合には、特に労働者の労働条件や勤務環境の変化などにも注意が必要です。 M&Aや組織再編に伴う労働契約の承継などの人事労務問題についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。
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