労働問題

契約期間5年・更新4回での雇止めは違法?【ドコモ・サポート事件】

川崎市で店舗運営をしています。有期雇用契約を何回か更新している従業員が何人かいます。更新の結果、契約期間5年を超えると従業員に無期転換権が生じると聞きました。5年経過する前に雇止めをしていれば、無期転換権は発生しないという理解は正しいでしょうか?
いいえ、必ずしも正しくありません。①過去に反復して更新されたことがあり、契約期間満了時に当該有期労働契約をせずに終了させることが、無期雇用契約を終了させる(解雇)と社会通念上同視できること、または②契約期間満了時に、当該労働者が契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があること、のいずれかに該当する場合は、従業員の契約の申込みを承諾したものとみなされることがあります。詳しくは労務関係に強い弁護士にご相談ください。

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雇止め法理とは?

雇止めとは

「雇止め」とは、有期雇用契約を締結する労働者について、契約を更新することなく雇用契約を終了することです。
雇用契約の場面でも契約自由の原則が適用されるので、使用者と労働者の合意によって契約を更新せずに有期労働契約を終わらせること自体は有効とされています。

雇止め法理

もっとも、「有期」とはいえ、雇用契約の更新が繰り返されていた場合には、労働者側にも「必ず次も更新されるはずだ」という期待が生じてきます。
そこで、労働契約法19条は、このような労働者の期待を保護する観点から、雇止めについても解雇に準じて考えるという雇止め法理を規定しています。

具体的には、

①次のいずれかに該当し(労働契約法19条1号or2号
・有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあり、契約期間満了時に当該有期労働契約をせずに終了させることが、無期雇用契約を終了させる(解雇)と社会通念上同視できること(1号)
・契約期間満了時に、当該労働者が契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があること(2号)
②労働者が、有期労働契約の期間が満了する前または期間満了後遅滞なく、有期労働契約の締結を申し込んだときであって
③使用者が、②の申し込みを拒否することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない場合

には、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働者申込みを承諾したものとみなされます。

① 前提(次のいずれか)有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあり、契約期間満了時に当該有期労働契約をせずに終了させることが、無期雇用契約を終了させる(解雇)と社会通念上同視できること(1号)使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働者申込みを承諾したものとみなされる
契約期間満了時に、当該労働者が契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があること(2号)
② 労働者が有期労働契約の期間が満了する前または期間満了後遅滞なく有期労働契約の締結を申し込んだとき
③ 使用者が②の申し込みを拒否することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない場合
労働契約法19条の整理 労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)

有期雇用契約締結の際には要注意

雇止めをめぐっては、労使間に紛争が生じるケースが多くあります。
このような紛争を未然に防ぐためにも、有期労働契約の締結、更新、雇止めの際には、労働基準法をはじめとする関係諸法令の定めに気をつけなければなりません。

ドコモ・サポート事件・東京地裁令和3.6.16判決

さて、今回は、契約期間5年・更新4回での雇止めの適法性が争われた事案をご紹介します。

事案の概要

本件は、Y社との間で、平成25年9月4日に、期間を同年10月1日から平成26年3月31日までとして有期労働契約を締結し、その後、同契約を4回更新された後、4回目の更新期間満了後である平成30年3月31日にY社から雇止めされたXさんが、Xさんには労働契約法19条2号の有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的理由があり、かつ、本件雇止めは客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないため、従前の有期労働契約の内容で契約が更新され、平成31年3月31日に退職したことから同日に契約が終了したと主張して、Y社に対し、未払賃金等の支払いを求めた事案です。

事実の経過

XさんとY社の有期労働契約の締結

Xさんは、障害者雇用枠でY社に採用された者であり、Y社との間で、有期労働契約を締結し、Y社の研修センターや監査部における業務に従事していました。
Y社は、電気通信事業に係わる各種受託業務、テレマーケティングに関する業務等を行うことを目的とする株式会社であり、株式会社NTTドコモが100パーセント出資している同社のグループ会社でした。

Y社における雇用制度

Y社の従前の雇用制度(旧雇用制度)
旧雇用契約の区分

Y社を含む株式会社NTTドコモのグループ会社においては、グループ会社全体で統一した雇用制度を導入することとし、平成20年12月1日以降、会社との間で有期労働契約を締結している者の雇用区分として、主に給与体系の違いから、「契約社員」、「スタッフ社員」及び「パートナー社員」という3つの雇用区分を設け、一方で、会社との間で無期労働契約を締結している者の雇用区分として、「正社員」という雇用区分を設けていました。

契約社員とは

契約社員は、同一雇用区分での経験が3年を経過した場合には、正社員の採用募集に応募できるところ、その選考においては、適性試験及び人事委員会による面談の結果や、雇用期間中の評価等を総合的に判断されていました。なお、正社員の採用募集は、Y社の事業動向等を踏まえて実施されることから、毎年実施されるわけではありませんでした。
また、契約社員は、契約社員としての経験が3年を経過した場合には、スタッフ社員の採用募集に応募できるところ、その選考においては、適性試験及び人事委員会による面談の結果や、雇用期間中の評価等を総合的に判断されていました。なお、スタッフ社員の募集は、業務の拡大、欠員補充等の事象が発生した場合に、その都度行われていました。

スタッフ社員とは

スタッフ社員は、同一雇用区分での経験が3年を経過した場合には、契約社員と同様に、正社員の採用募集に応募することができるほか、スタッフ社員としての経験が3年を経過した場合には、パートナー社員の採用募集に応募することができ、適性試験及び人事委員会による面談の結果や、雇用期間中の評価等を総合的に判断された上で選考されていました。なお、パートナー社員の募集は、業務の拡大、欠員補充等の事象が発生した場合に、その都度行われていました。

パートナー社員とは

パートナー社員は、同一雇用区分での経験が3年を経過した場合には、契約社員及びスタッフ社員と同様に、正社員の募集に応募することができました。

Y社による旧雇用制度の改定(新雇用制度)

Y社を含む株式会社NTTドコモのグループ会社においては、平成26年4月1日以降、新たな雇用制度を導入することとした。
新雇用制度においては、有期契約労働者の雇用区分として、「有期社員」を新設し、旧雇用制度における契約社員等の雇用区分は廃止されることになりました。
また、無期契約労働者の雇用区分として、旧雇用制度における「正社員」に対応する「社員<グループ総合職>」のほか、新たに「社員<エリア基幹職>」という雇用区分が設けられました。
グループ総合職社員は、転居を伴う人事異動を含め配置・育成されることが予定されているのに対し、エリア基幹職社員は、転居を伴わない人事異動により配置・育成されることが予定されており、転居を伴う人事異動はありませんでした。
また、旧雇用制度の改定に際し、同制度の有期契約労働者の雇用区分である契約社員等は、有期社員へ雇用替えをすることができることとしていました。

XさんY社間の労働契約締結までの経緯

Xさんは、平成25年6月22日、Y社の就職説明会に参加し、Y社による面談を受け、同年7月4日、Y社による採用面談を受けました。
また、Xさんは、平成25年8月6日、Y社の入社説明会に参加しました。
そして、Xさんは、同日、指定期日に入社することを承諾する旨記載された同日付けの採用内定承諾書に署名捺印し、Y社に提出しました。

XさんとY社との間の労働契約の締結及びその後の更新状況等

本件契約1の締結

Xさんは、平成25年9月4日、Y社との間で、契約期間を同年10月1日から平成26年3月31日までとする有期労働契約(本件契約1)を締結し、以下の内容が記載された平成25年9月4日付けの契約社員雇用契約書に署名捺印した上で、Y社に提出しました。

Y社の雇用制度の改定の対応

Xさんは、Y社の旧雇用制度の改定に伴い、平成26年4月1日以降の雇用契約に関して、平成25年12月19日付けの雇用意向確認書と題する書面のうち「有期雇用社員としての雇用替えを希望」と記載された欄の横に丸印を付け、同書面に署名捺印した上で、Y社に提出しました。

本件契約2の締結

Xさんは、平成26年3月11日、Y社との間で、契約期間を同年4月1日から平成27年3月31日までとする有期労働契約(本件契約2)を締結し、以下の内容が記載された平成26年3月11日付けの有期社員雇用契約書に署名捺印した上で、Y社に提出しました。

本件契約3の締結

Xさんは、平成27年3月19日、Y社との間で、契約期間を同年4月1日から平成28年3月31日までとする有期労働契約(本件契約3)を締結し、同契約の契約書である平成27年3月19日付けの有期社員雇用契約書に署名捺印した上で、Y社に提出しました。
同契約の契約書の内容は、「雇用契約更新限度回数」欄に「今回の契約を除き2回」と記載があり、また、契約更新の「判断基準」欄に「但し、雇用契約終了時に事業譲渡・廃止等により、就業場所に従事すべき業務が無くなる場合は雇用を終了する。」と追記されたほか、契約期間に関する記載を除けば、おおむね、本件契約2の契約書の記載内容と同じでした。

本件契約4の締結

Xさんは、平成27年6月24日、Xさんの業務内容が変更されたことから、Y社との間で、「従事すべき業務の内容」を「監査部における内部監査に伴う取りまとめ業務」とし、契約期間を同年7月1日から平成28年3月31日までとする有期労働契約(本件契約4)を締結し、同契約の契約書である平成27年6月24日付けの有期社員雇用契約書に署名捺印した上で、Y社に提出しました。
同契約の契約書の内容は、契約期間、就業場所及び従事すべき業務内容に関する記載を除けば、おおむね、本件契約3の契約書の記載内容と同じでした。

本件契約5の締結

Xさんは、平成28年3月17日、Y社との間で、契約期間を同年4月1日から平成29年3月31日までとする有期労働契約(本件契約5)を締結し、同契約の契約書である平成28年3月17日付けの有期社員雇用契約書に署名捺印した上で、Y社に提出しました。
同契約の契約書の内容は、「雇用契約更新限度回数」欄に「今回の契約を除き1回」と記載があるほか、契約期間に関する記載を除けば、おおむね、本件契約4の契約書の記載内容と同じでした。

本件契約6の締結

Xさんは、平成29年3月21日、Y社との間で、契約期間を同年4月1日から平成30年3月31日までとする有期労働契約(本件契約6)を締結し、本件契約6の契約書である平成29年3月21日付けの有期社員雇用契約書に署名捺印した上で、Y社に提出しました。同契約の契約書の内容は、「雇用契約更新の有無」欄に「契約の更新はしない」と記載があり、また、「雇用契約更新限度回数」欄に「今回の契約を除き0回」と記載があるほか、契約期間に関する記載を除けば、おおむね、本件契約5の契約書の記載内容と同じでした。

Y社による雇止め

Y社は、平成30年2月14日、Xさんに対し、本件契約の締結当初から、契約の更新回数の上限を設けており、本件契約は当該上限に達するものであるから、同年3月31日をもって雇用期間満了とし、今後契約更新を行わない旨を通知(本件雇止め)をしました。

Xさんによる契約更新の申込み

Xさんは、Y社に対し、平成30年3月13日付けの受任通知と題する書面により、労働契約法19条に基づき、本件契約の更新の申込みを行いました。
もっとも、Y社は、本件契約の更新は行わない旨回答しました。

Xさんによる退職届の提出

Xさんは、Y社に対し、一身上の都合により、平成31年3月31日をもって退職する旨記載した同年4月28日付け退職届を提出しました。

訴えの提起

その後、Xさんは、Xさんには労働契約法19条2号の有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的理由があり、かつ、本件雇止めは客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないため、従前の有期労働契約の内容で契約が更新され、平成31年3月31日に退職したことから同日に契約が終了したと主張して、Y社に対し、未払賃金等の支払いを求める訴えを提起しました。

争点

本件では、本件契約が労働契約法19条により更新されたものとみなされるか否かが争点となりましたが、特に同条2号の該当性、すなわち、契約期間満了時に、Xさんが、契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるといえるか否かが問題となりました。

本判決の要旨

判断枠組み

まず、裁判所は、契約期間満了時に、当該労働者が契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるといえるか否かを判断するにあたり、更新の回数や通算期間のほか、雇用管理の状況や使用者側の言動など、さまざまな事情を総合考慮して判断すべきことを示しました。

労働契約法19条2号における有期労働契約が更新されるものと期待することについての合理的理由の存否は、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、他の有期労働契約の更新状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無等を総合考慮して決すべきものと解される。」

本件の検討

その上で、裁判所は、Y社の雇用制度及びその運用状況、XさんとY社との間の雇用契約締結に至る経緯、Y社の契約期間管理に関する状況などに照らせば、平成30年3月31日の契約満了時点において、Xさんが、契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるとは認められないと判断しました。

「前記(…)Y社における有期契約労働者に関する雇用制度及びその運用状況に照らせば、Y社では、有期契約労働者については、無期契約労働者へのキャリアアップ(旧雇用制度下においては、契約社員からスタッフ社員へのキャリアアップ及びスタッフ社員からパートナー社員へのキャリアアップも含む。)の仕組みを設ける一方で、無期契約労働者の登用試験(旧雇用制度下においては、契約社員からスタッフ社員への登用試験及びスタッフ社員からパートナー社員への登用試験も含む。以下、この項において同じ。)に合格しない者については、長期雇用の適性を欠くものと判断し、更新限度回数又は契約期間の上限により契約を終了するという人事管理をしているものといえる。そうすると、Y社の雇用制度においては、有期契約労働者は、無期契約労働者の登用試験に合格しない限りは、有期契約労働者として5年(更新限度回数4回)を超える長期間の雇用を継続していくことは予定されていないものといえる。

また、(‥)XさんとY社との間の本件契約の締結に至るまでの経過やY社の契約期間管理に関する状況等からすれば、Xさんは、Y社に採用された当初から、本件契約の更新限度回数は最大で4回であることを認識した上で本件契約を締結しており、その認識のとおり、本件契約が更新されていったものといえるから、Xさんにおいて、本件契約が、更新限度回数4回を越えて、更に更新されるものと期待するような状況にあったとはいえない。

以上のとおり、Y社における雇用制度及びその運用状況を踏まえると、Y社の有期契約労働者は、無期契約労働者の登用試験(旧雇用制度下においては、契約社員からスタッフ社員への登用試験及びスタッフ社員からパートナー社員への登用試験も含む。)に合格しない限りは、5年(更新限度回数4回)を超える長期間の雇用を継続していくことは予定されていないこと、また、Xさんにおいても、上記運用に沿った有期労働契約を締結し、その後の更新状況も同運用に沿ったものであるから、Xさんにおいて、本件契約が、更新限度回数4回を越えて、更に更新されるものと期待するような状況にあったとはいえないこと、加えて、Xさんは、平成28年度及び平成29年度に、エリア基幹職社員の採用募集に応募し、選考試験を受けたが、いずれの年度においても選考試験に合格できなかったことからすれば、Xさんが、平成30年3月31日の本件契約の満了時点で、本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認めることはできない。

結論

よって、裁判所は、以上の検討から、本件において「Xさんが、平成30年3月31日の本件契約の満了時点で、本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるとは認められ」ず、「労働契約法19条2号により、Xさんによる本件契約の更新の申込みをY社が承諾したものとみなされる余地はない。」として、Xさんの請求は認められないと判断しました。

解説

どんな事案だった?

本件は、Y社との間で、有期労働契約を締結し、その後、同契約を4回更新された後、4回目の更新期間満了後にY社から雇止めされたXさんが、Xさんには労働契約法19条2号の有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的理由があり、かつ、本件雇止めは客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないため、従前の有期労働契約の内容で契約が更新されたと主張して、Y社に対し、未払賃金の支払いなどを求めた事案でした。

何が問題となったか?

本件では、契約期間満了時に、Xさんが契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある(労働基準法19条2号)といえるか否かが問題となりました。

ポイント

本判決は、労働者が、有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的理由が認められるか否か(労働基準法19条2号)について、

  • 当該雇用の臨時性・常用性
  • 更新の回数
  • 雇用の通算期間
  • 契約期間管理の状況
  • 他の有期労働契約の更新状況
  • 雇用継続の期待を持たせる使用者の言動の有無


などを総合的に考慮して判断することを示しています。

本判決においては、Y社の雇用制度やその運用状況、XさんとY社との間の雇用契約締結に至る経緯、Y社の契約期間管理に関する状況などを詳細に検討した上で、Xさんが本件契約の満了時点で、本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるとは認められないと判断されています。

雇止めの適法性が争われた場合には、会社の雇用制度や運用状況、契約締結時の状況、契約期間の管理に関する事情などさまざまな事情が考慮されることに注意しておきましょう。

弁護士にもご相談ください

近年、雇止めの有効性が争われる事案が増えています。

本件は、雇止めが有効と判断されていますが、例えば、学校法人玉手山学園(関西福祉科学大学)事件では、雇止めが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできないとして、労働契約法19条2号に基づき、当該労働者が労働契約上の地位を有する旨の判断が示されています。

有期雇用契約の労働者について、雇止めを検討している場合には、あらかじめ問題がないかどうか弁護士に相談しておくことがおすすめです。

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