法律コラム

パワーハラスメントについて理解しよう【職場内のパワハラ防止対策】【弁護士が解説】

最近あちこちで耳にする「ハラスメント」という言葉。
広辞苑を調べてみると、ハラスメント【harassment】とは、「人を悩ますこと。優越した地位や立場を利用した嫌がらせ」を意味するとされています。

職場で問題となるハラスメントとしては、セクシャルハラスメント(セクハラ)やパワーハラスメント(パワハラ)、モラルハラスメント(モラハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)、スモークハラスメント(スモハラ)、カスタマーハラスメント(カスハラ)、ハラスメントハラスメント(ハラハラ)、アルコールハラスメント(アルハラ)、時短ハラスメント(ジタハラ)、リストラハラスメント(リスハラ)などが例として挙げられますが、この他にもハラスメントにはさまざまな種類があります。
また、令和6年には、文末に句点「。」が付されることによって脅威を感じるついて「マルハラ」と呼ばれる新しいハラスメントの概念も生まれており、職場内のハラスメント対応についてはいま一度しっかり見直す必要があります。

今回は、数々のハラスメントの中でも、被害者、加害者だけでなく、会社にも大きな影響を及ぼすパワハラについて詳しく解説します。セクハラに関する解説はこちらマタハラに関する解説はこちらをご覧ください。

パワーハラスメント(パワハラ)防止法とは

厚生労働省が公表しているハラスメント実態調査の結果をみると、労働者がこれまで経験したことのあるハラスメントの中で最も多い類型としてパワハラが挙げられています。
政府は、職場におけるパワハラを防止し、職場環境の改善を図る観点から、令和2(2020)年に労働施策総合促進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律。通称「パワハラ防止法」)を改正し、事業主に対してパワハラ防止措置を講ずることを義務付けました。

また、同法は、事業主に対して、労働者がパワハラに関する相談を行ったことや事業者による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者を解雇などの不利益的取り扱いを行ってはならないことなども定めています。
このように、パワハラ防止法によって、事業者には雇用管理上の措置義務としてパワハラ防止に関する対策を講ずる責務があり、このような対策を行わない場合には、行政庁から指導や勧告などが行われたり、企業名が公表されたりする可能性もあります。
これらの義務は、令和4(2022)年4月以降、中小事業主であっても同様に課せられているものであり、事業規模の大小にかかわらず、パワハラという概念やパワハラ防止法の内容・責務などについてしっかりと確認しておく必要があります。

労働施策総合促進法第30条の2(雇用管理上の措置等)

1 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

3~6 (略)

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)

パワーハラスメント(パワハラ)とは

パワーハラスメント(パワハラ)と聞くと、上司が部下に対して罵声をあびせたり、人格を否定する発言をしたりする様子が目に浮かびますが、まずは、事業者としてパワハラ防止措置を講じるために、パワハラという概念について正確に理解しておく必要があります。

では、職場におけるパワハラについては、具体的な定義などはあるのでしょうか。

職場におけるパワハラ3要素

厚生労働省によれば、パワーハラスメントとは、職場において行われる
優越的な関係を背景とした言動であって
業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
労働者の就業環境が害されるもの
いうと定義されています。

上記①から③の要素すべてを満たすものが職場におけるパワハラに該当するため、たとえば、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導などであれば、パワハラには当たりません。

職場とは

職場におけるパワハラに該当するためには、まずは「職場」で行われた行為であることが必要です。

「職場」とは、事業者が雇用する労働者が業務を遂行する場所をいい、いわゆる事務所や作業現場、工場などがこれにあたります。
もっとも、これらの場所だけでなく、クライアントとの打ち合わせ場所や接待の場、移動中の車や電車、飛行機の中、業務と関連する宴会の場などであっても、同様に「職場」に該当するものと考えられます。

労働者とは

対象となる労働者は、事業者と雇用契約を締結するすべての労働者が含まれ、雇用形態は問いません。
したがって、正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員などであっても当然に「労働者」に含まれます。

また、派遣労働者については、派遣元事業者が雇用契約を締結する主体にはなりますが、事実上、派遣労働者が指揮命令を受けるのは、派遣先事業者であることを踏まえ、派遣先事業者も派遣労働者に対するパワハラ防止措置を講じなければならないとされています(労働者派遣法47条の4)。

労働者派遣法第47条の4(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律の適用に関する特例)

労働者派遣の役務の提供を受ける者がその指揮命令の下に労働させる派遣労働者の当該労働者派遣に係る就業に関しては、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者もまた、当該派遣労働者を雇用する事業主とみなして、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)第三十条の二第一項及び第三十条の三第二項の規定を適用する。この場合において、同法第三十条の二第一項中「雇用管理上」とあるのは、「雇用管理上及び指揮命令上」とする。

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)
パワハラにおける職場と労働者

優越的な関係を背景とした言動(要素①)とは

パワハラ3要素の1つ目である「優越的な関係を背景とした言動」とは、当該行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係に基づいて行われることを意味します。

たとえば、
✔職務上の地位が上位の者による行為(上司:部下の視点)
✔同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの(知識やノウハウの有:無の視点)
✔同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの(集団:個人の視点)

などがこれに当たります。

業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動(要素②)とは

パワハラ3要素の2つ目である「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは、社会通念に照らし、当該行為が明らかに業務上の必要性がない、又はその態様が相当でないものを意味します。

たとえば、
✔業務上明らかに必要性のない行為
✔業務の目的を大きく逸脱した行為
✔業務を遂行するための手段として不適当な行為
✔当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為
などがこれに当たります。

逆にいえば、要素②は、客観的に見て適正な業務指示や指導は、パワハラから除外するという意味でもあります。

労働者の就業環境が害される(要素③)とは

パワハラ3要素の3つ目である「働者の就業環境が害される」とは、当該行為を受けた者が身体的若しくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、又は当該行為により当該行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを意味します。

たとえば、
✔暴力により傷害を負わせる行為
✔著しい暴言を吐く等により、人格を否定する行為
✔何度も大声で怒鳴る、厳しい叱責を執拗に繰り返す等により、恐怖を感じさせる行為
✔長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、就業意欲を低下させる行為
などがこれに当たります。

パワハラ3要素を判断する際の留意点

さまざまな事情を総合的に考慮

業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動に該当するか否か(上記②要素)を判断するに当たっては、それぞれの事案を個別に検討し、様々な事情を総合的に考慮する必要があります。

具体的には、
➣行為者による当該言動の目的、当該言動が行われた経緯や状況
➣業種・業態、業務の内容・性質、
➣当該言動の態様・頻度・継続性
➣労働者の属性、労働者の心身の状況、行為者との関係性
➣当該言動によって労働者が受ける身体的・精神的な苦痛の程度など
さまざまな事情を考慮しなければなりません。

平均的な労働者を基準に

労働者の受ける身体的・精神的苦痛によって就業上看過できない程度の支障が生ずるか否か(上記③要素)を判断するに当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準にするべきであると考えられています。
すなわち、社会一般の労働者が、同様の状況下において同様の言動を受けた場合に、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準にすることが大切です。

ヒアリングは当事者双方から

パワハラ3要素について検討するに際しては、事実確認を行う観点から、相談者や行為者、その他の関係者からヒアリングを行うことになりますが、行為者あるいは相談者いずれか一方の主張だけを聞き入れて判断するのではなく、行為者と相談者それぞれから丁寧に事情を聞き取る必要があります。
また、事実関係だけでなく、当該行為が行われた際の相談者の心身の状況や受け止め方といった認識の部分についても十分に配慮しながら検討を進めることも重要です。

パワハラ3要素まとめ

パワハラの3要素

パワハラ6類型

ここまで、職場におけるパワハラに定義について、パワハラ3要素を中心として考えてきました。

では、職場におけるパワハラに該当する行為としては、具体的にどのような言動等が挙げられるのでしょうか。

実際には、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあるため、必ずしも該当の有無を断定し得るものではありませんが、一般的にパワハラに該当すると考えられる代表的な言動として、次の6つの類型
➣類型①身体的な攻撃(暴行・傷害)
➣類型②精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
➣類型③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
➣類型④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
➣類型⑤過少な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
➣類型⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
についてそれぞれ検討してみましょう。

身体的な攻撃(類型①)

1つ目の類型としては、「身体的な攻撃」が挙げられます。
これは、まさに殴るや蹴るなどの暴行や傷害をいい、身体に対する直接的な攻撃だけでなく、相手に当たらない程度に物を投げつけるといった間接的な攻撃も含まれます。

他方、誤ってぶつかってしまったなどの場合は、身体的な攻撃には該当しないと考えられます。

パワハラの例

精神的な攻撃(類型②)

2つ目の類型としては、「精神的な攻撃」が挙げられます。
労働者の人格を否定するような発言をわざと行ったり、ひどい暴言を吐いたり、他の多くの人がいる状況下において、大声でミスを指摘して叱責したりするなど、名誉棄損や脅迫、侮辱、ひどい暴言などを行う場合がこれに当たります。

他方、遅刻などの社会的ルールを欠いた言動が見られた、再三注意をしたにもかかわらず改善されない労働者や企業の業務内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすることは、精神的な攻撃には該当しないと考えられます。

パワハラの例

人間関係からの切り離し(類型③)

3つ目の類型としては、「人間関係からの切り離し」が挙げられます。
事業者にとって意に沿わない労働者を別室に隔離したり、特定の労働者だけを集団で無視して孤立させたりするなど、労働者に対する隔離や仲間外し、無視などを行う場合がこれに当たります。

他方、新規に採用した労働者を育成するために短時間集中的に別室で研修等の教育を実施することや懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対して、通常の業務に復帰させるため、一時的に別室で必要となる研修を受けさせることは、人間関係からの切り離しには該当しないと考えられます。

パワハラの例

過大な要求(類型④)

4つ目の類型としては、「過大な要求」が挙げられます。
業務上明らかに不要な雑務を課して仕事を妨害したり、労働者の能力や経験上、遂行不可能なことを強制したりすることなどがこれに当たります。

他方、労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せたり、業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せることなどは、過大な要求には該当しないと考えられます。

パワハラの例

過少な要求(類型⑤)

5つ目の類型としては、「過小な要求」が挙げられます。
業務上、何ら合理性もないにもかかわらず、労働者の能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えずに放置したりすることなどがこれに当たります。

他方、労働者の能力や状況に応じて、一定程度、業務内容や業務量を軽減させることなどは、過少な要求に該当しないと考えられます。

パワハラの例

個の侵害(類型⑥)

6つ目の類型としては、「個の侵害」が挙げられます。
労働者のプライベートなことに対して過度に立ち入ったり、私物の写真撮影を行ったり、許可なく個人的な情報を他の労働者に暴露したりすることなどがこれに当たります。

他方、労働者への配慮を目的として、その家族の状況等についてヒアリングを行うことや、労働者の了解を得て機微な個人情報について必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し配慮や対応を促すことなどは、個の侵害に該当しないと考えられます。

パワハラの例

留意事項

上記6類型はあくまでも代表的なものであり、例示列挙ではありません。
したがって、必ずしもこれらの類型のいずれかに当てはまるからパワハラに該当する、或いはいずれにも当てはまらないからパワハラには該当しないということにはなりません。
また、同じような内容の行為であっても、個々の事案の状況等によっては判断が異なる場合もあり得ることには十分に注意する必要があります。

事業者及び労働者の責務

パワハラ防止法では、職場におけるパワハラを防止するため、事業者と労働者それぞれに対して、次のような事項に努めること責務があることを明示されています。

事業者の責務について

まず、事業者については、パワハラ防止法第33条の3第2項および3項において、
✔職場におけるパワハラを行ってはならないことなどこれに起因する問題(ハラスメント問題)に対する労働者の関心と理解を深めること
✔雇用する労働者が他の労働者(事業主が雇用する労働者だけを意味するものではなく、取引先等の他の事業主が雇用する労働者や休職者も含む。)に対する言動に必要な注意を払うよう研修を実施すなど必要な配慮を行うこと
✔事業主自身(法人の場合には役員)がハラスメント問題に関する関心と理解を深め、労働者(事業主が雇用する労働者だけを意味するものではなく、取引先等の他の事業主が雇用する労働者や休職者も含む。)に対する言動に必要な注意を払うこと
に努めること責務とされています。

労働施策総合促進法第33条の3(国、事業主及び労働者の責務)

1 (略)

2 事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。

3 事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)

労働者の責務について

労働者については、パワハラ防止法第33条の3第4項において、

✔ハラスメント問題に関する関心と理解を深め、他の労働者(事業主が雇用する労働者だけを意味するものではなく、取引先等の他の事業主が雇用する労働者や休職者も含む。)に対する言動に注意を払うこと
✔事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること
に努めることが責務とされています。

労働施策総合促進法第33条の3(国、事業主及び労働者の責務)

4 労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)

職場におけるパワハラ防止のために講ずべき措置

また、事業主は、パワハラ防止法第33条の2第1項及び第3項に基づき、職場におけるパワハラを防止するための措置を必ず講じる義務があります。

事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

✔職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること

✔行為者について厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること

相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

✔相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

✔相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること

✔職場におけるパワハラの発生のおそれがある場合や、パワハラに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること

職場におけるパワーハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応

✔事実関係を迅速かつ正確に確認すること

✔パワハラの事実が確認された場合、速やかに被害者に対する配慮措置を適正に行うこと

✔パワハラの事実が確認された場合、行為者に対する措置を適正に行うこと

✔パワハラの事実が確認された場合、確認されなかった場合いずれであっても、再発防止に向けた措置を講ずること

そのほか併せて講ずべき措置

✔相談者・行為者等のプライバシー(性的指向や性自認、病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含む。)を保護するために必要な措置を講じ、周知すること

✔相談したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

労働施策総合促進法第33条の2(国、事業主及び労働者の責務)

1 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 (略)

3 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。

4 (以下略)

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)

事業者に相談等をした労働者に対する不利益取扱いの禁止

事業主は、この他にも、パワハラ防止法第33条の2第4項に基づき、労働者が職場におけるパワハラについての相談を行ったことや雇用管理上の措置に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取り扱いをすることが禁止されています。

労働施策総合促進法第33条の2(国、事業主及び労働者の責務)

1 (略)

2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

3 (以下略)

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)

望ましい取り組み

これまで述べたとおり、事業者には職場におけるパワハラを防止するために、各種の措置を講ずる義務や責務が課されていますが、このほかにも望ましい取り組みとして次のような事項が挙げられています。

ハラスメント対策

たとえば、職場におけるパワハラの原因等を解消するための具体的な取り組みの例としては、職場内のコミュニケーションを活性化・円滑化させるための研修等を行ったり、適正な業務目標を設定するなどの職場環境の改善を図ったりすることなどが考えられています。
また、望ましい取り組みとして掲げられている事項は、パワハラ以外のハラスメントに対する対応との関係でも同様に活かされるものでもありますので、職場内のさまざまなハラスメントを防止するために、可能な限り一つ一つ丁寧に取り組んでいくことが重要です。

まとめ

ポイント

職場におけるパワーハラスメントのポイントについておさらいしましょう。

まず、パワハラとは、職場において行われる
① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
③ 従業員の就業環境が害されること
の①から③までの3つの要素を全て満たすものを指します。

そして、パワハラに該当する代表的な例としては、
➣類型①身体的な攻撃(暴行・傷害)
➣類型②精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
➣類型③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
➣類型④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
➣類型⑤過少な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
➣類型⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
という6つの類型が挙げられます。

また、職場におけるパワハラを防止するために、事業者には、厚生労働大臣の指針に準じて、

☆ 事業者者の方針等の明確化及びその周知・啓発
☆ 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
☆ 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
☆ プライバシー保護や不利益取扱いの禁止等といった併せて講ずべき措置
をそれぞれ講ずる義務があるほか、他のハラスメント等と一元的に相談・対応できる体制の整備や雇用管理上の措置の運用状況に関する把握・見直しの検討等に努めることなどが期待されています。

注意事項

パワハラ防止法に基づく事業主の措置義務は、大企業だけでなく中小企業にも同様に課されています。
これらの義務に違反した場合、行政庁から助言・指導・勧告を受けたり、報告を求められたりするおそれがあります。
また、勧告に従わなかった場合には企業名が公表される可能性があるほか、行政庁から報告を求められたのに報告をせず、または虚偽報告をした場合には過料に処せられることになります。

したがって、中小企業であっても、職場におけるパワハラについて十分に理解した上で、パワハラ防止法に定める各種義務や責務を履行する必要があります。

労働施策総合促進法第33条(助言、指導及び勧告並びに公表)

1 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができる。

2 厚生労働大臣は、第30条の2第1項及び第2項(第30条の5第2項及び第30条の6第2項において準用する場合を含む。第35条及び第36条第1項において同じ。)の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)

労働施策総合促進法第36条(報告の請求)

1 厚生労働大臣は、事業主から第30条の2第1項及び第2項の規定の施行に関し必要な事項について報告を求めることができる。

2 (略)

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)

労働施策総合促進法第41条

第36条第1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20円以下の過料に処する。

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)

ぜひ弁護士にもご相談ください

ハラスメントを巡って、裁判になった例も紹介していますので、ぜひご覧下さい。

「誰も止められなかったパワハラ」分限処分の有効性【判例解説・長門市市消防長事件】

自宅待機期間中の出勤指示は不法行為?【関西新幹線サービック事件】

パワハラを含めて職場内においてハラスメントを防止するためには、絶対にハラスメントを許さないという企業風土を醸成することが最も重要です。

このためには、ハラスメントに関する適切な理解を促進するための講義や研修を行うほか、就業規則の服務規律等においてハラスメントを禁止する条項を入れること、アンケート等を通じて社内のハラスメントの実態を把握すること、労働者がハラスメントについて知り学ぶ機会を提供すること、労働者がハラスメントについて相談しやすい環境を整えること、万が一ハラスメントが発生した場合には再発防止に向けて迅速な取り組みを進めていくことなどが必要となります。

もっとも、多くの事業者にとって、他の業務などと並行してハラスメント対策を独自に進めていくことは難しいというのが現実です。

このような場合には、顧問弁護士にも相談しながら、会社の現状に照らして最も適切かつ効果的なハラスメント防止対策について検討していくことがおすすめです。

また、ハラスメントを周知・徹底するため、顧問弁護士にハラスメントに関する課外講義やセミナーなどを依頼することも考えられます。

職場におけるハラスメントを防止し、すべての労働者にとって働きやすい環境を整えるためにも、ぜひ顧問弁護士にご相談ください。