経営コラム

働く女性の母性健康管理とは【妊娠・出産期に知っておくべき制度】

2023(令和5)年の出生数は75万8631人。8年連続で減少し、過去最少となりました。
人口の減少幅は初めて80万人を超え、国力の低下も懸念されています。

このような急激な出生数の低下について、一部専門家からは、低所得層が結婚や出産を選択し難い状況が続いていることが要因であるとの指摘があり、低所得者支援が喫緊の課題であるとされています。
しかし、経済的な困窮という理由以外にも、働く女性にとっては、健康不安やキャリアプラン形成に対する不安などから、妊娠・出産というライフイベントと仕事を両立させることは難しいと考えて回避してしまうケースもあるようです。

そこで、男女雇用機会均等法や労働基準法は、希望する女性が安心して妊娠・出産と仕事をどちらも諦めることがないよう、妊娠中の身体の変化と妊娠中・出産後の働く女性を支援する制度を設けています。
事業主として、これらの制度をしっかりと理解し、妊娠・出産期の女性労働者を積極的にバックアップしていくことは、人材の流出防止や従業員の生産性向上にもつながります。

従業員のワークライフバランスを実現し、すべての従業員にとって働きやすい職場環境を整える一環として、≪働く女性の母性健康管理≫について改めて確認しておきましょう。

なぜ働く女性の母子健康管理は必要なの?

妊娠中の母体の変化

妊娠中は、妊娠初期、中期、後期、出産・産後というそれぞれの時期において、母体に大きな変化が生じるうえ、個々人により差異があるとはいえ、それぞれの時期ごとに現れやすい不調やその他の症状がたくさんあります。

妊娠初期4~15週

妊娠初期である4週から15週は、見た目には大きな変化はないものの、母体の中では新しい命が成長し始めているため、体調が急激に変化していきます。
この時期に多く見られる症状としては、つわり、お腹が張る、腰が重く感じる、トイレが近くなる、便秘気味になるなどが挙げられます。

そのため、妊娠初期の頃には、事業主として、通勤緩和措置や作業の一時的な制限、配置転換など臨機応変な対応が求められます。

妊娠中期16~27週

妊娠中期である16週から27週は、胎児にとっては安定期に入りますが、母体にとっては徐々にお腹にふくらみが生じ、身体に対する負担も増えていきます。
この時期に多く見られる症状としては、貧血、手足や顔がむくみやすくなるなどが挙げられます。

そのため、妊娠中期の頃には、事業主として、作業の軽減や休憩、残業の制限など女性労働者の心身への負担を軽減でるような工夫や対応が求められます。

妊娠後期28週~41週

妊娠後期である28週から41週は、周囲からも妊娠中であることが明らかな体型となり、母体に対する負担は妊娠中期の状態をはるかに超えてピークに達します。
この時期に多く見られる症状としては、背中や腰が痛む、胸やけがする、動悸・息切れがする、トイレが近くなるなどが挙げられます。

そのため、妊娠後期の頃は、事業主として、母子の健康に少しでも違和感や異変を覚えたときに主治医に相談し、診断を受けられるような体制整備や配慮をすることが求められます。

母子健康管理の必要性

このように、妊娠中の女性労働者は身体に生じる大きな変化によって健康面での不安を抱えることが多く、妊娠中から出産後に至るまでの身体の変化に応じた十分な支援や配慮がなければ、仕事を辞める決断を迫られたり、流産や早産など、母子の健康状態が危険にさらされたりするおそれがあります。
そこで、男女雇用機会均等法や労働基準法は、働く女性の母性健康管理措置や母性保護規定を定め、妊娠中・出産後の働く女性を支援する制度を設けているのです。

事業主としては、これらの制度を十分に理解し、女性労働者から申出があった場合に必要な措置を速やかに講じることができるようにしておかなければなりません。

母子健康管理の措置とは

では、男女雇用機会均等法はどのような母子健康管理の措置を設けているのでしょうか。
以下では、男女雇用機会均等法が定める措置の内容について具体的にみていきます。

保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保

男女雇用機会均等法12条は、事業主は、女性従業員が妊産婦(妊娠中及び産後1年を経過しない女性)のための保健指導や健康診査を受診するために必要な時間を確保することができるようにしなければならないことを定めています。

男女雇用機会均等法第12条(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)

事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)

確保すべき時間とは?

事業主は、女性従業員からの申出があった場合には、勤務時間の中で、健康診査等を受けるために必要な時間を与えなければなりません。
なお、女性従業員が自ら希望して、会社の休日等に健康診査等を受けることを妨げるものではありません。
また、健康診査等を受けるための時間を有給とするか無給とするかは会社の就業規則等の定めによります。

受診のために確保しなければならない回数は?

受診のために確保しなければならない回数は、妊娠中の場合には、それぞれの時期ごとに異なっています。

  • 妊娠23週までの場合      ・・・4週間に1回
  • 妊娠24週から35週までの場合 ・・・2週間に1回
  • 妊娠36週から出産までの場合  ・・・1週間に1回

また、産後(出産後1年以内)については、産後の経過が正常な場合は、通常、産後休業期間中である産後4週間前後に1回、健康診査等を受けることになっています。
ただし、産後の回復不全等の症状によって健康診査等を受診する必要のある女性従業員もいるため、このような場合には、事業者主として、同様に健康診査等を受けるために必要な時間を確保するようにしなければなりません。

回数の数え方は?

受診の回数の数え方は、健康診査とその結果に基づく保健指導をあわせて「1回」とカウントします。
一般的には、健康診査と保健指導は同日に引き続いて行われるのが通常ですが、医療機関等によっては、健康診査に基づく保健指導の日を別日に設定して行うこともあります。
このように別日に実施される場合は、健康診査と保健指導の両方で1回となるので、事業主としては、女性従業員が別の日に保健指導のみを受けにいくことができるように時間を確保しなければなりません。

指導事項を守ることができるようにするための措置

男女雇用機会均等法13条は、妊娠中及び出産後の女性労働者が、健康診査等を受け、医師等から指導を受けた場合には、当該指導を守ることができるようにするため、事業主が勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならないことを定めています。

男女雇用機会均等法第13条(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)

1 事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。
2,3(略)

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)

指導事項を守ることができるような措置とは

女性労働者が医師等から受けた指導事項を守ることができるようにするため、事業者が講ずるべき措置としては、

 ①妊娠中の通勤緩和
 ②妊娠中の休憩に関する措置
 ③妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置

が挙げられます。

①妊娠中の通勤緩和とは

交通機関のラッシュは妊娠中の女性労働者にとって非常にストレスのかかるものであり、このような苦痛はつわりの悪化や流産・早産等につながるおそれがあります。
そのため、医師等から通勤緩和の指導を受けた旨について、妊娠中の女性従業員から申し出があった場合には、事業主としては、当該女性従業員がラッシュの混雑時間を避けて通勤できるように通勤緩和措置を講じなければなりません。

具体的な通勤緩和の措置としては、

➣時差通勤
・始業時間及び終業時間に各々30~60分程度の時間差を設ける
・フレックスタイム制度(労働基準法32条の3)を適用する

➣勤務時間の短縮
・1日30分~60分程度の時間短縮をする

➣交通手段・通勤経路の変更
・混雑の少ない経路へ変更する
・自家用車による通勤に変更する

などが挙げられます。

②妊娠中の休憩に関する措置とは

医師等から休憩に関する措置について指導を受けた妊娠中の女性従業員から申し出があった場合には、事業主としては、当該女性従業員が適宜の休養や補食ができるように休憩時間を長くしたり、回数を増やしたりする等、休憩に関して必要となる措置を講じなければなりません。

具体的な休憩に関する措置としては、
➣休憩時間の延長
➣休憩回数の増加
➣休憩時間帯の変更
などが挙げられます。

これらの措置については、妊娠中の女性従業員の状況に応じて、適宜行うことになります。
妊娠中の女性の健康状態は個々人によって異なり、作業内容も個々の女性従業員によって異なるため、それぞれの状況を踏まえて、企業内の産業保健スタッフや機会均等推進責任者などとも相談しながら、必要となる措置を講じていくことが期待されています。
特に建設業などでは休憩場所を設けることが望ましいとされていますが、仮に仮設の休憩場所を設けることが難しい場合であっても、更衣室などの部屋の中で休憩ができるようにパーテーションを立てるなどの工夫をすることが求められます。

③妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置とは

健康診査等の結果、医師等からその症状等について指導を受けた妊娠中又は出産後の女性従業員から申し出があった場合には、事業主としては、当該女性従業員が指導事項を守ることができるようにするための措置を講じなければなりません。

具体的な対応の措置としては、

➣作業の制限
・重量物を取り扱う作業・継続作業6~8㎏以上・断続作業10㎏以上
・外勤等連続的歩行を強制される作業
・常時、全身の運動を伴う作業
・頻繁に階段の昇降を伴う作業
・腹部を圧迫するなど不自然な姿勢を強制される作業
・全身の振動を伴う作業
などを制限し、デスクワークや負担の軽減された作業への転換すること

➣勤務時間の短縮
・医師等の指導に基づき1日1時間提訴の勤務時間の短縮を行うこと

➣休業
・切迫流産、産後うつ等の症状に対応するため、医師等の指導に基づき症状が軽快するまでの間は休業させること

➣作業環境の変更
・つわりの症状に対応するために悪臭のする勤務場所から移動させる

などが挙げられます。

母性健康管理指導事項連絡カード

事業主が母性健康管理の措置を適切に講ずることができるように、女性労働者に対して出された医師等の指導事項を的確に事業主に対して伝えるための「母性健康管理指導事項連絡カード」が定められています。

「母性健康管理指導事項連絡カード」とは、次のようなものです。

母性健康管理指導事項連絡カードの活用方法について(厚生労働省)

母性健康管理指導事項連絡カードの使い方としては、まず、妊娠中・出産後の女性労働者は健康診査等を受診し、主治医等から母性健康管理カードの発行を受けます。
次に、当該女性労働者は、この母性健康管理カードを事業主に対して提出するとともに、事業主に対して必要な措置を申し出ます。
そして、このような申出を受けた事業主(人事労務担当者や責任者)等は、申出の内容を確認しながら、当該女性労働者に対して、必要となる措置を講じることになります。

妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止

妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止とは

これまでみてきたように、男女雇用機会均等法は、妊娠中又は出産後の女性労働者の健康管理のための措置を規定し、また、後述のとおり、労働基準法はさまざまな母性保護規定を設けています。

しかし、いくら事業主が講じるべき措置や母性保護のための規定等を設けたとしても、妊娠・出産そのものを理由に解雇されてしまったり、妊娠中又は産後の女性労働者が、実際に事業主に対して、医師等の指導事項を伝えて適切な措置を講ずるように求めたところ、降格させられてしまったりしたのでは、女性労働者が安心して妊娠・出産し、子を育むことができなくなってしまいます。

そこで、男女雇用機会均等法9条3項は、妊娠・出産等を理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁止しています。

男女雇用機会均等法第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)

1,2(略)
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第65第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 (略)

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)

不利益取扱い禁止の対象となる事由とは

男女雇用機会均等法9条3項が禁止する不利益取扱いの対象となる事由は、厚生労働省令において定められています。
具体的には、女性労働者が妊娠や出産したことのほか、妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置を求め、又は当該措置を受けたこと、経緯な業務への転換を請求し、又は経緯な業務に転換したこと、育児時間の請求をし、又は育児時間を取得したこと、妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したことなどを理由とする解雇その他の不利益な取扱いが禁止されています。
なお、「妊娠又は出産に起因する症状」とは、つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全など、妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状を言います。

妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの具体例

男女雇用機会均等法9条3項が禁止する不利益取扱いの具体的内容については、「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」において示されています。

同項の規定からも明らかなように、妊娠・出産等を理由として労働者を「解雇」することは、不利益取扱いに該当します。
また、「その他不利益な取扱い」としては、有期契約労働者の契約を更新しないこと、不利益な配置転換をすること、減給すること、降格すること、就業環境を害することなどが挙げられます。

紛争の解決について

事業主は、事業主と労働者との間に母性健康管理措置に関して紛争が生じた場合には、調停などの苦情処理機関に対して紛争解決の申出を行い、自主的に解決を図るように努めることが求められています(男女雇用機会均等法15条~27条)
したがって、女性労働者から母性健康管理措置に関する苦情の申出があった場合には、調停の利用等も検討しながら、早期の紛争解決に向けて努力しなければなりません。

男女雇用機会均等法第15条(苦情の自主的解決)

事業主は、第6条、第7条、第9条、第12条及び第13条第1項に定める事項(労働者の募集及び採用に係るものを除く。)に関し、労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表する者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とする当該事業場の労働者の苦情を処理するための機関をいう。)に対し当該苦情の処理をゆだねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)

母性保護規定とは

ここまで、男女雇用機会均等法が定める母子健康管理の措置についてみてきました。
このほかにも、労働基準法は、妊娠中・出産後の働く女性を支援するために、妊産婦等の危険有害業務の就業制限や産前・産後休業、育児時間などを定めています。

以下では、労働基準法上の母性保護規定の内容について具体的にみていきます。

妊産婦等の危険有害業務の就業制限

事業主は、妊産婦に対して、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務などの、妊娠・出産・哺育等に有害な業務をさせてはなりません(労働基準法64条の3)。

労働基準法第64条の3(危険有害業務の就業制限)

1 使用者は、妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性(以下「妊産婦」という。)を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務その他妊産婦の妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせてはならない。
2,3 (略)

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

有害業務の範囲及び就業禁止を準用される者の範囲は、厚生労働省令で定められています(女性労働基準規則2条)。
具体的には、

①重量物を取り扱う業務

年齢断続作業継続作業
満16歳未満の場合12㎏以上8kg以上
満16歳以上18歳未満の場合25kg以上15kg以上
満18歳以上の場合30kg以上20kg以上

②ボイラーの取扱いの業務
③ボイラーの溶接の業務
④つり上げ荷重が5トン以上のクレーン若しくはデリック又は制限荷重が5トン以上の揚貨装置の運転の業務
⑤運転中の原動機又は原動機から中間軸までの動力伝導装置の掃除、給油、検査、修理又はベルトの掛換えの業務
⑥クレーン、デリック又は揚貨装置の玉掛けの業務(2人以上の者によって行う玉掛けの業務における補助作業の業務を除く。)
⑦動力により駆動される土木建築用機械又は船舶荷扱用機械の運転の業務
⑧直径が25センチメートル以上の丸のこ盤(横切用丸のこ盤及び自動送り装置を有する丸のこ盤を除く。)又はのこ車の直径が75センチメートル以上の帯のこ盤(自動送り装置を有する帯のこ盤を除く。)に木材を送給する業務
⑨操車場の構内における軌道車両の入換え、連結又は解放の業務
⑩蒸気又は圧縮空気により駆動されるプレス機械又は鍛造機械を用いて行う金属加工の業務
⑪動力により駆動されるプレス機械、シヤー等を用いて行う厚さが8ミリメートル以上の鋼板加工の業務
⑫岩石又は鉱物の破砕機又は粉砕機に材料を送給する業務
⑬土砂が崩壊するおそれのある場所又は深さが5メートル以上の地穴における業務
⑭高さが5メートル以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務
⑮足場の組立て、解体又は変更の業務(地上又は床上における補助作業の業務を除く。)
⑯胸高直径が35センチメートル以上の立木の伐採の業務
⑰機械集材装置、運材索道等を用いて行う木材の搬出の業務
⑱有害物を発散する場所の区分に応じ、それぞれ当該場所において行われる業務
⑲多量の高熱物体を取り扱う業務
⑳著しく暑熱な場所における業務
㉑多量の低温物体を取り扱う業務
㉒著しく寒冷な場所における業務
㉓異常気圧下における業務
㉔さく岩機、鋲びよう打機等身体に著しい振動を与える機械器具を用いて行う業務

について、妊婦はすべて就業が制限されています。

なお、就業禁止業務のうち、女性の妊娠・出産機能に有害な業務については、妊産婦以外の女性にも準用されています。

妊婦の軽易業務転換

事業主は、妊娠中の女性労働者が前屈み作業、長時間の立ち仕事、休憩が取れないなど、妊娠した女性にとって身体的に負担の大きい作業や職業環境にある場合において、妊娠中の女性労働者が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければなりません(労働基準法65条3項)。

労働基準法第65条(産前産後)

1,2(略)
3 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

時間外、休日労働、深夜業の制限、変形労働時間制の適用制限

事業主は、妊産婦が、時間外労働、休日労働、深夜業(午後10時~午前5時までの間の就業)の免除を請求した場合、当該女性労働者に対して、時間外労働、休日労働、深夜業をさせてはなりません(労働基準法66条)。
また、変形労働時間性がとられる場合にも、妊産婦は1日および1週間の法定労働時間を超えて労働しないことを請求することができ、事業主は当該女性労働者に対して、1日および1週間の法定労働時間を超えた労働をさせてはなりません(労働基準法66条)。

特に男性労働者が多い建設業などにおいては、女性労働者が妊娠時においても事業主などに対して時間外、休日労働等の免除の申出がし難く、結局は通常時と同様に勤務してしまう傾向にあります。
そのため、事業主は女性労働者がこれらの申出をしやすい環境を整えることが大切です。

労働基準法第66条(産前産後)

1 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第32条の2第1項、第32条の4第1項及び第32条の5第1項の規定にかかわらず、1週間について第32条第1項の労働時間、1日について同条第2項の労働時間を超えて労働させてはならない。

2 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第33条第2項及び第3項並びに第36条第1項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。

3 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

産前・産後休業

事業主は、6週間以内(双子以上の場合は14週間以内)に出産する予定の女性労働者が休業を請求した場合は、当該女性労働者を就業させてはなりません(労働基準法65条1項)。
なお、出産日は産前休業に含まれます。

また、使用者が産後8週間を経過しない女性労働者を就業させてはなりません(労働基準法65条2項)。
ただし、産後6週間を経過した女性労働者が請求した場合において、医師が支障がないと認めた場合には、当該女性労働者を業務に就かせることができます。

労働基準法第65条(産前産後)

1 使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
2 使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
3 (略)

労働基準(昭和二十二年法律第四十九号)

育児時間

事業主は、生後1歳未満の子供を育てる女性労働者が、休憩時間のほかに、1日2回各々少なくとも30分、育児時間を請求した場合、育児時間中を与えなければなりません(労働基準法67条)。
当然ながら、この育児時間中に当該女性労働者に労働をさせることは許されません。

労働基準法第67条(育児時間)

1 生後満1年に達しない生児を育てる女性は、第34条の休憩時間のほか、1日2回各々少なくとも30分、その生児を育てるための時間を請求することができる。

2 使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない。

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

ポイントのおさらい

妊娠中・出産後の働く女性を支援する制度についておさらいしましょう。

まず、男女雇用機会均等法は、母性健康管理の措置として、
✔保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保
✔指導事項を守ることができるようにするための措置
 ・妊娠中の通勤緩和
 ・妊娠中の休憩に関する措置
 ・妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置
✔妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
を定めています。

また、労働基準法は、母性保護規定として、
✔妊産婦等の危険有害業務の就業制限
✔妊婦の軽易業務転換
✔時間外・休日労働・深夜業の制限・変形労働時間制の適用制限
✔産前・産後休業
✔育児時間
を定めています。

男女雇用機会均等法や労働基準法が定める母性健康管理措置や母性保護規定の中には、女性労働者からの申出や請求が前提となっている場合があります。
そのため、事業主として、女性労働者がこれらの申出や請求をしやすい職場環境を整えることが大切です。

また、医師等による女性労働者に対する指導内容について、事業主が的確に把握する観点からは、女性労働者に対して「母性健康管理指導事項連絡カード」について周知し、積極的に同カードを活用することが求められます。

注意事項

事業主が、男女雇用機会均等法における母性健康管理の措置に違反した場合、行政庁から報告を求められたり、助言、指導若しくは勧告を受けたりすることがあるほか(男女雇用機会均等法29条)、さらに勧告にも従わない場合には、公表されることがあります(男女雇用機会均等法30条)。

そして、事業主が行政庁から報告を求められたにもかかわらず報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には、20万円以下の過料に処せられます(男女雇用機会均等法33条)

男女雇用均等法第29条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)

1 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
2 (略)

男女雇用機会均等法第30条(公表)

厚生労働大臣は、第5条から第7条まで、第9条第1項から第3項まで、第11条第1項及び第2項(第11条の3第2項、第17条第2項及び第18条第2項において準用する場合を含む。)、第11条の3第1項、第12条並びに第13条第1項の規定に違反している事業主に対し、前条第1項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

男女雇用機会均等法第33条(罰則)

第29条第1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処する。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)

また、事業主が、労働喜基準法が定める母性保護規定に違反した場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法119条)

労働基準法第119条(罰則)

次の各号のいずれかに該当する者は、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

① 第3条、第4条、第7条、第16条、第17条、第18条第1項、第19条、第20条、第22条第4項、第32条、第34条、第35条、第36条第6項、第37条、第39条(第7項を除く。)、第61条、第62条、第64条の3から第67条まで、第72条、第75条から第77条まで、第79条、第80条、第94条第2項、第96条又は第104条第2項の規定に違反した者

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

したがって、事業主としては、男女雇用機会均等法や男女雇用機会均等法が定める母性健康管理措置や母性保護規定の内容を十分に確認し、必要な措置等を講じなければなりません。

ぜひ弁護士にもご相談ください

平成29年1月からは、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法が改正に定めされ、職場における上司・同僚からの妊娠・出産等に関する言動により、就業環境を害されることを防止する措置(いわるゆマタハラ防止措置)を講ずることが、事業主に対して義務付けられています。
また、育児・介護休業法は、労働者が出産後に育児と仕事を両立することを支援するためのさまざまな措置や制度を設けています。くわしくはこちらの記事をご覧ください。
事業主としては、本ページでご紹介したような妊娠中・出産後の働く女性を支援するための制度だけでなく、育児に関する制度についても十分に理解し、労働者のワークライフバランスの実現を積極的にサポートしていくことが求められます。

特に、男性が多い職場などでは、女性労働者が上司に対して、妊娠中の健康不安について相談しにくかったり、各種制度等を申し出にくかったりすることがあります。
そのため、事業主としては、女性労働者が相談しやすい窓口の設置や制度を利用しやすい社風作りに努めていかなければなりません。

また、マタニティハラスメントについても注意が必要です。こちらの記事もご覧ください。

すべて従業員にとって働きやすい職場環境を整備していくためにも、妊娠中・出産後の働く女性の支援措置や育児休業などの制度や措置等についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。