法律コラム

就活ハラスメントとは?【会社の信用を揺るがすリスク】【職場のハラスメント防止】

近年、パワハラ、セクハラ、マタハラ、カスハラに加えて、就活ハラスメントが大きな問題になっています。
今回は、職場におけるハラスメントの中でも、実は見逃されがちな「就活ハラスメント」について解説します。

就活ハラスメントなんて聞いたことないよ・・・?という方は必見です!
今こそ就活ハラスメントについて学びましょう。5大ハラスメントのリンク集はこちら

※なお、本解説記事は、厚労省HP「会社を揺るがす大きなリスク今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!」を参照しています。

就活ハラスメントとは?

まず、就活ハラスメントとは何かを確認しておきましょう。

厚労省によれば、就活ハラスメントとは、「採用する企業やその採用担当者等が優越的な立場を利用して就職活動中の学生に行うハラスメントのこと」と定義されています。

なぜ防止することが必要か?

学生の安全と会社の将来を守るため

就活ハラスメントは、被害者である学生の心身を傷付ける行為であり、絶対許されるものではありません。

また、就活ハラスメントは就活中であるという学生側の立場の弱さに乗じて行われることから、この実態が社会に明るみになった場合には、当然に会社の信用は失墜します。
そんな会社に入りたいと思う就活生もいなくなるでしょう。

さらには、既存の従業員にとっても、就活ハラスメントが起きていることがわかれば、働く意欲が低下したりモラルが低下したりするなど生産性が損なわれることは必至です。
人手不足の最中、優秀な人材が外部に流出していくことにもなりかねません。

したがって、「学生の安全と会社の将来を守るため」に、採用活動における就活ハラスメントの防止に取り組む必要があるのです。

損害賠償のリスクを防止するため

就活ハラスメントが起きてしまった場合、会社としては、使用者責任を問われ、被害者から民事上の損害賠償請求を受ける可能性があります。

したがって、このような賠償責任のリスクを防止するためにも、就活ハラスメントを含め、あらゆるハラスメントを絶対に許さない環境を整備することが求められます。

刑事責任を問われる可能性もあるため

加えて、ハラスメントの加害者は、刑事責任を問われる可能性もあります。

仮に人事部の採用担当者や会社の役員などが、就活ハラスメントの行為者として刑事責任を問われた場合には、先ほども述べた通り、会社の信用は失墜することになります。
社会からも厳しい目が向けられることになり、会社の存続すら危ぶまれることも考えられます。

厚労省の指針でも就活ハラスメント対策が推奨されています

就活ハラスメント防止対策については、労働施策総合推進法に基づく指針(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)や男女機会均等法に基づく指針(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)においても、事業主が明確にハラスメントを禁止する旨の方針を明確に示したり、必要に応じて適切な対応を行ったりするよう努めることが望ましいとされています。

➤労働施策総合推進法に基づく指針(抜粋)

「事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容3の事業主及び労働者の責務の趣旨に鑑みれば、事業主は、当該事業主が雇用する労働者が、他の労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。)のみならず、個人事業主、インターンシップを行っている者等の労働者以外の者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮するとともに、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)自らと労働者も、労働者以外の者に対する言動について必要な注意を払うよう努めることが望ましい。
こうした責務の趣旨も踏まえ、事業主は、4(1)イの職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、当該事業主が雇用する 労働者以外の者(他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者及び労働者以外の者)に対する言動についても、同様の方針を併せて示すことが望ましい。
また、これらの者から職場におけるパワーハラスメントに類すると考えられる相談があった場合には、その内容を踏まえて、4の措置も参考にしつつ、必要に応 じて適切な対応を行うように努めることが望ましい。」

➤男女機会均等法に基づく指針(抜粋)

「事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組

の内容3の事業主及び労働者の責務の趣旨に鑑みれば、事業主は、当該事業主が雇用する労働者が、他の労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。)のみならず、個人事業主、インターンシップを行っている者等の労働者以外の者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮するとともに、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)自らと労働者も、労働者以外の者に対する言動について必要な注意を払うよう努めることが望ましい。
こうした責務の趣旨も踏まえ、事業主は、4(1)イの職場におけるセクシュアルハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、当該事業主が雇用する労働者以外の者(他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者及び労働者以外の者)に対する言動についても、同様の方針を併せて示すことが望ましい。
また、これらの者から職場におけるセクシュアルハラスメントに類すると考えられる相談があった場合には、その内容を踏まえて、4の措置も参考にしつつ、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい。」

就活ハラスメントの実態

就活ハラスメントといっても、だれが・どのような場面で、どのようなハラスメントを行っているのか、全く想像がつかないという方もいるかもしれません。
以下では、就活ハラスメントの実態についてみてみましょう。

だれが起こしているか?

就活ハラスメントの主体は「採用する企業やその採用担当者等」です。

具体的には、

  • インターンシップで知り合った従業員
  • 採用面接担当者
  • 企業説明会の担当者
  • 大学のOB・OG訪問を通じて知り合った従業員
  • リクルーター
  • 就活マッチングアプリを通じて知り合った従業員

などが挙げられます。

どんなハラスメントが起きているか?

就活ハラスメントに該当する行動としては、採用する側という優越的な立場を利用したパワハラやセクハラなどのハラスメントです。

例えば、

  • 性的な冗談やからかい
  • 食事やデートへの執拗な誘い
  • 性的な事実関係に関する質問

などが挙げられます。

どのような場面で就活ハラスメントが起きているか?

就活ハラスメントが起きている場面(タイミング)は、まさに企業側と学生側が接触するときです。

例えば、

  • インターンシップに参加したとき
  • 企業説明会やセミナーに参加したとき
  • 就職採用面接を受けたとき
  • 内々定を受けたとき
  • 内々定を受けた後
  • リクルーターと会ったとき
  • 志望先企業の従業員との酒席の場

などが挙げられます。

このような行為は就活ハラスメントに当たります

厚労省HP「会社を揺るがす大きなリスク今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!」では、「このような行為、していませんか?」として、就活ハラスメントの具体例が挙げられています。

※なお、具体例②にあるような「結婚後や出産後も働き続けるか」といった質問を女性だけ、あるいは男性だけにすることは男女雇用機会均等法(募集・採用に関する性差別禁止)に違反するものです。

就活ハラスメントを未然に防止するには?

では、どのようにすれば就活ハラスメントを未然に防ぐことができるのでしょうか?

ハラスメント防止対策には種々の対策が考えられますが、対策の基本は、
《ハラスメント防止の方針の明確化》《ハラスメント防止体制の整備》
です。

①ハラスメント防止の方針の明確化

方針を示す

まずは、会社として、すべての従業員(特に採用担当者)に対し、就活ハラスメントを含む、すべてのハラスメントを禁止する方針を明確に示します。

処分規定を設ける

そして、就活ハラスメントを行なった場合には、その行為者(加害者)を厳重に処分する旨の社内規定や規則(懲戒処分に関する規定を含む)などを設け、周知・徹底します。

②ハラスメント防止対策の整備

研修を実施する

また、会社として、すべての従業員(特に採用担当者)に対し、就活ハラスメントを含む、すべてのハラスメント防止に関する研修を定期的・継続的に実施します。
厚労省は、段階的な研修を行うことも効果的であるとしています。

採用活動のルールを作る

そして、学生と接触する際、採用担当者は可能な限り2名以上とし、オンラインも含め面談やオリエンテーションの際は複数名で対応するなど、採用活動におけるルールを明確にします。

相談窓口を設置する

これに加えて、学生向けに就活ハラスメント窓口を設置し、周知することも大切です。
就活ハラスメントを受けた学生が、誰にも相談できないまま抱え込んでしまう状況を絶対につくってはいけません。

取り組みのヒント

厚労省によると、就活ハラスメント防止に取り組んでいる企業にはいくつかの共通項があるといいます。

具体的には以下の3つの点です。

基本的な対策「公正な採用選考」に基づいた面接実施
効果的な対策リクルーターの行動指針やマニュアル策定
一歩踏み込んだ対策応募者の個人情報の限定利用

①基本的な対策について

まず、基本的な対策は、「公正な採用選考」に基づいた面接実施です。

「応募者の基本的人権の尊重」「適正・能力に基づいた採用基準」といった「公正な採用選考」の考え方に基づいた面接など実施することは、就活ハラスメント防止における基本的な方針となります。

公正な採用選考に関する考え方については、「公正な採用選考を目指して」(厚労省HP)をご参照ください。

②効果的な対策について

次に、効果的な対策は、リクルーターの行動指針やマニュアル策定です。

就活ハラスメントの中でも、特にセクハラは、若手社員がリクルーターとして活動するOB・OG訪問や面接の際に起こりやすいとされています。
そのため、会社が、行動指針やマニュアル、ガイドブックの策定・活用を行い、リクルーターへの研修を欠かさず行うことが、就活ハラスメント防止の効果的な対策となります。

③一歩踏み込んだ対策について

また、一歩踏み込んだ対策は、応募者の個人情報の限定利用です。

採用選考においては、学生(応募者)の個人情報をフル活用したいという思いがあるかもしれません。
しかし、選考の多少の不便さよりも、就活ハラスメントの発生を防ぐこと(芽を摘むこと)を優先すべきです。

例えば、面接官等に対して、学生の個人情報の一部は非公開とし、個人情報の悪用を防止するなど、就活ハラスメントが生じない状況を整備することが大切です。

企業の具体的な取り組み

なお、厚労省は、「就活ハラスメント防止対策企業事例集〜学生を守り、企業を守る、10社の取り組み」として、実際に就活ハラスメント防止対策を実施している企業の先進事例を取りまとめています。
これから就活ハラスメントの取り組みを始める企業にとっても、就活ハラスメント対策の見直しを図りたい企業にとっても、非常に参考になります。

就活ハラスメントが起きたらどうすればいいか?

もし就活ハラスメントが会社内で起きてしまったら、会社はどうしたらよいのでしょうか。
最後に、就活ハラスメントが生じた場合の対応方法について解説します。

①事実確認

まず、就活ハラスメントの相談・報告を受けた場合には、被害者のプライバシー保護を前提としながら、迅速かつ適切な事実確認を行います。
事実確認を行う場合には、被害者だけでなく、加害者や関係者からもヒヤリングなどを行い、客観かつ公正に事実を確認することが大切です。

②被害者の救済

事実確認の結果、就活ハラスメント行為が事実であると確認できた場合には、会社による謝罪など、速やかな被害者への救済措置を行います。

③社内における措置の実施

そして、就業規則などの懲戒規定に基づき、行為者に対して必要な措置や処分を行います。

④再発防止策の検討と実施

加えて、社内における就活ハラスメント防止に関する方針の周知徹底を図るなど、就活ハラスメントの再発防止策を徹底して行います。
実は上記の①〜③までは行ったにもかかわらず、その後の再発防止に向けた動きがとられていないケースが散見されます。しかし、再発防止も重要な対策の一つです。

⑤公表

また、就活ハラスメントの事実が深刻であると判断した場合には、社外への公表を検討します。
なお、実際に公表する場合には、被害者から公表について承諾を得た上で、被害者のプライバシーに対して万全の配慮を行うことが求められます。

ポイント

就活ハラスメントとは、「採用する企業やその採用担当者等が優越的な立場を利用して就職活動中の学生に行うハラスメントのこと」です。

パワハラやセクハラ、マタハラ、カスハラだけでなく、就活ハラスメントについても理解を深め、採用活動におけるハラスメント防止に取り組むことが大切です。

まずは、《ハラスメント防止の方針の明確化》《ハラスメント防止体制の整備》から進めていきましょう。

弁護士にもご相談ください

就活中の学生は圧倒的に立場が弱く、就活ハラスメントを受けても泣き寝入りになってしまうことが多々あります。
就活ハラスメントに苦しむ被害者を出さないために、会社が徹底的にハラスメント防止に取り組むことが求められます。
職場のハラスメントについてについてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。

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