ステマ規制に気をつけよう!SNS別対策も【弁護士が解説】
「この間行ったあの店、すごくよかったよ!今度行ってみて!」
友人からこんなことを言われたら、「自分も行ってみようかな?」と思ってしまいますよね?
逆に「そういえば、あの店、最悪だったわ」と言われたら、行く気をなくしてしまいます。
企業による広告・宣伝であれば、受け取る側としてもある程度の誇張や誇大が含まれていることを前提に判断しますが、企業とは関係のない第三者のクチコミだと、その表示を素直に受け取ってしまいがちです。
このように、自社広告よりクチコミのほうが、よい方向でも悪い方向でも圧倒的に受け入れられやすいといわれています。
人は、未知の商品やサービスに対しては、「損をしたくない」、「リスクを取りたくない」と及び腰になりがちです。クチコミは、そんな及び腰な人に対して、実際の体験を伝えることで未知の商品やサービスについての品質を把握させる効果を持っています。
以前のクチコミは、友人、家族、同僚など身近な範囲での情報交換にとどまっていました。しかし、SNSの発展により、これまでとは比較にならない規模のクチコミが利用されるようになり、企業の宣伝広告戦略も、SNSによるクチコミを無視しては語れなくなりました。
X(Twitter)や、Instagram、YouTube、Tiktokなどで商品やサービスの紹介をみることは日常的になりました。桁違いのフォロワーをもつインフルエンサーが発した一言で売上が爆増するなどの現象も見られています。
企業としても、いかにこうした「クチコミを促すか」が重要な戦略となっています。
ステマ規制が始まっています
そんな強力なクチコミだけに、SNS時代の問題として浮上してきたのが「ステルスマーケティング」(ステマ)です。
消費者庁は、令和5年10月1日から一部のステルスマーケティングを景品表示法違反とすることとしました。
「クチコミを促す」行為に、セーフとアウトの一線が引かれることで、これまでは悪意なく行っていた営業手法が制限されるかも知れません。企業の広告の仕方も見直しが必要となってきました。
ステマ規制時代におけるセーフな広告、アウトな広告について解説します。
ステマ(ステルスマーケティング)とは
ステルスマーケティング(ステマ)とは、広告であるにもかかわらず、広告であることを隠して情報を発信することとされています。その多くがネット上、特にSNS(ソーシャルメディア)で行われています。
ステマには大きく分けて2つの手法があるといわれています。
なりすまし型
企業や個人が、無関係な第三者になりすまして、自社の製品を宣伝する方法です。
●外部のクチコミサイトに自分で好意的なコメントをする
利益提供型
芸能人やインフルエンサーに、報酬を支払う合意があるにもかかわらずこれを隠して製品の宣伝をしてもらう方法です。
●芸能人に報酬を渡して、あたかもその芸能人自身がその商品の愛好家であることを謳ったブログを書いてもらう
●インフルエンサーに商品を無料で渡しつつ、それを隠して好意的なレビュー動画を上げてもらう。
ステマ規制について
広告であることが分からないステマが野放しになってしまうと、消費者は、事業者ではない第三者の感想であると誤認してしまい、その表示の内容をそのまま受けとってしまうかもしれません。このような、誤認により、消費者が自主的かつ合理的に商品・サービスを選ぶことができなくなります。
こうしたステマ行為を規制して、消費者が自主的かつ合理的に商品・サービスを選べる環境を守るため、消費者庁はステマを規制することとしました。
ステマは、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)5条3項の不当表示とするよう告示がなされることとなりました。
具体的には次の2つの要件を満たすステマが不当表示となります。
事業者の表示であること(広告であること)
事業者の表示とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品・サービスの品質、規格、その他の内容や価格等の取引条件について行う表示のことであり、一般消費者に対して、商品・サービスを知らせる表示全般のことで、つまり、広告のことになります。
一般消費者が事業者の表示(広告)であることを分からないこと
一般消費者が表示を見て、事業者の表示であることが明瞭となっているかどうかを表示内容全体から判断します。広告・宣伝である場合、広告・宣伝であることが一般消費者に明瞭に分かるような表示を行う必要があります。
なお、広告・宣伝であることが社会通念上明らかに分かるものについては、告示の規制対象外です。
要するに「広告なのに広告であることが分からないもの」が規制の対象
表示媒体に制限はない
インターネット上の動画やレビューなどに限らず、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌などの表示も対象になります。
規制の対象は商品・サービスを提供する事業者のみ
ステマ規制の対象は事業者(広告主)のみです。
ステマに応じた芸能人やインフルエンサー、表示をしただけのサイト管理者、新聞社等は規制の対象ではありません。
違反すると
消費者庁の調査の結果、違反行為が認められた場合、事業者に対して、措置命令が行われます。
●違反した表示の差止め ●違反したことを一般消費者に周知徹底すること ●再発防止策を講ずること ●その違反行為を将来繰り返さないこと
措置命令に違反した場合は刑事罰(景表法36条等)の対象となり、事業者に対して2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金のいずれかまたは両方が科されることがあります。
ステマ規制の具体例
では、具体的にどのような行為がステマ規制の対象になるかを見てみましょう。
基本的な考え方
ステマ規制の対象になるかどうかは、次のようなフローに基づいて判断されます。
- 事業者の表示(広告)といえるかどうか を判断し
- 事業者の表示といえる場合、一般消費者がみて事業者の表示(広告)であることがわかるかどうか
をチェックすることになります。
事業者の表示といえるか
まず、そもそも事業者の表示(広告)といえるかどうかを判断する必要があります。広告といえなければステマ規制の問題になりません。
判断基準は、「その表示内容の決定に事業者が関与したといえるかどうか」です。裏を返せば、第三者が自由な意思により自主的な判断で行った表示については、「事業者の表示」になりません。
事業者が自ら行う表示
事業者が自ら行う表示が典型例です。この場合、当然に事業者が表示内容の決定に関与したといえます。
●自社の商品パッケージに表示する場合 ●自社SNSアカウントに自社商品を投稿する場合 ●自社ウェブサイトに自社製品をアップする場合
事業者が自ら行う表示には、事業者と一定の関係を有し、事業者と一体と見られる従業員や、事業者の子会社等の従業員が行った表示も含まれます。
●商品販売担当者が自社製品の認知度を上げるために商品の画像や文章をSNSにアップする場合 ●商品販売担当者が自社製品の優位性をアピールするためライバル社製品を誹謗中傷する文章をSNSやクチコミサイトにアップする場合
事業者が第三者に行わせる表示
事業者が第三者(芸能人やインフルエンサーなど)に行わせる場合も、その表示内容の決定に事業者が関与していれば「事業者の表示」と判断されることがあります。
●事業者がインフルエンサーに商品の特徴などを伝えた上で、インフルエンサーがそれに沿った内容をSNS上や口コミサイト上にアップする場合 ●ECサイトに出店する事業者が、不正レビューを集めるブローカーや自社商品の購入者に依頼し、自社商品について、評価を上げるようなレビューをアップさせる場合 ●事業者がアフィリエイト広告を使う際に、アフィリエイターに委託して自らの商品を表示させる場合
事業者が、第三者(芸能人やインフルエンサーなど)に対してはっきりと指示や依頼をしていない場合であっても、様々な状況を総合的に判断すると暗に事業者が表示内容を指示や依頼をしていたと認められることがあります。状況の判断要素としては、第三者とのメールや口頭でのやりとり、金銭や商品の提供、接待や経済的利益の有無、過去における対価の有無、今後の対価提供の予定の有無などがあります(これに限りません)。
●事業者が、第三者(芸能人やインフルエンサーなど)に対して、無償で商品を提供することで、第三者がその商品について事業者の意に沿った好意的なレビュー動画をアップした場合 ●事業者が、第三者(芸能人やインフルエンサーなど)に対して、言外に経済的利益をほのめかした結果、第三者が事業者の意に沿ったブログ記事をアップする場合
一般消費者がみて事業者の表示(広告)であることがわかるか
事業者の表示(広告)に当たる場合、それ自体がアウトというわけではありません。それが一般消費者からみて「事業者の表示(広告)である」ことがわからないものがアウトになるわけです。
では、どんな場合に「事業者の表示(広告)である」ことがわからないかの例を挙げてみましょう。
●事業者の表示(広告)であることが全く記載されていない場合 ●アフィリエイト広告において事業者の表示(広告)であることを記載していない場合 ●動画において、一般消費者が認識できないほど短い時間で事業者の表示(広告)であることを表示する場合 ●一般消費者が事業者の表示(広告)であることを認識しにくい文言、場所、大きさ、色などで表示する場合(よく読まないと広告であるという意味が分からない文言で書かれている、大きく下にスクロールしないと広告であると出てこない、文字が小さい、背景と同系色で広告の表示があり見えにくい、など) ●大量のハッシュタグのなかに「#広告」を紛れ込ませている場合
ステマ規制に当たらない例
裏を返せば、「事業者の表示に当たらないもの」、「事業者の表示に当たるがそのことが明瞭にわかるもの」はステマ規制には当たりません。
●第三者が、自分の意思でSNS等にアップする場合 ●事業者が、第三者(インフルエンサーなど)に無償で商品又は役務を提供してSNS等への投稿を依頼するものの、インフルエンサー等の第三者が自主的な意思に基づきレビューを投稿する場合 ●事業者が自社の商品のレビューを書いた購入者に対して、レビューの謝礼として割引クーポン等を配布するものの、購入者が自主的な意思に基づいて表示(投稿)内容を決定した場合 ●第三者が、SNS上のキャンペーンや懸賞に応募するために自主的な意思に基づき投稿を行う場合 ●事業者が第三者のクチコミなどを利用する場合であっても、良いクチコミだけを抽出せず変更を加えることなく、そのまま引用する場合 ●事業者が、試供品等の配布を行った結果、受け取った第三者が自主的な意思に基づきレビューを行う場合 ●事業者が、広告目的でない単なるプレゼントをした結果、受け取った第三者が自主的な意思に基づく内容として表示(投稿)を行う場合
事業者の表示に当たったとしても、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭にわかるものであれば、ステマ規制の対象にはなりません。
●「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といったSNS等で広く一般に利用されている表示を行う場合 ※ただし、上記の文言を使用したとしても、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていると認められない場合もあります。 ●「A社から提供を受けて投稿している。」等のように文章による表示を行う場合 ●テレビCMのように広告と番組が切り離されている表示を行う場合 ●事業者の協力を得て制作される番組や映画等において、スポンサー等の名称等をエンドロール等を通じて表示を行う場合 ●新聞紙の広告欄のように「広告」等と記載されている表示を行う場合 ●商品又は役務の紹介自体が目的である雑誌やその他の出版物における表示を行う場合 ●事業者自身のウェブサイトにおける表示(特定の商品又は役務を期間限定で特集するページも含む。)を行う場合 ●事業者自身のSNSアカウントを通じて表示を行う場合 ●社会的な立場・職業等(例えば、観光大使等)から、事業者の依頼を受けて広告宣伝していることが社会通念上明らかな者を通じて、事業者が表示を行う場合
ステマ規制に気をつけるべきポイント
最後に、事業者がステマ規制に対して気をつけるべきポイントを解説いたします。
お客様にレビューや投稿をお願いするときは誘導に気をつける。「キャッシュバック」「サービス」「値引き」「ポイントアップ」などの特典を付けることは要注意
お客様にGoogleマップなどのレビューをお願いすること自体は何の問題もありません。
しかしながら、はっきりと「こう書いて下さい」というのは論外ですし、暗に、好意的なレビューになんらかの対価があることをほのめかしたり、お客様に「空気を読ませる」のは注意が必要です。
従業員や家族が自社のPRをするときは立場を明らかにする
役員や従業員の家族のコメントは、事業者との関係で中立的なものとは言いがたく、事業者の表示(広告)と原則としてみなされてしまいます。これらの人がコメントを書く際は、身分を隠したりせず、その立場を明らかにするようにしましょう。
インフルエンサーにPRをお願いするときの注意
X(Twitter)等では「#pr」「#広告」「#案件」など、事業者の表示(広告)であることをはっきりと見やすい字で記載する。ただしハッシュタグの付けすぎには注意。
X(Twitter)をはじめとするSNSの多くでは、ハッシュタグの機能があります。これらを利用して、広告であることをはっきりと記載するようにしましょう。ただし、ハッシュタグを大量につけ、その中にPR表示を紛れ込ませることは消費者庁のサイトでもはっきりとNG例として挙げられていますので注意が必要です。
Instagramではタイアップ投稿を活用する
InstagramやThreadsでは、ハッシュタグによるPR表示は推奨されておらず、タイアップ投稿を活用します。
TikTokではブランドコンテンツ機能を使う
TikTokでは、ブランドコンテンツ機能を使うことが推奨されています。
YouTubeでは「プロモーションを含みます」表示をしてもらう
YouTubeでは、プロモーション表示を埋め込むことが推奨されています。
Googleマップでは、広告自体がむずかしい
Googleマップに投稿するコンテンツでは、そもそも割引や、無料の商品やサービスと引き換えに促したコンテンツ自体が「虚偽のエンゲージメント」として禁止されています。いわゆるステマ規制に当たらなくても、Googleの規約にかかってしまう可能性があります。
弁護士に相談しましょう
ステマ規制は、日々進化しています。消費者庁自身が「デジタル領域における表示は、技術の進歩等の変化が速く、現時点では想定しきれない新たな手法が将来的には生じることが考えられるため、取引の実態や社会経済情勢の変化に合わせて、事業者等における予見可能性を確保できるよう、運用基準の明確化を図っていくこととする。」といっています(「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準)。
「このプロモーションは大丈夫だろうか?」「お客様にクチコミを促したいけど、どこまでがセーフ?」など日々の営業に悩みは尽きません。気軽に聞ける弁護士がいれば、悩みの軽減とビジネスの前進につながることでしょう。
参考サイト
景品表示法とステルスマーケティング~事例で分かるステルスマーケティング告示ガイドブック(消費者庁)
一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準(消費者庁)