改正育児介護休業法【令和7年4月施行】【育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法】
令和6(2024)年5月31日、労働者のワークライフバランスの実現をさらに推進するため、改正育児介護休業法、次世代育成推進対策推進法が成立しました。
(正式名称は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律」です。)
育児・介護休業法に関する具体的な制度内容については、こちらの記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。
さて、改正育児介護休業法、次世代育成推進対策推進法は、令和7年4月1日(※ただし、一部については、公布の日から起算して1年6か月以内において政令で定める日)に施行されます。
今回は、そんな改正法の内容の概要をご紹介したいと思います。
なお、この記事は、厚労省HP「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」及び「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律の概要」を参照しています。
なぜ改正されたの?
そもそも、育児介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)は、労働者の育児・介護をめぐる問題を解消し、労働者が職業生活と家庭生活とを両立することができるようにするため、育児・介護休業に関する制度や子の看護・介護休暇に関する制度を設けるとともに、子の養育や家族の介護を容易にするため所定労働時間等に関して、事業主が講ずべき措置などを定めています。
そして、今回の育児介護休業法・次世代育成対策推進法の改正の趣旨としては、「男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大や次世代育成支援対策の推進・強化、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等の措置を講ずる」ことが挙げられており(厚労省)、労働者のワークライフバランスの実現の促進が大きな狙いであるといえます。
改正のポイント
改正育児介護休業法・次世代育成対策推進法の内容についてみていきましょう。
育児介護休業法の改正ポイント
①柔軟な働き方を実現するための措置等が事業主の義務になります
柔軟な働き方を実現するための措置等が事業主の義務となります(施行日:公布後1年6か月以内の政令で定める日)。
具体的には、
- 3歳以上の小学校就学前の子を養育する労働者に関し、事業主が職場のニーズを把握した上で、柔軟な働き方を実現するための措置を講じ、労働者が選択して利用できるようにすること
- 事業主が選択した措置について、労働者に対する個別の周知・意向確認の措置を講ずること
が義務付けられています。
事業主は、フルタイムの柔軟な働き方を促進するため、
- 始業時刻等の変更
- テレワーク等(10日/月)
- 保育施設の設置運営等
- 新たな休暇の付与(10日/年)
- 短時間勤務制度
の中から2以上の制度を選択して措置を講ずる必要があります。
労働者は、事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。
また、事業主が、措置を選択する際には、過半数組合等から意見聴取の機会を設ける必要があります。
なお、個別周知・意向確認の方法は、今後、省令により面談や書面交付などとされる予定とされています。
②所定外労働の制度(残業免除)の対象が拡大されます
所定外労働の制度の対象が拡大されます(施行日:令和7年4月1日)。
これまで、3歳に満たない子を養育する労働者は、請求をすれば所定外労働の制限(残業免除)を受けることができるとされていました。
しかし、本改正により、小学校就学前の子を養育する労働者が請求すれば所定外労働の制限(残業免除)を受けることができるようになります。
③育児のためのテレワークの導入が努力義務化されます
育児のためのテレワークの導入が努力義務化されます(施行日:令和7年4月1日)。
3歳に満たない子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主に努力義務化されます。
④子の看護休暇が見直されます
子の看護休暇が見直されます(施行日:令和7年4月1日)。
これまで、「子の看護休暇」とされていましたが、本改正後は「子の看護等休暇」という名称になります。
また、対象となる子も、「小学校就学の始期に達するまで」でしたが、「小学校3年生修了まで」に延長されます。
さらに、取得事由については、病気・けが、予防接種・健康診断とされていましたが、感染症に伴う学級閉鎖等や入園(入学)式、卒園式の場合にも取得可能となります。
なお、労使協定の締結により除外できる労働者について、これまでは、引き続き雇用された期間が6か月未満の労働者も含まれていましたが、本改正後は、週の所定労働日数が2日以下の労働者だけになるため、注意が必要です。
⑤仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業者の義務になります
妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取、配慮が事業者に義務付けられます(施行日:公布後1年6か月以内の政令で定める日)。
意向聴取の方法は、省令により、面談や書面の交付等とされる予定です。
また、具体的な配慮の例としては、自社の状況に応じて、
- 勤務時間・勤務地にかかる配慮
- 業務量の調整
- 両立支援制度の利用期間の見直し
- 労働条件の見直し
等が指針で示される予定です。
さらに、配慮に際する望ましい対応としては、
- 子に障害がある場合等で希望するときは、短時間勤務制度や子の看護等休暇等の利用可能期間を延長すること
- ひとり親家庭の場合で希望するときは、子の看護等休暇等の付与日数に配慮すること
等が指針で示される予定です。
⑥育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大されます
従業員数300人超の企業に、育児休業等の取得の状況を公開することが義務付けられます(施行日:令和7年4月1日)。
これまで従業員数1000人超の企業に公表が義務付けられていましたが、300人超の企業に拡大されることになります。
公表な内容は、公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度(公表前事業年度)における次の①または②のいずれかの割合です。
①育児休業等の取得割合 | 育児休業等をした男性労働者の数÷配偶者が出産した男性労働者の数 |
②育児休業等と育児目的休暇の取得割合 | (育児休業等をした男性労働者の数+小学校就学前の子の育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者の数)÷配偶者が出産した男性労働者の数 |
⑦介護離職防止のための個別の周知・意向確認、雇用環境整備等の措置が事業主の義務になります
介護離職防止のための個別の周知・意向確認、雇用環境整備等の措置を講ずることが、事業主に義務付けられます(施行日:令和7年4月1日)。
具体的には、
- 介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
- 介護に直面する前の早い段階(40歳等)での両立支援制度等に関する情報提供
- 仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備
- 要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう事業主に努力義務
- 介護休暇について、引き続き雇用された期間が6か月未満の労働者を労使協定に基づき除外する仕組みを廃止
等の措置が事業主の義務となります。
なお、個別の周知・意向聴取の方法は、省令により、面談や書面の交付等とされる予定です。
次世代育成支援対策推進法の改正ポイント
①法律の有効期間が延長されました
次世代育成支援対策推進法の有効期限が、令和7年3月31日までとされていましたが、令和17年3月31日まで延長されました(施行日:令和6年5月31日)。
これに伴い、くるみん認定制度も継続されることになりますが、今後、省令により基準の一部が見直される予定です。
②育児休業取得等に関する状況把握・数値目標設定が義務付けられました
育児休業取得等に関する状況把握・数値目標設定が義務化されます(施行日:令和7年3月1日)。
具体的には、従業員数100人超の企業は、一般事業主行動計画策定時に、以下のことが義務付けられます。
- 計画策定時の育児休業取得状況や労働時間の状況把握等(PDCAサイクルの実施)
- 育児休業取得状況や労働時間の状況に関する数値目標の設定
育児休業取得状況は、省令により、男性の育児休業等取得率とされる予定です。
また、労働時間の状況は、省令により、フルタイム労働者1人あたりの各月ごとの時間外労働及び休日労働の合計時間数等とされる予定です。
なお、一般事業主行動計画の内容を変更しようとする場合も同様に状況把握、数値目標の設定を行う必要があり、施行日以降に開始(又は内容変更)する行動計画から義務の対象となります。
従業員数100人以下の企業の場合は、これらの義務は努力義務の対象となっています。
まとめ
育児介護休業法、次世代育成支援対策推進法の改正ポイントを振り返りましょう。
育児介護休業法の改正は以下の点です。
-
柔軟な働き方を実現するための措置等が義務化
-
所定外労働の制限の対象の拡大
-
育児のためのテレワークの導入が努力義務化
-
子の看護休暇が見直し
-
仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が義務化
-
育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大
-
介護離職防止のための個別の周知・意向確認、雇用環境整備等の措置が義務化
また、次世代育成支援対策推進法の改正は以下の点です。
- 法律の有効期限が令和17年3月31日までに延長
- 育児休業取得等に関する状況把握・数値目標設定が義務化
弁護士にもご相談ください
妊娠・出産や介護を理由として退職を迫られる労働者はたくさんいます。
特に事業主側から直接的・明示的に退職を示唆したわけではなくとも、労働者が、職場内の制度上の問題点によってキャリアを諦めざるを得なかったり、職場の雰囲気によって仕事との両立に困難を覚えていたりすることもあります。
使用者としては、常に従業員の声に耳を傾け、働きやすい環境、ワークライフバランスを実現できる環境を整えていくことが大切です。
育児介護休業法の制度内容や本改正に伴う就業規則の変更点などについてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。