ステマ規制に注意!【初の行政処分】【措置命令】
SNSによるクチコミは、いまや企業の宣伝広告戦略においてなくてはならないものになりました。
その一方で、広告であるにもかかわらず、広告であることを隠して情報が発信されるステルスマーケティング(ステマ)も大きな問題となっています。
そこで、消費者庁は、令和5年10月1日から一部のステルスマーケティングを景品表示法違反とすることとしました。ステマ規制に関して具体的に知りたい方はこちらをご覧ください。
さて、令和6年6月6日、ステマ規制が始まって以来初の行政処分(措置命令)がなされましたので、ご紹介します。
事案の概要
診療サービスの提供
A法人は、運営するクリニックにおいて、一般消費者(患者等)に対して、診療サービスを提供していました(役務の内容)。
クチコミの依頼
A法人は、インフルエンザワクチン接種のためにクリニックを来院した人たちに対して、Googleマップ内の同クリニックのプロフィールにおけるクチコミ投稿欄のクリニックの評価として「★★★★★」(星5)または「★★★★」(星4)の投稿をすることを条件として、インフルエンザワクチンの接種費用から割り引きをすることを伝えました。
このクチコミ依頼に基づき、A法人の同クリニックのプロフィールにおけるクチコミ投稿欄には、「★★★★★」(星5)または「★★★★」(星4)の投稿がなされました。
表示の判別困難性
このクチコミ投稿については、表示内容全体からみて、一般消費者(患者ら)にとって事業者の表示であることが明瞭となっているとは認められず、事業者の表示であることを判別することが困難と認められる表示でした。
措置命令
消費者庁は、令和6年6月6日、上記クチコミの表示が景品表示法第5条3号(ステルスマーケティング告示)に該当するものであるとして、同法第7条1項に基づき、A法人に対して措置命令を行いました。
なお、景品表示法による表示規制の概要については、ステマ規制の解説記事や消費者庁が参考として示している次の図をご覧ください。
不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)
第5条(不当な表示の禁止)
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しく は役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると 認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
第7条 (措置命令)
1 内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる。
一 当該違反行為をした事業者
二 当該違反行為をした事業者が法人である場合において、当該法人が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人
三 当該違反行為をした事業者が法人である場合において、当該法人から分割により当該違反行為に係る事業の全部又は一部を承継した法人
四 当該違反行為をした事業者から当該違反行為に係る事業の全部又は一部を譲り受けた事業者
2 (略)
措置命令の概要
消費者庁は、A法人に対して、
・上記クチコミ依頼によって、A法人のクリニックのプロフィールにおけるクチコミ投稿欄に投稿された「★★★★★」(星5)または「★★★★」(星4)の表示を速やかに取りやめること
・上記表示が、本件役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがあるものであり、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底すること
・再発防止策を講じ、これをA法人の役員および従業員ならびにクリニックの医療従業員及び従業員に周知徹底すること
・今後、同様の表示を行わないこと
を命じました。
解説
基本的な考え方
ステマ規制の対象になるかどうかは、
①事業者の表示(広告)といえるかどうか を判断し
②事業者の表示といえる場合には、一般消費者がみて事業者の表示(広告)であることがわかるかどうか をチェックする
というフローに従って判断されます。
本件の表示について
①事業者の表示(広告)といえるかどうか
事業者の表示(広告)といえるかどうかの判断基準は、「その表示内容の決定に事業者が関与したといえるかどうか」です。
言い換えれば、第三者が自由な意思により自主的な判断で行った表示であれば、「事業者の表示」には当たりません。
今回のGoogleマップ内のクリニックのプロフィールにおけるクチコミ投稿欄の「★★★★★」または「★★★★」の表示は、インフルエンザワクチン接種に訪れた人たち(第三者)に対して、接種費用を割り引くことを伝えたことによって、当該第三者が行った投稿であるとされています。
そのため、A法人が表示内容の決定に関与したとして、①の要件を満たすと判断されたものと考えられます。
②一般消費者がみて事業者の表示(広告)であることがわかるかどうか
一般消費者が表示を見て、事業者の表示であることが明瞭となっているかどうかを表示内容全体から判断します。広告・宣伝である場合、広告・宣伝であることが一般消費者に明瞭に分かるような表示を行う必要があります。
今回問題とされた表示については、たとえば「A法人(クリニック)から依頼を受けて投稿している。」等のような文章による表示がなされていたわけでもなく、単に第三者が自由な意思に基づいて「★★★★★」や「★★★★」のクチコミ投稿をしているかのような表示になっていたことから、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められず、事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示に該当するものと判断されたと考えられます。
弁護士にもご相談ください
個々の広告表示がステマ規制に違反するか否かは、あくまでもそれぞれの広告全体を見ながら具体的に検討しなければなりません。
そのため、今回ご紹介した事例は、あくまでも事例判断としてのものですが、この措置命令を一つの参考事例として、改めて企業広告の方法の見直しを図ることも必要かもしれません。
いま行っている広告や「クチコミを促す」行為がステマ規制に該当するかどうかに不安を感じている場合や、どのような見直しを図るべきかについてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。