法律コラム

ブラックバイト企業と呼ばれないアルバイトの労働条件を!【これからの求人】

4月に入り、大学生デビューを果たした学生の姿を多数見かけるようになりました。
大学生になり、アルバイトを始める方も多いのではないでしょうか。
人手に悩む会社もこの時期はアルバイトを募集する好機かもしれません。

しかし、アルバイトだからといって、労働条件をいい加減に考えてよいということではありません。
アルバイトも労基法をはじめとする諸法令の適用を受ける「労働者」です。

厚生労働省では、平成27(2015)年度から、全国の大学生等を対象として、特に多くの新入学生がアルバイトを始める4月から7月までの間、自らの労働条件の確認を促すことなどを目的としたキャンペーンを行っています。
第10回目となる令和6(2024)年度も、4月1日から7月31日までの間、≪アルバイトの労働条件を確かめよう!≫キャンペーンが実施されています。

ブラックバイトにならないように、キャンペーン内容を確認しながら、改めてアルバイトを雇用する際の注意事項について理解しておきましょう。

ブラックバイトの実態

深刻な人手不足を背景に“人手は欲しい”が、長い不景気の下では“いつでも解雇したい”。
そんな会社側のニーズからアルバイト需要が急増。
多くの企業で非正規雇用の従業員が増加しました。

もっとも、その頃から深刻化し始めたのが「ブラックバイト」問題です。
「ブラックバイト」という概念は、平成26(2013)年に中京大学の大内祐和教授が提唱したものであり、いまでは「ブラック企業」に並んで、広く一般的に知られる言葉になりました。
その実態としては、

  •  時間外労働をさせておきながら残業代を払わない
  •  バイトだからといって労災保険に加入させない
  •  無理やりの長時間労働を強いる。
  •  不可能なノルマを課して売れ残りを買い取らせる
  •  強制的にシフトを入れて休ませない
  •  次の働き手を紹介しなければ辞めさせない
  •  準備や片付けの時間を労働時間にカウントしない
  •  仕事用品を自費で購入させる

などが挙げられます。

これらはいずれも労働基準法などを始めとする労働関係法令に違反するものであり、到底許されないものです。
しかし、人手不足が深刻な職場や法規範意識の低い職場では、残念ながらブラックバイトが横行しています。

このようなブラックバイトの実態を改善すべく、厚労省は、アルバイトが特に増加するこの時期に、各事業主に対してアルバイトの労働条件を確認するよう呼び掛けています。

ブラックバイト企業を続ける企業のリスク

この記事では、ブラックバイトのレッテルを貼られる企業を「ブラックバイト企業」と呼ぶことにします。ブラックバイト企業にはどんなリスクがあるでしょうか。

生産性が低下するリスク

ブラックバイト企業では劣悪な労働条件のもと、長時間働かされることになります。
そうすると、労働者は心身ともにどんどん疲弊することになり業務効率は悪化、さらに業績の低迷や商品サービスの質の低下、人件費の高騰など、かえって生産性が悪くなっていくことになります。

雇用を確保できないリスク

企業経営をしていると皆さん実感されることは、採用コストが高騰していることだとおもいます。

逆に言えば、労働者にとって売り手市場になっているということです。アルバイトをしたい人にとっては、他社の労働条件と比較してバイト先を選定することになりますが、労働条件に劣るブラックバイト企業はそもそもバイト先に選んでもらえないことになります。

また、既存のアルバイトの定着率も悪くなるので、人が減る一方で新しい人が入ってこないというダブルパンチに悩むことになります。

バイトの質を確保できないリスク

売り手市場にもかかわらずブラックバイト企業に応募して「くれた」アルバイトは、果たして求める質を備えた人材でしょうか。

単に物覚えがよくない、とか、仕事のミスをするだけであればまだましで、「バイトテロ」などを引き起こしてしまうモラルに欠ける人材の可能性も否定できません。

労働災害が発生するリスク

ブラックバイトで疲弊してしまったアルバイトは、業務上の事故により怪我を負ったり、脳や心臓、精神疾患などを発病するリスクもありえます。

業務上の原因であることが認められると労働災害となるおそれがあり、会社が損害賠償請求をされる事態もありえます。

「ブラックバイト」などとSNSで拡散されるリスク

いうまでもなく、現代社会はSNSの時代です。

「これは問題だ」と考える人がSNSで発信すると、瞬く間に世界に広がり、あっという間に「ブラック企業」のレッテルが貼られる時代になっています。

過去にも、ある企業が高額な初任給で求人を出すということが話題になった後、その「初任給」に80時間分の固定残業代が含まれていた、ということが拡散されることがありました。
必ずしも会社が意図した内容ではない方向での炎上をすることも十分あり得るので注意が必要です。

刑事事件に発展するリスク

労働関係に関する法律は、思いも寄らないところに刑事罰の罰則があります。休憩義務、賠償予定の禁止、時間外労働の規定などに反した場合には「6か月以下の拘禁刑」か「30万円以下の罰金」に処せられる可能性があります。

悪質な事案であれば、逮捕され、報道されることも十分にあり得ます。

確認すべき労働条件のポイント

厚労省が、事業主に対して、重点的な確認を呼び掛けているポイントは次の5項目です。

  1. 労働条件の明示
  2. シフト制労働者の適切な雇用管理
  3. 労働時間の適正な把握
  4. 商品の強制的な購入の抑止とその代金の賃金からの控除の禁止
  5. 労働契約の不履行に対してあらかじめ罰金額を定めることや労働基準法に違反する減給制裁の禁止

以下、これらの5項目について、具体的な内容を詳しくみていきましょう。

ポイント①労働条件の明示

アルバイトを雇用する際、労働条件について書面で示しているでしょうか?

労働基準法第15条1項は、労働契約を締結する際(有期労働契約の場合には更新の際にも)、使用者が労働者に対して、契約期間や就業場所、労働時間などの労働条件を明示しなければならないことを定めています。

労働者に明示する労働条件は、事実と異なるものとしてはならず、仮に明示された労働条件が事実と異なる場合には、労働者は、即時に労働契約を解除することができます(労働基準法第15条2項)。

労働基準法
15条(労働条件の明示)
1 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3 (略)

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

しかし、実際に、アルバイトの学生などからは、「雇用契約締結前に、バイト代や勤務時間について質問をしたのに、「募集広告に書いてある通りだから」と言われ、そのまま働き始めたものの、当初の話とは違う…。」といった声が聞かれることがあります。
雇い始めてから会社とアルバイトとの間のトラブルを起こさないためにも、労働条件通知書などの書面を会社からアルバイトに対して交付し、労働条件を明示しておくことは非常に重要です。

特に、次の7項目については、必ず書面で明示しなければなりません。

書面による明示とされていますが、アルバイト(労働者)側が希望した場合には、メールやFAXなど(印刷できるもの)によって明示することも可能です。

労働条件明示ルール(詳しくは、こちらをご覧ください労働条件明示ルールの変更【2024年4月施行】【改正ポイント解説】))は、法改正により本年4月から変更された点もありますので、改めて確認しておきましょう。

また、上記ⅴにあるバイト代については、各都道府県ごとに最低賃金の定め(最低賃金制度 )があり、これを下回ることはできません。加えて、高校生アルバイトや雇い入れ後の研修期間中も、最低賃金額以上の賃金を支払うことが求められますので注意が必要です。

なお、厚労省は、労働条件通知書の記載例を公表していますので、このようなサンプルを参照し、記載事項に抜け漏れがないかを点検しておくこともおすすめです。

【厚生労働省:アルバイトをする前に知っておきたい7つのポイント(parttime_point.pdf (mhlw.go.jp))】

ポイント②シフト制労働者の適切な雇用管理

アルバイトの勤務シフトは適切に設定・管理されているでしょうか?

シフト制労働者の“シフト”は、労働条件の内容になります。
労働契約法第8条は、労働条件の内容は、労働者と使用者間の合意によってのみ変更することができると定めており、使用者側から一方的に変更することは許されていません(労働契約法8条)。

労働契約法8条(労働契約の内容の変更)
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

しかし、実際に、アルバイトの学生などからは、「学校の試験準備期間や試験期間中にも休ませてもらえなかった…。」「学校の講義に出席できないほどの過剰のシフトを入れられてしまった…。」「勝手にシフトを変更された…。」といった声が聞かれることがあります。

たしかに、繁忙期やキャンペーン実施期間中など、特に人手が必要な時期には、会社側の都合によってシフトを変更してほしい場合もあるかもしれません。
もっとも、上述のとおり、労働契約法第8条は、労働契約の内容である労働条件を変更する場合には、労使間の合意が必要であることを定めていることから、アルバイト(労働者)との間でシフト変更の合意をする必要があります。
仮に、使用者側から一方的にシフトを変更してしまった場合には、そのような変更は無効となります。

なお、労使間の“合意”とは、有効な意思に基づく合意でなければなりません。
ブラックバイトの職場では、LINEなどのメッセージアプリを使って誹謗中傷を伴って強引に合意をとるようなことがあるようですが、当然ながら、このような手法に基づく合意は有効な意思に基づく合意とはいえません

また、そもそも学生は学業が本分であることから、使用者が、学生アルバイトを雇用する場合には、学生が学業とアルバイトが適切な形で両立することができるような環境を整えるように配慮する必要があります。

ポイント③労働時間の適正な把握

アルバイトの労働時間を適正に管理・把握しているでしょうか?

労働基準法は、事業または事務所に使用され、使用者の指揮監督の下に働いて賃金を支払われる労働者に適用されるものであり、その雇用形態は問いません。
そのため、アルバイトであっても、原則として1日8時間・週40時間という法定労働時間(労基法第32条)、時間外労働に対する割増賃金の支払い(同第37条)、労働時間が6時間を超える場合の休憩(同第34条)、休日の付与(同第35条)などの各労働基準法の定めについて、正規社員と同様に適用されます。

しかし、実際に、アルバイトの学生などからは、「アルバイトには残業代はないといわれた…。」「1回あたり8時間以上の勤務をしているのに休憩時間がもらえない…。」「準備や片付けの時間は労働時間ではないといわれた…。」といった声が聞かれることがあります。

特に、アルバイトなら残業代は払わなくてよい、といった誤った見解に基づいてアルバイトを雇用している使用者が一定数見受けられます。
また、就業を命じた業務に必要な準備や片付けの時間、参加が業務上義務付けられている研修・教育訓練を受講していた時間などの労働時間について、賃金の基礎となる労働時間に含めることなくバイト代を支払っている使用者も多数存在します。
もっとも、上述のとおり、アルバイトであっても残業代の支払いは必要であり、業務に必要な準備等の時間も労働時間に含まれます。

したがって、これらの点に留意しながら、アルバイトについても、各労働日の始業・終業時刻を確認し、適正に記録しておきましょう。
なお、厚労省は、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインを策定し、公表していますので、これらのガイドラインも参照しながら、労働時間の管理、把握に努めることが期待されます。

ポイント④商品の強制的な購入の抑止とその代金の賃金からの控除の禁止

アルバイトに商品を強制的に購入させていないでしょうか?

会社が労働者に対して販売ノルマを課し、ノルマが達成できなかった場合には、商品等の購入を義務付けるという「自爆営業」は、正規社員について特に問題視されていますが、アルバイトについても同様の問題が生じています。
実際に、アルバイトの学生などからは、「職場で自社製品の販売ノルマがあり、達成しない場合にはバイトに買い取りを義務付けるという決まりがあるため、一生懸命働いても、結局はバイト代が全部その製品購入で消えて困っている…。」といった声が聞かれることがあります。

しかし、労働基準法第16条では、使用者が労働契約の不履行について、違約金を定めることなどを禁止しています。

労働基準法16条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

したがって、アルバイトが希望もしていないにもかかわらず、自社製品等の商品を強制的に購入させることはできません。

また、労働基準法第24条1項では、原則として賃金を全額通貨で支払わなければならないとされています。

労働基準法24条(賃金の支払)
1 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
2 (略)

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

したがって、仮にアルバイト本人が商品の購入を希望した場合には、購入をさせること自体は可能ですが、そのような場合であっても一方的に賃金から商品の代金を差し引くことは許されません。

職場において、アルバイトに対する「自爆営業」などが行われていないかどうか、労使協定もなく賃金から商品代金を一方的に控除するなどの運用が行われていないかどうかを改めて確認しておくことが必要です。

ポイント⑤労働契約の不履行に対してあらかじめ罰金額を定めることや労働基準法に違反する減給制裁の禁止

アルバイトの遅刻や欠勤、不良品を出すことなどに対して、あらかじめ損害賠償額などを定めてはいないでしょうか?

労働基準法第16条では、使用者が労働契約の不履行について、損害賠償額を定めることなどを禁止しています。

労働基準法16条(賠償予定の禁止)

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

しかし、実際に、アルバイトの学生などからは、「雇用契約書に、不良品を出した場合、1回につき2,000円の罰金を支払うと記載されているんだけど…。」といった声が聞かれることがあります。

労働基準法第16条は、使用者による賠償の予定を禁止していることから、アルバイトの遅刻や欠勤などによる労働契約の不履行、その他の不法行為に対して、あらかじめ損害賠償額等を定めることは許されません。

また、遅刻や欠勤、不適切言動を繰り返すことなどにより、職場の秩序を乱すなどの規律規範をしたことに対する制裁として、就業規則に基づいて、本来受けるべき賃金の一部を減額する場合は考えられます。
しかし、労働基準法第91条では、就業規則において減給の制裁を定める場合であっても、減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならないことを定めています。

労働基準法91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

したがって、就業規則に基づいて、本来アルバイトが受けるべき賃金の一部を制裁として減額するような場合であっても、無無制限に減給することのないように留意しなければなりません。

まとめ

ここまで、アルバイトの雇用において注意すべきポイントを説明してきました。
最後に、厚労省が、事業主に対して、重点的な確認を呼び掛けている5項目について、改めて確認しておきましょう。

仮に、上記のポイントの中で、自信をもって✔ができない項目がある場合や、ちょっと不安があるかも…と感じた場合には要注意です。
ブラックバイト職場にならないように、日ごろからアルバイトの労働条件について適正な管理・運用がなされているかを確認しておくことが大切です。

弁護士にもご相談ください

アルバイトの雇用に関しては、既に紹介した問題のほかにも、「バイト中にケガをしたのに労災は使えないといわれた…。」「店長から明日から来なくていいといわれた…。」「バイト中にセクハラを受けたが相談する先がない…。」などといった声も聞かれます。
アルバイトも労働基準法をはじめとする関係法令の適用を受ける「労働者」であり、仮に労働関係法令に違反し、不当な取り扱いを行った場合には、行政庁から報告等を求められたり、罰則に処せられたりすることもあるため、注意が必要です。

その一方で、近年ではバイトテロによるSNS上の動画拡散などアルバイトの不適切行為によって会社が多大な損害を被るケースも増加しています。
そのため、アルバイトを雇用するに際しては、研修などを通じて不適切な言動が行われないように指導することも必要です。

アルバイトの雇用に関してお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。