法律コラム

マタニティハラスメントについて理解しよう【職場内のマタハラ防止対策】

最近あちこちで耳にする「ハラスメント」という言葉。
広辞苑を調べてみると、ハラスメント【harassment】とは、「人を悩ますこと。優越した地位や立場を利用した嫌がらせ」を意味するとされています。

3大ハラスメントの1つであるマタニティハラスメント(マタハラ)は、古くて新しい問題といわれており、以前から問題視はされているものの、実質的な防止対策がとられないままの状態が続いています。

マタハラといっても、解雇や契約更新の拒絶、降格、減給、退職の強要といった違法性が明らかなブラックマタハラと、「休めていいよね~」などの心無い言葉を浴びせたり、担当業務から離脱させたり、重要な情報を共有しなかったり、といった直ちには違法性が明らかではないグレーマタハラが存在します。
もっとも、マタハラの被害者は妊娠、出産、育児中であることも相まって心身ともに健康状態が優れないなど、弱い立場にあり、結局は多くの被害者が泣き寝入りしている状況です。

マタハラは、働き方の相違に対する最初のハラスメントであるともいわれており、職場のマタハラを解決しない限り、パタハラやケアハラといった次なるハラスメントへとつながっていってしまう深刻な問題です。

今回は、数々のハラスメントの中でも、被害者と胎児の心身の健康に危険をもたらすだけでなく、会社や社会全体にも大きな影響を及ぼすマタハラについて詳しく解説します。

なお、パワハラについてはこちらセクハラについてはこちらの記事をご覧ください。

男女雇用機会均等法・育児介護休業法とは

厚生労働省が実施した職場のハラスメントに関する実態調査によると、過去5年間に妊娠や出産、育児休業等のハラスメントを経験した人の割合は26.3%にも上ります。
マタハラによって、解雇や自主退職を迫られたり、仕事を取り上げられたりするなどした結果、離職を余儀なくされるケースだけでなく、心無い言葉を日常的に浴びせられたり、妊娠中であるにもかかわらず長時間労働や過酷な勤務を強要されたりした結果、早産・流産してしまうケースも報告されています。

このようなマタハラの現状にかんがみ、男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保等に関する法律)や育児介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)では、事業者に対して、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて、防止措置を講ずることを義務付けています。

また、令和元年の法改正に伴い、事業主は、労働者がマタハラに関する相談を行ったことや事業者による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者を解雇などの不利益的取り扱いを行ってはならないことも定められており、事業者のマタハラ対策の義務は強化されています。

同法に基づくマタハラ防止にかかる事業者の義務や責務は、中小事業主であっても同様に課せられているものであり、事業規模の大小や業種、業態にかかわらず、マタハラという概念や企業が行わなければならないマタハラ防止措置の内容などについてしっかりと確認しておく必要があります。

男女雇用機会均等法第11条の3(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)

1 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 第11条2項の規定は、労働者が前項の相談を行い、又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べた場合について準用する。

3,4(略)

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)

育児介護休業法第25条(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)

1 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)

マタニティハラスメントとは

マタニティハラスメント(マタハラ)と聞くと、男性の上司が妊娠中の部下を業務から外したり、「休めていいよなぁ」と言ったりしているような場面が目に浮かびますが、マタハラは本当にこれだけでしょうか。
事業者として職場内のマタハラ防止措置を適切に講じるためには、まずマタハラという概念について正確に理解しておく必要があります。
では、職場におけるマタハラについては、具体的な定義などはあるのでしょうか。

職場におけるマタハラとは

厚生労働省によれば、マタニティハラスメントとは、
職場において行われる、上司や同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の制度利用に関する言動)により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業等を申出・取得した男女労働者の就業環境が害されること
と定義されています。

では、「職場」や「労働者」「制度」などの意味についても具体的に確認していきましょう。

職場とは

職場におけるマタハラに該当するためには、まずは「職場」で行われた行為であることが必要です。
「職場」とは、事業者が雇用する労働者が業務を遂行する場所をいい、いわゆる事務所や作業現場、工場などがこれにあたります。
もっとも、これらの場所だけでなく、クライアントとの打ち合わせ場所や接待の場、移動中の車や電車、飛行機の中、業務の延長と考えられる宴会の場などであっても、同様に「職場」に該当するものと考えられます。

労働者とは

対象となる労働者は、事業者と雇用契約を締結するすべての労働者が含まれ、雇用形態は問いません。
したがって、正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員などであっても当然に「労働者」に含まれます。

また、派遣労働者については、派遣元事業者が雇用契約を締結する主体にはなりますが、事実上、派遣労働者が指揮命令を受けるのは、派遣先事業者であることを踏まえ、派遣先事業者も派遣労働者に対するマタハラ防止措置を講じなければならないとされています(労働者派遣法47条の2、47条の3)。

労働者派遣法第47条の2(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の適用に関する特例)

労働者派遣の役務の提供を受ける者がその指揮命令の下に労働させる派遣労働者の当該労働者派遣に係る就業に関しては、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者もまた、当該派遣労働者を雇用する事業主とみなして、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第九条第三項、第十一条第一項、第十一条の二第二項、第十一条の三第一項、第十一条の四第二項、第十二条及び第十三条第一項の規定を適用する。この場合において、同法第十一条第一項及び第十一条の三第一項中「雇用管理上」とあるのは、「雇用管理上及び指揮命令上」とする。

労働者派遣法第47条の3(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の適用に関する特例)

労働者派遣の役務の提供を受ける者がその指揮命令の下に労働させる派遣労働者の当該労働者派遣に係る就業に関しては、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者もまた、当該派遣労働者を雇用する事業主とみなして、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第十条、第十六条(同法第十六条の四及び第十六条の七において準用する場合を含む。)、第十六条の十、第十八条の二、第二十条の二、第二十一条第二項、第二十三条の二、第二十五条及び第二十五条の二第二項の規定を適用する。この場合において、同法第二十五条第一項中「雇用管理上」とあるのは、「雇用管理上及び指揮命令上」とする。

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)

制度とは

マタハラの中には、育児休業などの制度を利用することに対して嫌がらせなどが行われることによって就業環境が害されるケースがあります。
では、ここでいう「制度」とはどのようなものがあるのでしょうか。

まず、男女雇用機会均等法が対象とする制度(または措置)としては次のものが挙げられます。
①産前休業
②妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)
③軽易な業務への転換
④変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限
⑤育児時間
⑥坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限

また、育児介護休業法が対象とする制度(または措置)としては次のものが挙げられます。
①育児休業(産後パパ育休を含む)
②子の看護休暇
③所定外労働の制限
④時間外労働の制限
⑤深夜業の制限
⑥育児のための所定労働時間の短縮措置
⑦始業時刻変更等の措置
*なお、⑥、⑦は就業規則において措置が講じられていることが必要です。

マタハラに関する留意点

因果関係が認められるものに限定される

定義として記載したとおり、職場におけるマタハラは、妊娠・出産に関する言動や育児休業等の制度利用に関する言動により、労働者の就業環境が害されることです。
そのため、妊娠の状態や育児休業制度の利用などと嫌がらせとなる上司・同僚の言動との間に因果関係が認められるものだけがマタハラに該当するとされています。
したがって、マタハラの該当性を判断する上では、“労働者の妊娠状態や制度利用等”と“上司らの言動”との間の因果関係の存否を慎重に判断する必要があります。
但し、かかる因果関係が認められず、マタハラに該当しないとしても、パワハラやセクハラといった他のハラスメントには該当する可能性もあるため注意が必要です。

業務上の必要性がある場合にはマタハラに該当しない

ここまでの説明からすると、妊娠・出産や育児休業等の制度利用に関する言動であれば、必ずマタハラに該当してしまうのではないか?と不安に思われるかもしれません。
しかし、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものであれば、マタハラには該当しません。

たとえば、部下が妊娠等を理由として休業を申請した場合、上司としては、人事配置などを含めて業務全体の調整を図る必要が出てきます。
そこで、定期的な妊婦検診の日時などのように、ある程度調整が可能な休業等について、その時期を調整することが可能かどうか、労働者の意向を確認するといった行為であれば、業務上の必要性に基づく言動として、マタハラに該当しないと考えられます。
ただし、労働者の意を汲まないような一方的な通告の場合には、マタハラに該当すると判断される可能性があるので注意が必要です。

ヒアリングは当事者双方から

マタハラはパワハラやセクハラ以上に心身の健康に与える影響が大きく、極めて危険なハラスメントともいわれており、マタハラに関する相談があった場合には、速やかに事実確認を行う必要があります。
事実確認を行う場合は、まず、被害者である相談者や行為者、その他の関係者からヒアリングを行うことになりますが、ヒアリングの際には、行為者あるいは相談者いずれか一方の主張だけを聞き入れて判断するのではなく、行為者と相談者それぞれから丁寧に事情を聞き取ることが最も重要です。
また、事実関係だけでなく、当該行為が行われた際の相談者の心身の状態や受け止め方といった認識の部分、プライバシーの保護などについても十分に配慮しながら検討を進めることが大切です。

マタハラの2類型

ここまで、職場におけるマタハラの定義について、「職場」や「労働者」、「制度」といった用語に着目して、留意点などを考えてきました。

ここで、改めてマタハラの定義について振り返ってみると、

職場において行われる、上司や同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の制度利用に関する言動)により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業等を申出・取得した男女労働者の就業環境が害されること
をいうとされています。

では、「上司や同僚からの言動により」労働者の「就業環境が害される」とは、具体的にどのような場面が想定されるのでしょうか。

職場におけるマタハラには、「制度の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」の2つの類型があるといわれています。
以下、各類型について詳しくみていきます。

制度の利用への嫌がらせ型とは

1つ目の類型は「制度の利用への嫌がらせ型マタニティハラスメント」です。

「制度の利用への嫌がらせ型マタニティハラスメント」とは、男女雇用機会均等法や育児介護休業法が定める妊娠・出産・育児休業等に関する制度又は措置について、利用の申出等を行った労働者に対して不利益を示唆したり、嫌がらせをしたりすることをいいます。

具体的な態様としては、
①解雇その他不利益な取り扱いの示唆
②制度等の利用や請求の阻害
③制度等の利用に対する嫌がらせ
が挙げられます。

以下、さらに詳しく解説します。

①解雇その他不利益な取り扱いの示唆とは

まず、「解雇その他不利益な取り扱いの示唆」とは、

労働者が、制度の利用の請求等(措置の求めや請求、申出などを含む)をしたい旨を上司に相談したことや制度等の利用の請求等をしたこと、制度等の利用をしたことにより、
上司が当該労働者に対して、解雇その他不利益な取り扱いを示唆すること
をいいます。

典型的な例としては、
✔労働者が産前休業の取得を上司に相談したところ、上司が「休みを取るくらいなら辞めてもらう」ということ
✔労働者が時間外労働の免除を上司に相談したところ、上司が「次の査定の再は昇進しないと思え」ということ
などが挙げられます。

②制度等の利用の請求等または制度等の利用の阻害

次に、「制度等の利用の請求等または制度等の利用の阻害」とは、

  • 労働者が制度の利用の請求をしたい旨、上司に相談したところ、上司が当該労働者に対して、「請求をしないように」と言うこと
  • 労働者が制度の利用の請求をしたところ、上司が当該労働者に対して、「請求を取り下げるように」と言うこと
  • 労働者が制度の利用の請求をしたい旨、同僚に伝えたところ、同僚が当該労働者に対して、繰り返しまたは継続的に、「請求等をしないように」と言うこと
  • 労働者が制度の利用の請求をしたところ、同僚が当該労働者に対して、繰り返しまたは継続的に、「請求等を取り下げるように」と言うこと

などによって、制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害することをいいます。

典型的な例としては、
✔育児休業の取得について、上司に相談したところ、「男のくせに育児休業を取るなんてあり得ない」と言われ、取得をあきらめざるを得ない状況に陥っていること
✔産後パパ育休を周囲に伝えたところ、同僚から「迷惑だ、自分なら取得しない、あなたも同じようにするべきだ」などと言われ苦痛に感じていること
✔育児休業について請求する旨を周囲に伝えたところ、同僚から継続的に、「自分なら取得しないから、あなたもそうするべきだ」などと言われ、取得を断念せざるを得ない状況になっていること
などが挙げられます。

なお、事業主が労働者の事情やキャリアを考慮して、育児休業等からの早期の職場復帰を促すこと自体は制度等の利用が阻害されるものには該当しません
但し、この場合であっても、職場復帰のタイミングは労働者の選択に委ねられており、早期の職場復帰を強要し、制度等の利用を阻害するような場合にはマタハラに該当するため、注意が必要です。

③制度等の利用に対する嫌がらせとは

そして、「制度等の利用に対する嫌がらせ」とは、労働者が制度等の利用をしたところ、上司・同僚が当該労働者に対して、繰り返しまたは継続的に嫌がらせ等をすることをいいます。
ここで述べる「嫌がらせ」とは、嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと、もっぱら雑務に従事させることなどであって、労働者に対して直接的に向けられる言動を意味します。

典型的な例としては、
✔上司や同僚が、「所定外労働者の制限をしている人には大した仕事はさせられない」などと繰り返しまたは継続的に言い、もっぱら雑務だけをさせられる状況になっており、就業する上で看過できない程度の支障が労働者に生じていること
✔上司や同僚が、「自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない、迷惑だ」などと繰り返しまたは継続的に言い、就業する上で看過できない程度の支障が労働者に生じていること
などが挙げられます。

なお、マタハラに該当する言動は、客観的にみて、一般的な労働者であれば、能力の発揮や継続就業に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生ずるものをいい、単なる言動だけではマタハラに該当しません。

状態への嫌がらせ型とは

2つ目の類型は「状態への嫌がらせ型マタニティハラスメント」です。

「状態への嫌がらせ型マタニティハラスメント」とは、女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により、労働者の就業環境が害されることをいいます。

ここで述べる「状態」とは、

  • 妊娠したこと
  • 出産したこと
  • 妊娠又は出産に起因する症状(つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全等、妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる一切の症状)により労務の提供ができないこと若しくはできなかったことまたは労働能率が低下したこと
  • 坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと又はこれらの業務に従事しなかったこと

を意味します。

具体的な態様としては、
①解雇その他不利益な取り扱いの示唆
②妊娠等したことによる嫌がらせ
が挙げられます。

以下、さらに詳しく解説します。

①解雇その他不利益な取り扱いの示唆とは

まず、「解雇その他不利益な取り扱いの示唆」とは、女性労働者が妊娠等したことにより、上司が当該女性労働者に対し、解雇その他の不利益な取り扱いをすることをいいます。

典型的な例としては、
✔上司に妊娠を報告したところ「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」などと言うこと
などが挙げられます。

②妊娠等したことによる嫌がらせとは

次に、「妊娠等したことによる嫌がらせ」とは、女性労働者が妊娠等したことにより、上司や同僚が当該女性労働者に対し、繰り返しまたは継続的に嫌がらせ等をすることをいいます。

ここで述べる「嫌がらせ」とは、嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと、もっぱら雑務に従事させることなどであって、女性労働者に対して直接的に向けられる言動を意味します。

典型的な例としては、
✔上司・同僚が「妊婦はいつ休むかわからないから仕事は任せられない」と繰り返しまたは継続的に言い、仕事をさせない状況となっており、就業をする上で看過できない程度の支障が生じていること
✔上司・同僚が「妊娠するなら忙しい時期を避けるべきだった」と繰り返しまたは継続的に言い、就業する上で看過できない程度の支障が生じていること
などが挙げられます。

なお、マタハラに該当する言動は、客観的にみて、一般的な女性労働者であれば、能力の発揮や継続就業に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生ずるものをいい、単なる言動だけではマタハラに該当しません。

事業者及び労働者の責務

男女雇用機会均等法では、職場におけるマタハラを防止するため、事業者と労働者それぞれに対して、次のような事項に努めること責務があることを明示されています。

事業者の責務について

まず、事業者については、男女雇用機会均等法第11条の4第2項、第3項および育児介護休業法第25条の2第2項、第3項において、
✔職場におけるマタハラを行ってはならないことなどこれに起因する問題(ハラスメント問題)に対する労働者の関心と理解を深めること
✔雇用する労働者が他の労働者(事業主が雇用する労働者だけを意味するものではなく、取引先等の他の事業主が雇用する労働者や休職者も含む。)に対する言動に必要な注意を払うよう研修を実施するなど必要な配慮を行うこと
✔事業主自身(法人の場合には役員)がハラスメント問題に関する関心と理解を深め、労働者(事業主が雇用する労働者だけを意味するものではなく、取引先等の他の事業主が雇用する労働者や休職者も含む。)に対する言動に必要な注意を払うこと
に努めること責務とされています。

男女雇用機会均等法第11条の4(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務)

1 (略)

2 事業主は、妊娠・出産等関係言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。

3 事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、妊娠・出産等関係言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。

4 (略)

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)

育児介護休業法第25条の2(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務)

1 (略)

2 事業主は、育児休業等関係言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。

3 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。

4 (略)

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)

労働者の責務について

労働者については、男女雇用機会均等法第11条の4第4項および育児介護休業法第25条の2第4項において、

✔ハラスメント問題に関する関心と理解を深め、他の労働者(事業主が雇用する労働者だけを意味するものではなく、取引先等の他の事業主が雇用する労働者や休職者も含む。)に対する言動に注意を払うこと
✔事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること
に努めることが責務とされています。

男女雇用機会均等法第11条の4(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務)

1~3 (略)

4 労働者は、妊娠・出産等関係言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第1項の措置に協力するように努めなければならない。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)

育児介護休業法第25条の2(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務)

1~3 (略)

4 労働者は、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第1項の措置に協力するように努めなければならない。

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)

職場におけるマタハラ防止のために講ずべき措置

また、事業主は、男女雇用機会均等法第11条の3第1項、第3項および育児介護休業法第25条第1項に基づき、職場におけるマタハラを防止するための措置を必ず講じる義務があります。

事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

  • マタハラの内容管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
  • 妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動が職場におけるマタハラの発生の原因や背景となり得ることを管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
  • マタハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
  • マタハラの行為者について厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
  • 妊娠・出産・育児休業等に関して制度等が利用できることを就業規則等の文書に規定して明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること

相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

  • 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
  • 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること
  • 職場におけるマタハラが現に発生している場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、マタハラに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること

職場におけるマタニティハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応

  • 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
  • マタハラの事実が確認された場合、速やかに被害者に対する配慮措置を適正に行うこと
  • セクハラの事実が確認された場合、行為者に対する措置を適正に行うこと
  • セクハラの事実が確認された場合、確認されなかった場合いずれであっても、再発防止に向けた措置を講ずること

職場におけるマタニティハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置

  • 業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じて、必要な措置を講ずること

そのほか併せて講ずべき措置

  • 相談者・行為者等のプライバシー(性的指向や性自認、病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含む。)を保護するために必要な措置を講じ、周知すること
  • 相談したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

男女雇用機会均等法第11条の3(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)

1 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 (略)

3 厚生労働大臣は、前2項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

4 (略)

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)

育児介護休業法第25条(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)

1 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 (略)

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)

事業者に相談等をした労働者に対する不利益取扱いの禁止

事業主は、この他にも、男女雇用機会均等法第11条の3第2項および育児介護休業法第25条第2項に基づき、労働者が職場におけるマタハラについての相談を行ったことや雇用管理上の措置に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取り扱いをすることが禁止されています。

男女雇用機会均等法第11条の3(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)

1 (略)

2 第11条第2項の規定は、労働者が前項の相談を行い、又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べた場合について準用する。

3,4 (略)

男女雇用機会均等法第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)

1 (略)

2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

3~5 (略)

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)

育児介護休業法第25条(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)

1 (略)

2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)

望ましい取り組み

これまで述べたとおり、事業者には職場におけるマタハラを防止するために、各種の措置を講ずる義務や責務が課されていますが、このほかにも望ましい取り組みとして次のような事項が挙げられています。

たとえば、職場におけるマタハラについて関心と理解を深めるとともに、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うための研修等を行ったり、労働者に対して定期的にアンケ―トを実施して、社内の状況を確認しながら、マタハラを防止するために必要な体制の強化や制度の改善などを図っていくことが考えられています。
また、望ましい取り組みとして掲げられている事項の中には、マタハラ以外のハラスメントに対する対応との関係でも同様に活かされるものでもありますので、職場内のさまざまなハラスメントを防止するために、可能な限り一つ一つ丁寧に取り組んでいくことが重要です。

特に妊娠や出産に付随する不調は女性特有の健康問題でもあることから、事業者としても、女性労働者がさまざまな制度を利用できることを知る機会を増やし、女性労働者自身が周囲とも適切なコミュニケーションを図りながら、ヘルスリテラシーを高めていけるような支えをしていくことも大切です。

まとめ

ポイント

職場におけるマタニティハラスメントのポイントについておさらいしましょう。

まず、マタハラとは、
職場において行われる、上司や同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の制度利用に関する言動)により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業等を申出・取得した男女労働者就業環境が害されること
をいいます。

そして、職場におけるマタハラには、
➣制度等の利用への嫌がらせ型マタニティハラスメント(男女雇用機会均等法や育児介護休業法に定める制度や措置の利用に関する言動により就業環境が害されること)
 ①解雇その他不利益な取り扱いの示唆
 ②制度等の利用や請求の阻害
 ③制度等の利用に対する嫌がらせ
➣状態への嫌がらせ型マタニティハラスメント(女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により就業環境が害されること)
 ①解雇その他不利益な取り扱いの示唆
 ②妊娠等したことによる嫌がらせ
という2つの類型があります。

また、職場におけるマタハラを防止するために、事業者には、厚生労働大臣の指針に準じて、

☆ 事業者者の方針等の明確化及びその周知・啓発

☆ 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
☆ 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
☆ 職場におけるマタニティハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
☆ プライバシー保護や不利益取扱いの禁止等といった併せて講ずべき措置
をそれぞれ講ずる義務があるほか、他のハラスメント等と一元的に相談・対応できる体制の整備や雇用管理上の措置の運用状況に関する把握・見直しの検討等に努めることなどが期待されています。

注意事項

男女雇用機会均等法および育児介護休業法に基づく事業主の措置義務は、大企業だけでなく中小企業にも同様に課されています
これらの義務に違反した場合、行政庁から助言・指導・勧告を受けたり、報告を求められたりするおそれがあります。
また、勧告に従わなかった場合には企業名が公表される可能性があるほか、行政庁から報告を求められたのに報告をせず、または虚偽報告をした場合には過料に処せられることになります。
したがって、中小企業であっても、職場におけるマタハラについて十分に理解した上で、男女雇用機会均等法に定める各種義務や責務を履行する必要があります。

男女雇用機会均等法第29条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)

1 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。

2 前項に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。

男女雇用機会均等法第30条(公表)

厚生労働大臣は、第5条から第7条まで、第9条第1項から第3項まで、第11条第1項及び第2項(第11条の3第2項、第17条第2項及び第18条第2項において準用する場合を含む。)、第11条の3第1項、第12条並びに第13条第1項の規定に違反している事業主に対し、前条第1項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

男女雇用機会均等法第33条

第29条第1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20円以下の過料に処する。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)

育児介護休業法第56条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)

厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。

育児介護休業法第56条の2(公表)

厚生労働大臣は、第6条第1項(第9条の3第2項、第12条第2項、第16条の3第2項及び第16条の6第2項において準用する場合を含む。)、第9条の3第1項、第10条、第12条第1項、第16条(第16条の4及び第16条の7において準用する場合を含む。)、第16条の3第1項、第16条の6第1項、第16条の8第1項(第16条の9第1項において準用する場合を含む。)、第16条の10、第17条第1項(第18条第1項において準用する場合を含む。)、第18条の2、第19条第1項(第20条第1項において準用する場合を含む。)、第20条の2、第21条、第22条第1項、第22条の2、第23条第1項から第3項まで、第23条の2、第25条第1項若しくは第2項(第52条の4第2項及び第52条の5第2項において準用する場合を含む。)又は第26条の規定に違反している事業主に対し、前条の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。

育児介護休業法第66条

第56条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20円以下の過料に処する。

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)

ぜひ弁護士にもご相談ください

マタハラは、早産や流産などの危険を有する非常に危険なハラスメントです。

また、マタハラの被害者の声に耳を傾けると、マタハラを相談すると、さらなるマタハラを受ける(または受けるおそれがある)ため、怖くて相談ができなかったといった声も聞かれるところです。
特にマタハラは働き方の相違に対する入口部分のハラスメントであるため、職場内のマタハラ対策が不十分なままであると、パタハラやケアハラなどの次のハラスメントの温床となりかねません。
したがって、企業としては危機意識をもってマタハラの防止措置に取り組む必要があります。

加えて、マタハラを生む職場環境の特徴として、長時間労働や残業、深夜労働が当たり前であるという指摘もなされているところです。
マタハラ対策を講じることは、職場環境そのものを改善することでもあるため、近年、特に問題視されている長時間労働などの課題に取り組むことにもつながります。

まずは職場内のハラスメントの実情を適切に把握するとともに、管理職を含む労働者全体に対するハラスメントの理解促進に向けた講義・研修の実施、就業規則の服務規律におけるハラスメント禁止条項の導入、定期的なアンケート調査による実態管理、労働者がハラスメントについて相談しやすい環境の整備、労働者が利用できる制度内容の周知、ハラスメント発生時のマニュアルの整備など、必要な対策を一つ一つ丁寧に進めていきましょう。

ハラスメント対策に真摯に取り組むことは、労働者の職場環境を改善し、労働者の生産性を高めることになるだけでなく、顧客や取引先、株主、就職活動中の学生など社外の人たちに対する信用にもつながります。
このような観点からも、ぜひ顧問弁護士にも相談しながら、会社の現状に照らして最も適切かつ効果的なハラスメント防止対策について改めて検討してみてください。

また、ハラスメントを周知・徹底するため、顧問弁護士にハラスメントに関する課外講義やセミナーなどを依頼することも考えられます。
職場におけるあらゆるハラスメントを防止し、すべての労働者にとって働きやすい環境を整えるためにも、ぜひ顧問弁護士にご相談ください。