セクシャルハラスメントについて理解しよう【職場内のセクハラ防止対策】【弁護士が解説】
最近あちこちで耳にする「ハラスメント」という言葉。
広辞苑を調べてみると、ハラスメント【harassment】とは、「人を悩ますこと。優越した地位や立場を利用した嫌がらせ」を意味するとされています。
数あるハラスメントの中でも、職場において被害の訴えが極めて多く、問題となるケースも多いのが、パワーハラスメント(パワハラ)、セクシャルハラスメント(セクハラ)やマタニティハラスメント(マタハラ)の3つです。
これらのハラスメントのうち、セクハラに関する訴えに耳を傾けてみると、「性的な冗談やからかい」「不必要な身体への接触」「食事やデートへの執拗な誘い」「性的な言動に対して拒否・抵抗したことによる不利益な取扱い」「性的な内容の情報の流布」などの声が聴かれます。
ハラスメントはどのようなものであっても許されませんが、特にセクハラは相手の尊厳を踏みにじる重大な人権侵害であり、軽い気持ちで発した言葉によって相手方を大きく傷つけてしまうものでもあります。
今回は、数々のハラスメントの中でも、被害者の心と身体に大きな傷を与えるだけでなく、会社にとっても大きな影響を及ぼすセクハラについて詳しく解説します。パワハラの解説はこちら、マタハラに関する解説はこちらをご覧ください。
男女雇用機会均等法とは
2017(平成29)年頃、セクハラや性暴力の告発運動「#MeToo」が世界中をかけめぐり、注目を集めました。
しかしながら、いまだにセクハラはなくならず、男女ともにセクハラに悩み、苦しみながら生活を送っている人たちがたくさんいます。
職場に目を向けてもセクハラの被害状況は同じです。事業者のセクハラ防止措置の義務は、1999(平成11)年、男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保等に関する法律)が、事業者に対して、女性に対するセクハラの防止措置を義務付ける規定を設けたことからはじまりました。
その後、職場内におけるセクハラは女性だけではなく、男性も被害者となるケースがあることが認知され始め、2007(平成19)年に、女性だけでなく男性も対象として加える形でセクハラの防止措置が義務化されました。
もっとも、昨今のハラスメント実態調査の結果をみても、なおセクハラに関する訴えは数多く、2020(令和2)年6月に施行された改正男女雇用機会均等法では、事業者がセクハラを防止するために講じなければならない義務がさらに強化されました。
同法では、事業主が、労働者がセクハラに関する相談を行ったことや事業者による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者を解雇などの不利益的取り扱いを行ってはならないことが定められているほか、他の事業者からセクハラ防止措置について必要な協力を求められた場合にはこれに応ずるよう努めるべきこと、セクハラ防止の啓発活動といった必要な注意を払うべきことなどが定められています。
同法に基づくセクハラ防止にかかる事業者の義務は、令和4(2022)年6月1日から、中小事業主であっても同様に課せられているものであり、事業規模の大小にかかわらず、セクハラという概念や企業が行わなければならないセクハラ防止措置の内容などについてしっかりと確認しておく必要があります。
男女雇用機会均等法第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
1 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
3 事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第1項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。
4,5 (略)
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
セクシャルハラスメントとは
セクシャルハラスメント(セクハラ)と聞くと、卑猥な発言をしたり、不必要に相手の身体を触ったりするといった行為が思い浮かびますが、まずは、事業者としてセクハラ防止措置を講じるために、セクハラという概念について正確に理解しておく必要があります。
では、職場におけるセクハラについては、具体的な定義などはあるのでしょうか。
職場におけるセクハラとは
厚生労働省によれば、セクシャルハラスメントとは、
職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること
をいうと定義されています。
まずは、「職場」や「労働者」、「性的な言動」の意味合いについて、更に詳しくみてみましょう。
職場とは
職場におけるセクハラに該当するためには、まずは「職場」で行われた行為であることが必要です。
「職場」とは、事業者が雇用する労働者が業務を遂行する場所をいい、いわゆる事務所や作業現場、工場などがこれにあたります。
もっとも、これらの場所だけでなく、クライアントとの打ち合わせ場所や接待の場、移動中の車や電車、飛行機の中、業務の延長と考えられる宴会の場などであっても、同様に「職場」に該当するものと考えられます。
労働者とは
対象となる労働者は、事業者と雇用契約を締結するすべての労働者が含まれ、雇用形態は問いません。
したがって、正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員などであっても当然に「労働者」に含まれます。
また、派遣労働者については、派遣元事業者が雇用契約を締結する主体にはなりますが、事実上、派遣労働者が指揮命令を受けるのは、派遣先事業者であることを踏まえ、派遣先事業者も派遣労働者に対するセクハラ防止措置を講じなければならないとされています(労働者派遣法47条の2)。
労働者派遣法第47条の2(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の適用に関する特例)
労働者派遣の役務の提供を受ける者がその指揮命令の下に労働させる派遣労働者の当該労働者派遣に係る就業に関しては、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者もまた、当該派遣労働者を雇用する事業主とみなして、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第九条第三項、第十一条第一項、第十一条の二第二項、第十一条の三第一項、第十一条の四第二項、第十二条及び第十三条第一項の規定を適用する。この場合において、同法第十一条第一項及び第十一条の三第一項中「雇用管理上」とあるのは、「雇用管理上及び指揮命令上」とする。
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)
性的な言動とは
性的な言動とは、①性的な内容の発言と②性的な行動を指します。
このうち、①「性的な内容の発言」とは、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布することなどが含まれます。
そして、②「性的な行動」とは、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布することなどが含まれます。
また、セクハラは相手の性的指向や性自認にかかわらず該当し得るものです。
たとえば「レズ」「オカマ」などを含む言動はセクハラの背景になります。
したがって、性的な性質を有するものも「性的な言動」としてセクハラに該当することに注意する必要があります。
セクハラに関する留意点
行為者は会社内の労働者に限定されない
職場におけるセクハラと聞くと、行為者(加害者)は職場の中の人だけだと思われるかもしれません。
しかし、行為者は事業主や上司、同僚に限られません。
たとえば、取引先や顧客、患者、その家族、学校における生徒等であってもセクハラの行為となり得ます。
そのため、会社としては、自社の労働者が取引先の労働者や顧客等へのセクハラの行為者とならないように周知・徹底することはもちろんですが、自社の労働者が取引先など社外の労働者や顧客によってセクハラを受けた場合にも、行為者が社内の人である場合と同様に、「セクハラは絶対に許さない」姿勢をもって、十分な調査と対策を講じなければなりません。
性別は関係ない
2007(平成19)年に男女雇用機会均等法の改正によって、男性に対するセクハラも事業者が防止措置を講じなければならないと規定されるまでは、セクハラといえば、男性が女性に対して行うものであるという認識が強い傾向にありました。
たしかに、いまでも女性が被害者となるケースは多いですが、セクハラの被害を受けるのは、男性、女性いずれであっても同じことです。
したがって、男性からの訴えだからセクハラには当たらない、などと軽率に判断せず、男性も女性も加害者となり得ること、被害者となり得ることを十分に認識しておく必要があります。
また、セクハラは、男性から女性へ、女性から男性へ、という異性に対するものだけでなく、男性から男性へ、女性から女性へ、という同性に対するものも該当します。
したがって、セクハラについて性別を基準に判断をすることがないように注意してください。
ヒアリングは当事者双方から
セクハラはパワハラなどに比べて客観的に見えにくいハラスメントの一つです。
そのため、セクハラに関する事実確認を行う場合には、特に被害者である相談者や行為者、その他の関係者からヒアリングを行うことが重要になります。
もっとも、ヒアリングの際には、行為者あるいは相談者いずれか一方の主張だけを聞き入れて判断するのではなく、行為者と相談者それぞれから丁寧に事情を聞き取る必要があります。
また、事実関係だけでなく、当該行為が行われた際の相談者の心身の状況や受け止め方といった認識の部分についても十分に配慮しながら検討を進めることが大切です。
セクハラの2類型
ここまで、職場におけるセクハラの定義について、「職場」や「労働者」、「性的な言動」といった用語に着目して、留意点などを考えてきました。
ここで、改めてセクハラの定義について振り返ってみると、
職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること
をいうとされています。
では、「労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害される」とはどのようなことをいうのでしょうか。
職場におけるセクハラには、「対価型」と「環境型」があるといわれています。
以下、各類型について詳しくみていきます。
対価型セクシャルメントとは
対価型セクシャルハラスメントとは、職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それに対して拒否や抵抗などをしたことによって、労働者が解雇、降格、減給などの不利益を受けることをいいます。
典型的な例としては、
✔事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇すること
✔出張中の車中において上司が労働者の腰や胸などを触ったが、抵抗されたため、その労働者について不利益な配置転換をすること
✔事務所内で、事業主が日頃から労働者の性的な話題を公然と発言していたが、労働者に抗議されたため、その労働者を解雇すること
などが挙げられます。
環境型セクシャルハラスメントとは
環境型セクシャルハラスメントとは、職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、職場の環境が不快なものとなったため、労働者が就業する上で見過ごすことができない程度の支障が生ずることをいいます。
典型的な例としては、
✔勤務先の廊下やエレベータ内などで、上司が労働者の腰や胸をたびたび触るので、労働者が苦痛に感じて、就業意欲が低下している
✔同僚が取引先などに対して性的な内容の噂を意図的かつ継続的に流しているために、労働者が苦痛を感じて、仕事が手につかない状況に陥っている
✔労働者が抗議をしているにもかかわらず、同僚が業務に使用するパソコンでアダルトサイトを閲覧しているため、それを見た労働者が苦痛に感じて業務に専念できない
などが挙げられます。
留意事項
上記の「対価型」「環境型」とはあくまでも形式的な区別にすぎず、職場におけるセクハラによって、労働者に対して横断的な不利益が生じる可能性がありますし、具体例も典型的なものを示したにすぎません。
したがって、典型例で挙げたような事象に該当するから、あるいは該当しないからといった安易な基準でセクハラについて判断しないように留意しなければなりません。
また、「労働者の意に反する」か否かは、男性と女性で受け止め方や認識が異なる場合もあるため、個々の事情に照らして、慎重に判断する必要があります。
ただし、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当です。
事業者及び労働者の責務
男女雇用機会均等法では、職場におけるセクハラを防止するため、事業者と労働者それぞれに対して、次のような事項に努めること責務があることを明示されています。
事業者の責務について
まず、事業者については、男女雇用機会均等法第11条の2第2項、3項において、
✔職場におけるセクハラを行ってはならないことなどこれに起因する問題(ハラスメント問題)に対する労働者の関心と理解を深めること
✔雇用する労働者が他の労働者(事業主が雇用する労働者だけを意味するものではなく、取引先等の他の事業主が雇用する労働者や休職者も含む。)に対する言動に必要な注意を払うよう研修を実施すなど必要な配慮を行うこと
✔事業主自身(法人の場合には役員)がハラスメント問題に関する関心と理解を深め、労働者(事業主が雇用する労働者だけを意味するものではなく、取引先等の他の事業主が雇用する労働者や休職者も含む。)に対する言動に必要な注意を払うこと
に努めること責務とされています。
男女雇用機会均等法第11条の2(職場における性的な言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務)
1 (略)
2 事業主は、性的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
3 事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、性的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
4 (略)
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)
労働者の責務について
労働者については、男女雇用機会均等法第11条の2第4項において、
✔ハラスメント問題に関する関心と理解を深め、他の労働者(事業主が雇用する労働者だけを意味するものではなく、取引先等の他の事業主が雇用する労働者や休職者も含む。)に対する言動に注意を払うこと
✔事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること
に努めることが責務とされています。
男女雇用機会均等法第11条の2(職場における性的な言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務)
1~3 (略)
4 労働者は、性的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第1項の措置に協力するように努めなければならない。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)
職場におけるセクハラ防止のために講ずべき措置
また、事業主は、男女雇用機会均等法第11条1項、4項に基づき、職場におけるセクハラを防止するための措置を必ず講じる義務があります。
事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
✔職場におけるセクハラの内容・セクハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
✔セクハラの行為者について厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
なお、厚生労働省の事業主向けリーフレットには、労働者等に向けた周知用の文書のサンプルが掲げられていますので、ぜひ参考にしてみてください。
相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
✔相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
✔相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること
✔職場におけるセクハラの発生のおそれがある場合や、セクハラに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること
職場におけるセクシャルハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
✔事実関係を迅速かつ正確に確認すること
✔セクハラの事実が確認された場合、速やかに被害者に対する配慮措置を適正に行うこと
✔セクハラの事実が確認された場合、行為者に対する措置を適正に行うこと
✔セクハラの事実が確認された場合、確認されなかった場合いずれであっても、再発防止に向けた措置を講ずること
そのほか併せて講ずべき措置
✔相談者・行為者等のプライバシー(性的指向や性自認、病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含む。)を保護するために必要な措置を講じ、周知すること
✔相談したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
男女雇用機会均等法第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
1 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2,3 (略)
4 厚生労働大臣は、前3項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
5 (略)
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)
事業者に相談等をした労働者に対する不利益取扱いの禁止
事業主は、この他にも、男女雇用機会均等法第11条2項に基づき、労働者が職場におけるセクハラについての相談を行ったことや雇用管理上の措置に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取り扱いをすることが禁止されています。
男女雇用機会均等法第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
1 (略)
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
3 (以下略)
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)
自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行った場合の協力対応
既に述べたとおり、職場におけるセクハラの行為者は、雇用主や上司、同僚といった社内の者に限られず、取引先などの他の事業主、またはその労働者、顧客、患者、またはその家族、学校における生徒等の社外の者も含まれます。
そのため、会社としては、自社の労働者が他社の労働者などの社外の者からセクハラを受けた場合についても、雇用管理上の措置義務の一環として、他社に事実関係の確認をしたり、再発防止に向けて協力を求めたりしなければなりません。
そこで、男女雇用機会均等法第11条3項では、自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行い、他社が実施する雇用管理上の措置として事実確認等への協力を求められた場合には、これに応じるように努めることが定められました。
したがって、会社としては、
✔自社の労働者が他社の労働者に対してセクハラを行った場合には、他社に対して協力すること
✔自社の労働者が他社の労働者からセクハラを受けた場合には、他社に対して協力を求めること
双方向の対応を行うことが、社内外のセクハラを防止するための措置として求められます。
男女雇用機会均等法第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
1,2 (略)
3 事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第1項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。
4 (以下略)
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)
望ましい取り組み
これまで述べたとおり、事業者には職場におけるセクハラを防止するために、各種の措置を講ずる義務や責務が課されていますが、このほかにも望ましい取り組みとして次のような事項が挙げられています。
たとえば、職場におけるセクハラについて関心と理解を深めるとともに、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うための研修等を行ったり、労働者に対して定期的にアンケ―トを実施して、セクハラを絶対に許さない社内環境づくりために必要な体制の強化、改善を図ったりすることなどが考えられています。
また、望ましい取り組みとして掲げられている事項は、セクハラ以外のハラスメントに対する対応との関係でも同様に活かされるものでもありますので、職場内のさまざまなハラスメントを防止するために、可能な限り一つ一つ丁寧に取り組んでいくことが重要です。
さらに、近年では、就活生などの休職者や個人事業主などのフリーランス等へのハラスメントも増加しています。
特に、就職活動中の学生に対するセクハラについては、正式な採用活動のみならず、ОB・ОG訪問等の際も含めて、絶対に許されるものではなく、会社として厳正な対応を行うことを研修等を通じて社員に対して周知徹底すること、OB・OG訪問等を含めて学生と関わる際のルールをマニュアルなどであらかじめ定め、未然にセクハラの防止に努める必要があります。
まとめ
ポイント
職場におけるセクシャルハラスメントのポイントについておさらいしましょう。
まず、セクハラとは、
職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること
をいいます。
そして、職場におけるセクハラには、
- 対価型セクシャルハラスメント(職場において老小津者の意に反する性的な言動が行われ、それに対して拒否や抵抗などをしたことで、労働者が解雇、降格、減給などの不利益を受けること)
- 環境型セクシャルハラスメント(職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど労働者が就業する上で見過ごすことができない程度の支障が生ずること)
という2つの類型があります。
また、職場におけるセクハラを防止するために、事業者には、厚生労働大臣の指針に準じて、
- 事業者者の方針等の明確化及びその周知・啓発
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
- プライバシー保護や不利益取扱いの禁止、自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行った場合の協力対応等といった併せて講ずべき措置
をそれぞれ講ずる義務があるほか、他のハラスメント等と一元的に相談・対応できる体制の整備や雇用管理上の措置の運用状況に関する把握・見直しの検討等に努めることなどが期待されています。
なお、事業者に求められる職場のセクハラ対策は、社内のセクハラを防止するための措置だけでなく、社外のセクハラを防止するための措置も含まれているため、特に注意が必要です。
注意事項
男女雇用機会均等法に基づく事業主の措置義務は、大企業だけでなく中小企業にも同様に課されています。
これらの義務に違反した場合、行政庁から助言・指導・勧告を受けたり、報告を求められたりするおそれがあります。
また、勧告に従わなかった場合には企業名が公表される可能性があるほか、行政庁から報告を求められたのに報告をせず、または虚偽報告をした場合には過料に処せられることになります。
したがって、中小企業であっても、職場におけるセクハラについて十分に理解した上で、男女雇用機会均等法に定める各種義務や責務を履行する必要があります。
男女雇用機会均等法第29条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
1 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
2 前項に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。
男女雇用機会均等法第30条(公表)
厚生労働大臣は、第5条から第7条まで、第9条第1項から第3項まで、第11条第1項及び第2項(第11条の3第2項、第17条第2項及び第18条第2項において準用する場合を含む。)、第11条の3第1項、第12条並びに第13条第1項の規定に違反している事業主に対し、前条第1項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
男女雇用機会均等法第33条
第29条第1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20円以下の過料に処する。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)
ぜひ弁護士にもご相談ください
セクハラだけでなく、パワハラやマタハラなど職場内におけるさまざまなハラスメントを防止するためには、“いかなるハラスメントも絶対に許さない”という企業風土と社内環境を醸成し、構築していくことが最も重要です。
このためには、ハラスメントに関する適切な理解を促進するための講義や研修を行うほか、就業規則の服務規律等においてハラスメントを禁止する条項を入れること、アンケート等を通じて社内のハラスメントの実態を把握すること、労働者がハラスメントについて知り学ぶ機会を提供すること、労働者がハラスメントについて相談しやすい環境を整えること、万が一ハラスメントが発生した場合には再発防止に向けて迅速な取り組みを進めていくことなどが必要となります。
もっとも、厚生労働省などが公表しているハラスメントに関する実態調査を見てみても、多くの事業者において、ハラスメント防止対策が十分に進められているとはいえないのが現実です。
また、労働者(被害者)からは、「ハラスメントに関する相談をしたのに会社がきちんと対応してくれなかった」という訴えもよく聞かれるところです。
ハラスメント対策が十分に講じられていない会社は、労働者に就業環境に対する大きな不安を与えるだけでなく、場合によっては労働者などから訴えを提起されたり、取引先や顧客からの信用を失ったりするおそれもあります。
このような観点からも、ぜひ顧問弁護士にも相談しながら、会社の現状に照らして最も適切かつ効果的なハラスメント防止対策について改めて検討してみてください。
また、ハラスメントを周知・徹底するため、顧問弁護士にハラスメントに関する課外講義やセミナーなどを依頼することも考えられます。
職場におけるハラスメントを防止し、すべての労働者にとって働きやすい環境を整えるためにも、ぜひ顧問弁護士にご相談ください。