労働問題

人事制度(総合職と一般職)が男女差別にあたるか【巴機械サービス事件】【判例解説】

令和5年(2023年)の日本のジェンダー・ギャップ指数(GGI)は0.647であり、スコアは横ばいが続いているものの、146か国中125位と過去最低の順位になりました。

GGIとは、スイスの非営利財団「世界経済フォーラム」(WEF)が、各国の男女格差を「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野で評価し、ジェンダー平等の達成度を指数(スコア0が完全不平等、スコア1が完全平等)にしたもので、2006年から毎年公表されています。

分野別でみると、日本は特に経済と政治の分野の男女格差が深刻です。

近年、女性の政治家や役員が増加傾向にはあるものの、やはり女性管理職比率の低さは未だに非常に低く、衆議院の女性議員比率も1割にとどまるなど、世界と比較してみても、格差是正に向けた取り組みが遅れていることが明らかです。

そんな日本の状況に立ち向かおうと、女性従業員が会社を訴えた事件がありました。

巴機械サービス事件 東京高裁令4. 3. 9判決

事案の概要

Aさんら(女性)は、遠心分離機のメンテンナンス等を業とするB社で一般職として勤務していました。

 B社は、昭和53年に親会社の一部門を独立させる形で設立されて以来、平成11年3月まで、B社の正社員はすべて親会社からの出向者で担われていました。

親会社から部門を独立させてできた会社です!

B社
B社

 しかし、平成11年3月に初めてB社独自の社員として総合職の従業員が採用され、この際に総合職と一般職によるコース別人事制度が導入されました。

総合職と一般職によるコース別人事制度を導入します!

B社
B社

 平成14年頃、B社独自の一般職の従業員が初めて採用されましたが、B社設立から令和2年5月時点までの間にB社が採用した一般職は合計9名であり、全てが女性でした。その一方、B社が採用した総合職は合計56名であり、全てが男性でした。

Aさん
Aさん

これまでB社が採用した一般職の社員はみんな女性、総合職はみんな男性です

 B社の給与規定では、「一般職として採用された従業員が希望し、かつ会社が適当と認めたときは、当該従業員の職種を一般職から総合職に転換することができる」とされていたものの、一般職から総合職への職種転換がなされた実績はなく、具体的な基準を定めた規定も存在しませんでした。

Aさん
Aさん

一般職から総合職へ転換できる規定がありますが、使われたことも、具体的な基準もありません!

 Aさんらは、B社が採用段階において、Aさんらが女性であることのみを理由に一般職に振り分け、採用後も総合職への転換を事実上不可能にしていることが、雇用機会均等法に違反すると主張し、

  • Aさんらが総合職の地位にあることの確認
  • Aさんらが総合職であれば支払われたはずの賃金と実際に支払われた賃金との差額の支払い
  • Aさんらが違法な男女差別により経済的、身分的な不利益を受けて精神的苦痛を被ったことによる慰謝料の支払い

を求めて、B社に対して訴えを提起したという事案です。

争点

 本件の争点は、①総合職と一般職コース別人事制度の設置ないしその運用が、違法な男女差別といえるか否か、②Aさんらに総合職としての地位及び賃金請求権が認められるか否か、また、③Aさんらの慰謝料請求権が認められるか否かです。

本判決の要旨

コース別人事制度の設置ないし運用が違法な男女差別に当たるか否かについて

➤採用段階における男女差別

 本件では、B社において、総合職と一般職との振り分けや採用基準として、男性は総合職に、女性は一般職にという基準がとられていたことを認めるに足りる証拠がなく、むしろ、B社は、給与規定上、総合職は基幹的業務を一般職は補助的業務を担当することとされ、現業の知識、経験、技能を必要とする業務を基幹的業務と位置付けて、これに基づき総合職については現業に関する経歴の有無等を重視して採用してきたが、現業の経験を有する女性自体が少ないため、これまでに総合職の募集に対して女性が応募ないし紹介されたことがなかったと認められる。

 したがって、B社のコース別人事制度の運用上、採用に際する一般的方針として、女性であることを理由とした差別的取扱いをしているとは認められず、また、Aさんらの採用に当たっても女性であることを理由として一般職に振り分けたとは認められない。

採用時点で男女差別があったとは認められませんね  

裁判所
裁判所

よって、採用段階における男女差別は認められないと判断されました。

➤職務転換の運用における男女差別

B社のコース別人事制度においては、職種転換制度が規定され、一般職から総合職への転換が制度上可能とされているにもかかわらず、職種転換がなされた実績が存在せず、本件コース別人事制度の現状が、例外なく、男性を総合職、女性を一般職として、男女で賃金や昇格等について異なる取扱いをしている状況が継続していることからすれば、一般職から総合職への転換がないことについて、合理的理由が認められない場合には、総合職を男性、一般職を女性とする現状を固定化するものとして、職種の変更について性別を理由とした差別的取扱いを禁止する雇用機会均等法6条3号に違反するか、同法1条の趣旨に鑑み、違法な男女差別に当たることが事実上推定されるというべきである。

そして、本件では一般職から総合職への転換がないことについて、合理的な理由が何ら見当たらないため、この事実上の推定を覆す事情は認められない。

裁判所
裁判所

男性が全員総合職、女性が全員一般職という実態と、一般職から総合職への転換例がないことは違法な男女差別があったと認めざるを得ません。

よって、職務転換の運用においては男女差別が認められると判断されました。

総合職としての地位及び賃金請求権が認められるか否かについて

 B社において、Aさんらを総合職に転換させるか否かは、B社の人事権(裁量的判断)に属する事柄であり、B社のその時々の人員体制、財務状況等にも大きく影響されるものである等として、ある特定の時点でAさんらが総合職に転換していたことを認定できるとはいえない。

Aさんたちに総合職の賃金額を請求する権利までは認められませんね

裁判所
裁判所

 よって、Aさんらが総合職としての地位にあるとはいえず、総合職と一般職の賃金差額の請求権も認められないと判断されました。

慰謝料請求権が認められるか否かについて

 B社において、本件コース別人事制度の運用について、一般職から総合職への職種転換制度が整備されておらず、Aさんらの問題提起にもかかわらず、男性を総合職、女性を一般職という現状を容認し、固定化してきたことは、雇用機会均等法6条3号に違反し、又は、同法1条の趣旨に鑑み、違法な男女差別にあたる。

第6条 事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。
 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの
 労働者の職種及び雇用形態の変更
 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

違法な男女差別に基づく慰謝料は支払われるべきですね。

裁判所
裁判所

したがって、Aさんらが違法な男女差別により経済的、身分的な不利益を受け、精神的苦痛を被ったことによる各100万円の慰謝料請求権は認められると判断されました。

解説

 本件では、B社が現業に関する経歴の有無等を重視して総合職の採用をしていたことなどから、採用における男女差別はないと判断されたものの、職種転換が制度上可能とされているにもかかわらず、職種転換に必要な具体的な基準等が整備されていなかったこと、職種転換がなされた実績が存在せず、これに何ら合理的な理由が認められないことなどから、運用における男女差別があると判断されました。

なお、第一審判決では、Aさんが当時のB社の社長に対して、総合職への転換が可能か否かを尋ねた際に、同社長から「女性に総合職はない」との回答がなされたという事実認定がされていたものの、本判決では、かかる発言があったことを認めるに足りる事情がないとして否定されており、Aさんらとの関係では不利になるような事実認定の変更もなされています。

しかし、本判決は、B社において、総合職は男性、一般職は女性という職種が性別によって例外なく分けられている現状が継続し、固定化されていることを踏まえ、コース別人事制度の運用における男女差別を認めており、会社代表者の言動がなくとも差別を認めるという裁判所の強い姿勢が見受けられます。

弁護士
弁護士

裁判所は、実態を重視します。「仏作って魂入れず」では、せっかくの制度が活かされません。制度は作ったら使いましょう!

 会社ごとに採用基準や職種転換の基準はそれぞれ異なると考えられますが、本判決に照らせば、性別による不当な差別的取り扱いがなされることのないよう、十分に注意しつつ、具体的な採用基準や職種転換基準を定めておく必要があるといえるでしょう。