教室の閉鎖に伴う整理解雇は有効か?【ACラーニング事件】
- 当社は英会話教室を営んでいます。ある教室が生徒が集まらず、生産性が上がらないため、閉鎖することを決めました。閉鎖に当たって、どうしても余剰人員が出てしまうので、整理解雇をしたいと考えています。このような場合、整理解雇はできるのでしょうか。
- 整理解雇はどのような場合にもできるわけではなく、一定の要件をクリアしないと解雇権の濫用として解雇が無効になってしまいます。整理解雇の要件とは、①人員削減の高度な必要性があるか、②整理解雇の回避に向けた真摯な努力をしたか、③解雇対象の人選の基準は合理的か、④解雇に至る手続きが妥当であったか、が問題となります。
単に不採算教室の閉鎖に伴う余剰人員の削減というだけでは整理解雇することは困難です。
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整理解雇とは?
よく聞く「解雇」という言葉。
「解雇」と言っても、解雇には普通解雇、整理解雇、懲戒解雇、の3つの種類があります。
このうち、整理解雇は、会社側の事情、すなわち経営難による人員の削減を目的として行われるものです。
しかし、会社が「経営難だから!」といえば、いつでも整理解雇として認められるわけではありません。仮に、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とはいえない場合には、解雇権を濫用したものとして解雇は無効となります。
整理解雇について、解雇権の濫用に当たるかどうかは、

の各要素が総合的に考慮されます。
このように整理解雇を行う場合には、さまざまな事情を検討する必要があるため、慎重な対応が必要です。

裁判例のご紹介(ACラーニング事件・令和4年8月17日判決)
さて、今回は、そんな整理解雇をめぐって、英会話スクールの一部教室の閉鎖に伴う整理解雇の有効性が争われた裁判例をご紹介します。
どんな事案?
本件は、Y社の従業員として英会話講師などの業務に従事していたXさんが、解雇が無効であるとして、雇用契約に基づく権利を有する地位にあることの確認や賃金の支払いなどを求めた事案です。
何が起きた?
XさんとY社の雇用契約
Y社は、英会話の指導及びその教室の経営等を目的とする会社でした。
Xさん(台湾籍)は、平成30年8月22日、Y社との間で、賃金(基本給)を月額22万円(毎月末日締め、翌月25日払)とする期間の定めのない雇用契約を締結しました。
その後、Xさんは同年12月3日に入社し、英会話講師などの業務に従事していました。
Y社による解雇
ところが、Y社は、令和2年5月1日、Xさんに対し、同年6月1日付で解雇する旨の意思表示をしました(本件解雇)。
本件解雇の理由
Y社が、令和2年5月15日にXさんに交付した解雇理由通知書には、本件解雇の「解雇理由」として、「新型コロナウイルス感染拡大の影響により業績が悪化し、所属店舗が閉鎖となるため」との記載がありました。
また、「就業規則の適用条文」として、Y社の就業規則36条1項6号が摘示されていました。
※Y社の就業規則36条1項6号は、「事業の縮小その他会社にやむを得ない事由がある場合で、かつ、他の職務に転換させることができないとき」と定められていました。
訴えの提起
Xさんは、Y社に対し、解雇が無効であると主張して、雇用契約に基づく権利を有する地位にあることの確認や賃金の支払いなどを求める訴えを提起しました。

何が問題になった?
Xさんが主張していたこと
Xさんは、本件解雇は整理解雇であり、有効性判断における考慮要素を総合すると、本件解雇は、合理的な理由を欠き、社会通念上不相当なものであるから、解雇権を濫用したものとして無効である、と主張していました。
争点
そこで、本件では、“ Y社による本件解雇が整理解雇として有効なものと認められるかどうか? ” が問題になりました。
裁判所の判断
裁判所は、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、解雇権を濫用したものとして無効である、と判断しました。
判決のポイント
裁判所はなぜ本件解雇が無効であると判断したのでしょうか。
以下では、本判決のポイントをご紹介します。
整理解雇は諸事情を総合考慮して判断する
裁判所は、本件解雇は整理解雇であるところ、「整理解雇は、使用者側の事業上の都合を理由とし、解雇される労働者の責に帰することができないのに、一方的にその収入の手段を奪い、労働者に多大な不利益を及ぼすものである」ことから、「当該解雇が解雇権を濫用したものとして無効であるといえるか否かは(…)は、人員削減の必要性、解雇を回避するための努力、解雇対象者の選定の合理性、解雇手続の相当性に関する諸事情を総合考慮して判断するのが相当である」との判断枠組みを示しました。
人員削減の必要性は認定できない
まず、裁判所は、①人員削減の必要性について、
・「Y社は、英会社(ママ)スクール事業のほかに行っている事業があるにもかかわらず(…)、全社的な財務資料及び組織図等の人員体制の分かる資料」を提出せず、「店舗を閉鎖することとしたY社の判断の合理性、余剰人員の発生の有無、その削減の必要性の有無や程度を具体的に認定することができない」こと
・「英会話スクール事業のみの利益・売上げその他の状況のみでは、これらを肯定するには足りない」こと
から、Y社の人員削減の必要性は認められない、と判断しました。
解雇回避努力がされたとは認められない
次に、裁判所は、②解雇を回避するための努力について、
- ・Y社は相当な解雇回避措置を採った旨を主張するが、「具体的な内容、全額、効果等を示す資料は全く提出されていない」こと
- ・Y社はXさんを配置換えすることは合理的でなかった旨を主張するが、「雇用条件。業務内容通知書(…)には、「仕事内容」として「Webデザイン」が掲げられ、「ポートフォリオを拝見いたしました。Webデザインでもお力を借りる事が多くなると思います」との記載もあるし、Xさんは相当の日本語能力を有することがうかがわれるのに対し(…)ほかの事業部に置いて求められる日本語能力の程度や、Xさんの日本語能力がその程度に足りないと認めるに足りる的確な証拠は見当たらない」こと
から、Y社によって相当な解雇回避努力がされたと認めることは困難である、と判断しました。
人選の合理性もない
そして、裁判所は、③解雇対象者の選定の合理性について、
・Y社は、「Xさんが閉鎖されるA町の店舗の専属スタッフ」であり「他の事業部で勤務する能力を欠いていたこと」を主張するが、かかる事実は上記のとおり認定できないこと
から、解雇対象者の選定の合理性も認められない、と判断しました
解雇手続の相当性を検討するまでもなく解雇は無効
なお、裁判所は、上記の①から③までの検討を踏まえ、④解雇手続の相当性については「検討するまでもなく」、本件解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、解雇権を濫用したものとして無効というべきである」と判断しました。
整理解雇に関する4つの要件をしっかり押さえましょう
今回ご紹介した裁判例では、Y社が行った整理解雇の有効性が問題になりました。
冒頭でもご説明したとおり、整理解雇が解雇権を濫用(=客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない)したものとして無効になるかどうかは、人員削減の必要性、解雇を回避するための努力、解雇対象者の選定の合理性、解雇手続の相当性に関する諸事情が総合的に考慮されます。

本判決においても、これらの要素(④については検討するまでもないとされています)を検討したうえ、Y社による整理解雇が解雇権の濫用に当たると判断されています。
整理解雇を行う場合には、希望退職者の募集をはじめとする解雇回避の努力を実施することが求められます。
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解雇は生活にとって不可欠な収入の道が絶たれるという面で、従業員にとって非常に大きな影響を及ぼします。
そのため、解雇の有効性については、特に労使間の紛争に発展するケースが多く見られます。
未然に労使トラブルを防ぐためには、解雇をする前にリスクや有効性について弁護士に相談しておくことがおすすめです。
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