解雇無効判決後の自宅待機命令は違法か?【西日本総合保険事件】
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- 当社は、横浜市内で警備会社を経営しています。当社は業績が思わしくなく、人員を整理する必要があり、昨年、整理解雇を実施しました。しかし、解雇した元従業員から解雇無効の訴訟を提起され、解雇無効が認められてしまいました。ただ、当社は本人にお願いする仕事はなく、自宅待機を命じ続けている状況です。問題はあるでしょうか。
- 会社は、使用者としての労務指揮権に基づいて、従業員に対して自宅待機命令を出すことは可能です。他方、従業員の側には、会社に対して就労請求権(仕事をさせろという権利)は認められていないと考えられています。しかしながら、自宅待機命令が、業務上の必要性を欠くときや、他の不当な動機・目的をもってなされたときなどの場合には、使用者の裁量を逸脱・濫用するものとして、無効となることがあり、その場合、慰謝料などの支払いを命じられることがあり得ます。
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会社は自宅待機を命令できる?
従業員に就業規則に違反する行為や不正行為などが疑われるとき、会社は当該従業員に対して、自宅待機命令をすることがあります。
自宅待機命令とは、「出勤停止とは別に、職場規律に違反した労働者の処分を決定するまでの間、あるいは職場への悪影響を防ぐために、一定期間就労を禁止する措置」のことです(東京大学労働法研究会『注釈労働基準法(上巻)』(有斐閣、2003年)254頁)。
元々、従業員側には、原則として、会社に対する就労請求権は認められていません。
そのため、会社は、使用者としての労務指揮権に基づいて、従業員に対して自宅待機命令を行うことができます。
もっとも、これまでの裁判例においては、自宅待機命令が、業務上の必要性を欠くときや、他の不当な動機・目的をもってなされたときなどの場合には、使用者の裁量を逸脱・濫用するものとして、無効となると解されています。
したがって、従業員に対して自宅待機命令をするときは、慎重に対応が必要です。
お悩みがある場合には、弁護士法人ASKにご相談ください。
裁判例のご紹介(西日本総合保険事件・東京高裁令和6年6月25日判決)
さて、今回は、そんな自宅待機命令をめぐって、解雇無効判決後にも継続して行われた自宅待機命令の違法性が争われた裁判例をご紹介します。

*労働判例2025/11/01(No.1337号)79ページ以下参照*
どんな事案?
この事案は、Y社との間で雇用契約を締結したXさんが、Y社から違法な自宅待機命令を受けたことなどを主張して、慰謝料の支払い等を求めた事案です。
何が起きた?
XさんとY社の関係
Xさんは、平成29年7月、Y社に雇用され、総務系内務職として、主に総務・経理の業務に従事していました。
Xさんの解雇
Y社は、代表取締役を含め十数人規模の会社でしたが、平成29年度、平成30年度に多額の営業損失を計上し、整理解雇により人員削減を行う必要が生じました。
そこで、令和2年3月20日、Y社は、Xさんを解雇(本件解雇)しました。
もうしわけない。Xさんを整理解雇します。
解雇が無効であるとの判断
これに対して、Xさんは、本件解雇が無効であるとして、Y社に対し地位確認等を求める訴訟(前訴)を福岡地方裁判所に提起しました。
そして、同裁判所は、令和4年6月8日、Xさんの雇用契約上の地位を確認し、本件解雇以降の未払賃金等の支払をY社に命ずる判決を言い渡しました(同判決は確定)。
いやいや、その解雇は無効です! 訴えます!
訴えを認めます!解雇は無効ですので、XさんはまだY社の従業員です。
Y社による対応
その後、Y社は、令和4年6月22日頃、Xさんに対して、同年7月中にXさんの復職後の担当業務を伝える予定である旨を通知しました。
しかし、Y社は、令和4年7月1日以降、Xさんに本件自宅待機命令を出し続けている状況です。
Xさん、しばらく自宅待機を命じます。
Xさんの問い合わせ等
Xさんは、同月及び同年9月、Y社に対し、復職に向けた検討状況等について問い合わせていましたが、Y社は具体的な回答を行いませんでした。
なお、Xさんが従前担当していた総務系内務職は、Xさんが雇用される以前は存在せず、本件解雇に伴って消滅した職種でした。また、総務系内務職以外の内務職としては、保険内務職(保険の見積もり等、主に計算をする仕事)、フロント職(事務所において電話対応又は来客対応により営業をする仕事)があるものの、いずれも保険に関する専門的な知識が必要とされ、3か月間の初期研修が必要とされており、Y社は現在のところ研修を実施するための人的態勢が整っていない状況にあります。
訴えの提起(本件訴訟)
そこで、Xさんは、Y社の自宅待機命令は違法なものであると主張して、Y社に対し、慰謝料の支払い等を求める訴えを提起しました。

この裁判で問題になったこと(争点)
この裁判では、Y社がXさんに対して行った自宅待機命令が不法行為(違法)なものといえるのかどうか?が問題になりました(争点)。
裁判所の判断
裁判所は、本件自宅待機命令は令和5年7月1日以降は、業務上の必要性を欠く違法なものとなっていたと判断し、Y社に対して、50万円の慰謝料の支払いを認める判決を言い渡しました。
本判決の要旨(ポイント)
裁判所はなぜこのような判断をしたのでしょうか?
以下では本判決の要旨をご紹介します。
「当裁判所も、本件自宅待機命令は、当初は業務上の必要性があり、Y社に対する不法行為を構成するものではなかったと判断する。(…)。
しかしながら、Y社は、もともと令和4年7月中にはXさんに復職後の担当業務を伝える予定であったものであり、にもかかわらず令和5年6月30日時点で本件自宅待機命令は1年にも及んでいるもので、(…)、Y社としては、同日までには検討を済ませ、Xさんを復職させていて然るべきであったといわざるを得ない。
したがって、本件自宅待機命令は、令和5年7月1日をもって、業務上の必要性を欠く違法なものとなっており、Xさんの雇用契約上の地位を脅かし、その人格権を侵害するものとして不法行為を構成するに至っているといわざるを得ない。
本件自宅待機命令が不法行為に転化した令和5年7月1日以降、Y社は月額16万8000円の賃金を支払い続けていることなども総合考慮すると、令和5年7月以降、Xさんが本件自宅待機命令により被った精神的損害に対する慰謝料としては50万円が相当と判断する。また、弁護士費用としては5万円を認めるのが相当である。」
弁護士法人ASKにご相談ください
さて、今回は、解雇無効判決後にも継続して行われた自宅待機命令の違法性が争われた裁判例をご紹介しました。
裁判所も、当初は自宅待機命令の必要性を認定していましたが、その後のY社の態様等に照らし、令和5年7月1日をもって、自宅待機命令の必要性は認められず、以降の自宅待機命令は違法なものになると判断しました。
冒頭でもご紹介した通り、自宅待機命令が、業務上の必要性を欠くときや、他の不当な動機・目的をもってなされたときなどの場合には、使用者の裁量を逸脱・濫用するものとして、無効になってしまいます。
したがって、従業員の方に対して自宅待機命令を行う場合には、ぜひ事前に弁護士法人ASKにご相談ください。
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