業務中に私的な取引?懲戒解雇は有効か?【福住不動産事件】
- 当社は、川崎市内で不動産業を営んでいます。当社の従業員が勤務時間中に自社の業務用PCを使用して私的な売買を繰り返していたことが分かりました。詳細に調べてみると、その売買はかなり大規模に及び、事業とも言えるレベルに至っており、到底看過することができないことから、当社はこの従業員を懲戒解雇しました。そうしたところ、従業員から解雇無効の訴訟が提起されました。この解雇は無効なのでしょうか。
- 会社が従業員に対して懲戒処分をするためには、終業規則上の根拠が必要になります。また終業規則上の根拠があれば足りるわけではありません。労働契約法15条は、懲戒処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利濫用として無効となる旨が規定されています。特に懲戒解雇については、客観的に合理的な理由があることはもちろん、処分の重さも重要になります。懲戒事由があっても相当でない場合には、権利が濫用されたものとして懲戒処分が無効となることがあります。
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以前は、何かを売り買いするというと、どこかのお店を開いて商売をするといったイメージでした。
しかし、今では、パソコンやタブレット、スマホなどを使って気軽にネット上で簡単にさまざまな取引ができてしまいます。
便利な一方で、仕事中にそんな個人的な取引をしてしまう従業員の方がいたら・・・。
最近のニュースでも、勤務時間中に株式投資をこっそりしていたため云々といった報道を見る機会も増えたように感じます。
あなたの会社でも似たような事件は起きていないでしょうか?
問題社員についてお悩みがある場合には、まず弁護士に相談してみることもおすすめです。
裁判例のご紹介(福住不動産事件・東京高裁令和7年3月27日判決)
さて、今回は、業務中の私的な取引を理由として行われた懲戒解雇の有効性が争われた事案をご紹介します。

*労働判例2025.10.15(No.1336号)5ページ以下参照*
どんな事案?
この事案は、Y社がXさんに対して行った懲戒解雇等は違法・無効であるとして、Xさんらが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認や未払賃金の支払いなどを求めた事案です。
何が起きた?
Y社について
Y社は、平成25年12月に設立された宅建業等を目的とする会社です。
Y社の代表者は、創業時からCが継続して務めています。
Xさんらについて
X1さんは、平成28年8月にY社との間で期間の定めのない雇用契約を締結していました。(平成30年12月14日頃からは育児休業を取得してY社を休職)。
また、X2さんは、平成26年3月にY社との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、主に経理を担当していました。
X1さんへの懲戒解雇
令和元年7月16日、Y社は、X1さんに対して、法令違反及び就業規則違反があるとして面談を行いました。
そして、令和元年8月14日、Y社は、X1さんについて
①Y社の許可なく、業として、必要な免許等も得ないまま、医薬品等の物品販売を行ったこと
②X2さんと共謀し、Y社の管理する現金または銀行預金を横領したこと
③X2さんと共謀し、①の物品販売取引に関連する費用を経費としてY社に請求し、立替精算を受けたこと
などを理由として、X1さんを懲戒解雇し、その旨を通知しました(本件懲戒解雇1)。
X2さんへの懲戒解雇
また、令和元年6月24日、Y社は、X2さんに対して、不正の疑いがあるので調査を実施するとして自宅待機命令を発しました。
そして、令和元年7月17日、Y社は、X2さんについて
①Y社の複数の銀行預金口座(本件各口座)から預金を払い戻して横領したこと
②顧客から預かった金員を横領したこと
③Y社の総勘定元帳を不正に操作して金員を横領したこと
④X1さんの私的なビジネスに関して生じた費用をY社の計算で立替精算したこと
などを理由として、X2さんを懲戒解雇し、その旨を通知しました(本件懲戒解雇2)。
Xさんらの普通解雇
加えて、令和2年3月17日、Y社はXさんらに対して、上記の各懲戒解雇理由と同じ理由を根拠として、普通解雇した旨を通知しました(X1さんに対する普通解雇=本件普通解雇1、X2さんに対する普通解雇=本件普通解雇2)。
Y社の就業規則
なお、Y社の就業規則では、次のような規定がおかれていました。

訴えの提起
このような経緯を踏まえ、Xさんらは、Y社により行われた本件懲戒解雇1、2はいずれも違法・無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認や未払賃金の支払いなどを求める訴えを提起しました。

問題になったこと(争点)
この裁判で問題になった点は多岐にわたりますが、中でも
①X1さんに対する本件懲戒解雇1が有効かどうか?
②X2さんに対する本件懲戒解雇2が有効かどうか?
などが大きな問題(争点)となりました。
*なお、この裁判では、普通解雇の有効性など、その他にも問題になったことがありますが、本解説記事では省略しています。
裁判所の判断
裁判所は、これらの問題(争点)について、次のように判断しました。(確定)
| 争点 | 裁判所の判断 |
|---|---|
| ①X1さんに対する本件懲戒解雇1が有効か? | ×(無効) |
| ②X2さんに対する本件懲戒解雇2が有効か? | ×(無効) |
判決の要旨(ポイント)
裁判所はなぜこのような判断をしたのでしょうか?
以下では本判決の要旨(ポイント)をご紹介します。
なお、本判決は第一審判決をほぼ引用しているため、第一審判決の方をご紹介します。
争点①X1さんに対する本件懲戒解雇1が有効か?
▶︎そもそも本件取引は就業規則に違反するのか?
まず、裁判所は、X1さんが行なっていた本件取引が就業規則に違反するものなのかどうか?を検討し、就業規則違反の行為には該当すると判断しました。
「(…)X1は、Y社に入社した後、本件グループチャットを主催して中国人相手に日本製品の購買の仲介(本件取引)を行うようになり、上記のグループには最大で386人のメンバーが参加していたこと、平成29年3月末から同年12月までの間の本件取引に係る商品の購入費用と購買者からの入金との差額は820万円であったこと、X1は、本件取引をY社における就業時間中にY社から支給された業務用のパソコンを利用して行うこともあり、また、本件グループチャット内でY社の不動産事業や民泊事業の宣伝や営業を行うこともあったことが認められる。以上のとおり、X1が行っていた本件取引は、その規模、売上金額等に照らし、知人間の私的なやり取りといった範囲を超えるものと認められ、また、Y社の業務と直接的に関連する業務であったものではないにもかかわらず、就業時間中にY社から支給された業務用パソコンを使用して行われていたものであるから、これを副業と称し得るか否かの判断は措くとしても、少なくとも、X1が本件取引に関与したことは、就業規則2条2項〈1〉、〈3〉及び〈6〉に違反するものといわざるを得ない(…)。」
▶︎本件取引が懲戒事由に該当するのか?
しかしながら、裁判所は、X1さんが行なっていた本件取引が懲戒解雇事由とまでいえるのかどうか?という点については、これを否定しています。
「(…)X1の本件取引への関与は、就業規則2条2項所定の従業員の遵守事項に違背するものと認められるが、一方で、本件全証拠を子細にみても、X1がY社における就業時間のうちのどの程度の時間を本件取引に充てていたかは必ずしも明らかではなく、また、X1が本件取引に関与したことによってY社の業務に具体的な支障が生じ、あるいはY社の企業秩序を著しく乱したなどといった特段の事情も見い出し難いこと、X1において本件懲戒解雇1に先立って懲戒処分を受けた形跡もないことなどの事情を総合すれば、X1の上記の所為が就業規則18条2項〈6〉、〈12〉及び〈14〉の懲戒解雇事由に該当するとまでは認め難いものというべきである(…)。」
▶︎私的な領収書の提出について
なお、Y社は、X1さんが、X2さんと共謀して私的な領収書を提出したことを主張していましたが、裁判所は、この点についても懲戒事由には該当しないと判断しています。
「Y社は、X1において、X2とともに平成28年8月から平成31年3月にかけて、本件取引に関する大量の領収書をY社の事業に係る経費として持ち込み、会計業務に甚大な混乱を与えたことが、就業規則2条2項〈1〉、〈3〉、〈4〉、〈6〉及び〈8〉に違反し、18条1項〈2〉及び〈4〉、同条2項〈3〉、〈6〉、〈7〉及び〈14〉の懲戒解雇事由に該当する旨を主張する。しかしながら、前提事実等によれば、X1は、本件取引に関する領収証を含めて私的な領収証をY社に提出していたが、これは、法人としての経費を増やすことで税務処理上のメリットを得るとして、Cが、Y社の従業員らに対し、個人で利用した領収書でもよいのでY社に提出するように求めたことに起因するものであったことが認められる。以上によれば、X1が本件取引等に係る領収証をY社に提出したとしても、Y社の会計業務に甚大な混乱を与えたとは認められず、他に本件全証拠を子細にみても、X1の上記の所為が就業規則18条2項〈3〉、〈6〉、〈7〉及び〈14〉の懲戒解雇事由に該当するものと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、Y社の上記主張は採用することができない。」
▶︎本件懲戒解雇1は無効である
その上で、裁判所は、仮にX1さんによる本件取引が懲戒解雇事由を構成するとしても、と前置きをした上で、本件懲戒解雇1の有効性について検討し、本件懲戒解雇1は相当性を欠く無効なものであると判断しました。
「(…)X1が本件取引に関与したとしても、それによってY社の業務に具体的な支障が生じたとか、Y社の企業秩序に著しい混乱を生じさせたとまでは断じ得ない。かえって、(…)X1は、本件グループチャット内においてY社の事業である民泊事業や不動産仲介事業に関する営業活動も行っており、これが奏功してグループチャットのメンバーにマンションを販売するといった成果を上げたこともあったことが認められるのであって、本件グループチャットの利用については、Y社の収益確保に貢献するという一面があったこともうかがわれるところである。以上の諸事情に鑑みると、X1の上記の所為を理由とする懲戒処分としてY社が懲戒解雇を選択したことは重きにすぎるものといわざるを得ず、X1に対する本件懲戒解雇1は、社会通念上相当であるとは認め難く、Y社の懲戒権を濫用するものとして無効と認めるのが相当である。」
争点②X2さんに対する本件懲戒解雇2が有効か?
▶︎X2さんはY社の預貯金を横領したのか?
Y社は、本件懲戒解雇2の理由として、X2さんがY社の預貯金を横領したと主張していたことから、まず、裁判所はこの点を検討したものの、合理的な疑いを入れる余地があるものといわざるを得ないとして、Y社の主張を排斥しました。
「(…)X2においては、Y社の小口現金や本件各口座の管理を任されており、自身の判断で本件各口座から払戻しを行ったり、Y社の金員を使用することもあったことが認められるが、本件各口座からの払戻金や小口現金をX2が領得したことを認めるに足りる直接的な証拠はなく、かえって、本件各口座の預金や小口現金については、CやFも自身の判断で払戻しをしたり、使用することができたことも併せると、X2がその権限を濫用して本件各口座から預金の払戻しをし、また、小口現金を私的に領得して横領したものと認めるについては合理的な疑いを入れる余地があるものといわざるを得ない(…)。
▶︎私的な領収証の提出について
なお、Y社は、X2さんが、X1さんと共謀して私的な領収証を提出したことを主張していましたが、裁判所は、この点については、X1さんと同様、懲戒事由には該当しないと判断しています。
「Y社は、X2において、X1とともに、平成28年8月から平成31年3月にかけてY社の業務に無関係な領収書をY社の事業に係る経費として持ち込み、Y社の会計処理に甚大な混乱を招いた旨を主張する。しかしながら、(…)X2がY社に対して私的な領収証を提出していたとしても、これは、法人としての経費を増やすことで、税務処理上のメリットを得るとして、Cが、Y社の従業員らに対し提出を求めていたことに起因するものであって、X2が私的な領収証をY社に提出したことにより、Y社の会計業務に甚大な混乱を与えたとは認められず、他に本件全証拠を子細にみても、X2の上記の所為が就業規則18条2項〈3〉、〈6〉、〈7〉及び〈14〉の懲戒解雇事由に該当するものと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、Y社の上記主張は採用することができない。」
▶︎本件懲戒解雇2は無効である
このような検討を踏まえ、裁判所は、X2さんについて懲戒解雇事由は認められず、本件懲戒解雇2は無効であると判断しました。
「以上によれば、X2について、Y社が主張する懲戒解雇事由があったものとは認められないから(…)X2に対する本件懲戒解雇2(…)は(…)無効と認められる。」
弁護士法人ASKにご相談ください
さて、今回は、業務中の私的な取引を理由として会社が行った懲戒解雇の有効性が争われた裁判例をご紹介しました。
本判決では、X1さんの取引行為について、就業規則に違反する行為であると認定しつつも、
・X1さんがY社における就業時間のうちのどの程度の時間を本件取引に充てていたかは必ずしも明らかではないこと
・X1さんが本件取引に関与したことによってY社の業務に具体的な支障が生じ、Y社の企業秩序を著しく乱したなどといった特段の事情も見い出し難いこと
・X1さんにおいて本件懲戒解雇1に先立って懲戒処分を受けた形跡もないこと
などの事情を総合的に考えて、懲戒解雇事由には該当しないと判断しており、注目されます。
懲戒解雇は、従業員たる地位に大きな影響を及ぼすものであるため、裁判においては特に慎重に判断されます。したがって、会社として懲戒解雇を行う場合には、ステップを踏んで丁寧に検討を進めることが求められます。
従業員の方に対する解雇などについてお悩みの場合には、弁護士法人ASKにご相談ください。
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