5年上限規定による雇止めが認められなかった例【放送大学学園事件】
- 横浜市の大学で管理職をしています。この度、有期雇用契約の更新上限は5年を超えることができないとする規則を全ての有期雇用職員に適用することになりました。承諾書の作成をお願いしたのですが、一部の方からは作成を断られています。その後、みなさんに対してその内容を記載した書面を交付して説明を行いました。この規則に従って雇止めにした場合、有効でしょうか。
- 労働契約法19条では、契約期間満了時に、当該労働者が契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合(同2号)、労働者が有期労働契約の締結の申込みをしたときは一定の場合に、会社はその申込みを承諾したものとみなすことなっています。労契法19条2号所定の契約期間満了時点における契約更新を期待する合理的な理由の有無を判断するに当たっては、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用契約の更新に対する期待をもたせる使用者の言動の有無などの客観的事実を総合考慮することが相当と考えられています。ご質問の件についても、労働契約法19条の適用によって雇止めが認められないことがあります。
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「雇止め」とは、有期雇用契約を締結する労働者について、契約を更新することなく雇用契約を終了することです。
有期雇用契約では、「有期」とはいえ、更新をされているケースが多く、このような場合、労働者にとっては、「きっと次の雇用契約も更新されるであろう」という期待が生じます。そこで、労働者の更新への期待を保護する観点から、労働契約法では、雇止めも解雇に準じて考えるという雇止め法理が定められています。
具体的には、
①次のいずれかに該当し(労働契約法19条1号or2号)
・有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあり、契約期間満了時に当該有期労働契約をせずに終了させることが、無期雇用契約を終了させる(解雇)と社会通念上同視できること(1号)
・契約期間満了時に、当該労働者が契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があること(2号)
②労働者が、有期労働契約の期間が満了する前または期間満了後遅滞なく、有期労働契約の締結を申し込んだときであって
③使用者が、②の申し込みを拒否することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない場合
には、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働者申込みを承諾したものとみなされます。
① 前提(次のいずれか) | 有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあり、契約期間満了時に当該有期労働契約をせずに終了させることが、無期雇用契約を終了させる(解雇)と社会通念上同視できること(1号) | 使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働者申込みを承諾したものとみなされる |
契約期間満了時に、当該労働者が契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があること(2号) | ||
② 労働者が | 有期労働契約の期間が満了する前または期間満了後遅滞なく、有期労働契約の締結を申し込んだとき | |
③ 使用者が | ②の申し込みを拒否することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない場合 |
さて、今回は有期雇用契約の更新を繰り返してきたにも関わらず、契約期間中に更新の上限規定が設けられた上、更新拒絶をされてしまった労働者が、雇止めの適法性を争った事案をご紹介します。
放送大学学園事件・徳島地裁令和3年10月25日判決
事案の概要
本件は、Y法人との間で、契約期間を平成29年4月1日から平成30年3月31日とする期間の定めのある労働契約を締結したXさんが、同年4月1日からの契約更新の申込みをしたにもかかわらず、Y法人からこれを拒絶されたことについて、
- ・XさんとY法人の労働契約には、労働契約法19条各号の事由があり、Y法人の更新拒絶は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとも認められないことから、平成30年4月1日以降、労働契約は更新されたものとみなされること
- ・平成31年4月1日からは、労働契約法18条により期間の定めのない労働契約に転換したこと
を主張し、Y法人に対し、労働契約上の地位確認及び未払賃金の支払いなどを求めた事案です。
事実の経過
Y法人による大学の設置・運営
Y法人は、放送大学学園法に基づいて、Q1大学を設置して、放送による授業を行うとともに、全国各地の学習者の身近な場所において面接による授業等を行うことを目的とする学校法人でした。
Y法人は、Q1大学における面接授業(スクーリング)、放送授業の再視聴、ゼミ・勉強会、研修旅行、講演会、文化祭、サークル活動等を行う場として、各都道府県に学習センターやサテライトスペースを設置しており、また、徳島県内に置かれているQ2は、Q3大学工学部内に置かれていたが、平成18年頃、Q3大学Q4内に移転されました。
XさんとY法人の労働契約の締結
Xさんは、Y法人との間で、平成18年3月1日、契約期間を同日から同月31日までとする期間の定めのある労働契約を締結しました。
その後、同年4月1日、XさんとY法人は、以下のとおり、期間の定めのある労働契約(当初労働契約)を締結しました。
契約の更新
Xさんは、Y法人との間で、平成19年から同29年までの間、毎年4月1日に、契約期間を翌年3月31日までとして、合計11回にわたり、期間の定めのある労働契約を更新し、Y法人から、その都度、雇入通知書を受領していました。(なお、Y法人との間で労働契約書は作成されていません)。
Xさんの賃金額(時給)は、同26年4月1日に820円、同27年4月1日に840円、同28年4月1日に860円、同29年4月1日に870円とそれぞれ定められていました。
また、Xさんに適用されるY法人の就業規則は、平成22年までの間は「Q1大学日々・時間雇用職員就業規則」、同23年以降は「Q1期間業務・時間雇用職員就業規則」でした。
Y法人の常勤理事会による有期労働契約の更新上限決定
Y法人の常勤理事会は、平成25年3月19日、「乙期間業務職員及び時間雇用職員の再雇用の取扱いについて」(本件基準)を一部改正する旨決議(本件決定)を行いました。
この改正後の本件基準では、その施行日(平成25年4月1日)の前日に雇用されている者のうち、施行日において再雇用される者の契約期間は、施行日から通算して5年を超えることができない旨(本件上限規定)定められていました。
本件決定に関するY法人の対応
Y法人は、平成25年3月22日頃、Xさんに対し、「時間雇用職員における再雇用等の取扱いの変更について」と題する書面を交付し、同年4月から、
〈1〉時間雇用職員の通算雇用期間の上限を同月1日から5年までとすること、
〈2〉定年を68歳とすること、
〈3〉時間雇用職員の再雇用の上限につき、6か月以内に更新した契約も含めて通算すること
などの取扱いの変更を通知し、このような取扱いの変更に係る承諾書の提出を求めました。
しかし、Xさんから同承諾書の提出を受けることはありませんでした。
また、Y法人は、平成25年4月1日、Xさんに対して、同年度の雇入通知書を交付したが、その際、その内容に、更新の上限回数が追加されていることを説明していませんでした。
教員らによる不服申立て
Q1大学「社会と産業」コース教員一同は、平成25年5月15日、Y法人総務部総務課に対し、「労働契約法改正への対応に関する「不適切な取扱いについての不服申立て」について」と題する書面を提出し、
〈1〉再雇用の5年上限に例外がないこと、
〈2〉教育研究の継続性を図るうえで、5年を超えた再雇用の必要性があること、
〈3〉時間雇用職員に更新上限につき署名させることが、良い慣行を乱し、モチベーションを悪化させて、教育研究業務の遂行に支障が出る可能性があること
を理由に、時間雇用職員に雇入通知書の署名を求めることにつき、不服を申し立てました。
また、本件決定の頃から本件上限規定に対する疑問を持っていたY法人の教授であるP6は、平成29年3月頃、教職員過半数代表に選任され、同月23日頃、Y法人の総務課人事係に対して、本件上限規定を理由とする雇止めの合理的な理由を問い合わせ、同月28日、Y法人から、その説明を受けました。
平成29年度におけるXさんY法人間の労働契約の締結
Xさんは、平成29年4月1日、Y法人との間で、時給870円、期間を同日から同30年3月31日までとして、本件労働契約を締結しました。
その際、Y法人は、Xさんに対し、不更新条項がある雇入通知書を交付し、次年度の更新がない旨を伝えました。
本件上限規定の運用に係るY法人の対応等
その後、本件上限規定の運用に関して、Y法人とP6教授らとの間には、説明会ややり取りなどが行われ、Y法人は下記のとおりの対応を行っていました。
平成29年5月23日 平成29年5月24日 | Y法人の本部で稼働する時間雇用職員(事務補佐員、教務補佐員、大学院教育支援者(TA)、研究補助員)に対し雇用期間の取扱いに関する説明会を開催 |
平成29年7月12日 | Y法人の同年度第4回教授会では、P6教授から、カンファレンス室の職員の雇止めを中心とした問題提起がされ、その中で、複数人から、雇止めをやめるべきとの意見が出されたほか、学長からは、教授会の所管事項ではなく過半数代表者と担当理事との間で話合いをもつことになるものの、教授会としても、教育研究の遂行への影響を考える必要があるため、教育研究に携わるさまざまな立場の人の意見を聴く機会を設けたので、これを可能な限り忠実に理事側に伝えていく旨が述べられる |
平成29年9月14日頃 | Xさんが、P6教授からのメールを受信し、本件上限規定に対する反対運動のいきさつを知るに至る |
平成29年10月4日 | Y法人は、労働契約法問題の意見交換会を開催 |
平成29年10月25日 | Y法人の同年度第6回教授会では、「非常勤職員の雇用期間に係る対応方針について」と題する議事につき、協議がもたれる |
平成29年12月12日 | Y法人職員の過半数代表であるP6教授に対し、「乙期間業務職員及び時間雇用職員の再雇用の取扱いについての改正等に係る意見の聴取について」と題する書簡により、有期労働契約の雇用更新上限5年を超えた場合でも、理事長が別に定めるところにより、特に必要と認める者については、期限の定めのない労働契約を締結することができるとの定めを設けることに関する意見を求める |
平成29年12月14日 | P6教授から、同定めを設けることには異議はないが、その他のY法人附属図書館及び本部・学習センターの非常勤職員に関しても、丁寧な説明や代替措置・勤め口の斡旋などの真摯な対応を検討されたい旨の回答を得る |
平成29年12月頃 | Y法人が本件基準を改正し、「ただし、理事長が別に定めるところにより特に必要と認める者については、5年を越えて雇用を更新し、労働契約法(平成19年法律第128号)第18条第1項に規定する期間の定めのない労働契約を締結することができるものとする」旨の定めが追加される |
平成29年12月18日 | Y法人理事長は、上記の本件基準の「ただし書」に関して、以下の定めを追加する。 「1 特に必要と認める者は、研究補助員、教務補佐員又はティーチングアシスタントとして人事統合システムに職種が登録されている時間雇用職員で、平成25年3月31日以前から平成30年3月31日まで継続して雇用されている者のうち、5年を超える雇用の更新が必要な者として学長から推薦のあった者(以下「対象者」という。)とする。 2 対象者のうち、平成30年3月31日までに68歳に達する者については、Q1期間業務・時間雇用職員就業規則第5条第2項の規定にかかわらず、1年に限り雇用の更新を認めるものとする。」 |
有期労働契約の更新の申込み
Xさんは、Y法人との間で、平成30年4月1日からの期間に係る労働契約を更新することができなかったため、同月11日付けの書面で、Y法人に対して、同月1日以降も従前と同様の条件で労働契約を締結するよう申し込んだが、Y法人から、同月24日付け「労働契約締結の申し込みに対する回答について」と題する書面により、これを拒絶されました(本件雇止め)。
訴えの提起と無期転換権の行使
そこで、Xさんは、
・XさんとY法人の労働契約には、労働契約法19条各号の事由があり、Y法人の更新拒絶は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとも認められないことから、平成30年4月1日以降、労働契約は更新されたものとみなされること
・平成31年4月1日からは、労働契約法18条により期間の定めのない労働契約に転換したこと
を主張し、Y法人に対し、労働契約上の地位確認及び未払賃金の支払いなどを求める訴えを提起しました。
争点
Xさんの主張
Xさんは、
- ・XさんとY法人間の労働契約には、労働契約法19条各号に定める事由があり、Y法人の更新拒絶は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとも認められないことから、平成30年4月1日以降、労働契約は更新されたものとみなされること
- ・平成31年4月1日からは、労働契約法18条により期間の定めのない労働契約に転換したこと
を主張していました。
争われた問題
そこで、本件では、①労働契約法19条1号該当事由の有無、②労働契約法19条2号該当事由の有無、また、③本件雇止めの客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性の有無が問題となりました。
本判決の要旨
争点①労働契約法19条1号該当事由の有無について
まず、労働契約法19条1号「当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。」に該当するか否かについて。
裁判所は、「Y法人において、更新手続が形骸化していたとまではいえず、Y法人の取扱いとして、Xさんら時間雇用職員と、期間の定めのない労働者とは明確に区別していたというべきであり、XY法人間の労働契約が実質的に期間の定めがないものと同視し得ると認めることはできない。」として、労働契約法19条1号に該当する事由は認められないと判断しました。
争点②労働契約法19条2号該当事由の有無について
次に、裁判所は、労働契約法19条2号「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。」に該当するか否かについて。
裁判所は、以下のとおり、検討を行い、「本件労働契約の満了の時点において、Xさんが労契法19条2号所定の契約更新がされるものと期待することについて合理的な理由があると認めることができる。」として、労働契約法19条2号に該当する事由が認められると判断しました。
判断基準
「労契法19条2号所定の契約期間満了時点における契約更新を期待する合理的な理由の有無を判断するに当たっては、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用契約の更新に対する期待をもたせる使用者の言動の有無などの客観的事実を総合考慮することが相当である。」
本件の検討
平成25年3月の時点での更新の期待
「そこで検討すると、Xさんは、Y法人との間で、平成18年4月1日以降、毎年4月頃、それぞれ有期労働契約を更新しており(…)、更新の回数及び雇用の通算期間は、本件雇止めの時点までのみならず、同25年3月までの時点でも、相当多数回かつ長期間に及んでいるといえる。また、その更新に当たっては、当初労働契約が締結された同18年度から同24年度までの間は、雇入通知書上、雇用期間満了時の業務量・労働者の勤務成績、態度・労働者の能力・学園の経営状況・従事している業務の進捗状況などを勘案しつつ、更新する場合もあるとの記載があり、現に、Xさんは、事務長から、5~10分程度、簡単な更新の意思確認を受け、その希望次第で更新することができていたのであって(…)、その更新手続自体が、Xさんに雇用契約の更新に対する期待をもたせるようなものであったといえる。そして、Xさんが一貫して従事してきた図書室業務が臨時的な業務ではなく、常用性もあること(…)、本件雇止めに至るまでの間、他の時間雇用職員が雇止めされたことがないこと(…)を併せて考慮すると、Xさんには、雇入通知書に更新回数については本件基準の定めるところによる旨の記載が追加される前である同25年3月の時点で、既に、労契法19条2号所定の雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったものと認めるのが相当である。」
平成25年4月以降同30年3月までの期間における更新の期待
「次いで、平成25年4月以降同30年3月まで、Xさんが上記期待をすることにつき合理的な理由があったといえるのかについて検討すると(…)有期労働契約における労働者、特に、本件上限規定が定められた時点で、相当回数にわたって、契約が更新されてきたXさんにとって、今後の更新可能回数を制限することが労働条件の不利益更新に当たることは明らかであるところ、一般に、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、更新可能回数を制限する本件上限規定や不更新条項といった不利益な変更は、たとえ、これらが雇入通知書に記載され、これに対して労働者が具体的に異議を述べていなかったとしても、その事実のみで、当該労働者が承諾したとみるべきではなく、当該労働者の自由な意思に基づいて承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきものであり(最高裁平成25年(受)第2595号同28年2月19日第2小法廷判決・民集70巻2号123頁参照)、そのような事情を踏まえて、雇用契約が更新されることについての合理的な理由が消滅したかを検討すべきである。
そして、本件においては、(…)本件決定や雇入通知書の記載によってもなお、Xさんが自由な意思に基づいて、これらを承諾した上で同25年以降の契約更新に及んだと認めるに足りる客観的に合理的な理由があるとはいえず、この点からも、雇用契約が更新されることについての合理的な期待が消滅するものとはいえない。
さらに、P6教授を中心とするY法人職員の一部が、Y法人に対し、平成25年5月頃から、本件上限規定を定める本件決定につき、抗議を行うとともに、同29年3月からは、本件上限規定を理由とする雇止めにつき、抗議を始めたこと(…)、Y法人もこれに応じて有期雇用職員の雇用期間に関する説明会や意見交換会を開催したこと(…)、Y法人の教授会においても本件上限規定を理由とした雇止めの是非が議論されていたこと(…)、Xさんが、このような本件上限規定を理由とした雇止めに対する一連の反対運動について、P6教授から情報提供を受けていたこと(…)、同年12月の時点で、本件上限規定に例外が定められ、時間雇用職員の一部について通算上限期間5年を超えて雇用されることが可能となったこと(…)、Xさんは、本件雇止め前の同30年1月頃に、労働組合を通じて、Y法人に対して団体交渉を行ったこと(…)等の事情もあり、これらの事情も、本件雇止めに至るまでの間、契約更新がされると期待することについて合理的な理由があると評価すべき根拠になるといえる。
以上によれば、契約更新がされるとXさんが期待することについての合理的理由は、本件労働契約満了の時点でもなお、継続していたと認めることができる(…)。」
小括
「以上によれば、本件労働契約の満了の時点において、Xさんが労契法19条2号所定の契約更新がされるものと期待することについて合理的な理由があると認めることができる。」
争点③本件雇止めの客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性の有無について
そして、裁判所は、本件雇止めの客観的客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性の有無について検討し、「本件上限規定は、少なくとも、本件決定がされた平成25年当時、Y法人との間で長期間にわたり有期労働契約を更新し続けてきたXさんとの関係では、有期労働契約から無期労働契約への転換の機会を奪うものであって、労契法18条の趣旨・目的を潜脱する目的があったと評価されてもやむを得ず、このような本件上限規定を根拠とする本件雇止めに、客観的に合理的な理由があるとは認め難く、社会通念上の相当性を欠くものと認められる。」として、「本件雇止めは、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上の相当性があるとは認められない。」と判断しています。
結論
よって、裁判所は、以上の検討から、「本件雇止めには、労契法19条2号に該当する事由があり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、Y法人は、Xさんとの間の本件労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込を承諾したものとみなされる」として、平成31年4月以降、XさんとY法人との間には無期労働契約が成立しており、XさんはY法人に対して未払い賃金の支払いを求めることができると判断しました。
ポイント
本判決のポイントは多岐にわたりますが、その中でも、Y法人理事会が、平成25年3月に本件上限規定を定める本件決定を行い、同年度以降の雇入通知書には、更新回数については本件基準の定めるところによる旨の記載が追加され本件上限規定が適用される旨が示された上、平成29年度の雇入通知書には不更新条項が付されるに至っているなどしていたことから、Xさんにおいて、平成30年度以降も雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由を失われたのか否かという点に関する判断は要着目です。
この点について、裁判所は、「一般に、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、更新可能回数を制限する本件上限規定や不更新条項といった不利益な変更は、たとえ、これらが雇入通知書に記載され、これに対して労働者が具体的に異議を述べていなかったとしても、その事実のみで、当該労働者が承諾したとみるべきではなく、当該労働者の自由な意思に基づいて承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきものであり(最高裁平成25年(受)第2595号同28年2月19日第2小法廷判決・民集70巻2号123頁参照)、そのような事情を踏まえて、雇用契約が更新されることについての合理的な理由が消滅したかを検討すべき」との判断枠組みを示した上で、Xさんにおいて、雇用契約が更新されることについての合理的な期待が消滅したとはいえないと判断しています。
したがって、有期雇用契約の期間中に上限規定を設ける場合には、労働者に与える不利益の程度や更新に対する期待にも注意を向け、労働者に対する十分な説明と承諾を得るように心がけなければなりません。
弁護士にもご相談ください
雇止めの適否の判断には、契約締結時の労働条件や実際の勤務状況、契約更新の有無、更新の数、雇止め予告の有無や期間、雇止めの実質的な理由などさまざまな事情を総合的に考慮する必要があります。
雇止めの適否については結論が異なるものが散見されます。
また、有期労働契約については、雇止めの問題のほかにも、無期転換ルールや労働条件の明示ルールなど、複雑な問題がたくさん潜んでいます。
有期労働契約の締結や更新、雇止めなどに関してお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
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