労働問題

従業員から残業代を請求されたら

 会社は社会の構成員としてコンプライアンス(法令遵守、社会的な規範に従い公平・公正に業務をおこなうこと)が強く求められています。従業員の会社に対する目も厳しくなっており、従業員・元従業員からの残業代請求がなされることも増えています。

 従業員・元従業員が会社に請求する場合、相当の覚悟をもって請求していると思われますので、請求があった場合には、火種が大きくならないうちに早期に誠実に対応することが重要だと思います。

 特に元従業員からの請求についてやめた社員のことだからと無視するとあとあと大げさなことになりかねませんし、会社の信用を落とすことにもなります。

 以下では会社が従業員・元従業員(以下単に「従業員」といいます)から残業代を請求された場合の対応について重要なポイントについて解説いたします。

残業代を請求された場合の対応の重要なポイント

早期かつ真摯に対応する

 上記で述べましたとおり、残業代が請求された場合、最悪なのが無視することですが、喧嘩腰に対応したり、その場で十分検討することなく、支払いを拒絶することも無視することと同様、最悪の対応です。

 ただ、請求があったからといって、言われたまま支払うことがよい対応というわけではなく、まずは具体的な主張を聞き、会社として検討することを伝えることが必要です。

 また会社としても従業員との間で対応の窓口担当者と連絡手段を決めておくと今後の交渉もやりやすくなります。

残業代請求に根拠があるか検討する

 従業員から残業代があった場合に、その請求が法的な根拠に基づくものなのかという基本的なことを確認する必要があります。そのポイントは次の点となります。

消滅時効にかかっていないか

 労働基準法115条では残業代を含む賃金の消滅時効について規定されています。

 令和2年4月1日より消滅時効の期間変更がなされており、令和2年3月31日以前に残業代の支給日が到来する場合には、その翌日から2年で消滅時効にかかります。

 同年4月1日以降に残業代の支給日が到来する場合には、その翌日から3年で消滅時効にかかります。

 なお、改正労働基準法115条では時効期間は5年とされましたが、当面の間、時効期間は3年とされました(令和2年厚生労働省令第76号)。

 したがって、のちのち時効期間は5年になると思われます。

 まずは残業代が消滅時効にかかっていないか確認し、もし時効にかかっている残業代がある場合には、時効を援用することでその分、残業代が消滅することとなります。

 ただし、時効を援用するかどうかは、会社の意思次第なので時効を援用せずに支払うのは自由です。

そもそも残業代の計算があっているか

 従業員から残業代の請求があった場合、そもそも請求金額が正しく計算されているかを確認する必要があります。タイムカード、労働時間の記録などと付き合わせて、金額を確認しましょう。

 また従業員からタイムカードなどの資料提供をもとめられた場合には、開示したほうがよいでしょう。開示する、しないで対立し、後に裁判手続になった場合には、結局は開示せざるを得ないでしょうから、無用な争いは避けるべきです。

禁止していた残業をしていた場合

会社が残業を禁止していたにも関わらず、残業をしていた場合には残業代の請求が認められない場合があります。ただし、次のように残業禁止が徹底されている場合に限られるでしょう。

残業禁止命令が書面で通達され、徹底されている。

  口頭での注意であったり、残業が黙認されていた場合は難しいでしょう。

残業が許可制であるのに許可を取らずに残業していた場合

  もっとも、運用が形骸化しているような場合は難しいでしょう。

固定残業代を支払っている。

固定残業代を支払っている場合には、その部分については既に残業代を支払っているので重複して支払う必要はありません。

ただし、固定残業代を支払っている場合であっても、割増賃金を計算し、固定残業代以上の残業代が発生している場合には、超過分は支払う必要があります。固定残業代を支払っているから、一切の残業代を支払わなくて良いということではないので注意しましょう。

管理監督者、機密事務取扱者その他、労働基準法41条各号に規定された者として残業代を支払わなくてよい場合に該当するか

  もっとも、管理監督者、機密事務取扱者かどうかは、実質的に経営者と一体不可分の関係にある者であり、名ばかり管理職などは管理監督者にあたらないので注意が必要です。

従業員との交渉について

 上述のとおりのポイントを検討し、残業代を支払うのか、争うのか方針を決定します。方針を決定するにあたって法律的な判断が必要な場合が多いでしょうから、弁護士に相談することをおすすめします。

 残業代を支払う場合でも、従業員と交渉し、会社の経済的な事情を訴えることで、支払い方法について交渉することも考えられます。

 争うとした場合でも、その内容について従業員に確認をしながら、具体的な金額を交渉することも考えられます。

 残業代の支払いについて裁判になった場合には、残業代に遅延損害金が加算されたり、悪質な場合には付加金(労働基準法114条)という名の制裁金の支払いを命じられることもあります。

任意交渉の場合には遅延損害金を免除してもらうよう交渉するなどメリットもありますし、紛争を抱えていること自体が会社の生産性を落とすこととなりますので早期に真摯に対応して積極的に解決しましょう。

事後対策

 残業代を請求してきた従業員に残業代を支払ったらそれで終わり、ではありません。今後、同様の請求が続けば会社の存続自体が危ぶまれてしまうかもしれません。

どこに問題があったのかを検討し、事後対策を行いましょう。

まずは法律相談を

 このとおり残業代の請求を受けた場合には、早期かつ真摯に対応することが重要です。早期に対応するにしても、残業代の請求に根拠があるかどうかの判断は法律的な判断になりますので、早期に弁護士に相談することが重要になります。

 また従業員との交渉自体も弁護士に委任することによって会社としても本来の業務に集中することができます。

 まずは当事務所にご相談ください。