労働問題

組合事務所明渡請求は不当労働行為?【大阪府・府労委(枚方市)事件】

労働組合との団体交渉などの際、「不当労働行為だ!」と言われた経験がある方も多いのではないでしょうか。

不当労働行為とは、会社による労働組合の活動に対する妨害行為のことをいいます。
労働組合法第7条は、憲法が保障する団結権等の実効性を確保する観点から、会社による不当労働行為を禁止しており、具体的には、

  1. 組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱い(第1号)
  2. 正当な理由のない団体交渉の拒否(第2号)
  3. 労働組合の運営等に対する支配介入及び経費援助(第3号)
  4. 労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱い(第4号)

を禁止しています。

労働組合や労働者は、使用者による不当労働行為を受けた場合、労働委員会に対して救済申立てを行うことができるとされており、不当労働行為の事実が認められた場合には、使用者は、労働委員会から、復職や賃金差額支払い、組合運営への介入の禁止等といった救済命令を受けることになります。
また、救済命令に会社が違反した場合には、過料や罰則に処せられることになるため、不当労働行為については特に注意が必要です。

では、労働組合に対して組合事務所の明渡しを求める行為は、不当労働行為にあたるのでしょうか。

大阪府・府労委(枚方市)事件・大阪地裁令和4.9.7判決

事案の概要

本件は、A市が、A市職員労働組合に組合事務所の明渡しを求め、同組合から団体交渉要求に応じなかったことを不当労働行為とし、団体交渉の応諾と謝罪文の手交を命じた大阪府労働委員会の不当労働行為救済命令を不服として、その取消しを求めた事案です。

事実の経過

A市職員労働組合

A市職員労働組合は、A市の職員によって組織される労働団体であり、地方公務員法第52条1項所定の職員団体でした。

そして、A市職員労働組合の下部組織として、A市の現業部門に勤務する者等をもって組織するA市職員労働組合現業合同支部がありました。
同組合の構成員は、平成31年1月31日時点で477名おり、その中には、地方公務員法が適用される職員と地方公営企業等の労働関係に関する法律の規定により労働組合法が適用される職員がいるところ、後者の職員の割合は、同日時点で約2割程度でした。

A市職員労働組合
A市職員労働組合

私たちの組合は地方公務員と地方公営企業職員がいます

A市による退去通知

A市職員労働組合は、昭和46年から組合事務所としてA市の管理する施設(本件物件)の貸与を受け、平成18年以降は、各年度使用許可を受けていました。
A市は、平成28年度の使用許可から、A市職員労働組合に目的外使用があったと認められるときは許可の取消しまたは変更があるという新しい条件を付しました。
そして、平成30年12月、A市は、A市職員労働組合に対して、同組合が発行する日刊ニュース(組合ニュース)で政権や特定政党への批判を繰り返していることから、使用許可を取り消すことになるため、自主的に本件物件から退去するように求める通知をしました(本件通知)。

目的外使用があったので組合事務所の使用許可を取り消し、退去を求めます

A市
A市

団体交渉の申入れと不応答

これを受けて、A市職員労働組合は、A市に対して、これまでにはなかった使用許可の条件が付された理由や経緯、いかなる行為が許可条件に反するのかなどを含む7項目について説明と協議を求める団体交渉の申入れを行いました。
もっとも、A市は地方公務員法の趣旨に照らして応じられないとする回答文書を交付し、団体交渉には応じませんでした。

A市職員労働組合
A市職員労働組合

団体交渉を申し入れます!

団体交渉には応じられません!

A市
A市

救済申立てと救済命令

そこで、A市職員労働組合は、A市による本件通知は支配介入に当たり、本件不応答も団体交渉の拒否に当たるとして、大阪府労働委員会に対して救済申立てを行いました。
また、A市職員労働組合は、A市が組合ニュースの内容および表現に関して繰り返しA市職員労働組合に鑑賞する支配介入を行ったとして、大阪府労働委員会に対して救済申立てを行いました。

これに対して、大阪府労働委員会は、両救済申立てを併合して審査のうえ、組合ニュースに関するA市の対応が支配介入に当たるとまではいえないものの、本件通知に関してA市が行った対応は必要最小限の手段とはいえず、相当な理由もないから支配介入に当たるとして、組合事務所に関する本件各申入事項は義務的団体交渉事項に当たるとして、本件救済命令を行いました。

訴えの提起

大阪府労働委員会の本件救済命令を受け、A市は、①A市職員労働組合は、構成員の大半を労働組合法が適用されない一般職地方公務員が占めているほか、監督的地位にある14名の課長代理が加入していること、もっぱら政治活動を目的としていることから労働組合法上の労働組合に当たらず申立人適格を有しない、また、②行政財産の目的外使用許可は管理運営事項に当たるから団体交渉の対象にならない等と主張して、本件救済命令の取消しを求める訴えを提起しました。

争点

本件では、①A市職員労働組合に不当労働行為救済申立人適格があるか否か、②A市による本件不応答が正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか否か、③A市が本件物件の明渡を求めたことが支配介入に当たるか否かが争点となりました。

本判決の要旨

争点①A市職員労働組合に不当労働行為救済申立人適格があるか

A市職員労働組合は、A市の職員によって組織される労働団体であって、地公法52条1項所定の職員団体であるところ、その構成員には地公法適用職員と労組法適用職員の双方が含まれている。
そして、地公法適用職員と労組法適用職員の双方によって構成されるいわゆる混合組合については、その構成員に対して適用される法律の区別に従い、地公法上の職員団体と労組法上の労働組合の複合的な性格を有しており、労組法適用職員に関する事項に関しては労組法上の労働組合に該当するものと解するのが相当であり、その限りにおいて、混合組合は、不当労働行為救済命令の申立人適格を有するというべきである。
そうすると、A市職員労働組合は、本件各申立ての申立人適格を有するというべきである。

裁判所
裁判所

A市職員労働組合は混合組合で、労働組合法上の労働組合に該当します

争点②本件不応答が正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか

判断枠組み

憲法28条及び労組法7条2項によって労働者に団体交渉権が保障された目的やその趣旨に照らすと、労働者の労働条件その他の待遇に関して団体交渉のほか、これを円滑に行うための基盤となる事項についてもその保障の趣旨が及び得るというべきであり、労組法により、使用者が団体交渉を行うことを義務づけられている義務的団交事項とは、団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいうと解するのが相当である。

本件の検討

これを本件についてみると、本件各申入事項は、いずれもA市職員労働組合が便宜供与の一種としてA市から目的外使用許可を受けて使用していた組合事務所である本件物件の使用に関するものであり、このような組合活動に関する便宜供与やそのルールに関する事項も団体的労使関係の運営に関する事項に当たるというべきである。
(…)そうすると、本件各申入事項はいずれも義務的団交事項に当たり、A市が本件申入れを拒否したことに正当な理由はなかったというべきであるから、本件不応答は正当な理由のない団体交渉の拒否(労組法7条2号)に当たるというべきである。

裁判所
裁判所

A市職員労働組合の申し入れ事項は義務的団交事項に当たり、A市の対応は団交拒否に当たります。

小括

以上によれば、本件不応答は、正当な理由のない団体交渉の拒否(労組法7条2号)に当たる。

争点③A市がA市職員労働組合に対して本件物件の明渡しを求めたことが支配介入に当たるか

判断枠組み

A市は、昭和46年2月以降、40年以上にわたり、A市職員労働組合に対し、職員会館の一部を貸与し又は目的外使用許可をすることによって組合事務所としての使用を認めている。これは、A市のA市職員労働組合に対する便宜供与の一種であり、これに応じるか否かは、原則としてA市の裁量に委ねられている。
もっとも、いったんかかる便宜供与がされた以上、これを前提にA市職員労働組合の活動や運営が行われることになるのであり、組合事務所が組合活動の基盤であって、その明渡しを求めることがA市職員労働組合の活動や運営に重大な影響を及ぼすと考えられることに照らすと、A市がA市職員労働組合に対して目的外使用許可を取り消して本件物件の明渡しを求めるに当たっては、A市職員労働組合に対して組合事務所の退去による不利益を与えてもなお明渡しを求めざるを得ない相当な理由があることが必要であり、かつ、明渡しを求めるに当たっては、A市職員労働組合に対してその理由を説明し、その代替措置等について協議し、十分な猶予期間を設けるなどの手続的配慮をすることが必要と解するのが相当である。

本件の検討

これを本件についてみると、(…)発行した組合ニュースを本件物件内で作成等したことを理由として、直ちにA市職員労働組合に対し、本件物件の明渡しを求め得るというのは、A市職員労働組合の不利益が余りにも大きいというべきであって、A市がA市職員労働組合に対して組合事務所退去による不利益を与えてもなお本件物件の明渡しを求めざるを得ない相当な理由があったとはいい難い。

また、手続的配慮についてみても、A市は、即刻退去を求めるものの、本件各申入事項が義務的団交事項に当たるにもかかわらず、本件申入れに係る団体交渉を拒否した上、本件各申入事項と同様の要求事項についても、簡潔に回答したのみであり、A市がA市職員労働組合に対して本件物件の明渡しを求める理由について具体的な説明をしないばかりか、代替措置等についても協議していないことからすれば、A市のA市職員労働組合に対する手続的配慮は極めて不十分なものであったといわざるを得ない。

さらに、(…)A市職員労働組合が、昭和46年2月以降、40年以上にわたって職員会館の一部を組合事務所として使用してきたことをも考慮すると、A市がA市職員労働組合に対して本件物件の明渡しを求めることは、A市職員労働組合の弱体化やその運営・活動に対する妨害の効果を持つものといえ、A市はそのことを認識し又は容易に認識し得たというべきであるから、かかる行為は、A市職員労働組合に対する支配介入(労組法7条3号)に当たるというべきである。

裁判所
裁判所

A市の対応は、A市職員労働組合に対する支配的介入に当たります

小括

以上によれば、A市がA市職員労働組合に対して本件物件の明渡しを求めたことは、支配介入(労組法7条3号)に当たる。

結論

裁判所は、以上の検討より、A市の請求は認められないと判断しました。

本件のポイント

本件は、A市が、A市職員労働組合に組合事務所の明渡しを求めたことなどに関して、同組合から団体交渉要求を受けたにもかかわらず、これに応じなかったことを不当労働行為とし、団体交渉の応諾と謝罪文の手交を命じた大阪府労働委員会の不当労働行為救済命令を不服として、その取消しを求めた事案でした。

特に、A市がA市職員労働組合に組合事務所の明渡を求めたことが支配介入に当たるか否かの判断に当たって、裁判所は、組合事務所が組合活動の基盤であって、その明渡を求めることが組合の活動や運営に重大な影響を及ぼすことなどに照らし、A市が本件物件の明渡を求めるに際しては、組合事務所の立ち退きによる不利益を与えてもなお明渡を求めざるを得ない相当な理由が必要であり、かつ、組合に対して明渡を求める理由を説明し、代替措置等を協議し、十分な猶予期間を設けるなど手続的配慮をすることが必要であるとしたうえ、A市が本件物件の明渡しを求めたことは支配介入に当たると判断しています。

本件は物件の明渡に関する内容でしたが、労働組合の弱体化や運営・活動に対する妨害の効果を有するものについては、支配介入に当たるものと考えられます。
たとえば、これまでの裁判例においても、労働組合への加入の有無や組合活動への参加の有無を尋ねるアンケート調査を行うことや、「組合に加入しているやつは…だ。」と否定的な言動によって組合員に圧力をかけることなども支配介入に当たると判断された例があります。

したがって使用者としては、労働組合の運営や活動に対する妨害に当たる言動であると捉えられるような行為を行わないように注意が必要です。

弁護士にご相談ください

仮に労働委員会が救済命令を行った場合でも、使用者側として、当該救済命令に不服がある場合には、取消訴訟を提起することができます。仮に、取消訴訟を提起することなく、救済命令に不服があるからといって、これを無視してしまうと過料に処せられるため、救済命令を受けた場合には速やかに弁護士に相談することが大切です。

弁護士
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団体交渉対応は慎重に行いましょう

また、不当労働行為を行った場合には、労働組合や労働者から不法行為に基づく損害賠償の支払いを求められる場合もあります。
かかる観点からも、労働者や労働組合との関わりについて不安を覚えたときには、些細な問題であっても、顧問弁護士に相談しておくことがよいでしょう。

労働組合に対する対応については、これらの記事もご覧ください。