業務命令に違反した社員を解雇できるか?【岩見沢商工会議所事件】
- 当社は、川崎市内の公益財団法人です。当社には勤続20年以上の事務局長がいるのですが、不適切な経理処理を繰り返し、その都度懲戒処分をしてきました。今回、7回目の懲戒処分(出勤停止)をしたのですが、必要な始末書を提出せず、さらに法人の運営に必要な総会準備を怠ったことから、やむなく懲戒解雇処分にしました。そうしたところ、この事務局長から、懲戒解雇処分が無効であるとして、従業員の地位確認請求と未払い給与を求める訴訟が提起されました。懲戒処分は無効でしょうか。
- 懲戒処分をするには、就業規則上の根拠が必要です。その上で、その勤務懈怠が企業秩序に違反すること、及びその処分が妥当であることが求められます。懲戒事由に比べて、懲戒処分の内容があまりにも重すぎることは、懲戒権の行使が相当性を欠いているという判断につながります。また、従業員間の平等取り扱いの原則に違反したり、就業規則上に定められた懲戒処分の手続きを守らなかったり、労働者に弁明の機会を与えなかったりしたときも、同じく相当性が認められないことになります。
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懲戒処分を行うときには様々な点に注意が必要です
労働契約法の定め
労働契約法15条では、使用者(会社)が労働者に対して、懲戒処分を行うことが示されています。いわゆる懲戒解雇も、この懲戒処分の一つです。
ただ、懲戒処分は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利濫用として無効になってしまいます。
懲戒解雇をする場合には法的な根拠が必要
また、労働契約法が「使用者が労働者を懲戒することができる場合」と定めていることから、会社が懲戒権を行使するには、前提となる法的根拠が求められます。
つまり、会社の就業規則において、具体的な懲戒事由と懲戒罰を定めておかないと(労働基準法89条9号)、そもそも会社は懲戒権を行使することができないのです。
懲戒事由の判断も慎重に
そして、会社が実際に懲戒処分をする場合にも、懲戒理由となった労働者の行為が、その就業規則上の懲戒事由に当たるのかどうか?を慎重に検討しなければなりません。
特に、労働者側の勤務懈怠を理由とする場合には、「その債務不履行が企業秩序に違反した場合に初めて懲戒事由に該当する」ものとされていることから、“勤務懈怠がある=懲戒ができる”と直ちに結びつけないよう注意する必要があります。
選ぶ処分が妥当なものか
加えて、懲戒理由となった労働者の行為が、就業規則上の懲戒事由に当たるとしても、次に問題になってくるのが、処分の妥当性です。
たとえば、懲戒事由に比べて、懲戒処分の内容があまりにも重すぎることは、懲戒権の行使が相当性を欠いているという判断につながります。また、従業員間の平等取り扱いの原則に違反したり、就業規則上に定められた懲戒処分の手続きを守らなかったり、労働者に弁明の機会を与えなかったりしたときも、同じく相当性が認められないことになります。
そのため、懲戒処分を行う場合には、処分として適切なのか?手続きをきちんと網羅できているか?にも留意しなければなりません。
*厚生労働省ウェブサイト「⑱ 懲戒解雇の有効性(個別)」解説参照*
弁護士法人ASKにご相談ください
このように懲戒解雇をはじめとする懲戒処分には、あらゆる留意点があります。
懲戒処分を検討する場合には、事前に弁護士に相談しておくことがおすすめです。
裁判例のご紹介(岩見沢商工会議所事件・札幌高裁令和6年3月22日判決)
さて、今回は、複数回にわたる業務命令に違反した従業員を懲戒解雇することができるか?が争われた裁判例をご紹介します。

*労働判例2025/12/01(No.1339号)64ページ以下参照*
どんな事案?
この事案は、Y法人の職員であったXさんが、Y法人が行った懲戒解雇は無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認や賃金の支払いなどを求めた事案です。
何が起きた?
Y法人について
Y法人は、商工会議所法に基づいて設立された法人です。Y法人は、北海道岩見沢市に所在し、地区内の商工業に関して相談に応じ、指導を行うなどしています。
Y法人には、代表である会頭のほか、会頭等を補佐して所務を掌理する専務理事などの役員があり、また、事務局長を筆頭として職員10名程度の規模の事務局があります。
Xさんについて
Xさんは、昭和61年にY法人に採用(期限の定めのない雇用契約)され、平成16年4月1日にY法人の事務局の筆頭である事務局長に就任した後、平成26年12月31日に係員に降格し、その後、A協議会の担当職員となりました。
(以下、では、A協議会を「本件除雪協議会」といい、同協議会の実施に係る除排雪事業を「本件除排雪事業」といいます。)
本件懲戒解雇に至る経緯
▶︎Xさんに対する厳重注意
Y法人は、令和2年3月12日付けで、Xさんに対し、Y法人が実施している商工会議所会員向けの共済制度に関し、Xさんが金銭面での不適切な事務処理を行ってきたとして、服務の原則及び信用の保持に係るY法人の就業規則に抵触するとして、Y法人の会頭名で文書をもって厳重注意を行いました。
▶︎Xさんに対する業務命令
また、Y法人は、令和2年12月8日から令和3年6月7日にかけて、Xさんに対し、7回にわたり本件除雪協議会に係る業務命令を書面で行いました。
▶︎Xさんに対する停職処分
そして、Y法人は、令和3年2月4日付けで、Xさんに対し、Y法人が実施している共済制度に関し、Xさんが金銭面での不適切な事務処理を行ってきた、また、本件除雪協議会に係る職務につき怠業があったなどとして、停職2週間の懲戒処分(本件停職処分)に処する旨の通知書を交付しました。
本件懲戒解雇
Y法人は、令和3年9月7日、Xさんに対し、懲戒解雇通知書により、懲戒解雇の意思表示をしました(本件懲戒解雇)。なお、Y法人は、上記同日付けで、Xさんに対し、解雇予告手当を支払いました。
懲戒解雇通知書に記載された本件懲戒解雇の理由は、以下の通りでした。

訴えの提起
そこで、Xさんは、Y法人が行った懲戒解雇は無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認や賃金の支払いなどを求める訴えを提起しました。

問題になったこと(争点)
この裁判では、Y法人がXさんに対して行った本件懲戒解雇が有効かどうか?が問題(争点)になりました。
裁判所の判断
裁判所は、Y法人がXさんに対して行った本件懲戒解雇には、懲戒事由該当性が認められ、客観的合理性・社会的相当性も認められることから、有効であると判断しました。(確定)
判決の要旨
本判決は、第一審の判断を支持していることから、以下では、裁判所が上記のような判断に至った判決の要旨(第一審判決)をご紹介します。

懲戒解雇は客観的理由・社会通念上相当性を欠く場合に無効(判断基準)
「本件懲戒解雇が有効となるためには、Xさんの行為が同解雇において示された懲戒事由に該当することが必要であるが、懲戒事由該当性が認められるとしても、懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、懲戒権の濫用として本件懲戒解雇は無効となる(労働契約法15条)(…)。」
本件懲戒解雇に先立つ停職処分の有効性について
「本件では、本件懲戒解雇に先立って、Xさんに対する懲戒権の行使として本件停職処分が行われており、同停職処分がされたことが本件懲戒解雇の理由の一つとして挙げられている。(…)そこで、本件停職処分の有効性について判断するに、Xさんの(…)行為は、Y法人の服務原則に係る懲戒事由に該当するといえ、また、Xさんが会計管理の基本にもとる極めてずさんな処理を行ったこと(…①)及び企業秩序を大きく乱したこと(…②から⑥)の重大性のほか、業務命令等についての対応状況等といったXさんの行動歴からすれば、単なる始末書の提出や注意等が奏功して足りるとは考えにくいことにも照らすと、2週間の停職という不利益を課すことの客観的合理性及び社会的相当性(労働契約法15条)が認められる。
したがって、本件停職処分は有効である。」
本件懲戒解雇の有効性について
▶︎Y法人が懲戒解雇の理由として挙げていた事情
「Y法人は、令和3年9月7日、Xさんに対して本件懲戒解雇を行っているところ(…)」

▶︎Xさんの業務は実行(着手)が容易であった
「Xさんの基本的な業務は、他の職員が複数種の業務を担当しているのと異なり、本件除雪協議会に係るもののみに絞られ、また、同協議会に係る業務全体の負担についてみても、本件懲戒解雇の後には、採用1年目の職員が他の複数の業務と掛け持ちをしながら同協議会に係る業務を特段の支障なく行う程度のものであった(…)。そして、本件懲戒解雇の事由として挙げられた前記①から④に係る業務についてみても、(…)同業務を着手・実行することに支障等があったことはうかがわれないことにも照らすと、同業務は、いずれも、実行が容易であるか(同①、②及び④)、または、少なくとも着手は容易である(同③)といえる。」
▶︎Xさんの行為は非常に重大な服務原則違反であること
「Xさんは、本件除雪協議会に係る業務につき、口頭及び業務命令による多数回の指示等が繰り返されていただけでなく、懲戒処分として実質的な不利益を課された本件停職処分を経ても、なお同種同様の業務命令違反と怠業を続けていた。Y法人の就業規則(30条1項)では、服務の原則として、上司の指揮命令に従い、その職務に精勤しなければならないことなどが定められているところ、本件懲戒解雇の事由として挙げられた前記①から④の業務に関し、業務命令及び指示を無視し、業務を放置するといったXさんの行為及び職務態度等は、単なる債務不履行を超え、使用者に使用されて労働し、その対価として賃金を得る(民法623条、労働契約法2条)という労働契約の根本につき、職員数10名程度と小規模であるY法人の事務局における職場の秩序(企業秩序)を揺るがせる非常に重大な服務原則違反であるといわざるを得ない。」
結論
「以上によれば、Xさんの行為は、Y法人の就業規則における服務の原則を定める30条1項に抵触し、懲戒処分について規定する54条1項1号(この規則に違反する行為があったとき)に当たり、懲戒事由該当性が肯定される上、その重大性からすれば懲戒解雇とすることの客観的合理性があるといえるし、停職という重い懲戒処分を受けるなどしてもなお同種同様の業務命令違反と怠業を繰り返しているのであるから、懲戒解雇とすることもやむを得ず、社会的相当性もあるといえ、本件懲戒解雇は有効である(労働契約法15条)。」
弁護士法人ASKにご相談ください
さて、今回は、複数回にわたる業務命令に違反した従業員を懲戒解雇することができるか?が争われた裁判例をご紹介しました。
この事案では、職員の行為態様、職務態様等が、使用者からの業務命令・指示の無視、業務放置といった極めて重大な服務規律違反に当たるものであったことから、懲戒解雇が有効であると判断されています。
しかし、冒頭でもご説明したとおり、懲戒解雇については、内容、手続ともに注意しなければならない点がたくさんあり、一ステップでも間違えてしまうと無効になってしまうリスクがあります。
懲戒処分についてご検討の場合には、ぜひ事前に弁護士法人ASKにご相談ください。
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