無期転換ルールとは?大学専任教員雇止め【学校法人羽衣学園事件】【最高裁令和6年10月31日判決】
2024/11/03 最高裁判決を受けて大幅更新しています。
- 私は神奈川県内にある大学で有期の専任非常勤講師をしています。大学とは3年契約を結び、さらに3年契約を更新したので、通算して5年を超えることになりました。有期契約が5年を超えたときには無期転換権があると聞きました。私も大学との契約を期間の定めのない契約に転換する権利があるのでしょうか。
- 労働契約法18条1項は、一使用者との間で有期労働契約が更新され、通算5年を超えたときには、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換するという無期転換ルールを定めています。ただし、大学教員の場合、大学の教員等の任期に関する法律第4条1項に該当する人と任期を定めた契約をしたときは、無期転換ルールが適用になるのは通算10年を超えたときとなります。
無期転換ルールとは
無期転換ルールとは、同一使用者との間で有期労働契約が更新され、通算5年を超えたときには、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換するというルールです。
労働契約法18条1項では、この要件を満たす労働者について、「労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」と定められているため、従業員が無期転換の申込みをした場合に拒絶することはできません。
他方で、労働契約法18条1項は、「労働者が・・・申込みをしたときは」と規定していることから、労働者は、自らの意思で無期転換権を行使せずに、使用者との間で有期雇用契約を更新することもできます。
しかし、この場合であっても、次の契約期間満了までの間に、労働者には無期転換の申込みをすることは可能であるため、使用者側として「前の更新前に無期転換権を行使しなかったから、無期転換は認めない!」などと拒絶することはできません。
大学教員にも無期転換ルールの適用がある?
ただ、労働者が大学教員の場合は、さらに特別なルールが定められています。
大学等においては、多様な知識や経験を有する教員等相互の学問的交流が不断に行われる状況を創出することが大学等における教育研究の活性化にとって重要であること(大学教員任期法第1条)から、大学教員任期法4条1項に定める次に該当する場合、通算10年を超えた有期労働契約の場合に、はじめて無期転換ルールの適用が認められることになります。
- 先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき。
- 助教の職に就けるとき。
- 大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職に就けるとき。
この条文の対象が、単に「教員」と定めるわけではなく、要件を絞っていることから、大学教員に関しては、無期転換ルールの適用がこの条文に従って10年なのか、労働契約法の原則通り5年なのかが争いになることがありました。
今回、大学法人との間で有期労働契約を締結し、大学の専任教員として勤務していた元講師の女性が、有期雇用契約が通算5年を超えたにもかかわらず、雇止めされたとして、無期転換ルール(労働契約法18条1項)に基づき、労働契約上の地位確認などを求めた事案において、令和6年10月31日、新しい最高裁判決が出されました。
最高裁が、大学教員の無期転換をめぐり、判断を示すのは初めてのことです。
以下、速報として判決(令和6年10月31日 第一小法廷判決)の内容をご紹介します。
学校法人羽衣学園事件・最高裁令和6年10月31日判決
事案の概要
本件は、Xさんが、Y法人が設置するA大学において、有期労働契約を締結して専任教員を務めていたところ、Y法人から期間満了により雇止めされてしまったことから、労働契約法18条1項に基づく無期転換申込みをしたことによってY法人との間に無期労働契約が締結されている等と主張し、Y法人に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金の支払いなどを求めた事案です。
事実の経過
XさんとY法人について
Xさんは、保育士及び介護福祉士等の資格を有し、社会福祉法人での勤務経験があるほか、A大学での勤務と前後して、複数の専門学校及び私立大学等において非常勤講師を務めるなどしていました。
他方で、Y法人は、私立学校法に基づいて設立され、A大学を設置する学校法人でした。
A大学は、平成14年に設立された4年制大学であり、現代社会学部と人間生活学部が置かれ、現代社会学部には現代社会学科及び放送・メディア映像学科が、人間生活学部には人間生活学科及び食物栄養学科が置かれていました。
XさんとY法人との間における労働契約の締結と更新
Xさんは、平成22年4月1日頃、Y法人との間で、契約期間を平成22年4月1日から平成23年3月31日までとし、XさんがA大学に人間生活学科生活福祉コースの非常勤講師として勤務する旨の労働契約を締結しました。
その後、XさんとY法人は、その後、労働契約を2回にわたり更新しました(更新後の契約期間は、平成23年4月1日から平成24年3月31日までの間と平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間)。
専任教員としての契約
Y法人は、平成24年12月、人間生活学科生活福祉コースの専任教員の退職に伴い、その後任となる教員を募集することとし、下記の記載がある「A大学人間生活学部 専任教員公募 募集要領」を発出しました。
これに基づき、Xさんは、平成25年3月4日、Y法人との間で、契約期間を平成25年4月1日から平成28年3月31日までの3年間とし、Xさんが人間生活学科生活福祉コースの専任教員として勤務する旨の本件労働契約を締結しました。
契約書の内容
XさんとY法人は、平成25年3月4日、本件労働契約に係る契約書を作成したところ、この契約書には、
・「契約期間」として、Y法人がXさんを「A大学の専任教員(専任講師)として雇用する。雇用期間は、平成25年4月1日から平成28年3月31日までの3年間とする。」との約定(同契約書1条)
・「契約の終了等」として、「本契約は、第1条に定める雇用期間満了をもって終了するものとする。」との約定(同契約書7条)がそれぞれ置かれていました。
辞令書の交付
そして、Y法人は、平成25年4月1日、Xさんに対し、下記の記載がある辞令書を交付しました。
本件労働契約の更新
その後、XさんとY法人は、平成28年4月1日頃、本件労働契約を更新しました。
また、Y法人は、平成28年4月1日頃、Xさんに対し、下記の記載がある辞令書を交付しました。
加えて、XさんとY法人は、平成28年4月25日、本件労働契約の更新に係る契約書も作成していました。
この契約書には、
- 「契約期間」として、Y法人がXさんを「A大学の専任教員(専任講師)として雇用する。
- 雇用期間は、平成28年4月1日から平成31年3月31日までの3年間とする。」との約定(同契約書1条)
- 「契約の終了等」として、「本契約は、採用時の公募要領に記載さている再任の1回目にあたり、再任は1回の
となっていることから、第1条に定める雇用期間満了をもって終了する。」との約定(同契約書7条)
がそれぞれ置かれていました。
本件雇止め
Y法人は、平成29年度以降、人間生活学科生活福祉コースの学生募集(平成29年4月1日以降入学の学生募集)を停止しました。
そして、Y法人は、平成30年9月25日、Xさんに対し、本件労働契約を更新せず、平成31年3月31日をもって本件労働契約は終了とする旨告知しました。
Xさんは、平成30年11月4日、Y法人に対し、次期の本件労働契約の更新に際して無期労働契約への移行を申し入れる旨記載した書面を送付して、本件無期転換申込みをしましたが、これに対して、Y法人は、平成31年3月31日、Xさんに対し、同日付けの任期満了により職を免ずる旨の辞令書及び退職金を支給する旨の辞令書をそれぞれ交付するとともに、同日をもって、契約期間満了により本件労働契約が終了した旨の扱い(本件雇止め)をしました。
なお、Y法人は、令和2年9月30日、在籍していた学生の卒業をもって、人間生活学科生活福祉コースを閉鎖しました。
訴えの提起
そこで、Xさんは、複数ある有期労働契約の通算期間が5年を超えており、Xさんが労働契約法18条1項に基づく無期転換申込みをしたことにより、Y法人との間の無期労働契約が締結されたなどと主張し、Y法人に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金の支払いなどを求める訴えを提起しました。
争点
Xさん側の主張
本件では、Xさんが、労働契約法18条の規定により、Y法人との間で無期労働契約が締結されたと主張していました。
Y法人側の主張
これに対して、Y法人は、Xさんが就いていた職が大学の教員等の任期に関する法律(任期法)4条1項1号所定の教育研究組織の場に当たり、無期労働契約が締結されたことにはならないと主張して、争っていました。
任期法と労働契約法の定め
労働契約法の定め
他方で、労働契約法18条1項前段は、通算契約期間が5年を超える労働者が、使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす旨を規定しています(無期転換ルール)。
任期法の定め
他方で、任期法7条1項は、同法5条1項の規定による任期の定めがある労働契約を締結した教員の当該労働契約に係る労働契約法18条1項の規定(無期転換ルール)の適用については、同項中「5年」とあるのは、「10年」とする旨を規定しています。
なお、任期法5条1項は、学校法人は、その設置する大学の教員について、同法4 条1項各号のいずれかに該当するときは、労働契約において任期を定めることができる旨を規定し、同項1号は、「先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき」を掲げています。
本件で争われたこと
そこで、本件では、XさんとY法人との間の本件労働契約について、任期法7条1項が適用される結果、無期転換権の発生までの通算契約期間が、通常の労働契約法上の5年ではなく、10年を超えることを要するのか否か(すなわち10年特例が適用されるか否か)が争われました。
原審の判断(大阪高裁令和5年1月18日判決)
原審は、次のように判断し、本件労働契約は任期法7条1項所定の労働契約には当たらない(10年特例は適用されない)とした上、原則通り、労働契約法18条1項の規定により、XさんとY法人との間で無期労働契約が締結されたとして、Xさんの地位確認請求を認容し、賃金等の支払請求の一部を認容しました。
「Y法人において、本件講師職に就く者を定期的に入れ替えることが合理的といえる具体的事情は認められず、むしろ安定的に確保することが望ましいといえること、Xさんが担当していた授業等の内容に照らすと本件講師職には介護分野以外の広範囲の学問に関する知識や経験は必要とされず、担当する職務に研究の側面は乏しいといえることからすると、本件講師職が任期法4条1項1号所定の教育研究組織の職に当たるということはできない。」
本来、無期転換ルールは、有期雇用契約の形態で働く労働者が、期間の定めなく働き続けられるように規定されたものであり、本判決は、かかる観点から10年特例について厳格に解釈しているものと考えたものと評価できます。
最高裁判決の要旨
これに対して、最高裁は、以下のとおり、原審の判断は是認することができないとして、原判決中Y法人敗訴部分を破棄し、同部分について原審に差し戻す旨の判断を示しました。
任期法の解釈適用について
「任期法は、4条1項各号のいずれかに該当するときは、各大学等において定める任期に関する規則に則り、任期を定めて教員を任用し又は雇用することができる旨を規定している(3条1項、4条1項、5条1項、2項)。これは、大学等への多様な人材の受入れを図り、もって大学等における教育研究の進展に寄与するとの任期法の目的(1条)を踏まえ、教員の任用又は雇用について任期制を採用するか否かや、任期制を採用する場合の具体的な内容及び運用につき、各大学等の実情を踏まえた判断を尊重する趣旨によるものと解される。そして、任期法4条1項1号を含む同法の上記各規定は、平成25年法律第99号により労働契約法18条1項の特例として任期法7条が設けられた際にも改められず、上記の趣旨かが変更されたものとも解されない。そうすると、任期法4条1項1号所定の教育研究組織の職の意義について、殊更厳格に解するのは相当でないというべきである。」
本件の検討
前記事実関係によれば、生活福祉コースにおいては、Xさんを含む介護福祉士等の資格及びその実務経験を有する教員により、介護実習、レクリエーション現場実習といった授業等が実施されており、実務経験をいかした実践的な教育研究が行われていたということができる。そして、上記の教育研究を行うに当たっては、教員の流動性を高めるなどして最新の実務経験や知見を不断に採り入れることが望ましい面があり、このような教育研究の特性に鑑みると、上記の授業等を担当する教員が就く本件講師職は、多様な知識又は経験を有する人材を確保することが特に求められる教育研究組織の職であるというべきである。
したがって、本件講師職は、任期法4条1項1号所定の教育研究組織の職に当たると解するのが相当である。」
結論
「以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中Y法人敗訴部分は破棄を免れない。そして、その余の点について更に審理を尽くさせるため、同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。」
ポイント
どんな事案だったか?
本件は、Y法人との間で有期労働契約を締結し、専任教員として勤務していたXさんが、Y法人から期間満了により雇止めされてしまったことから、労働契約法18条1項に基づく無期転換申込みをしたことによりY法人との間に無期労働契約が締結されているなどと主張し、Y法人に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認などを求めた事案でした。
何が問題になったか?
Xさんの請求に対して、Y法人は、Xさんは、労働契約法18条1項の特例である大学教員任期法7条1項が適用され、無期転換権の発生までの通算契約期間は10年を超えることを要すること(10年特例)から、Xさんには未だ無期転換権が発生していないと主張していました。
そこで、本件では、XさんとY法人との間の本件労働契約について、任期法7条1項が適用される結果、無期転換権の発生までの通算契約期間が、通常の労働契約法上の5年ではなく、10年を超えることを要するのか否か(10年特例が適用されるか否か)が問題となりました。
本判決(最高裁)の判断
原審は、無期転換ルールは、有期雇用契約の形態で働く労働者が、期間の定めなく働き続けられるように規定されたものであることを重視し、任期法の10年特例の解釈、適用について厳格に解釈していました。
もっとも、最高裁は、任期法5条1項が、学校法人は、その設置する大学の教員について、同法4 条1項各号のいずれかに該当するときは、労働契約において任期を定めることができる旨を規定した趣旨などに照らして考えれば、任期法4条1項1号所定の教育研究組織の職の意義について、殊更厳格に解するのは相当でないとして、原審の判断を否定しています。
かかる最高裁の判断は、大学教員の無期転換をめぐる今後のさまざまな事案に大きな影響を及ぼすと考えられます。
弁護士にもご相談ください
有期雇用契約における雇止めは特に争いになることが多い問題です。
無期転換ルールは、同一の使用者との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期契約労働者からの申込みにより、期間の定めのない労働契約に転換されるルールです。契約期間が1年の場合、5回目の更新後の1年間に、契約期間が3年の場合、1回目の更新後の3年間に、労働者に無期転換の申込権が発生します。
有期契約労働者が使用者に対して、かかる無期転換の申込みをした場合、無期労働契約が成立します。
特に、労働基準法施行規則と有機労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準が改正に伴い、本年4月1日から、労働条件の明示事項等が変更され、無期転換ルールに関して、労働条件明示の項目が追加されています。たとえば、無期転換権については、無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時(更新のタイミングごと)に、無期転換申込機会があること及び無期転換後の労働条件について明示しなければならないことが定められています。
本件は、任期法の10年特例が問題になる少し特殊なケースではありましたが、この機会に無期転換ルールや労働条件明示ルールについて改めて注意しておきましょう。 有期雇用契約の締結や更新、雇止めなどについてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。