労働問題

無期転換ルールとは?大学の有期専任教員の雇止め【学校法人羽衣学園事件】

無期転換ルールとは、同一使用者との間で有期労働契約が更新され、通算5年を超えたときには、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換するというルールです。
労働契約法18条1項では、かかる要件を満たす労働者について、「労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」と定められているため、従業員が無期転換の申込みをした場合に拒絶することはできません。

他方で、同項は、「労働者が・・・申込みをしたときは」と規定していることから、労働者は、自らの意思で無期転換権を行使せずに、使用者との間で有期雇用契約を更新することもできます。
しかし、この場合であっても、次の契約期間満了までの間に、労働者には無期転換の申込みをすることは可能であるため、使用者側として「前の更新前に無期転換権を行使しなかったから、無期転換は認めない!」などと拒絶することはできません。

さて、今回は、少し特殊な大学の有期専任教員について、労働契約法18条1項の無期転換ルールが適用されるか否かが争われた事案をご紹介します。

学校法人羽衣学園事件・大阪高裁令和5年1月18日判決

事案の概要

本件は、Xさんが、Y法人が設置するA大学において、有期労働契約を締結して専任教員を務めていたところ、Y法人から期間満了により雇止めされてしまったことから、労働契約法18条1項に基づく無期転換申込みをしたことによってY法人との間に無期労働契約が締結されている等と主張し、Y法人に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金の支払いなどを求めた事案です。

事実の経過

XさんとY法人について

Xさんは、保育士及び介護福祉士等の資格を有し、社会福祉法人での勤務経験があるほか、A大学での勤務と前後して、複数の専門学校及び私立大学等において非常勤講師を務めるなどしていました。
他方で、Y法人は、私立学校法に基づいて設立され、A大学を設置する学校法人でした。
A大学は、平成14年に設立された4年制大学であり、現代社会学部と人間生活学部が置かれ、現代社会学部には現代社会学科及び放送・メディア映像学科が、人間生活学部には人間生活学科及び食物栄養学科が置かれていました。

XさんとY法人との間における労働契約の締結と更新

Xさんは、平成22年4月1日頃、Y法人との間で、契約期間を平成22年4月1日から平成23年3月31日までとし、XさんがA大学に人間生活学科生活福祉コースの非常勤講師として勤務する旨の労働契約を締結しました。
その後、XさんとY法人は、その後、労働契約を2回にわたり更新しました(更新後の契約期間は、平成23年4月1日から平成24年3月31日までの間と平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間)。

専任教員としての契約

Y法人は、平成24年12月、人間生活学科生活福祉コースの専任教員の退職に伴い、その後任となる教員を募集することとし、下記の記載がある「A大学人間生活学部 専任教員公募 募集要領」を発出しました。
これに基づき、Xさんは、平成25年3月4日、Y法人との間で、契約期間を平成25年4月1日から平成28年3月31日までの3年間とし、Xさんが人間生活学科生活福祉コースの専任教員として勤務する旨の本件労働契約を締結しました。

契約書の内容

XさんとY法人は、平成25年3月4日、本件労働契約に係る契約書を作成したところ、この契約書には、

・「契約期間」として、Y法人がXさんを「A大学の専任教員(専任講師)として雇用する。雇用期間は、平成25年4月1日から平成28年3月31日までの3年間とする。」との約定(同契約書1条)
・「契約の終了等」として、「本契約は、第1条に定める雇用期間満了をもって終了するものとする。」

との約定(同契約書7条)がそれぞれ置かれていました。

辞令書の交付

そして、Y法人は、平成25年4月1日、Xさんに対し、下記の記載がある辞令書を交付しました。

本件労働契約の更新

その後、XさんとY法人は、平成28年4月1日頃、本件労働契約を更新しました。
また、Y法人は、平成28年4月1日頃、Xさんに対し、下記の記載がある辞令書を交付しました。

加えて、XさんとY法人は、平成28年4月25日、本件労働契約の更新に係る契約書も作成していました。

この契約書には、

・「契約期間」として、Y法人がXさんを「A大学の専任教員(専任講師)として雇用する。
・雇用期間は、平成28年4月1日から平成31年3月31日までの3年間とする。」との約定(同契約書1条)
・「契約の終了等」として、「本契約は、採用時の公募要領に記載さている再任の1回目にあたり、再任は1回となっていることから、第1条に定める雇用期間満了をもって終了する。」との約定(同契約書7条)

がそれぞれ置かれていました。

本件雇止め

Y法人は、平成29年度以降、人間生活学科生活福祉コースの学生募集(平成29年4月1日以降入学の学生募集)を停止しました。
そして、Y法人は、平成30年9月25日、Xさんに対し、本件労働契約を更新せず、平成31年3月31日をもって本件労働契約は終了とする旨告知しました。

Xさんは、平成30年11月4日、Y法人に対し、次期の本件労働契約の更新に際して無期労働契約への移行を申し入れる旨記載した書面を送付して、本件無期転換申込みをしましたが、これに対して、Y法人は、平成31年3月31日、Xさんに対し、同日付けの任期満了により職を免ずる旨の辞令書及び退職金を支給する旨の辞令書をそれぞれ交付するとともに、同日をもって、契約期間満了により本件労働契約が終了した旨の扱い(本件雇止め)をしました。

なお、Y法人は、令和2年9月30日、在籍していた学生の卒業をもって、人間生活学科生活福祉コースを閉鎖しました。

訴えの提起

そこで、Xさんは、複数ある有期労働契約の通算期間が5年を超えており、Xさんが労働契約法18条1項に基づく無期転換申込みをしたことにより、Y法人との間の無期労働契約が締結されたなどと主張し、Y法人に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金の支払いなどを求める訴えを提起しました。

争点

本件では、XさんとY法人との間の本件労働契約について、「大学の教員等の任期に関する法律」7条1項が適用される結果、無期転換権の発生までの通算契約期間が10年を超えることを要する(10年特例)が適用されるか否かが主な争点となりました。

大学の教員等の任期に関する法律

第4条 任命権者は、前条第一項の教員の任期に関する規則が定められている大学について、教育公務員特例法第十条第一項の規定に基づきその教員を任用する場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、任期を定めることができる。
 先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき。
 助教の職に就けるとき。
 大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職に就けるとき。
 任命権者は、前項の規定により任期を定めて教員を任用する場合には、当該任用される者の同意を得なければならない。

第7条(労働契約法の特例) 第五条第一項(前条において準用する場合を含む。)の規定による任期の定めがある労働契約を締結した教員等の当該労働契約に係る労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十八条第一項の規定の適用については、同項中「五年」とあるのは、「十年」とする。
2 前項の教員等のうち大学に在学している間に国立大学法人、公立大学法人若しくは学校法人又は大学共同利用機関法人等との間で期間の定めのある労働契約(当該労働契約の期間のうちに大学に在学している期間を含むものに限る。)を締結していた者の同項の労働契約に係る労働契約法第十八条第一項の規定の適用については、当該大学に在学している期間は、同項に規定する通算契約期間に算入しない。

大学の教員等の任期に関する法律

本判決の要旨

大学教員任期法と労働契約法18条1項の関係

大学教員任期法は、国立又は公立の大学の常勤の教員について、4条1項各号のいずれかに該当する場合、任期を定めて任用できることとする例外規定を創設し、私立大学の教員については、同項各号のいずれかに該当する場合、労働契約において任期を定めることについて合理性があることを法律上明確にする趣旨で制定された(…したがって、同項各号に該当する場合にのみ労働契約によって任期を定め得るというわけではない。)。その後、平成25年の法改正により労働契約法18条1項(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)の特例として大学教員任期法に7条が追加され、4条1項各号のいずれかに該当するとして任期が定められた労働契約(大学教員任期法5条1項)について、労働契約法18条1項所定の通算契約期間を5年から10年とすることとされた。国公立大学、私立大学のいずれにおいても、大学教員任期法4条1項各号は、例外を認める要件を定めていることになる。

大学教員任期法4条1項1号について

判断枠組み

本件では、本件講師職が大学教員任期法4条1項1号にいう教育研究の職に該当するかが問題となる。
同号は、「先端的、学際的又は総合的な教育研究であること」を挙げているが、文理上、これは例示であり、いずれにしても当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ、多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職であることが必要である(流動型)。そして、大学教員任期法4条1項が、私立大学については、任期を定めることが合理的な類型であることを明確にする趣旨で立法され、その後、労働契約法18条1項所定の通算契約期間を伸張するための要件とされていることを考慮すると、上記の教育研究の職に該当すると評価すべきことが、例示されている「先端的、学際的又は総合的な教育研究であること」を示す事実と同様に、具体的事実によって根拠付けられていると客観的に判断し得ることを要すると解すべきである(…)。
本件講師職がこのような教育研究の職といえるか、本件講師職の募集経緯や職務内容に照らし、検討する。

本件講師職が大学教員任期法4条1項1号に該当するか

(…)本件講師職の募集の目的は、A大学において介護福祉士の養成課程を維持するため、それに必要な経歴及び資格等を有する人材を募集することにあったと認められる。
そして、本件講師職への応募資格としての実務経験は、かかる養成課程の担当教員につき厚生労働省が指定しているために求められており、人材交流の促進や実践的な教育研究のために実務経験を有する人材が求められていたものではない。同課程には介護系領域の専任教員を置くことが求められており、そのような教員を安定的に確保することがむしろ望ましいといえ、本件講師職に就く者を定期的に入れ替えて、新しい実務知識を導入することを必要とする等、本件講師職を任期制とすることが職の性質上、合理的といえるほどの具体的事情は認められない(…)。

Xさんが担当していた授業の大半は、介護福祉士養成課程のカリキュラムに属するものであり、その内容は、介護福祉士としての基本的な知識や技術を教授し、実際の福祉施設における介護実習に向けた指導を行い、また、国家試験の受験対策をさせるものであった。
これらの授業内容に照らすと、本件講師職について、実社会における経験を生かした実践的な教育という側面は存在するものの、それは、飽くまでも介護福祉士の養成という目的のためのものであり、介護分野以外の広範囲の学問分野に関する知識経験が必要とはされていない。また、国家試験の受験対策においては、研究という側面は乏しい。

小括

以上によれば、本件講師職の募集経緯や職務内容に照らすと、実社会における経験を生かした実践的な教育研究等を推進するため、絶えず大学以外から人材を確保する必要があるなどということはできず、また、「研究」という側面は乏しく、多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職に該当するということはできない。

本件講師職が大学教員任期法4条1項3号に該当するか

Y法人は、本件講師職が大学教員任期法4条1項3号に該当すると主張する(…)。
しかしながら、同号にいう、大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて行う教育研究とは、控訴人Xが主張するとおり、いわゆるプロジェクト研究、時限研究をいうと解され、被控訴人学園が主張するような、数年先に学生募集を停止するといったような専ら大学経営上の計画に基づき期間を定める教育研究は同号に含まれないと解される。
したがって、本件講師職は大学教員任期法4条1項3号に該当しない(…)。

まとめ

以上の検討によれば、本件労働契約に10年特例の適用があるということはできない。そして、これにより、本件雇止めの時点において本件労働契約は既に無期雇用契約に転換していたことになるから、(…)XさんはY法人との間で労働契約上の地位を有する。

結論

裁判所は、以上の検討より、本件労働契約に大学教育任期法の定める10年特例の適用はないとして、労働契約法18条1項に基づく無期転換が認められるとして、XさんはY法人における労働契約上の地位等を有すると判断しました。

ポイント

本件は、Y法人との間で有期労働契約を締結し、専任教員として勤務していたXさんが、Y法人から期間満了により雇止めされてしまったことから、労働契約法18条1項に基づく無期転換申込みをしたことによりY法人との間に無期労働契約が締結されているなどと主張し、Y法人に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認などを求めた事案でした。

これに対して、Y法人は、Xさんは、労働契約法18条1項の特例である大学教員任期法7条1項が適用され、無期転換権の発生までの通算契約期間は10年を超えることを要すること(10年特例)から、Xさんには未だ無期転換権が発生していないと主張していました。

もっとも、裁判所は、大学教員任期法4条1項各号が10年特例を認める要件を定めているところ、同項1号該当性については、「当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ、多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職にあることが必要」であり、それが「具体的事実によって根拠付けられていると客観的に判断し得ることを要する」と判断しました。
そのうえで、Xさんが就いていた本件講師職について具阿的に検討し、本件講師職が「多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職」とはいえないとしています。

本来、無期転換ルールは、無期転換ルールは、有期雇用契約の形態で働く労働者が、期間の定めなく働き続けられるように規定されたものであり、本判決は、かかる観点から10年特例について厳格に解釈しているものと考えられます。

弁護士にもご相談ください

労働基準法施行規則と有機労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準が改正に伴い、本年4月1日から、労働条件の明示事項等が義務づけられました。
たとえば、無期転換権については、無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時(更新のタイミングごと)に、無期転換申込機会があること及び無期転換後の労働条件について明示しなければならないことが定められています。
この他にも気をつけなければならない点はたくさんありますので、詳しくは、こちらをご覧ください。

また、有期雇用契約の締結や更新、雇止めなどについてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。