労働問題

契約更新後の雇止め【学校法人玉手山学園(関西福祉科学大学)事件】

教育現場では、多くの非常勤講師が採用されています。
非常勤講師の雇用形態は、期間の定めのある労働契約(有期雇用契約)であるため、特に年度末に契約更新をしないと判断する学校法人が多いのが実態です。
たしかに雇用契約にも契約自由の原則が適用されるため、労使間の合意によって契約を終了することはできます。

しかし、契約が更新されている場合には、労働者側に契約更新に対する期待も高まります。
そこで、労働契約法19条は、かかる労働者の期待を保護するために、「雇止め法理」を規定し、雇止めについても解雇に準じて考えることにしています。

具体的には、

①次のいずれかに該当し(労働契約法19条1号or2号)

・有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあり、契約期間満了時に当該有期労働契約をせずに終了させることが、無期雇用契約を終了させる(解雇)と社会通念上同視できること(1号)
・契約期間満了時に、当該労働者が契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があること(2号)

②労働者が、有期労働契約の期間が満了する前または期間満了後遅滞なく、有期労働契約の締結を申し込んだときであって

③使用者が、②の申し込みを拒否することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない場合

には、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働者申込みを承諾したものとみなされます。

さて、今回は、過去数回にわたり契約更新がされてきた大学の非常勤講師が、勤務状況に問題がなかったにもかかわらず雇止めされてしまったことから、大学側を訴えた事案をご紹介します。

学校法人玉手山学園(関西福祉科学大学)事件・京都地裁令和5年5月19日判決

事案の概要

本件は、平成28年4月に、Y法人との間で、Y法人が運営するA大学において英語科目を担当する非常勤講師としての期間1年間の有期労働契約を締結し、その後、平成29年4月から令和2年4月まで4回にわたって契約更新を重ねてきたXさんが、勤務状況に全く問題がないにもかかわらず、Y法人が令和2年12月に次年度は契約を更新しないとの雇止めをしたのは労働契約法19条に違反し無効であると主張して、労働契約に基づき、Y法人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金等の支払いなどを求めた事案です。

事実の経過

XさんとY法人の労働契約の締結

Y法人は、A大学やB短期大学などを運営していました。

A大学は、平成28年度の授業編制において、従前学科別に編制していた英語コミュニケーションの授業を、英語のテスト結果に基づく能力別の編制とし、かつ、共通授業とすることによって、学生の英語能力に応じた授業を展開し、その教育効果を高めることにしました。
そのため、従前合計17授業であった英語コミュニケーションⅠ及びⅡの授業を、合計25授業に増やさなければならなくなりましたが、既存の教職員のみによる対応が困難だったことから、非常勤講師を募集することになりました。

そして、公募による採用手続を経て、Xさんを含む2名の非常勤講師を採用しました。
これにより、平成28年4月1日、Xさんは、Y法人との間で、期間を同日から平成29年3月31日までとし、A大学において、英語コミュニケーションⅠないしⅣという科目を担当する非常勤講師として勤務する労働契約を締結しました。

契約の更新に関する就業規則及び労働条件通知書の定め

Y法人の非常勤講師就業規則には、「第5条(労働契約の期間)」として、次の規定があり、XさんとY法人との間の本件労働契約の労働条件通知書にも、「更新の有無」欄に、第1項ただし書以下と同様の記載がありました。

A大学における契約の更新手続

A大学における契約の更新手続は次のとおりでした。

・A大学は、春学期後の8月頃の、次年度の授業編制を検討する時期に、非常勤講師について、次年度も担当することが適切かについて協議、検討し、適切と判断した者に対してのみ、次年度出講希望調査を送付する。
・その後、提出された次年度出講希望調査を基に、個別に出講希望の時間帯を確認し、その希望を授業編制に反映していく。
・最終的に、採用時と同様に、労働条件通知書を交付し、内容確認の上、署名・押印するよう依頼し、署名・押印された労働条件通知書の提出をさせる。

この手続に基づき、XさんとY法人は、平成29年4月、平成30年4月、平成31年4月及び令和2年4月にそれぞれ契約を更新していました。

Xさんの勤務状況と成績評価

Xさんは、毎週水曜日と金曜日に各5ないし6コマの授業を15回担当し、試験を行い、成績評価もしていました。

XさんのA大学における勤務1年目である平成28年度は、英語コミュニケーションⅠないしⅣには、60点以上が合格という以外には、定まった採点基準や評価項目がなく、授業を担当する講師の裁量に委ねられていたため、Xさんは、きちんと授業に出席している学生はできるだけ合格させたいとの思いから、出席数を評価に含め(全評価の40パーセント分)、授業態度点も全評価の20パーセント分を与えていました。

もっとも、勤務2年目からは、A大学が文部科学省の指導に沿って評価項目と評価割合を設定し、授業中に実施の小テスト・提出物が全評価の30パーセント分、授業貢献度が全評価の20パーセント分、2回の筆記試験が全評価の50パーセント分とされたため、その後はXさんが裁量により甘く評価することもできるのは、全評価の20パーセント分を占める授業貢献度のみとなりました。
その結果、Xさんは、大半の学生に18点ないし20点を与えていたものの、残りの80パーセント分を占める試験や課題については、正解・不正解が裁量の余地なく決まることから、Xさんは、機械的に採点するほかなく、結果的に59点以下になった学生は不合格とし、そのまま最終成績として報告していました。

A大学の学生の状況

英語コミュニケーションⅠないしⅣの担当者は、A大学の教務部から、授業で使用する教科書の指定を受け、また、本件留意点ペーパーにより、教科書を中心に授業をすることを求められていました。

Xさんは、担当をしたクラスの試験で、教科書の例文をそのまま出題していたところ、それ以上難易度を下げることはできないという問題でも、ほとんどの学生は得点できていませんでした。
Xさんとしては、教科書が少し難しすぎると理解していたものの、指定された教科書に基づいて授業をしている以上、教科書を離れてレベルを下げた問題を出題したのでは、教科書に基づいた授業をしている意味がなくなり、妥当でないと考えたことから、問題のレベルを落とすことはできず、教科書のレベルから大きくはかけ離れない程度の問題を作らざるを得ない状況でした。

なお、Xさん以外の非常勤講師の中には、A大学が設定した評価割合を守らず、本来であれば不合格になるはずの学生を独自の裁量で合格にしたり、数値を改ざんしたりする者もいました。
他方で、Xさんは、最終的な成績評価において、試験や課題のそのままの点数ではなく、最も得点の高かった学生が満点になるように評点を底上げすることにより、少しでも救済できるような工夫をしていました。

Y法人による雇止め

そのような中、平成30年度春学期に、2名の学生が、Xさんについて、直接教務部に対して相談を申し出てきたことがありました。また、令和元年度以降には、複数のアカデミック・アドバイザー教員及び教務主任から、Xさんの授業に対する担当教員交代の申出等の相談がありました。
そこで、令和2年8月から9月にかけて、原告の令和2年度春学期の成績評価及び不合格率並びに本件アンケートの評価結果を踏まえ、共通教育センター長、教務部長をはじめ、関係教職員が複数回、原告が非常勤講師として適切かについて協議、検討することになりました。その結果、A大学では、同年9月下旬頃までに、Xさんについて次年度には契約更新は行わない方向で進めることになり、学長判断により、令和3年度以降の雇止めが決定されました。

雇止めの通知

そして、令和2年9月25日、C教務課長は、Xさんの授業を履修する学生からの成績に関する疑義照会の申出について、Xさんと協議をした後、Xさんに対し、次年度は契約更新を行わない方針となっている旨口頭で伝えました。

また、令和2年12月11日、教務部長及びC教務課長はXさんと面談をし、教務部長は、Xさんに対し、本件雇止めについて改めて伝えました。

なお、Xさんは、本件雇止めの話が出るまで、成績評価の方法や不合格率について、A大学から助言や指導を受けたことは一切なく、A大学が本件アンケートの評価結果について、非常勤講師に対し、何らかの指導をするということは一切ありませんでした。

訴えの提起

そこで、Xさんは、勤務状況に全く問題がないにもかかわらず、Y法人が令和2年12月に次年度は契約を更新しないとの雇止めをしたのは労働契約法19条に違反し無効であると主張して、労働契約に基づき、Y法人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金等の支払いなどを求める訴えを提起しました。

争点

本件では、本件雇止めが労働契約法19条に違反し無効か否かが主要な争点となりました。

本判決の要旨

本件労働契約の更新に対する合理的期待の有無について

Y法人は、Xさんには、そもそも、本件労働契約の更新に対する期待について合理的な理由が認められないと主張するので、この点について検討する。

前記前提事実(…)のとおり、本件就業規則5条1項には、学園の財政状況、業務遂行状況、勤務状況、健康状態及び教育課程編成の動向等の理由で契約更新を行わない場合がある旨明記されており、Xさんも、契約更新の都度、労働条件通知書にも記載された同内容を認識していたはずであること(…)本件労働契約は4回更新されたにすぎないことからすれば、Xさんの本件労働契約の更新に対する合理的期待の程度が高いとは認められない。
もっとも、(…)Xさんが担当する英語コミュニケーションⅠないしⅣという科目は、一般的に大学において第一外国語として履修対象とされることが多い英語についての科目であって、しかも、A大学においては、学生の1年次及び2年次の必修科目とされているのであるから、仮に将来的に学園の財政状況上・教育課程編成上の問題が発生する事態になったとしても、開講されるコマ数が大幅に減らされるようなことが起こるとは容易には考え難い科目であること、(…)Xさんは学期ごとに安定的に5ないし6コマを担当してきたことからすれば、恒常性のある業務ということもできなくはないから、4回にわたり契約更新されたXさんが、雇用継続に対する期待を抱いても不思議はないのであって、上記のとおり、程度が高いとまではいえないものの、Xさんが契約更新されると期待することについて、一定程度の合理性は認められるということができる。

そこで、かかる期待の程度を踏まえて、本件雇止めの肯否について判断する。

 本件雇止めの客観的合理的理由及び社会的相当性の有無について

本件アンケートの評価結果について

Y法人は、本件雇止めの理由として、本件アンケートのうち教員評価の設問についてのXさんに対する評価結果が、いずれの項目においても、Xさんを除く他の教員と比べて大きく下回っていること、本件アンケートのXさんに対する評価結果が、令和元年度春・秋学期と令和2年度春学期を比べた場合に、いずれの項目についても大きく悪化していることを挙げる。

しかしながら、本件アンケートの評価結果は、そもそも、どこまで学生の真摯な意見が反映されているのかという点や、それにより教員の指導能力や勤務態度の良し悪しを判定することができるのかという点が、それらを担保する仕組みが設けられていないこともあって、必ずしも明らかでないことを指摘せざるを得ない。
また、(…)令和2年度春学期における本件アンケートのXさんに対する評価結果が、いずれの項目ついても、令和元年度春・秋学期と比べて0.35ポイントから0.62ポイント悪化していることは認められるものの、全ての項目について「大きく」悪化しているとまでいうことはできず、また、令和2年度春学期におけるXさんに対する評価結果だけをみれば、1つの項目を除いて、中間の評価である3ポイント(…)は超えているのであるから、これをもって、Xさんに対して不利益な評価をすることの妥当性も疑問である。

よって、この点に関するY法人の主張を採用することはできない。

成績評価について

Y法人は、本件雇止めの理由として、Xさんが、本件留意点ペーパーの内容及び趣旨を理解していないため、他の非常勤講師と比べて、学生の英語能力向上に資する授業を実施できておらず、平成29年度から令和2年度までの不合格率の平均が高水準にあると主張する。

しかしながら、(…)Xさんは、本件留意点ペーパーの内容及び趣旨を理解していないどころか、むしろ、本件留意点ペーパーに忠実に従ったために、他の非常勤講師より多数の不合格者を出したものと認めるのが相当である。また、(…)Xさんの授業を受講する学生の不合格率は、最大でも20パーセント弱であって、必ずしも多すぎるということもできない(…)。

よって、この点に関するY法人の主張を採用することはできない。

まとめ

上記(…)における判示のとおり、Xさんが契約更新されると期待することについて、一定程度の合理性が認められるにとどまるものの、(…)Y法人が挙げる本件雇止めの理由は全く採用することができないから、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできないというべきである。
よって、労働契約法19条2号に基づき、XさんとY法人との間では令和3年4月1日以降も本件労働契約が継続していることになり、XさんはY法人に対し労働契約上の地位を有する。

結論

裁判所は、以上の検討から、Y法人によるXさん雇止めは無効であり、Xさんは令和3年4月1日以降も本件大学の非常勤講師としての身分を有しているとして、XさんはY法人に対して、同年4月分以降の賃金の支払を求めることができると判断しました。

ポイント

本件は、平成28年4月に、Y法人との間で、Y法人が運営するA大学において英語科目を担当する非常勤講師としての期間1年間の有期労働契約を締結して以来、4回にわたって契約更新を重ねてきたXさんが、勤務状況に全く問題がないにもかかわらず、Y法人が令和2年12月に次年度は契約を更新しないとの雇止めをしたのは労働契約法19条に違反し無効であると主張して、労働契約に基づき、Y法人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金等の支払いなどを求めた事案でした。

裁判所は、まず①労働契約の更新に対する合理的期待の有無について、就業規則には契約更新を行わない場合がある旨明記されており、Xさんも、契約更新の都度、労働条件通知書からこのことを認識していたはずであること、本件労働契約は4回更新されたにすぎないことから、Xさんの本件労働契約の更新に対する合理的期待の程度が高いとは認められないとしつつも、Xさんが教えていたのが、一般的に大学で第一外国語として履修対象とされることが多い英語についての科目であり、学生の1年次及び2年次の必修科目とされていたことなどを指摘し、恒常性のある業務ということもできなくはないから、4回にわたり契約更新されたXさんが契約更新されると期待することについて、一定程度の合理性は認められるとしています。

また、②雇止めの客観的合理的理由及び社会的相当性の有無について、Y法人の主張する雇止めの理由は全く採用できず、本件雇止めは客観的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできないとしています。

本判決では、本件雇止めについて、Y法人において無期労働契約への転換権の行使を阻止する意図があったとは認められないとして、不法行為の成立までは認められないとされていますが、事案よっては雇止めが無効と判断される場合、慰謝料等の請求も認められる場合があります。
このように雇止めの有効性が争われる場合には、使用者側にはさまざまなリスクが生じ得ることから、雇止めをする場合には特に慎重に判断する必要があります。

弁護士にもご相談ください

本件は学校法人の非常勤講師の雇止めをめぐる問題でしたが、学校法人に限らず、近年では、雇止めの有効性が争われる事案が増えています。
雇止めの適否の判断には、契約締結時の労働条件や実際の勤務状況、契約更新の有無、更新の数、雇止め予告の有無や期間、雇止めの実質的な理由などさまざまな事情が総合的に考慮されることになることから、雇止めを検討する場合には、これらの事情を丁寧に考えていく必要があります。

有期労働契約については、雇止めの問題のほかにも、近年施行されたばかりの雇用条件の明示ルールや無期転換権をめぐる問題などさまざまな問題があります。
有期労働契約に関してお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。