労働問題

休憩時間や仮眠時間は労働時間?【千代田石油商事事件】

神奈川県で24時間稼働の工場を経営しています。今回、退職した元従業員から未払い残業代を請求されました。当社は宿直勤務もありますが、休憩時間や仮眠時間はしっかり確保していると考えています。こうした時間は労働時間に含まれないのではないでしょうか。
労働時間に含まれるかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価することができるか否かで決まります。労働から離れることが保障されていると評価されれば、労働時間に含まれないということができます。

労働時間とは

労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。
労働時間については、労働基準法第32条1項において、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。」と定められ、同条2項において、「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。」と定められています。
すなわち、労働者が、使用者の指揮命令の下で仕事を開始した時間から仕事を終えた時間から、休憩時間を差し引いた時間が「労働時間」に当たるのです。

そして、休憩時間については、労働基準法第34条1項において、「使用者が労働時間が6時間を超える場合には、少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩を与えること」と定められています。
また、使用者は、休憩時間を原則として、「一斉に与えなければならない」(同条2項本文)ほか、「自由に利用させなければ」なりません同条3項)。

したがって、使用者としては、休憩時間が、労働者が自由に利用できる時間であり、かつ、使用者の指揮監督下に置かれていない状態であるものであることを意識する必要があります。

さて、今回は、そんな休憩時間と仮眠時間の労働時間該当性が問題となった事案をご紹介します。

千代田石油商事事件・東京地裁令和3.2.28判決

事案の概要

本件は、Y社の従業員であるXさんが、平成29年1月から平成30年3月までの間、時間外、深夜・休日労働に従事したところ、時間外労働にかかる割増賃金に未払いがあるなどとして、Y社に対し、未払い残業代等の支払いを求めた事案です。

事実の経過

XさんとY社の関係

Y社は、液化天然ガス及び液化石油ガスの輸入に伴う受渡代行業務等を業とする会社でした。本件当時、Y社は、労働基準法138条所定の中小事業主に該当していました。
他方、Xさんは、Y社との間で雇用契約を締結し、平成2年4月1日から、Y社において勤務していました。
また、Xさんは、本件当時、液化天然ガスを取り扱うガス部において、次長の地位にありました。

液化天然ガスに関するY社の業務

Y社の業務

液化天然ガスに関するY社の業務は、大型タンカーに積荷された液化天然ガスを日本の受入基地において搬入する際、安全かつスムーズにその受け渡しが行われるようコーディネート等を行う荷役立会業務というものでした(本船業務/本船勤務ともいう)。
具体的には、受入基地、供給者及び船会社との事前確認作業、初入港船にあっては受入基地との整合性確認作業の準備や官公庁への提出書面の作成補助、荷役手順の確認及び船陸間のコミュニケーションのコーディネート、その他取引数量の照合や税関対応等の業務が、依頼会社との契約内容に基づき全部または一部は行われていました。

本船業務とは

本船業務には、①マニホールド業務と②CCR業務がありました。

①マニホールド業務とは

マニホールド業務とは、液化天然ガスを受け入れるアーム接続部分の付近での業務であり、アーム接続からカーゴポンプ起動まで及びカーゴポンプ停止からアーム接離までの業務がありました。

②CCR業務とは

CCR業務とは、カーゴポンプ起動後、ポンプ停止に至るまでの定常荷役といわれる間の業務であり、CCR内に待機して、正常に記録された揚荷流量や各タンク液面計計測値、タンクの液温度、ガス温度、圧力、液ライン圧力、荷役終了見込み時間などを受入基地側の担当者に連絡したり、そのほか係留側の調整がある場合に、受入基地側の担当者と連絡をする業務などが含まれていました。

業務の担当体制

本船業務が夜通し行われる業務であったこともあり、Y社において、本船業務は、2、3名体制で行われるのが通例的でした。
もっとも、Y社とY社への依頼会社との間の契約において、CCR業務に従事しないと定められている場合もあり、そのような場合を念頭に、1名体制で行われることもありました。

休憩、仮眠時間

本船業務を行うに当たって、Y社は6時間以上は休憩を取るように指導をしており、複数名で本船業務に当たる場合、本船業務に従事するY社の担当者は、マニホールド業務及びCCR業務の間に交代で取る休憩、仮眠時間を各人で割り振ったシフトにより決定し、これを取得していました。
他方、本船業務が1名体制で行われる場合は通例、定常荷役の状態となっているCCR業務の時間に休憩、仮眠時間を当てていました。
本船業務において、同業務に当たるY社の従業員が休憩、仮眠を取る場合、基本的には、本船あるいは基地から船室や控室が提供されていました。

夜通しの仕事ですから、休憩6時間や仮眠はしっかり取ってくださいね!

Y社
Y社

本船業務におけるトラブルの発生頻度等について

トラブルの発生状況

Y社の液化天然ガス輸入の取扱実績は、平成29年度は368隻、平成30年度は289隻であったところ、緊急対応が必要となった大きなトラブル事象が生じた回数は1回でした。
Y社は、顧客会社に対し、平成29年度に生じた本船業務に係るトラブル事象について報告しているところ、これによれば、取扱いのあった140隻のうち70件のトラブルがあったものとされていた。
ただし、これらトラブル事象の多くは、入港前の事象やマニホールド業務中の発生事象で、定常荷役中の発生事象は8件(5.7%)にとどまっていました(なお、これら発生事象において、休憩、仮眠中のY社の従業員までもが対応を余儀なくされていたことを裏付ける的確な証拠はない。)。

Xさんの勤務期間中のトラブル

そして、Xさんが本件請求期間中に本船業務に従事した回数は55回(桟橋補助業務4回を除くと51回)であったところ、トラブル事象は22件生じていました。
定常荷役中の発生事象は4件で、仮眠中の者がいる際の発生事象は2回(3.6%)でした。(なお、これら発生事象において、Xさんを含め、休憩、仮眠中の従業員までもが対応を余儀なくされたことを裏付ける的確な証拠はない。)。

Y社における本船勤務に関する労働時間管理等の経過

割増賃金の支給

Y社は、かつては、本船勤務時の時間外労働等に係る割増賃金を勤務時間に応じて計算して支払っていましたが、平成17年7月からは、本船勤務時の時間外労働等に係る割増賃金を本船手当という手当で固定額により支給するようになりました。
もっとも、Y社は、その後、勤務時間に応じた処遇を徹底することとし、本船手当による支払も本件請求期間後の平成30年4月より就業規則及び賃金規程の変更に伴って廃止され、同月以降は、勤務時間を基礎として計算された割増賃金額が支給されるようになりました。

勤怠管理表の提出

また、平成29年8月以降、Y社は、Xさんを含むガス部の従業員に対し、各月毎に、各本船勤務日の始業・就業時間、休憩時間、本船勤務日に当たる日である場合においてはその旨等の事由を時間管理表に記入させ、また、本船勤務日にあっては、始業・終業時間とともに具体的な休憩・仮眠時間の開始・終了時刻及び時間等を、各本船勤務の度毎に本船立会勤怠管理表に記入させ、これらの提出を受けるようになりました。

なお、こうした管理が行われるようになる前は、時間管理表や本船立会勤怠管理表の作成は行われていなかったが、Xさんは、本件請求期間中の本船勤務日の始業・終業時刻に関して、Y社が作成していた出勤届の書式に、各本船勤務日の始業・終業時刻(ただし、所定就業時間外の時間帯に係る時刻)を記入していました。

欠勤に関する取扱い

Y社のガス部においては、石油部におけるのと異なり、同部所属の従業員が本船勤務明けの勤務日に就労することが必ずしも徹底されておらず、出社をしなくても、これを欠勤として扱わない扱いがされることがありました(平成30年4月以降は、かかる取扱いを認めていない。)。

XさんとY社の紛争経過

Xさんは、平成28年、Y社を相手方として、平成26年3月から平成28年12月までの間の時間外労働等にかかる割増賃金の支払いを求める労働審判を申し立てました。
平成29年1月24日、XさんとY社は、Y社が解決金として250万円を支払、Y社が残業代を含めた給与体系の見直しの方向性について同年8月末日を目途に検討するよう努力することなどを内容とする調停を成立させました。

本件訴えの提起

その後、Xさんは、Y社に対して、平成29年1月から平成30年3月までの間、時間外、深夜・休日労働に従事していたところ、時間外労働等にかかる割増賃金に未払いがあるなどとして、Y社に対し、未払残業代などの支払いを求める訴えを提起しました。

争点

本件では、本船勤務日における休憩、仮眠時間が労働時間にあたるか否かなどが争点となりました。

本判決の要旨

労働時間とは

労基法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間(以下「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである(最高裁判所平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)。そして、不活動時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって、不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である(最高裁判所平成14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号361頁同裁判所平成19年10月19日第二小法廷判決・民集61巻7号2555頁参照)。

労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価されるかどうかが基準になります

裁判所
裁判所

Xさんの本船勤務日の休憩、仮眠時間について

そして、以上の理は、本件雇用契約における労働時間該当性の判断においてもこれを異にして解すべき理由はない。そこで、本件につき、Xさんが本船勤務日の休憩、仮眠時間において役務の提供をすることが義務付けられていたと評価されるか否かについてみると、以下のとおりである。

本船業務の担当体制

前記認定事実によれば、Y社においては、本船業務を一人又は2、3名程度の複数名で執り行っていたものであるところ、シフト等により休憩、仮眠時間が割り当てられ、これをとるものとされていたものである(…)。この間、Xさんを含め、休憩、仮眠時間を取っていたY社の従業員が即時の対応を義務付けられていたことを裏付ける的確な証拠はない(…)。

トラブルの発生状況

トラブル発生の頻度をみても、緊急対応が必要となった大きなトラブル事象は657隻の取扱い中、1件にとどまっている上(…)、これ以外のトラブル事象をみても、多くは入港前やマニホールド業務時間中の発生事象で、かかる時間帯における休憩時間にあって、XさんやY社従業員が、休憩をしていない従業員に代わり、即時の対応を余儀なくされたというような事実は認め難い。
CCR業務(定常荷役中)のトラブル事象に至ってはトラブルの発生頻度自体も低く(…)、やはり、休憩や仮眠に当たっていない従業員が、これに当たっている従業員に代わって、即時の対応を余儀なくされたというような事実は認め難い。
むしろ、証拠(…)より窺われる時間管理後のXさんの休憩、仮眠時間の取得状況に照らすと、桟橋補助業務に当たっていたときはともかく、本船勤務日毎に、特段の中断なく、まとまった休憩、仮眠時間をとることができていると認められる。

休憩、仮眠時間の状況

そして、これら休憩、仮眠時間にあっては休憩室等の提供も基本的にはされていたものである(…)。また、夜通しの勤務であることから仮眠時間中に仮眠がしっかりとられるべきということはいえても、休憩、仮眠時間中の過ごし方がY社により決定されていたものとも認められず、その間における場所的移動が禁止されていたとも認め難い(…)。

まとめ

そうすると、休憩、仮眠時間において労働契約上の役務の提供が余儀なくされ、これが義務付けられていたと認めることはできないところであり、労働からの解放が保障されていないものとしてY社の指揮命令下にあったと認めることはできず、他にこの点を認めるに足りる的確な証拠はない(…)。

休憩時間や仮眠時間に、役務の提供が義務付けられていたとはいえませんね

裁判所
裁判所

以上のとおりであるから、前記休憩、仮眠時間が労働時間に該当すると認めることはできない。

(控訴)

解説

どんな事案だったか?

本件は、Y社の従業員であるXさんが、平成29年1月から平成30年3月までの間、時間外、深夜・休日労働に従事したところ、時間外労働にかかる割増賃金に未払いがあるなどとして、Y社に対し、未払い残業代等の支払いを求めた事案でした。

何が問題となったか?

Xさんは、未払い残業代などの支払を求めるにあたり、Xさんには、休憩、仮眠時間も労働契約上の役務の提供が義務付けられていたと言えることから、労働からの解放が保障されていたとはいえず、これらの休憩・仮眠時間も労働時間にあたると主張していました。
そこで、本件では、休憩・仮眠時間が労働時間に該当するか否かが問題となりました。

裁判所の判断

まず、裁判所は、これまでの判例も参照しつつ、休憩や仮眠といった不活動時間であったとしても、「労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれている」ものとして、労働時間に該当すると判断しています。
そして、裁判所は、Xさんが本船勤務日の休憩、仮眠時間において役務の提供をすることが義務付けられていたと評価されるか否かについて、Y社の本船業務の従業員のシフト体制の状況、トラブルの発生と対応の状況、休憩・仮眠時間における過ごし方へのY社の関与の程度などの事情を詳細に検討しています。
その上で、本件において、Xさんの休憩・仮眠時間に労働契約上の役務の提供が余儀なくされ、これが義務付けられていたと認めることはできない、として労働時間には当たらないと判断されています。

➣ポイント②割増賃金算定基礎が夜勤手当の額に求められていること

本件では、Bさんの夜間勤務時間が労働基準法上の労働時間として認められたため、割増賃金の算定基礎額がいくらとなるかが問題となりました。
Bさんは、割増賃金算定の基礎となる賃金単価は、基本給に応じるべきであると主張していました。
もっとも、裁判所は、BさんとC法人との間の雇用契約において、夜勤時間帯について実労働が1時間以内であったときは夜勤手当以外の賃金を支給しないことが定められていたこと、労働密度の程度にかかわらず、日中勤務と同じ賃金単価で計算することは妥当とはいえないことなどを指摘し、割増賃金算定基礎を夜勤手当の額に求めています。
したがって、労働契約の内容(就業規則などの定め方)次第では、割増賃金の算定基礎が基本給ではなく、約定の夜勤手当となる可能性もあります(夜勤手当の額を深夜労働時間で割った額を賃金単価とした例(社会福祉法人A会事件)があります。)。

弁護士にご相談を

近年、休憩時間や仮眠時間、待機時間など、労働者が実作業に従事していない時間帯が、労働基準法32条にいう「労働時間」に該当するか否かが争われるケースが増えています。
実作業に従事していない以上は、会社の指揮監督の下におかれているとはいえず、労働時間に当たらないのではないか?と考えられるかもしれません。

しかし、労働時間に当たるか否かは、“労働者が実際に作業をしているかどうか”という作業ベースに考えられるものではなく、“当該時間においても労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価されるかどうか”、すなわち“労働者が労働から解放されているといえるかどうか”を客観的な事情から判断する必要があります。

夜間勤務時間帯における待機時間や仮眠時間、休憩時間など労働者が実際に作業に従事していない場合であっても、たとえば会社によって決められた場所での待機が求められる、トラブルなどが発生した場合には直ちに対応することが求められているなど、当該時間帯に労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価されるような場合には、労働者は、使用者の指揮命令下に置かれているものとして、当該時間も労働基準法にいう「労働時間」にあたると判断される可能性もあるため、注意が必要です。

弁護士
弁護士

休憩時間は、労働者を「労働から解放」しなければなりません。社長が「休憩中、ちょっとごめんね」といって社員にお願いごとをするのはやめましょう。

割増賃金の請求をめぐる問題や従業員の労働時間についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。