労働問題

試用期間中の解雇は有効か?【北野嘉哉事務所事件】

当社は、川崎市内でコンサル事業を営んでいます。即戦力を期待して中途で採用した社員がおもったようなパフォーマンスを見せてくれず、面接時に強調していた人脈もほとんど持っていないことがわかりました。そこで、試用期間終了後に本採用を見送りたいのですが、注意することはありますか。
試用期間とは、会社側が新入社員を自社の従業員として不適格であると認めたときは、雇用契約を解約できる旨の特約上の解約権が留保された状態のことをいいます。もっとも、解約権の行使がどのような場合でも行使できる訳ではなく、解約につき客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合に制限されると考えられています。
お尋ねの件についても、解約をするのに合理的な理由があるか、解約することが社会通念上相当と言えるかが判断されることになります。
詳しくは企業側労働問題に詳しい弁護士法人ASKにご相談ください。

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試用期間とは?

試用期間とは

試用期間とは、「入社後の社員の能力や勤務態度、健康状態などの適格性を見極めて適切に評価し、当該新入社員を本採用するか否かを決定するための期間」のことです。

少し難しい表現に言い換えると、試用期間は、会社側が新入社員を自社の従業員として不適格であると認めたときは、雇用契約を解約できる旨の特約上の解約権が留保された状態のことを意味します。

試用期間と解雇

解約権が留保されていると聞くと、使用者側がいつでも解約権を行使することができるように感じるかもしれません。
しかし、この解約権の行使は解雇に他なりません。そのため、使用者としては、人を解雇するのだ、という自覚を持って慎重に判断する必要があります。

試用期間中の解雇にはより厳しい要件が

特に、試用期間中の解雇の場合については、裁判所も
「試用期間が経過した時における解約留保条項に基づく解約権の行使が、上記のとおり、解約につき客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当と是認され得る場合に制限されることに照らせば、6か月の試用期間の経過を待たずして(…)行った本件解雇には、より一層高度の合理性と相当性が求められるものというべきである。」
として厳しい要件を示しているところです。
「より一層高度の合理性と相当性が求められる」というのは、試用期間中に従業員を解雇をする場合には、「特段の事情」が必要であり、この特段の事情がない限りは、会社が行った試用期間中の解雇は無効になってしまうということなのです。
「特段の事情」とは、例えば、業務上横領等の犯罪を行ったことや、就業規則に違反する行為を重ねながら反省するところがないこと、重大な経歴詐称がなされたことなどが考えられていますが、相当の事情が求められることがわかるのではないでしょうか。

弁護士にご相談ください

このように試用期間と解雇の問題はとても複雑です。
試用期間をめぐりお悩みがある場合には、弁護士法人ASKにご相談ください。


裁判例のご紹介(北野嘉哉事務所事件・東京地裁令和7年6月13日判決)

さて、今回は、そんな試用期間中の解雇の有効性が争われた裁判例をご紹介します。

*労働判例2025.11.15(No.1338号)60ページ以下参照*

どんな事案?

この事案は、Y社と労働契約を締結していたXさんが、Y社による解雇は無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の地位確認や賃金の支払いなどを求めた事案です。

何が起きた?

Y社について

Y社は、公益財団法人の設立・運営に関する全般的なコンサルティング業を営む会社です。
Y社では、公益財団法人の設立の潜在的な可能性・需要のある者を「エンド」と呼称し、エンドとの信頼関係を有しY社にエンドを紹介する者を「パートナー」と呼称していました。

XさんとY社の労働契約の締結

Xさんは、令和5年4月24日、Y社との間で、業務内容を営業として、次のような内容の労働契約(本件労働契約)を締結しました。

試用期間について

本件労働契約では、3か月の試用期間があり、試用期間内の解雇事由として、
・経営上不測の事態発生があったとき
・業務に適性を欠くと判断したとき
・第3条3項の解雇事由(精神または身体の支障により、業務に耐えられないと認められたとき、業績不良で業務に適さないと認められたとき、欠勤、遅刻が頻発し、業務を十分に遂行しないとき)が認められたとき
が定められていました。

Xさんの解雇

令和5年8月4日、Y社代表者は、Xさんに対し、口頭で、本件労働契約を終了するとの意思表示をしました(本件解雇)。
そして、同月23日、Y社は、Xさんに対し、同年8月分の給与として、労働日数11日に相当する基本給36万6666円(社会保険等控除前)を支払い、同月29日には、解雇予告手当として66万6666円(社会保険等控除前)を支払いました。

訴えの提起

そこで、Xさんは、Y社による解雇は無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の地位確認や賃金の支払いなどを求める訴えを提起しました。

問題になったこと(争点)

この裁判において、Xさんは、Y社による解雇が無効であると主張していたところ、本件解雇は、Xさんの試用期間中に行われたものでした。
そこで、この裁判では、Y社による試用期間中の解雇が有効かどうか?が問題(争点)になりました。


裁判所の判断

この争点について、裁判所は、「解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在するとはいえず、社会通念上相当として是認できるともいえない」として、本件解雇(Y社による試用期間中の解雇)が無効であるとの判断を示しました。(確定)


本判決の要旨

なぜ、裁判所はこのような判断に至ったのでしょうか?
以下では、本判決の要旨をご紹介します。

試用期間中の解雇はどのような場合に許されるのか(判断枠組み)

まず、本件解雇は試用期間中に行われていたことから、裁判所は、試用期間中の解雇が許されるのは、「解約権の留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認され得る場合」に限られるという判断枠組みを示しました。

「本件労働契約及びY社の就業規則には試用期間の定めがあるところ、本件解雇は試用期間中に行われたものであり、Y社代表者も本件解雇に際し試用期間が3か月であることを伝えているから(…)、本件解雇は、Y社に留保された解約権の行使として行われた趣旨と解するのが相当である。そして、このような留保解約権の行使は、解約権の留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されると解するのが相当である(最大判昭和48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁参照)。」

留保解約権の行使に合理的な理由は認められない

▶︎Y社の主張

Y社は、「Y社の営業社員には、これまでの職歴等から、既に富裕層の人脈を持ち、さらなる人脈形成が得意な者であることを求めていたところ、Xさんは、本件名簿を提出して、掲載者と信頼関係があり、営業をかけることができる旨述べたが、実際はそのほとんどが知人ではなく、Xさんには超富裕層を紹介できる人物との人脈などないことが判明したから、留保解約権の行使には合理的理由がある」と主張していました。

▶︎裁判所の判断

しかし、裁判所は、Xさんについて、「従業員として勤務させることが不適格」(就業規則4条2項)であったり、「業務に適性を欠く」(本件労働契約・2条2項2号)ということはできず、留保解約権行使の客観的合理的理由」があるとはいえない、と判断しました。

「(…)Xさんは、二次面接において、本件名簿に掲載された者に対し積極的なアプローチをしていく旨述べているものの(…)、本件名簿の掲載者との関係についてどのような説明をしていたかは、本件全証拠によっても明らかではない。
また、Y社代表者は、Xさんが実際に知人に営業資料を渡したことを確認した後に二次面接を実施した一方で、二次面接においては、本件名簿の掲載者に営業を行うことができるかという質問をするものの、掲載者とXさんとの人的関係については確認していない(…)。
以上によれば、Xさんが、本件名簿の掲載者との間に人的関係がある旨の説明をしたと認めるには足りないし、Y社にとっても、Xさんと本件名簿の掲載者との人的関係の存在及び内容が、本件労働契約を締結する上で必要な条件であったとも認められない(…)。
そうすると、Xさんが富裕層との折衝経験を持っていなかった又は富裕層の人脈を持っていなかったとしても、そのことをもって、「従業員として勤務させることが不適格」(就業規則4条2項)であったり、「業務に適性を欠く」(本件労働契約・2条2項2号)ということはできず、留保解約権行使の客観的合理的理由ということはできない。」

Xさんを「従業員として勤務させることが不適格」であったと認めることもできない

▶︎Y社の主張

また、Y社は、「Xさんが一般の営業担当としての職務遂行能力も不足していた」と主張していました。

▶︎裁判所の判断

しかし、裁判所は、本件の事情に照らして、Xさんが「従業員として勤務させることが不適格」であったと認めることはできないとして、Y社のかかる反論も排斥しました。

「(…)Y社の営業社員の業務はパートナー候補とY社代表者との面談の設定であり、Xさんはパートナー候補との面談を継続的に行っており、1名のパートナー候補とY社代表者との面談も実施されている(…)。そして、Y社の事業内容や営業社員の職務内容(…)に照らして、営業社員が短期間で成果を出すことは困難であることも考慮すれば、Y社が当該パートナー候補を通じてエンドとの契約に至らなかったとしても、そのことをもってXさんが「従業員として勤務させることが不適格」であったと認めることはできない。
Xさんが、営業先等の関係者に対し、顧客情報や、Y社のコンサルティング料や紹介料をメールで送信したことについては(…)、単発の事情であり具体的な損害も認められないから、かかる事情をもって、直ちにXさんが「従業員として勤務させることが不適格」と認めることはできない。

その他のY社の主張も認められない

さらに、Y社は、Xさんについて指導改善の見込みがなかったことなどを主張していましたが、裁判所は、以下のとおり、いずれの主張も採用できないとしています。

「Y社代表者は、Xさんの営業先が誤っているとしてXさんに指導をしており(…)、Xさんが営業を行う相手方の選定について不足を感じていたことが認められる。しかしながら、Y社の指導は営業を行う相手方の属性を指摘するのみで、営業の手法等について具体的な指導を行っているものではないから、かかる指導がされたのみで、今後の指導によっても客観的に改善の見込みがないということはできない。
その他Y社は、営業先からの質問に適切に回答できなかったり、営業先からはひどい営業である旨の指摘を受けていたなど、Xさんの営業活動が不十分であった旨主張するが、いずれも裏付けを欠くものであり、採用することはできない。」

結論(本件解雇は無効)

裁判所は、このような検討を踏まえて、Y社による本件解雇が無効であるとの結論を導きました。

「以上によれば、Xさんが相当額の賃金の支払を受ける中途採用者であることを考慮しても、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在するとはいえず、社会通念上相当として是認できるともいえない。よって、本件解雇は無効である。」

弁護士法人ASKにご相談ください

さて、今回は、試用期間中の解雇の有効性が争われた事案をご紹介しました。
Y社としては、Xさんに対して、営業社員としての人脈などを期待して採用したにもかかわらず、思っていたほどの営業成績が上がってこないではないか!と感じて、Xさんを解雇するという方向に舵をとってしまったのかもしれません。
しかし、解雇の有効性が争われた場合には、会社側において、解雇が有効である根拠を示していかなければなりません。
そのため、会社として従業員の方(試用期間中の方を含む。)の解雇を検討する場合には、慎重に判断することが必要です。
解雇についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。

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