労働組合の運営【総会決議の有効性】
憲法28条では、①団結権、②団体交渉権、③団体行動権が保障されています。
労働組合はこれらの権利を実現する観点から結成される団体であり、厚生労働省によれば「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持・改善や経済的地位の向上を目的として組織する団体」と定義されています。
労働者は、労働組合という形で組織を結成し、団結することによって、会社に対して、賃金や労働時間を含む各労働条件の改善を図っていくのです。
労働組合は、複数の労働者が集いさえすれば結成することができ、許認可や届出を必要としません。
しかし、労働組合も複数の労働者の集合体であり、組織であることから、労働組合法5条2項では、労働組合の規約として、
・労働組合の名称
・組合の主たる事務所の所在地
・組合員が労働組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱を受ける権利を有すること
・組合員は誰であっても、いかなる場合でも、人種、宗教、性別、身分等によって組合員としての資格を奪われないこと。
・役員は、組合員(または代議員)の直接無記名投票により選挙で行うこと
・組合の総会は、少なくとも毎年1回開催すること
・労働組合の財源、使途等の経理状況を示す会計報告については、公認会計士などの監査人の証明とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表すること
・同盟罷業(ストライキ)は、組合員(または代議員)の直接無記名投票により過半数の同意がなければ開始しないこと
・労働組合の規約を改正をする場合は、組合員の直接無記名投票により過半数の支持がなければ行うことができないこと
を定めなければならないとされています。
さて、今回はそんな労働組合の総会決議によって、組合を除名されてしまった組合員が、労働組合の総会決議に瑕疵があると主張して訴えを起こした事案を紹介します。
総会決議不存在確認等請求事件・東京地裁令和6年2月28日判決
事案の概要
本件は、Y労働組合(ユニオン)の総会決議によって除名されてしまったXさんが、Y組合の平成27年から令和5年までの総会決議について、いずれも瑕疵がある旨主張して、Y組合に対し、主位的に不存在であることの確認を、予備的に無効であることの確認を求めた事案です。
事実の経過
XさんとY組合の関係
Y組合は、労働組合法11条によって、法適合組合として労働委員会の証明を受け主たる事務所の所在地において登記して法人となった労働組合でした。
Xさんは、平成28年にY組合の組合員になりました。
Y組合の総会決議
Y組合は、平成27年から令和5年までの間、それぞれ総会決議を行いました。
決議日 | 総会名 | 決議名 |
H27.9.19 | 平成27年度総会 | 平成27年度総会決議 |
H28.9.17 | 平成28年度総会 | 平成28年度総会決議 |
H29.9.16 | 平成29年度総会 | 平成29年度総会決議 |
H30.9.8 | 本件第1次総会 | 本件第1次総会決議 |
R1.6.23 | 本件第2次総会 | 本件第2次総会決議 |
R1.9.15 | 本件第3次総会 | 本件第3次総会決議 |
R2.9.12 | 本件第4次総会 | 本件第4次総会決議 |
R3.9.11 | 本件第5次総会 | 本件第5次総会決議 |
R4.9.10 | 本件第6次総会 | 本件第6次総会決議 |
R5.9.9 | 本件第7次総会決議 | 本件第7次総会決議 |
Y組合代表者の選任
Y組合の代表者であるC’ことCは、平成27年9月19日に開催された総会において、Y組合の代表者である執行委員長に選任され、以後、令和5年9月9日に開催された総会までの間、執行委員長に選任されたことになっていました。
また、平成30年9月8日に行われた第1次総会においては、代議員の選任のための各支部における直接無記名投票が実施されず、Y組合は立候補者がいないものとしてY組合代表者らにおいて特定の組合員に声掛けをして代議員になってもらうこととし、各支部において代議員の選任のために立候補者を募る手続は行われませんでした。
Xさんは、代議員に立候補する意思がありましたが、上記手続がなかったため、立候補できませんでした。
他方で、選定者Aさんは、代議員に立候補していませんでしたが、Y組合から説明もなく案内書及び代議員証の郵送を受けたことから、代議員として本件第1次総会に出席していました。
Xさんらの除名
Xさんは、Y組合から、平成31年3月17日から1年間の権利停止処分を、令和元年8月18日から1年間の権利停止処分を、令和2年7月5日から令和4年1月4日までの権利停止処分を受けた末に、令和2年9月12日に開催された第4次総会における決議によって、Y組合から除名されました。
また、Aさんは、Y組合から、令和2年7月5日から令和4年1月4日までの権利停止処分を受けた末に、令和3年9月11日に開催された第5次総会における決議によって、Y組合から除名されました。
訴えの提起
そこで、Xさんは、Y組合の平成27年から令和5年までの総会決議について、いずれも瑕疵があると主張して、Y組合に対し、主位的に不存在であることの確認を、予備的に無効であることの確認を求める訴えを提起しました。
争点
本件では、①本件平成27年総会決議ないし本件平成29年総会決議における不存在事由及び無効事由の有無、また、②本件第1次総会決議ないし本件第7次総会決議における不存在事由及び無効事由の有無が主要な争点となりました。
本判決の要旨
争点②本件第1次総会決議ないし本件第7次総会決議における不存在事由及び無効事由の有無について
事案に鑑み、争点②から先に判断する。
本件第1次総会決議について
(…)本件第1次総会においては、代議員の選任のために各支部における直接無記名投票が実施されておらず、Y組合は立候補者がいないものとしてY組合代表者らにおいて特定の組合員に声掛けをして代議員になってもらい(…)、各支部において代議員の選任のために立候補者を募る手続さえも行われていないこと、そのため、Xさんは、代議員に立候補する意思があったにもかかわらずその機会がなく立候補できなかったこと、他方で、Aは、代議員に立候補していないにもかかわらずY組合から説明もなく案内書及び代議員証の郵送を受けたことから代議員として本件第1次総会に出席したこと(…)によれば、本件第1次総会においては、代議員の選任手続について選挙大会規定10条に反し直接無記名投票を行わないといった瑕疵があったということができる(…)。
労働組合においては、その規約に役員が組合員の直接無記名投票により選挙されること又は直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙されることを定める規約を含むことが必要とされており(労働組合法5条2項5号)、代議員が直接無記名投票により選出されることは、組合民主主義の確保のため重要なものと解される。
本件のような選任手続によって選任された代議員による決議は組合員の多数の意思を反映したものということはできず、上記に照らし、その瑕疵は重大であり、もはや法的に総会決議と評価することはできず不存在というべきである。
そうすると、本件第1次総会決議は不存在である。
本件第2次総会決議ないし本件第7次総会決議について
上記(…)で説示したとおり、本件第1次総会決議は不存在であるから、当該決議において選任された役員によって構成される執行委員会は正当な執行委員会ではなく、その後に招集された大会は、法的には大会の招集権限を有する(組合規約12条1項)執行委員会ではないものが招集したものとして、組合員の全員が出席して開催された等の特段の事情がない限り、その大会において行われた決議は不存在と評価される(株主総会について、最高裁判所第三小法廷平成2年4月17日判決民集44巻3号526頁参照)。
本件において上記特段の事情を認めるに足りる主張立証はないから、本件第2次総会決議は不存在であるとともに、同様の理由によって本件第3次総会決議ないし本件第7次総会決議も不存在である(…)。
小括
以上によれば、本件第1次総会決議ないし本件第7次総会決議はいずれも不存在である。
争点②本件平成27年総会決議ないし本件平成29年総会決議における不存在事由及び無効事由の有無について
本件第1次総会における代議員の選任状況は、前記(…)とおりである。また、Y組合代表者においても、本件平成27年総会ないし本件平成29年総会において代議員の選任の際に直接無記名投票を行わなかったことを認めており(…)、本件第1次総会と同様の状況であったと推認できる。
したがって、本件平成27年総会決議ないし本件平成29年総会決議も本件第1次総会決議と同様に、組合員の多数の意思を反映せずに選任された代議員によってされた点において重大な瑕疵があり、もはや法的に総会決議と評価することはできず不存在というべきである。
以上によれば、本件平成27年総会決議ないし本件平成29年総会決議はいずれも不存在である。
結論
よって、裁判所は、以上の検討から、Y組合の平成27年から令和5年までの総会決議についてはいずれも瑕疵があり、不存在であるとして、Xさんの請求を認めました。
ポイント
本件は、Y組合の総会決議によって除名されてしまったXさんが、Y組合の平成27年から令和5年までの総会決議について、いずれも瑕疵がある旨主張して、Y組合に対し、主位的に不存在であることの確認を、予備的に無効であることの確認を求めた事案でした。
冒頭でも述べたとおり、労働組合においては、規約において、役員が組合員の直接無記名投票により選挙されること又は直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙されることを定めることが求められます(労働組合法5条2項5号)。
もっとも、本件において、Y組合では、代議員の選任のために各支部における直接無記名投票は実施されず、立候補すらしていない者に代議員になってもらい、各支部において代議員の選任のために立候補者を募る手続さえも行われていないという手続違反がありました。
裁判所は、代議員が直接無記名投票により選出されるという手続について、組合の民主主義確保の観点から重要なものであるとしたうえで、本件のような選任手続によって選任された代議員による決議は組合員の多数の意思を反映したものとはいえないとして、このような手続の瑕疵は重大であり、もはや法的に総会決議と評価することはできない(決議不存在)と判断しています。
また、本件第1次総会決議が不存在であるから、この決議において選任された役員によって構成される執行委員会は正当な執行委員会ではなく、その後に招集された大会は、招集権限のないものによる総会であるとして、特段の事情のない限りは、決議不存在と評価されるとして、第2次総会決議以降の決議も不存在であるとされています。
このように、労働組合の運営において、最低年1回は開催されなければならないとされる総会は、組合の民主主義を確保する観点から特に重要なものであり、役員選任の手続を含めて、労働組合法や組合規約等に従って慎重に行われる必要があるといえます。
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使用者として不当労働行為に該当する言動等を行わないためには、まず労働組合の組織や運営についても十分に理解しておくことも大切です。
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