労組のストは恐喝になるのか?【全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(強要未遂等)刑事事件】
- 横浜市内で建設会社を経営しています。このたび、労働組合との団体交渉が決裂し、ストライキ(スト)を予告されてしまいました。自分たちの要求を通すための脅しとしか思えず、強要罪や恐喝罪にあたるのではないかと考えています。この考えは正しいのでしょうか?
- ストライキを始めとする争議行為は、その主張を貫徹することを目的として行う行為及びこれに対抗する行為であって、業務の正常な運営を阻害するものとされています。正当な争議行為は、労働者の憲法上の権利であって、刑事上及び民事上の免責が与えられています。争議行為自体、業務の正常な運営を阻害する要素を当然に含んでいますので、それ自体で違法行為とはいえないことになります。
したがって、正当な争議行為の範囲であれば、刑事上の犯罪に問うことはできず、また損害賠償請求もできないこととなります。
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労働組合(労組)と聞くと、ストライキが思い浮かぶ方が多いかもしれません。
ストライキとは、「一般に、労働関係事項に関する主張を貫徹するため、労働組合の統一的意思に従って、労働者が労働力の提供を拒否する行為」のことです(厚生労働省HP:「争議行為について」参照)。
このような争議行為が行われてしまうと、会社の業務の正常な運営は難しくなります。
しかし、労働組合法では、「正当な争議行為」である限りにおいて、刑事上及び民事上の免責が与えられています。
そのため、スト=悪いものとして直ちに損害賠償などを求めることはできないことになるのです。
ただし、「労働組合が同盟罷業(ストライキ)を実施するにあたっては、各労働組合の規約に従い、組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数(…)による決定を経る必要がある」など、争議行為を実施するに際しても、労組側が注意しなければならないこともあります。
また、不当な争議行為であれば、刑事上や民事上の責任が生じることも注意が必要です。
裁判例のご紹介(全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(強要未遂等)刑事事件・京都地裁令和7年2月26日判決)
さて、今回は、労働組合の執行委員長や副執行委員長が、恐喝や強要未遂などに問われた刑事事件をご紹介します。

どんな事案?
この事案は、全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(関生支部)の当時の執行委員長であったX1さんと副執行委員長であったX2さんが、恐喝や強要未遂などの罪に問われた事件です。
罪に問われたこと①ベスト・ライナー(恐喝事件)について
公訴事実の概要
X1さん、X2さんが、関生支部の組合員7名が社員として在籍していた(有)ベスト・ライナーの解散に際して、京都生コンクリート協同組合の理事らが同社の設立に関与していたことから、京都協組が関生支部に対して、同社を退職する組合員7名の退職金などを支払う必要があるなどと因縁を付けて京都協組から現金を脅し取ろうと考え、共謀の上、平成26年8月20日、京都協組の理事会において、関生支部に現金1億50000万円を支払うことを決定させ、同月27日、京都市内のホテルの一室において、X2さんが京都協組理事のAから現金1億5000万円の交付を受け、もって人を恐喝して財物を交付させたこと。
起きたこと
ベスト・ライナーを潰すための動き
Aは、同じく京都協組の加盟7社より、一人ずつ選出された理事の一人であったOから、ベスト・ライナーを潰すために関生支部との間で金銭解決を行うよう指示を受け、平成25年3月頃から、X1さんと面談し、京都協組から解決金を支払うことでベスト・ライナーを配合する方針について打診したものの、X1さんは、解決金だけでの解決は難しく、同社で働く関生支部組合員7名の雇用保障等が必要である旨を回答しました。
事務所等の動静の監視
その後、関生支部組合員が在籍している京都協組合加盟5社のうち、近畿生コン(株)を除く加盟4社は、平成25年10月29日、関生支部との間で、ベスト・ライナーの清算に関して協定したものの、京都協組がこの協定の内容を履行しなかったことから、関生支部は、平成26年3月5日から同月10日までの間、加盟5社に対して、複数名の組合員を各工場敷地内に赴かせ、これからストライキに入る旨告げた上で事務所等の動静を監視するなどしました。
また、加盟4社と関生支部は、同月17日付で協定書を交わしたものの、協定内容が履行されないことから、同年6月2日から同月10日までの間並びに同月26日および同月27日、加盟5社に対して同様にストライキを実施しました。
X2さんによる発言
この間、X2さんは、平成26年6月12日に、Aらが参加する話し合いの場において、ベスト・ライナーの問題について、解決金の支払い方を含む問題の解決についてどうしていくのか、いついつまでにどうするというものが明示されなければ、これはまた違う問題に発展していくなどと発言していました(本件要求行為①)。
主な争点
この事件では、X1さん、X2さん両名が共謀して京都協組加盟5社に対し、関生支部組合員による動静監視等の活動を行わせるなどしたうえで、解決金1億5000万円の支払いを求めたことが、京都協組の理事らを畏怖させるに足りる害悪の告知に該当するか否か?が争点となりました。
判断のポイント
検察官側の主張
検察官は、関生支部が、京都協組やその加盟各社に対して、圧倒的な優位性を有しており、これまでの争議の都度、その要求に応じるまでストライキを実行して解決金の支払いを含む要求に応じさせるスキームを確立していたことを前提として、
①X1さんが平成25年3月頃にAに対して解決金1億5000万円の支払いを要求した行為
②平成26年3月及び同年6月に行われた本件各ストライキ
③X2さんが同年6月12日にAらに対して解決金の支払いを要求した行為(本件要求行為①)
がいずれも脅迫に該当すると主張していました。
本判決の判断
①(X1さんが平成25年3月頃にAに対して解決金1億5000万円の支払いを要求した行為)について
しかし、本判決は、①(X1さんが平成25年3月頃にAに対して解決金1億5000万円の支払いを要求した行為)については、以下の理由から、事実として認められないと判断しました。

②(平成26年3月及び同年6月に行われた本件各ストライキ)・③(X2さんが同年6月12日にAらに対して解決金の支払いを要求した行為(本件要求行為①))について
また、本判決は、②(平成26年3月及び同年6月に行われた本件各ストライキ)・③(X2さんが同年6月12日にAらに対して解決金の支払いを要求した行為(本件要求行為①))についても、以下の理由から、事実として認められないと判断しました。

結論
このような検討を踏まえて、本判決は、本件において「恐喝罪の実行行為があったとは認められ」ず、X1さん、X2さんはいずれも「無罪である」との結論を導きました。
罪に問われたこと②近畿生コン(恐喝)事件
公訴事実の概要
X1さん、X2さん両名がかねてから、京都協組の加盟する生コン製造会社が関生支部の要求に応じない場合に、関生支部が各社の生コンの出荷を阻止するなどの妨害行為を繰り返した結果、京都協組の各理事が関生支部を畏怖していることに乗じ、因縁を付けて現金を脅し取ろうと考え、共謀の上、平成28年11月7日、京都協組の理事会において、関生支部に現金6000万円を支払うことを決定させ、同月16日、京都市内の喫茶店において、Aから現金6000万円の交付をうけ、もって人を恐喝して財物を交付させたこと。
起きたこと
プラントの占拠
近畿生コンを平成28年2月16日、破産を申し立てた。これを受けて、関生支部はどう日から、組合員を動員したうえで近畿生コンの敷地内に立ち入り、24時間体制でのプラントの占拠を開始しました。
占拠の解除
その後、生コン業者以外の業者が近畿生コンのプラントを購入し、プラントが解体されるに至ったことなどから、同年10月28日には関生支部組合員による同プラントの選挙は解除されました。
X2さんによる発言
同月下旬頃、X2さんから京都協組に対し、近畿生コンのプラント選挙に要した費用等を京都協組に支払ってほしい旨の要求(本件要求行為②)がありました。
主な争点
この事件では、X2さんが京都協組に6000万円の支払いを要求したこと(本件要求行為②)が、京都協組の理事らを畏怖させるに足りる害悪の告知に該当するか否か?が争点となりました。
判断のポイント
本判決は、本件要求行為②について、以下の理由から、害悪の告知(脅迫)に該当すると評価することはできない、と判断しました。

結論
このような検討を踏まえて、本判決は、本件において「恐喝罪の実行行為があったとは認められ」ず、X1さん、X2さんはいずれも「無罪である」との結論を導きました。
罪に問われたこと③加茂生コン第1(強要未遂)事件
公訴事実の概要
X1さん、X2さん両名が、(株)村田建材(加茂生コン)取締役Eらを脅迫して、同社の日雇運転手である関生支部組合員Fを正社員として同社に雇用され、さらに同社がFを雇用している旨の就労証明書を同社に作成・提出させようなどと考え、関生支部の執行委員であるGらと共謀の上、Eをして義務なきことを行わせようとしたが、Eがその要求に応じなかったため、その目的を遂げなかったこと。
主な争点
この事件では、X1さん、X2さん両名がGらと共謀したと認められるか否か?が争点となりました。
判断のポイント
本判決は、以下の理由から、Gらとの共謀は認められないと判断しました。

結論
このような検討を踏まえて、本判決は、「現場における関生渋組合員に脅迫に該当すると評価されるような行為があったとしても、同人らと被告人両名との間にその行為について共謀があったとは認められ」ず、X1さん、X2さんはいずれも「無罪である」との結論を導きました。
罪に問われたこと④加茂生コン第2(強要未遂・恐喝未遂)事件
公訴事実の概要
X1さん、X2さん両名が、村田建材代表取締役E1が関生支部を畏怖していることに乗じ、監視行為を中止するための条件として、同社が所有する生コン製造プラントを同社に解体させるとともに、同社が所有するミキサー車1台を喝取しようと企て、洛南生コンクリート協同組合代表理事のKらと共謀の上、E1からミキサー車1台を喝取しようとしたが、E1がその要求に応じなかったため、その目的を遂げなかったこと。
主な争点
この事件では、X1さん、X2さん両名が、プラントの解体及びミキサー車1台の譲渡を要求したと認められるか否か?その要求行為が脅迫に該当するか否か?が争点となりました。
判断のポイント
本判決は、以下の理由から、監視行為や、プラント解体とミキサー車譲渡の要求に応じなければ、監視行為が続くことになるなどのKからE1への各発言などは脅迫には当たらないと判断しました。

結論
このような検討を踏まえて、本判決は、「被告人両名にK及びLとの共謀による強要行為ないし恐喝行為、もしくは、K及びLを介した強要行為ないし恐喝行為があったとするには合理的な疑いが残る」として、X1さん、X2さんはいずれも「無罪である」との結論を導きました。
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今回は、全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(関生支部)の当時の執行委員長であったX1さんと副執行委員長であったX2さんが、恐喝や強要未遂などの罪に問われ、いずれについても無罪の判決を受けた事案でした。
労働組合の活動との関係では、争議行為が果たして正当なものであったのかどうか、が問題になることもあります。
もちろん労働紛争に発展しないように日頃から留意することが大切ですが、労働組合との関わりや労働者からの要求への対応方法などについてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。
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