紹介予定派遣とは?【任天堂ほか事件】
- 東京都で電機工事部品の製造を行うメーカーを経営しています。昨今の人手不足を解消するため、派遣会社を通じて人材派遣を利用したいと思っています。派遣された方がいい人であれば、できれば引き続き働いてもらいたいと思っています。派遣であっても人の採用に私たちが関わることができるのでしょうか。
- 「紹介予定派遣」という方法があります。将来的に派遣先で雇用契約を締結することを予定して行う派遣形態です。通常の派遣にはないメリットもあります。詳しくは弁護士にご相談ください。
紹介予定派遣とは
紹介予定派遣とは、派遣元事業主が労働者派遣の開始前又は開始後に、派遣労働者及び派遣先に対して、職業紹介(派遣労働者・派遣先の間の雇用関係の成立のあっせん)を行い、又は行うことを予定して行うものをいいます。
紹介予定派遣は、派遣労働者と派遣先の双方が、派遣期間中にお互いを見極めることができることから、その後の安定的な直接雇用につながる可能性が高まるという点でメリットがあると考えられています。
紹介予定派遣も、労働者者派遣ではありますが、
- 派遣就業開始前又は派遣就業期間中の求人条件の明示
- 派遣期間中の求人・求職の意思の確認及び採用内定
- 派遣先が派遣労働者を特定することを目的とする行為(派遣就業開始前の面接、履歴書の送付等)
を行うことができる点では、通常の労働者派遣と異なっています。
さて、今回は、紹介予定派遣就業者との労働契約の成否が問題となった事案をご紹介します。
任天堂ほか事件・京都地裁令和6.2.27判決
事案の概要
本件は、Xさんらが、紹介予定派遣によってY社で就労していたところ、派遣期間満了後、Y社がXさんらを雇用しなかったことから、Xさんらが、Y社との間で直接の労働契約が成立したと主張し、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払い賃金の支払いなどを求めた事案です。
事実の経過
XさんらのY社での就労
Xさんらは、保健師の資格を有し、派遣会社であるA社に雇用されていました。
Xさんらは、ゲーム、映像および音楽等のコンテンツの制作、製造及び販売などを目的とするY社の一次面接および二次面接を受け、A社担当者からY社の内定が決まったとの連絡を受けました。
そこで、X1さんは、平成30年2月28日、X2さんは同年3月7日、A社との間で派遣先をY社とし、業務内容は健康管理・健康診断・産業保健業務、派遣期間をX1さんは同年4月1日〜同年9月30日、X2さんは同年4月16日〜同年7月15日とすることなどを内容とする労働契約を締結し、Y社での就労を開始しました(紹介予定派遣)。
*なお、X2さんについては、同年6月12日にA社との間で、同様の内容で派遣期間を同年7月12日〜同年10月15日として、労働契約を更新しています。
紹介予定派遣の終了
ところが、派遣期間6か月間が経過する頃、Y社は、同社の産業医と円滑な協力体制の構築に至らないことを理由として、Xさんらを直接雇用せずに紹介予定派遣を終了しました。
訴えの提起
そこで、Xさんらは、Y社との間で直接の労働契約が成立したと主張し、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払い賃金の支払いなどを求める訴えを提起しました。
Xさんらが、Y社との間の労働契約が成立していると主張する根拠としては、
主張①
Xさんらにとって本来の雇用主であるA社ではなくY社がXさんらの採用決定を行なっており、労働者派遣の枠組みを超えるため、XさんらとA社との間の派遣労働契約は無効であり、XさんらとY社との間に労働契約が成立する。
主張②
派遣労働契約が有効であるとしても、Y社による採用決定の時点で、派遣労働契約が成立するだけでなく、XさんらとY社との間で、派遣期間満了後の始期とする就労始期付き・解約権留保付き労働契約が成立する。
主張③
Xさんらには派遣期間満了後に直接雇用されるとの合理的期待が認められることから、Y社が直接雇用を拒否することは許されず、派遣期間満了時にY社との間で労働契約が成立する。
争点
本件では、XさんらとY社との間で労働契約が成立していたか否かが争点となりました。
なお、Xさんらは産業医のパワハラについても主張していたため、争点は多岐にわたりますが、本解説記事では、XさんらとY社との間で労働契約が成立していたか否かの点に焦点を当てて解説します。
本判決の要旨
主張①について
主張①
Xさんら主張①は、XさんらとA社との間の派遣労働契約は、労働者派遣の枠組みを超えていて無効であり、Y社による採用決定時にXさんらとY社との間に労働契約が成立するというものである。
問題の前提
Xさんら主張1は、派遣元が採用決定を含めた雇用主としての責任を負っていなければならず、採用決定に派遣先が関与することは、労働者派遣の枠組みを超えて違法な労働者供給に該当するため、当該労働者派遣契約は無効であることを前提としている。
この前提は、通常の労働者派遣においては首肯できるものであるが、紹介予定派遣についても同様に解さなければならないのかどうかが問題である。
紹介予定派遣の趣旨
紹介予定派遣とは、労働者派遣のうち、労働者派遣の役務の提供の開始前又は開始後に、当該労働者派遣に係る派遣労働者及び派遣先について、職業紹介を行い、又は行うことを予定してするものをいい、当該職業紹介により、当該派遣労働者が当該派遣先に雇用される旨が、当該労働者派遣の役務の提供の終了前に当該派遣労働者と当該派遣先との間で約されるものを含むものである(労働者派遣法2条4号参照)。
紹介予定派遣を除く労働者派遣においては、派遣先は、労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為(特定行為)をしないように努めなければならないとされているところ、紹介予定派遣については、職業紹介を伴うことから、このような派遣労働者を特定する行為も許容されている(同法26条6項参照)。
紹介予定派遣において特定行為を許容することとした法改正(平成15年法律第82号)の趣旨は、法改正の当時、派遣労働者から正社員に登用される者が一定数存在するという実態があり、これが失業率低下のために一役買っていたことを踏まえ、以下のとおり、派遣労働者が派遣先で直接雇用されることを更に促進することにあった(…)
以上の立法過程での議論を踏まえると、紹介予定派遣においては、派遣労働者の直接雇用に資するため、労働者派遣一般に対する例外として、派遣就業開始前に、面接や履歴書等の送付などの特定行為及び求人条件の明示という職業紹介の前提となる行為をすることが派遣先に許容されているものと考えられる。
本件の検討
本件では、Xさんらは紹介予定派遣を明示したY社の求人に応募し(…)、A社との派遣労働契約を締結する前に、Y社に履歴書及び職務経歴書を提出したほか、Y社の用意した訪問カードに健康状態や家族の状況などを記載して提出した(…)。また、1時間程度にわたる面接を2回受け、その際には、志望動機、保健師を目指した理由、Y社でどのような仕事をしたいかなどについての質問や、労働衛生についての理解が問われたほか、自己PRや長所・短所、私的な事項についての質問もあった(…)。その面接の結果、Xさんらは、複数の応募者の中から選考されて、A社を通じて内定が伝えられた。そして、内定を受けて、XさんらとA社とは、派遣労働契約を締結したこと(…)が認められる。
このようなY社による面接及び内定に関する一連の手続は、紹介予定派遣において許容されている特定行為であるといえ、XさんらとA社との間の派遣労働契約を無効とするような事情に当たるとはいえない。
主張②について
主張②
Xさんら主張②は、Y社による採用決定の時点で、XさんらとA社との派遣労働契約が成立するだけでなく、XさんらとY社との間で、派遣期間満了後を始期とする就労始期付き・解約権留保付き労働契約が成立するというものである。
紹介予定派遣における特定行為とは
紹介予定派遣において許容されている特定行為は、上記(…)とおりであり、派遣労働者の直接雇用を促進するために、派遣先と派遣労働者とのミスマッチを防止するために行われるものである。もっとも、そのことから直ちに、紹介予定派遣の場合に、派遣労働者にも派遣先にも派遣期間満了後に直接労働契約を締結しなければならない義務が生じるとは解されない。紹介予定派遣においては、派遣労働者と派遣先とのマッチングを見極めるために、6か月を超えて同一の派遣労働者を受け入れてはならないこととされており、直接雇用に至らない場合には、派遣先は、派遣元の求めに応じて、直接雇用に至らなかった理由を開示しなければならないとされている(…)。これには、試用期間的な意味合いや特定行為禁止の潜脱のために紹介予定派遣の濫用を防止する意味合いがあるほか、紹介予定派遣であるからといって、必ずしも直接雇用に至らない場合もあることを意味している。仮に、職業紹介が行われて、派遣先が派遣労働者と直接雇用を目的とした内定を出したという段階まで進めば、その場合には派遣先と派遣労働者との間に解約権の留保された労働契約が締結されたとみる余地はあるものの、そうではなく紹介予定派遣にとどまる限り、派遣労働契約とそのような直接労働契約が併存することはないというべきである。
本件の検討
本件では、XさんらとA社との派遣労働契約締結の前に、上記(…)面接が行われており、Y社がXさんらに対する「内定」を出している(…)ものの、この「内定」は、派遣先であるY社の特定行為の結果として、Y社において就労してもらいたい派遣労働者を選考したという意味にとどまるものと解され、これをもってXさんらを直接雇用するとの意思を表示したとはいえない(…)。
そうすると、Y社とXさんらとの間に、派遣労働契約締結と同時に、就労始期付き・解約権留保付き労働契約が成立したとは認められない。
主張③について
主張③
Xさんら主張③は、Xさんらには、派遣期間満了後に直接雇用されるとの合理的期待が認められることから、Y社が直接雇用を拒否することは許されず、派遣期間満了時にY社との間で労働契約が成立するというものである。
直接雇用への期待の是非
紹介予定派遣は、派遣期間満了後の直接雇用に向けて、事前に特定行為をすることや、事前又は就業期間中に採用内定行為をすることを許容したものであるため、派遣労働者においても、直接雇用に向けた期待を抱くことは制度上当然であるといえる。しかしながら、上記(…)とおり、紹介予定派遣は、派遣先での直接雇用に至らない場合があることを制度上当然の前提としていることから、直接雇用に向けた派遣労働者の期待が直ちに法的保護に値する合理的期待であるということはできず、職業紹介を経て直接雇用が確実に見込まれる段階に至ったとか、直接雇用をしない理由が不合理であるといった特段の事情が存しない限り、直接雇用に向けての期待は法的保護に値しないというべきである。
本件の検討
本件では、上記(…)とおり、Y社において、Xさんらを直接雇用するための採用行為が具体的に進展していたとは認められないところであって、Xさんらが職業紹介を経て直接雇用が確実に見込まれる段階にまで至っていたということはできない。また、(…)保健師であるXさんらと産業医であるCとの協力態勢の構築は重要であり、その構築に至らなかったという点は、紹介予定派遣終了の理由として合理的なものと評価することができる(…)。したがって、Xさんら主張③は採用できない。
結論
以上より、裁判所は、Xさんらの主張①から③はいずれも認められず、XさんらとY社との間に直接労働契約が成立しているとは認められないと判断しました。
ポイント
どんな事案だったか?
Xさんらが、紹介予定派遣によってY社で就労していたところ、派遣期間満了後、Y社がXさんらを雇用しなかったことから、Xさんらが、Y社との間で直接の労働契約が成立したと主張し、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払い賃金の支払いなどを求めた事案でした。
何が問題となったか?
本件では、XさんらとY社との間で労働契約が成立していたか否かが問題となりました。
具体的に、Xさんらは次のような主張を行なっていました。
紹介予定派遣の特殊性
冒頭でも述べた通り、紹介予定派遣では、通常の労働者派遣とは異なり、
-
派遣就業開始前又は派遣就業期間中の求人条件の明示
- 派遣期間中の求人・求職の意思の確認及び採用内定
- 派遣先が派遣労働者を特定することを目的とする行為(派遣就業開始前の面接、履歴書の送付等)
といった、いわゆる特定目的行為が例外的に許容されています(労働者派遣法26条6項)。
そして、派遣先が派遣開始前から、労働者の選定にも関わりを持ち、実際に派遣元事業主の採用そのものに関与しているケースが多々あります。
本件においても、Y社がXさんらの一次面接や二次面接を行い、Xさんらの受け入れを決定して、XさんらA社との間の労働契約を締結しています。
本判決のポイント
本判決は、このような紹介予定派遣の特殊性(紹介予定派遣においては、派遣労働者の直接雇用に資するため、労働者派遣一般に対する例外として、派遣就業開始前に、面接や履歴書等の送付などの特定行為及び求人条件の明示という職業紹介の前提となる行為をすることが派遣先に許容されているものと考えられる)を踏まえ、Y社による面接及び内定に関する一連の手続は、紹介予定派遣において許容されている特定行為であると判断しています。
また、紹介予定派遣は、派遣先での直接雇用に至らない場合があることを制度上当然の前提としていることから、直接雇用に向けた派遣労働者の期待が直ちに法的保護に値する合理的期待であるということはできないとして、Xさんらが職業紹介を経て直接雇用が確実に見込まれる段階にまで至っていたともいえず、直接雇用をしない合理的な理由があった本件においては、Xさんらの直接雇用への期待は法的保護に値しないとされています。
弁護士にご相談を
紹介予定派遣については、
- 同一の派遣労働者について、派遣期間が6か月を超えてはならないこと
- 紹介予定派遣であることが、事前に労働者に対して明示されていなければならないこと
- 派遣先が派遣就業開始前の面接や履歴書の送付等を行う場合には、派遣労働者の年齢や差別などを理由とした差別を行なってはならず、直接採用する場合のルールと同様のルールの下に行われなければならないこと
- 直接雇用がなされない場合には、理由を明示しなければならないこと
など、さまざまな留意点があります。
また、紹介予定派遣も労働者派遣ではありますが、本件においても問題になったように、特定目的行為が例外的に許容される点で、通常の労働者派遣とは異なる点もあります。
労働者派遣法に関してはこちらのコラムもご参照ください。
紹介予定派遣についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。