労働問題

不当労働行為の救済申立てが不法行為?【ユーコーコミュニティー事件】

労働組合法第7条は、会社による不当労働行為を禁止しています。
「不当労働行為」とは、会社による労働組合の活動に対する妨害行為のことです。

具体的には、会社が以下の行為をすることが禁止されています。

・組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱い(第1号)
・正当な理由のない団体交渉の拒否(第2号)
・労働組合の運営等に対する支配介入及び経費援助(第3号)
・労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱い(第4号)

労働組合や労働者は、使用者による不当労働行為を受けた(と考える)場合、労働委員会に対して救済申立てを行うことができ、仮に不当労働行為の事実が認められた場合には、労働委員会から使用者に対して、復職や賃金差額支払い、組合運営への介入の禁止等といった救済命令がなされることになります。

では、労働組合が不当労働行為救済を申立てることが、使用者(会社)に対する不法行為に当たることはあるのでしょうか?

よこはまシティユニオン(ユーコーコミュニティー)事件・東京高裁令和5年11月15日判決

事案の概要

本件は、X社が、その従業員であるAさんに対し、ハラスメントを理由とする損害賠償債務が存在しないことの確認を求める訴訟を提起したところ、Aの所属する労働組合であるY組合が、同訴訟提起が不当労働行為に該当すると主張してその取下げ等を求める不当労働行為救済を申し立てたことから、X社は、本件救済申立ては不法行為に該当すると主張し、損害賠償請求等を求めたことに端を発し、不当労働行為救済申立ての不法行為該当性が争われた事案です。

事実の経過

X社とY組合について

X社は、建築リフォーム工事等を事業内容とする株式会社でした。
Aさんは、平成27年にX社に入社し、X社において勤務していましたが、令和4年2月27日付けでX社を退職しました。
また、Y組合は、Aさんが所属する労働組合でした。

Aさんによるハラスメントに関する主張

Aさんは、同僚と社内交際を経て結婚しましたが、社内交際や結婚に関する他の社員や上司らとのやり取りに関し、ハラスメントを受けたと主張し、令和元年5月19日付けで、X社に対して書面を提出しました。
本件書面には、AさんがX社の役員であるBさんからのパワーハラスメントを受け、これにより鬱になった旨等が記載されていました。

X役員からパワハラを受けて鬱になりました

Aさん
Aさん

X社による民事調停の申立て

X社は、令和2年12月18日、八王子簡易裁判所に対し、Aさんを相手方として、X社がAさんに対してハラスメントを理由とする損害賠償債務を負担しないことの確認を求める民事調停(別件調停)を申し立てました。

X社
X社

うちはハラスメントはしていない!調停だ!

そ、そんな

Aさん
Aさん

Y組合による団体交渉の申入れ

Y組合は、令和3年1月27日、X社に対し、Aさんが同月18日にY組合に加入したことを通知するとともに、Aさんに対するハラスメントについて、事実関係を調査し、責任者を処分し、Aさんに文書で謝罪することなどを要求し、これらの要求に関するY組合との団体交渉を申し入れました。

Aさんが当組合に加入しました。Aさんに謝罪してください!

Y組合
Y組合
X社
X社

なに!

X社による別件訴訟①の提起

これに対し、X社は同年2月2日付けの回答書により、Y組合に対し、Aさんに対するハラスメントを否認し、当該事実の有無は係争の解決の前提となると思われるため、同日に別件調停申立てを取り下げた上で、債務不存在確認請求訴訟を同月3日のうちに提起する予定であること等を伝えました。
そして、同月3日、横浜地方裁判所相模原支部に対し、Aさんを被告として、X社がAさんに対してハラスメントを理由とする損害賠償債務を負担しないことの確認を求める別件訴訟①を提起しました。

X社
X社

Aさんを訴えてやる!

そ、そんな

Aさん
Aさん

Y組合による本件救済申立て

そこで、Y組合は、令和3年4月1日、神奈川県労働委員会に対し、X社がY組合との団体交渉に誠実に応じていないこと、別件訴訟①を提起したことがいずれも不当労働行為に該当すると主張して、Y組合との団体交渉を誠実に行うこと及び別件訴訟①を取り下げることなどを求める本件救済申立てを行いました。

労働委員会に対して救済申立てをします!

Y組合
Y組合

X社による別件訴訟②の提起

さらに、X社は、令和4年6月3日、横浜地方裁判所相模原支部に対し、Aさんが、Y組合の機関紙及びY組合の訴訟代理人弁護士が関与したインターネット記事のURLを記載したメールをX社に対して送信したことが業務妨害による不法行為に当たると主張して損害賠償を求めるとともに、Aさんの休職期間中にX社が立て替えた社会保険料相当額の支払を求めて、別件訴訟②を提起しました。

X社
X社

Y組合にメールを送ったのは業務妨害だ! また訴えてやる!

そ、そんな

Aさん
Aさん

Y組合による本件救済申立ての変更申立て

これに対して、Y組合は、令和4年9月20日、本件救済申立てにおいて、別件訴訟②の提起が不当労働行為に該当すると主張して、別件訴訟②を取り下げることを追加的に求める旨の救済命令申立ての変更の申立て(本件追加申立て)をしました。

救済申立ての理由を追加します!

Y組合
Y組合

訴えの提起

その後、X社は、Y組合による本件救済申立て及び本件追加申立ては不法行為に該当すると主張し、Y組合に対して損害賠償等を求める訴えを提起しました。

争点

本件では、①Y組合による本件救済申立ての不法行為該当性、また②本件追加申立ての不法行為該当性が争点となりました。

本判決の要旨

本判決は、原審の判断を若干補正しつつも、これを引用し、Y組合による本件救済申立て及び本件追加申立てはいずれも不法行為に該当せず、X社の請求は認められないと判断しました。

争点①本件救済申立ての不法行為該当性

判断枠組み

労組法27条に定める労働委員会の救済命令制度は、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した同法7条の規定の実効性を担保するために設けられたものであるところ、同法が、同条の実効性を担保するために、使用者の同条違反の行為に対して労働委員会という行政機関による救済命令の方法を採用したのは、使用者による組合活動侵害行為によって生じた状態を救済命令によって直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るとともに、使用者の多様な不当労働行為に対してあらかじめその是正措置の内容を具体的に特定しておくことが困難かつ不適当であるため、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限を委ねる趣旨に出たものと解される(最高裁昭和45年(行ツ)第60号、同第61号同52年2月23日大法廷判決・民集31巻1号93頁)。そうすると、労働組合が不当労働行為に係る救済を労働委員会に対して求め得ることは、正常な集団的労使関係秩序の根幹に関わる重要な事柄であるから、当該申立てをする権利は最大限尊重されなければならず、不法行為の成否を判断するに当たっては、不当労働行為救済命令制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされるというべきである(…)。

労働組合が、使用者の行為が不当労働行為に該当すると主張して労働委員会に対し救済命令を申し立てる行為が、被申立人たる使用者に対する違法な行為といえるのは、当該手続において労働組合の主張した不当労働行為が事実的、法律的根拠を欠くものである上、労働組合が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて申し立てたなど、当該申立てが不当労働行為救済命令制度の目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、その訴えの提起が違法な行為といえる場合について判示した最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決民集42巻1号1頁参照)。

本件の検討

これを本件についてみると、別件訴訟①は債務不存在確認訴訟であるが、同訴訟の被告であるAにおいてこれを争う場合には応訴の負担が生じるものである。そして、(…)公開の手続も必要とされる民事訴訟の方が負担が重いと考えることが不合理とはいえないから、X社が別件調停を取り下げ、その翌日に別件訴訟①を提起したことが不利益な取扱い(労組法7条1号)に該当すると判断することは、必ずしも不合理であるとはいえない。

また、(…)X社は、Y組合から、Aが被告に加入したことを通知し、Aに対するハラスメントに関する団体交渉を申し入れる旨の書面を受け取ってから間もなく、同書面に対する回答の中で別件訴訟①の提起を予告した上で、その直後に別件訴訟①を提起し、訴状において、Aが労働組合に加入して団体交渉を申し入れたことを指摘している(…)。これらの事実によると、Y組合において、別件訴訟①の提起はAがY組合に加入したこと及びY組合が団体交渉を申し入れた「故をもって」(同号)されたものであり、不当労働行為の意思が存すると判断することも、不合理であるとまではいえない。

そうすると、本件救済申立てにおいて、Y組合の主張した不当労働行為が事実的、法律的根拠を欠く上、Y組合がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて申し立てたということはできない。

まとめ

以上によれば、Y組合において、X社による別件訴訟①の提起が不当労働行為に該当するとの主張が、事実的、法律的根拠を欠くものである上、Y組合がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて申立てをしたということはできないから、本件救済申立てがX社に対する不法行為に該当するとは認められない。

争点②本件追加申立ての不法行為該当性

本件の検討

本件追加申立ては、別件訴訟②の取下げを求めるものであるが、前記(…)のとおり、別件訴訟①、本件訴訟及びBを原告とする訴訟が係属中であり、Y組合がこれらの訴え提起が不当労働行為に当たるとして救済命令を申し立てているという状況下において、別件訴訟②が提起されたものである。そして、X社が問題としている匿名のメールが原告の非公開アドレスに送信され、その本文にY組合の機関紙(…)やY組合訴訟代理人弁護士が関与した労使紛争に関するインターネット記事のリンク等が記載されていたとしても、上記の機関紙等によれば、X社とA以外の従業員との間にも紛争が存することがうかがわれること(…)などの事情に照らせば、Aが上記メールの送信者であることが明白であるとまではいうことができず、Aが上記メールの送信者ではないとしてX社と争うことには理由があるといえる。

これらの事情に照らすと、Aが所属する労働組合であるY社において、Aが上記メールの送信者であるとする別件訴訟②の提起が不当労働行為に該当すると判断することが不合理なものであるとまではいえない。

まとめ

以上によれば、Y組合において、X社による別件訴訟②の提起が不当労働行為に該当するとの主張が、事実的、法律的根拠を欠くものである上、Y組合がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて申立てをしたということはできないから、本件追加申立てがX社に対する不法行為に該当するとは認められない。

ポイント

本件は、X社が、従業員であるAさんに対し、ハラスメントを理由とする損害賠償債務が存在しないことの確認を求める訴訟を提起したところ、Aの所属する労働組合であるY組合が、同訴訟提起が不当労働行為に該当すると主張してその取下げ等を求める不当労働行為救済を申し立てるなどしたことから、X社が、本件救済申立ては不法行為に該当すると主張し、Y組合に対して損害賠償請求等を求めた事案でした。

労働組合が使用者側の行為を不当労働行為と考えて救済命令申立てをすることが、不法行為に該当するか否かについて、裁判所は、救済命令申立てを受けた使用者にとっては、労働委員会による調査への対応を余儀なくされる等の負担を負うことから、不当な負担を強いる結果を招くような申立ては違法とされることがあり得ると判断しています。
他方で、不当労働行為にかかる救済を申し立てる権利は最大限尊重されなければならず、不法行為の成否を判断するにあたっては、不当労働行為救済命令制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要であるとして、「労働組合が、使用者の行為が不当労働行為に該当すると主張して労働委員会に対し救済命令を申し立てる行為が、被申立人たる使用者に対する違法な行為といえるのは、当該手続において労働組合の主張した不当労働行為が事実的、法律的根拠を欠くものである上、労働組合が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて申し立てたなど、当該申立てが不当労働行為救済命令制度の目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である」との最高裁判例の判断枠組みを引用しています。

かかる判断枠組みを示したうえで、本判決はY組合による本件救済申立て等が不法行為に該当するとはいえないとしていますが、不当労働行為制度の趣旨等に照らせば、労働組合による救済申立てが違法と判断されるケースは非常に限定されるものと考えられます。

弁護士にもご相談ください

使用者が労働者や労働組合に対して、労働組合の活動等を理由として訴訟を提起することがあります。
一般的に使用者からの訴訟提起自体が不当労働行為に該当するということではありませんが、事案によっては、支配介入や違法性が認められるおそれもあることから、このような訴訟提起については慎重に判断する必要があります。

労働組合との関係や団体交渉、救済命令申立て等についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。