労働問題

ハラスメント問題

はじめに

 パワハラ、セクハラを筆頭に〇〇ハラスメントといった単語を耳にしない日はないと言っても過言ではありません。ハラスメントの辞書的意味としては、「人を悩ますこと。(広辞苑第7版)」と書かれていますが、セクハラ、パワハラとはどのように捉えられているのか/捉えられるべきなのかを見ていきましょう。

法的紛争におけるハラスメント問題の現れ方

その前に、どのようにハラスメント問題が扱われるかを弁護士視点から説明しますと、主に、①ハラスメントを行ったことを理由としてした懲戒処分について争われるというケース、②ハラスメント行為があったことを理由として損害賠償請求が行われるケース、③ハラスメント事象の社内調査として関与するケースなどが考えられます。
 上記②のケースでは加害者への請求はもちろん会社への賠償請求ということもあり得る話です。そのため、企業側のハラスメント防止に向けた施策は、とても重要なものといえます。

パワハラについて

パワハラ総論

法律上、パワハラとは次のように解されています。①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③その雇用する労働者の就業環境が害されるもの(労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)30条の2第1項)。
 そして、上に挙げた①から③までの要素を全て満たすものとされています(令和2年1月15日厚労告5号)。この定義だけでは、とても抽象的です。

パワハラの6類型

そこで、この解釈に当たって有用なのが、上記令和2年1月15日厚生労働省告示第5号です。ここでは、パワハラに該当する可能性のある職場での言動が6つの類型に分類され、明示されています。もちろん、ここに記載されたものだけがパワハラに該当するというわけではありませんが、パワハラを理解するに当たっては重要な指針となります。
 その類型とは、⑴身体的な攻撃(暴行・傷害)⑵精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)⑶過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)⑸過少な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)⑹個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)の6つです。
 ⑴から⑶は、通常、業務の遂行に必要な行為であるとは言い難いですが、⑷から⑹は、業務の適正な範囲を超えるかどうか、業種や企業文化の影響を受けるほか、それらの行われた状況等にも左右されるので、より微妙な判断が要求されます。

企業側の措置義務

そして、労働施策総合推進法30条の2とそれを受けた厚労省告示は、使用者に対して、以下のような措置をとることを義務づけています。

  • 職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し労働者に周知・啓発すること
  • 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し労働者に周知・啓発すること
  • 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
  • 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
  • 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
  • 速やかに被害者に対する配慮のための措置を厳正に行うこと
  • 事実関係の確認後、行為者に対する措置を厳正に行うこと
  • 再発防止に向けた措置を講ずること
  • 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知すること
  • 相談したこと等を理由として、解雇その他の不利益取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

セクハラについて

次に、セクハラについてみていきます。沿革としては、ハラスメント問題の嚆矢となったのは、セクシャルハラスメントです。

セクハラとは、「(中略)職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害される(中略)」ことと解されています(男女雇用機会均等法11条1項)。ここでは2つのセクハラの類型が定義されていますが、お分かりになりましたか?
 その2つとは、①性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けることという「対価型セクハラ」と②性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることという「環境型セクハラ」です。

措置義務

先に見たパワハラと同様、セクハラについても法律で使用者に対してセクハラに関する以下のような各種措置義務が課せられています。

  • セクハラの内容、セクハラがあってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発
    • 行為者への厳正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発
    • 相談窓口の設置
    • 相談者に対する適切な知会おう
    • 事実関係の迅速かつ正確な確認
    • 当事者に対する適正な措置の実施
    • 再発防止措置の実施
    • 当事者等のプライバシー保護のための措置の実施と周知
    • 相談、協力等を理由に不利益な取扱いを行ってはならない旨の定めと周知・啓発

措置義務と民事上の賠償責任との関係

施策などについて点検をしましょう。

上記のように、法令は、使用者に対して、パワハラ、セクハラに関する措置を講ずるよう義務付けています。そのため、貴社における体制をこの機会に見直してみてはいかがでしょうか。

措置義務違反≠民事上の責任

 ここで注意が必要なのは、上記措置義務は、あくまで公法上の義務という点です。公法上の義務ですので、これに違反したからといって、民事上の紛争である従業員等からの損害賠償請求や懲戒処分の無効事由が直ちに認められるわけではありません。

民事上も重要な考慮要素である

 しかし、世上での問題が立法へと繋がり、それに基づいて公法上とはいえ法律上義務付けられたものですし、行政上も指針として会社に対応を求めるものです。そうすると、民事上の「過失」や懲戒処分等を判断するに際して、その義務を履践していたかどうかは重要な考慮要素となります。

パワハラ、セクハラその他のハラスメントは、何がそのハラスメントに該当するかという点から非常に困難を伴います。その反面、措置義務の存在など使用者が執るべき施策は多岐にわたります。そのような中で、厚労省の「あかるい職場応援団」(https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/)というサイトがハラスメントに関する情報を分かりやすくまとめていますので、こういったものを活用していくのもハラスメント防止に役立つでしょう。

最後に

以上、パワハラやセクハラについて簡単に御紹介をしました。まずは、ハラスメントに関して、どういった意味なのかやどういったことが使用者に今求められているのかという大枠を押さえることが重要です。
 その上で、被害申告のあったハラスメント行為があったかどうかという調査、事実認定をする必要がでてきます。調査、事実認定の話については、別の記事で説明をします。
 当事務所では、ハラスメント事案への対応はもちろんパワハラやセクハラ等の防止に関する使用者の施策や社内研修等についても対応が可能です。ハラスメント問題について体制を整えたい企業様はお気軽に当事務所まで御相談ください。