労働問題

ストライキとは?【東京高裁令和5年4月26日判決】

全米脚本家組合(WGA)と全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキは、令和5(2023)年に起きたエンタメ業界の最も大きなニュースの一つだったのではないでしょうか。このストライキによって、全米経済に与えたダメージは非常に大きかったといわれています。

「ストライキ」という言葉を聞くと、労働者が勤務を拒絶して座り込んでいたり、プラカードを掲げたりしている様子が想起されるかもしれませんが、ストライキとは、「一般に、労働関係事項に関する主張を貫徹するため、労働組合の統一的意思に従って、労働者が労働力の提供を拒否する行為」のことです(厚生労働省HP参照)。
ストライキは、同盟罷業ともいわれる争議行為の一つです。

この他にも、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が主張を貫徹することを目的として行う行為や、これに対抗する行為であって業務の正常な運営を阻害する行為は、争議行為に該当します。

使用者は争議行為によって損害を受けることがありますが、正当な争議行為の場合には、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができないとされています(労働組合法第8条)。

さて、今回は、労働組合の組合員による業務の一部拒否が「正当な行為」(労働組合法第7条1号)に当たると判断された事案をご紹介します。

 不当労働行為救済命令取消請求・東京高裁令和5年4月26日判決

事案の概要

本件は、労働組合がストライキを開始したのに対して、使用者が残業となる可能性のある業務を命じない措置を講じたことが不当労働行為に該当するとして、労働委員会が救済命令を発したことから、使用者が救済命令の取消しを求めた事案です。

事実の経過

能率手当をめぐる紛争

X社は、貨物自動車運送事業等を営む会社であったところ、X社の配送・集配業務を担当する集配職のうち能率手当は、賃金対象額から時間外手当の一部を控除した額と定められていました(本件賃金体系)。
X社の従業員が加入する労働組合であるZ組合の組合員9名は、平成28年6月14日、本件賃金体系が労働基準法第37条の趣旨に反し無効であると主張し、X社に対して時間外労働にかかる割増賃金等の支払いを求める訴えを提起しました。
もっとも、かかる訴えは棄却されました。

団体交渉申入れ

Z組合及びX組合の分会は、平成29年8月30日、X社の東京支店に対して、残業代未払等を主な議題として、団体交渉を申し入れるとともに、要求書を交付しました。
そして、同年9月22日、団体交渉が開催され、Z組合のW執行委員は、同年8月30日付要求書に記載した担当会社以外の集荷業務を拒否する旨表明しました。
その後、交渉が続いたものの、W執行委員は、同要求書について、Z組合とX社との間に見解の相違があり、これ以上の進展は無理である旨述べて、交渉が決裂したことを確認しました。
これによって、団体交渉は終了しました。

ストライキの開始

平成29年9月29日、Z組合は、X社に対して本件拒否紛争の通知書を送付し、同年10月2日から、
①担当業務を終了して帰店した後に、及び帰店していなくても定時間を過ぎた後に命令される集荷残業
②代行残業
③車両整備搬送残業
を拒否する本件拒否闘争(ストライキ)を開始しました。

X社の対応

これに対して、X社は、同年11月1日、Z組合の集配職の組合員について、朝に指示する集荷業務及び午後に電話で指示する集荷作業のうち残業となる可能性のある業務を命じない措置(本件措置)をとり、Xが平成30年1月31日に本件拒否闘争を終了するまでこれを継続しました。

救済命令の申立て

Z組合は、平成29年11月6日、東京都労働委員会に対して、X社の本件措置が組合活動を理由とする不利益取扱い及び組合の組織・運営に対する支配介入にあたるとして、救済申立てをしました。
東京都労働委員会は、令和1年6月4日付で、本件措置が労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為に該当すると認定し、救済命令を発しました。
X社はこれを不服として再審査の申立てをしましたが、中央労働委員会は、この再審査申立てを棄却する命令(本件命令)を発しました。

本件訴えの提起

そこで、X社は、本件拒否闘争(ストライキ)は、自らの要求事項を自力執行の形で実現する目的で行われる争議行為(要求実現型ストライキ)であり、争議行為としての正当性を欠くなどと主張し、本件命令の取消しを求める訴えを提起しました。

争点

本件では、本件拒否闘争(ストライキ)が、労働組合法7条1号の「正当な行為」に該当するか否かが問題となりました。

第1審の要旨

第1審(東京地裁令和4・10・6)は、以下のとおり判断し、X社の請求は認められないと判断しました。

不利益取扱いについて

前記認定事実によれば、本件措置は、Z組合の組合員に対し、一切の残業をさせずに退勤させるものであり、賃金の減少が見込まれるものである。Z組合の広島支部の組合員の賃金は、別表のとおり、時間外手当以外の賃金が増額した1名の他は、本件措置がとられた期間全体の合計で減少している。
したがって、本件措置は、経済的待遇上の不利益取扱いに該当する。

正当な行為について

本件拒否闘争の目的について

前記認定事実によれば、(…)Z組合は、広島分会の結成後、一貫して本件賃金体系の改定を求めていたこと、本件拒否闘争が開始された平成29年10月2日の10日前である9月22日の団体交渉においてなされた集荷残業の残業代支払要求は、本件賃金体系が是正されることを前提とするものであったことからすると、8月30日付け通知書及び本件拒否闘争の通知書に本件賃金体系の是正自体が記載されていないことを考慮しても、本件拒否闘争の目的は、本件賃金体系の改定による時間外手当の増額であったと認めるのが相当であり、そのことはX社においても容易に認識し得たものと認められる。

本件拒否闘争の態様について

前記認定事実によれば、本件拒否闘争の通知書を含め、本件拒否闘争の対象となる集荷先が記載されておらず、L広島分会長は、平成29年9月29日、タハラ及び脇地運送の集荷業務を拒否することは伝えたものの、やまびこについては事前の通告なく集荷業務を拒否したことが認められ、本件拒否闘争は、その対象範囲が不明確な点があったことは否定できない。

しかしながら、前記認定事実によれば、
〈1〉X社において、平成29年10月2日の時点で、本件拒否闘争の対象となっていたのがタハラ、脇地運送及びやまびこの3社であることを認識していた上、これらの集荷先における組合員らの集荷業務は、いずれも本件拒否闘争の通知書に記載された対象に該当するものといえること、
〈2〉X社において、Z組合又は広島分会に問い合わせるなどして本件拒否闘争の対象を確認することも容易であったこと、
〈3〉本件拒否闘争の対象が上記3社のみであり、Z組合の組合員は、本件拒否闘争開始後もその他の業務は通常どおり行っていたことが認められる。

そうすると、上記のとおり本件拒否闘争の対象範囲に不明確な点があったことを踏まえても、本件拒否闘争の態様が不当であったとはいえない(…)。

まとめ

その他X社が縷々主張するところを踏まえても、本件拒否闘争は、正当な行為に該当すると認められる(…)。

結論

以上によれば、本件措置は、Z組合及びZ組合の組合員が労働組合の正当な行為である本件拒否闘争を行ったことを理由とする不利益取扱いに当たり、労組法7条1号に該当する(…)。
よって、X社の請求は理由がないからこれを棄却する(…)。

本判決の要旨

第1審の判断に対して、X社はこれを不服として、控訴していました。
しかし、本判決も、第1審の判断を引用し、本件拒否闘争は、X社の主張するような要求実現型ストライキということはできず、争議権の濫用に当たらないとして、X社の控訴を棄却しました。

結論

よって、Z組合による本件拒否闘争(ストライキ)は、労働組合法7条1号の「正当な行為」に該当し、本件救済命令の取消しを求めるX社の請求は認められないと判断されました。

ポイント

どんな事案だったか?

本件は、Z組合がストライキを開始したのに対して、X社が本件措置を講じたことが不当労働行為に該当するとして、労働委員会が救済命令を発したことから、X社が、かかる救済命令の取消しを求めた事案でした。

不当労働行為とは

労働組合法第7条は、会社による労働組合の活動に対する妨害行為、すなわち不当労働行為を禁止しています。
具体的には、以下の各号に規定される行為が禁止されています。

第1号組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱い(労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること)
第2号正当な理由のない団体交渉の拒否(使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと)
第3号労働組合の運営等に対する支配介入及び経費援助(労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること)
第4号労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱い(労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第27条の12第1項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法(昭和21年法律第25号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること)

労働組合や労働者は、使用者による不当労働行為を受けた場合、労働委員会に対して救済申立てを行うことができるとされており、不当労働行為の事実が認められた場合には、使用者は、労働委員会から、復職や賃金差額支払い、組合運営への介入の禁止等といった救済命令を受けることになります。

何が問題となったか?

本件では、本件拒否闘争(ストライキ)が、労働組合法7条1号の「正当な行為」に該当し、X社による本件措置が不利益取扱い(不当労働行為)に該当するか否かが問題となりました。

裁判所の判断

裁判所は、本件措置が、Z組合の組合員の賃金減少が見込まれるものであり、経済的待遇上の不利益取扱いに該当するとした上で、本件拒否闘争(ストライキ)の目的や態様を詳細に検討し、本件拒否闘争が正当な争議行為に該当すると判断しました。
X社は、本件拒否闘争は、要求実現型ストライキであり正当な行為には当たらないと主張していましたが、裁判所は、本件拒否闘争の目的は本件賃金体系の改定による時間外の増額であったと認められ、残業の拒否自体が目的であったとは認められないとして、X社の主張を排斥しています。
このように、ストライキが正当な行為に該当するか否かは、その目的や態様などから個別具体的に検討されます。
本判決のように業務の一部拒否についても、労働組合法7条1号の「正当な行為」に該当する場合があることから、使用者としては注意する必要があるでしょう。

弁護士にもご相談ください

本件では、労働組合法7条各号の中でも、特に不利益取扱いが問題となりましたが、禁止される不当労働行為には、このほかにも、支配介入や特定の労働組合に対して経済的な便益を図ること、正当な理由のない団体交渉の拒否などがあります。
不当労働行為を行った場合は、労働委員会からの救済命令を受けるだけでなく、労働者に対して不当行為責任や債務不履行責任、使用者責任を負うことにもつながります。

労働組合との関係や団体交渉等についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。