労働問題

出来高払制の業績給の有効性【サカイ引越センター事件】

今年(2024年)4月から、トラックドライバーの時間外労働960時間上限規制と改正改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)が適用されることになりました。
働き方改革関連法の施行前から懸念されていたとおり、労働時間が短くなることによって輸送能力が低下し、「モノが運べない」ことから物資が不足する(物流がまわらない)状況に陥っています。

そんな運送業で採用されるケースが多い給与制度が「出来高払制」です。
出来高払制であれば、労働者も働くほど給与を取得できるためインセンティブになります。

しかし、「出来高払制」といっても、成果がない場合には一銭たりとも支払わないということが許されるわけではありません。
労働基準法27条(出来高払制の保障給)では、
「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」
と定められており、使用者は労働時間に応じた定額の賃金の保障をしなければならないものとされています。

また、労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)1項では、
「使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
と定められており、出来高給制を採用する場合であっても、労働者に対して時間外労働や休日労働をさせた場合には、割増賃金を支払わなければなりません。

他方で、出来高制の歩合給は残業時間も含めた総労働時間に対する対価として捉えられるため、割増賃金の算定基礎となる賃金の計算においても総労働時間で割ることになることから(労働基準法施行規則19条1項6号)、時間単価(時給)が低額になります。
また、割増賃金も通常の時間外労働の場合では1.25倍しなければなりませんが、0.25倍で足りることになっています。
・時間給=出来高給÷当月の総労働時間(残業時間を含む)
・出来高給部分の割増賃金=出来高給÷当月の総労働時間(残業時間を含む)×0.25×残業時間
そのため、使用者側としては割増賃金の負担を軽減するために出来高払制度を導入することも考えられます。

さて、今回はそんな出来高払制の業績給の有効性をめぐり争われた事件をご紹介します。

サカイ引越センター事件・東京地裁立川支部令和5.8.9判決

事案の概要

本件は、Y社に現業職として雇用されて引越運送業務に従事していたXさんらが、時間外労働にかかる割増賃金が未払いであると主張し、未払いの割増賃金と労働基準法114条に基づく付加金の支払いを求めた事案です。

事実の経過

Xさんらの勤務と賃金の状況

Xさんらは、平成25年に引越運送、引越付帯サービス等を業とするY社に入社し、Y社のG支社において引越運送業務(現業職)に従事していました。
Y社は、現業職に対して、基本給のほか、業績給A(売上給)、業績給A(件数給)、業績給B、愛車手当、無事故手当、アンケート手当及びその他・その他2の名目で賃金を支払っていました。

作業の割当て

現業職に対する作業の割当て(配車)は、配車係と呼ばれる主任や支社長付などの管理職が行っていました。
午前便については前日の配車表の記載により確定し、午後便については午前便の終了後に配車係の指示により確定することになっていました。
ただし、配車について客観的な基準はなく、配車係の裁量に委ねられていました。

勤怠管理

Y社は従業員に対して、勤怠管理パソコンで出勤・退勤認証を行わせていたほか、拘束時間管理表によって始業と終業の時刻を自己申告させていました。
Xさんらの同表の「出社時刻」欄には、管理職の指示により、シフト上の始業時刻を記入し、同表の「退社時刻」欄には、退勤認証の見込み時刻を記入して自己申告していましたが、実際に退勤認証を行った時刻との間にはずれが生じることが多々ありました。

また、Y社では、勤務中の作業服着用が義務付けられ、勤務外の作業服着用が禁止されていたため、Xさんらのような現業職は、出勤後および退勤前にG支社において着替えをしなければなりませんでした。
そして、G支社では、シフト上の始業時刻から5分頃までの間に朝礼が開始されていました。

協定届の提出

G支社は、「1年単位の変形労働時間制に関する協定届」を三鷹労働基準監督署に届け出ていましたが、G支社においては、各月の30日前までに従業員の公休予定表を作成・周知することが徹底されていませんでした。
また、G支社においては、いったん公休予定表が作成された後でも、従業員らの申出以外の理由によって、公休予定日が変更になることも稀ではありませんでした。

訴えの提起

Xさんらは、業績給A(売上給)、業績給A(件数給)、業績給B、愛車手当、無事故手当については労働基準法規則19条1項6号所定の「出来高払制その他の請負制によって定められた賃金」には該当しない等と主張したうえで、時間外労働にかかる割増賃金の未払いがあるとして、Y社に対し、未払い賃金等の支払いを求める訴えを提起しました。

争点

本件では、
①業績給A(売上給)、業績給A(件数給)、業績給B、愛車手当、無事故手当について労働基準法施行規則19条1項6号所定の「出来高払制その他の請負制によって定められた賃金」に該当するか否か
②アンケート手当およびその他・その他2について労働基準法施行規則21条4号所定の「臨時に支払われた賃金」に該当するか否か
③Xさんらの実労働時間
④1年単位の変形労働時間制に関するG支社における労使協定が有効か否か
などが主要な争点となりました。

労働基準法

第二十七条 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

労働基準法施行規則

第十九条 法第三十七条第一項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第三十三条若しくは法第三十六条第一項の規定によつて延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの労働時間数を乗じた金額とする。
一から五 (略)
六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額
七 (以下略)

第二十一条 法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
一から三 (略)
四 臨時に支払われた賃金
五 (略)

労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)

本判決の要旨

争点①業績給A(売上給)、業績給A(件数給)、業績給B、愛車手当及び無事故手当の労働基準法施行規則19条1項6号所定「出来高払制その他の請負制によって定められた賃金」該当性

出来高払制その他の請負制とは

労基法27条及び労基法施行規則19条1項6号の「出来高払制その他の請負制」とは、労働者の賃金が労働給付の成果に応じて一定比率で定められている仕組みを指すものと解するのが相当であり、出来高払制賃金とは、そのような仕組みの下で労働者に支払われるべき賃金のことをいうと解するのが相当である(東京高裁平成29年判決参照…)。

業績給A(売上給)について

業績給A(売上給)は、売上額に応じて支給される賃金である(…)。現業職の労働給付の成果とは作業量や運転距離であるところ、売上額は営業職の交渉力如何により必ずしも作業量等と一致しないこと、作業量等は助手の経験値や顧客の対応による影響を受けること、午前便に負担の大きい案件の割当てを受けるとその終了が遅くなり、午後便の配車の有無及び内容等にも影響し得ること等(…)に照らすと、売上額は、現業職の労働給付の成果(作業量等)と必ずしも連動するものではない。
さらに、業績給A(売上給)は、現業職が配車係から案件の割当て(配車)を受けて得られる賃金であるが、配車について客観的な基準はなく、配車係の裁量に委ねられている(…)。
また、売上額とされる「車両・人件費値引後合計」額自体は現業職には示されておらず、また、営業職の売上給には上限は設けられていないのに対し現業職の売上給には上限が設けられているなど(…)、現業職に対するインセンティブとしての機能も限定的であった。
現業職としては結局のところ、売上額の多寡にかかわらず、専ら配車係が全体のバランスを考慮しつつ、裁量によって指示する案件の割当てに従って決められた作業をするほかはなかったといえる。
したがって、業績給A(売上給)は、現業職の労働給付の成果に応じた賃金と実質的に評価することはできず、出来高払制賃金に該当するとは認められない

業績給A(件数給)について

業績給A(件数給)は、作業件数と車格に応じて支給される賃金である(…)。しかし、引っ越しの規模は様々であり、規模の大きい案件であれば1日1件しかできないが、規模の小さい案件であれば4件回すことも可能であること(…)などに照らすと、作業件数は、現業職の労働給付の成果(作業量等)と必ずしも連動するものではない。また、(…)案件の割当ては配車係が行うものであり、業績給A(件数給)は、現業職の自助努力が反映される賃金であったとはいい難く、実際、配車係は現業職の労働時間のバランス等に配慮して案件を割り当てていたことから、平均してみれば現業職間にさほどの差異が生じるものでもなかった(…)。
したがって、業績給A(件数給)は、現業職の労働給付の成果に応じた賃金と実質的に評価することはできず、出来高払制賃金に該当するとは認められない

業績給Bについて

業績給Bは、現業職が、配車係の指示により、長距離運転(150km以上)、ピアノの搬出・搬入、応援、資材引取等の一定の作業を行った場合に、ポイント表に基づいて支給される賃金であり(…)、現業職に義務付けられた業務の一環の中で被告の指示に基づいて行われる特定の作業についてその内容に応じた手当を付けるものであって(…)現業職の自助努力が反映される賃金であったとはいい難い。
したがって、業績給Bは、現業職の労働給付の成果に応じた賃金と実質的に評価することはできず、出来高払制賃金に該当するとは認められない

愛車手当について

愛車手当は、車両の洗車やワックスがけを行った場合に支給される賃金であるが、洗車等は、被告による定期的な指示に基づくものであり(…)、労働契約上、現業職に義務付けられた引越作業に付随する業務(準備行為)であるとみられ、また、支給額も、1月に作業4回分までに制限されていたこと(…)を踏まえると、現業職の労働給付の成果に応じて一定比率で定められた賃金とは評価することができず、出来高払制賃金に該当するとは認められない

無事故手当について

無事故手当は、無事故に関する所定の条件を満たした場合に支給される賃金である(…)。しかし、これらの条件を満たすことは、現業職の労働給付の成果(作業量等)と評価することができず、支給額も、定額(月額1万円)であった(…)。
したがって、無事故手当は、現業職の労働給付の成果に応じて一定比率で定められた賃金であるとはいえず、出来高払制賃金に該当するとは認められない

裁判所
裁判所

いずれの手当ても「出来高払制賃金」には該当しませんね

争点②アンケート手当およびその他・その他2の労働基準法施行規則21条4号所定「臨時に支払われた賃金」該当性

臨時に支払われた賃金とは

労基法施行規則21条4号の「臨時に支払われた賃金」とは、臨時的、突発的事由に基づいて支払われたもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常にまれに発生するものである。(昭和22年9月13日発基17号参照)

アンケート手当について

アンケート手当は、顧客からのアンケート評価と枚数に応じて支給される賃金であり(…)、支給事由の発生が不確定なものである。しかし、(…)全体的にみれば、非常にまれに発生するものとはいえない。
したがって、アンケート手当は、臨時に支払われた賃金に該当するとは認められず、割増賃金の算定基礎から除外されない。

その他・その他2について

その他・その他2は、一時的なキャンペーンに基づく支給金、最低賃金を満たすための賃金保障、給与体系の見直しにより不足額が生じた場合に支給される賃金であり(…)、内容によっては、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常にまれに発生するものとなり得るが、被告は、(…)その具体的内容を明らかにしない。
したがって、その他・その他2は、臨時に支払われた賃金に該当するとは認められず、割増賃金の算定基礎から除外されない。

争点③実労働時間

判断枠組み

労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、この時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、また、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事務所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労基法上の労働時間に該当する(最高裁平成7年(オ)第2029号同12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)。

本件の検討

これを本件についてみるに、(…)原告らは、引越運送業務の準備行為である着替えをG支社内において行うことを被告から義務付けられていたといえるから、出勤時の着替えに要した5分間は、被告の指揮命令下に置かれたものと評価することができる。
(…)したがって、原告らの始業時刻は、始業の自己申告時刻(シフト上の始業時刻)の5分前と認めるのが相当である。

(…)また、上記アと同様、退勤前の着替えに要した5分間は、被告の指揮命令下に置かれたものと評価することができる。
したがって、原告らの終業時刻は、退勤認証時刻(ただし、同時刻が認定できない日については終業の自己申告時刻)の5分後と認めるのが相当である(…)。

争点④1年単位の変形労働時間制に関するG支社における労使協定の有効性

判断枠組み

1年単位の変形労働時間制は、使用者が、労使協定により、〈1〉対象労働者の範囲、〈2〉対象期間、〈3〉特定期間、〈4〉労働日及び労働日ごとの労働時間、〈5〉労使協定の有効期間について定めたときは、1か月を超え1年以内の対象期間を平均し、1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲において、その定めにより、特定された週において1週の法定労働時間を、又は特定された日において1日の法定労働時間を超えて労働させることができるというものであり、〈4〉に関し、対象期間を1か月以上の期間で区分して、その最初の期間についてのみ労働日及び労働日ごとの労働時間を特定し、その後の各期間については労働日数及び総労働時間を定める方法によることも許容されているが、その場合には、各期間の初日の30日前までに、事業場の過半数代表の同意を得て、当該期間の労働日及び労働日ごとの労働時間を書面で特定しなければならないものとされている(労基法32条の4第1項、第2項、労基法施行規則12条の4第1項、第2項)。

変形労働時間制において、労働時間の特定を求める趣旨は、労働時間の不規則な配分によって労働者の生活に与える影響を小さくすることにあるところ、労基法89条は、就業規則で始業及び終業の時刻並びに休日を定めることと規定しているから、1年単位の変形労働時間制を採用する場合にも、就業規則において、対象期間における各日の始業及び終業の時刻並びに休日を定める必要があるというべきである。そして、対象期間を1か月以上の期間で区分して、その最初の期間についてのみ労働日及び労働日ごとの労働時間を特定し、その後の各期間については労働日数及び総労働時間を定める方法による場合においては、少なくとも就業規則において、勤務の種類ごとの始業・終業時刻及び休日並びに当該勤務の組合せについての考え方、勤務割表の作成手続及びその周知方法等を定め、これに従って、各日ごとの勤務割は、最初の期間におけるものは当該期間の開始前までに、最初の期間以外の各期間におけるものは当該各期間の初日の30日前までに、それぞれ具体的に定めることを要すると解するのが相当である。(平成11年1月29日基発45号参照)

また、1年単位の変形労働時間制は、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することがないことを前提とした制度であるから、通常の業務の繁閑等を理由として休日振替が通常行われるような場合は、1年単位の変形労働時間制を採用することはできない。(平成6年5月31日基発330号、平成9年3月28日基発210号、平成11年3月31日基発168号参照)

本件の検討

これを本件についてみるに、(…)労基法32条の4及び89条の趣旨に照らし、現業職の労働時間が、書面により始業・終業時刻をもって特定されていたと評価することはできない。また、そもそも、(…)G支社においては、各月の30日前までに従業員の公休予定表を作成・周知する取扱いが徹底されておらず、公休予定表の作成後も、従業員らの申出以外の理由により、公休予定日が変更されることがまれではなかったことに照らすと、各月の30日前までに公休予定表が作成される形がとられていたとしても、実態として、各期間の労働日が特定されていたと評価することはできないといわざるを得ない。
以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、本件請求対象期間におけるG支社の変形労働時間制の定めは、労基法32条の4の要件を充足しないものとして無効である。

結論

よって、裁判所は、以上の検討により、Y社はXさんらに対して未払い割増賃金等の支払義務があるとの判断を示しました。

本件のまとめ

本件は、Y社がXさんらに対して支払っていた業績給A(売上給)、業績給A(件数給)、業績給B、愛車手当および無事故手当について、労働基準法規則19条1項6号所定の「出来高払制その他の請負制によって定められた賃金」に該当するか否か等が争われた事案でした。

裁判所は、労基法27条及び労基法施行規則19条1項6号が定める「出来高払制その他の請負制」について、川崎陸送事件(東京高判平成29.11.16判決)を参照し、「労働者の賃金が労働給付の成果に応じて一定比率で定められている仕組みを指すものと解するのが相当であり、出来高払制賃金とは、そのような仕組みの下で労働者に支払われるべき賃金のことをいうと解するのが相当である」との判断枠組みを示しました。

そのうえで、Y社がXさんらに対して支払っていた業績給A(売上給)、業績給A(件数給)、業績給B、愛車手当および無事故手当はいずれも出来高払制賃金には該当しないと判断しました。

 賃金の性質出来高払制賃金該当性
業績給A(売上給)売上額に応じて支給される賃金×
業績給A(件数給)作業件数と車格に応じて支給される賃金×
業績給B配車係の指示により長距離運転、ピアノの搬出・搬入、応援、資材引取等の一定の作業を行った場合にポイント表に基づいて支給される賃金×
愛車手当車両の洗車やワックスがけを行った場合に支給される賃金×
無事故手当無事故に関する所定の条件を満たした場合に支給される賃金×

裁判所は、各賃金が出来高払制賃金に該当するか否かを判断するにあたり、各賃金(手当)が現業職の自助努力が反映されるものであったか否かに着目し、丁寧に検討を加えています。また、支給額に上限があることや支給額が定額であることについても、現業職の労働給付の青果に応じて一定比率で定められた賃金とは評価できないとの否定事情に傾く事情として検討しており、出来高払制賃金該当性を考えるうえで非常に参考になります。

弁護士にご相談ください

冒頭でも述べたとおり、出来高制の歩合給は残業時間も含めた総労働時間に対する対価として捉えられるため、割増賃金の算定基礎となる賃金の計算においても総労働時間で割ることになることから(労働基準法施行規則19条1項6号)、時間単価(時給)が低額になるうえ、割増賃金も0.25倍で足りることになっているため、特に割増賃金の負担を軽減したいと考える使用者において出来高払制度が導入されるケースが多くあります。

もっとも、出来高制を導入する以上は、名実ともに出来高制賃金に当たるものでなければならず、賃金支払いの負担を減らすための制度濫用は許されません。

本判決では、現業職の自助努力が反映されたものであるか否かに着目して丁寧な検討が加えられていますが、これまで出来高制賃金該当性が争われた裁判例においても、業務遂行の成果に応じているか否かによって判断が分かれており、同制度を導入する場合には、賃金が「労働給付の成果に応じて一定比率で定められている仕組み」の下で支払われるものとなっているか否かについて慎重に検討する必要があります。

賃金体系は労働者にとっても影響が大きく、特に関心が高いところです。
本件のように労働者から未払いの賃金があるとして訴えを提起された場合には、会社にとっても非常に負担になるうえ、仮に未払いがある場合には遅延損害金等の支払義務も負うことになります。
出来高制を採用していない場合であっても、本判決を踏まえて、改めて社内の賃金体系を見直し、問題がないか否かを確認しておくことが大切です。
賃金制度についてお悩みがある場合や労働者から未払賃金の支払いを受けてお困りの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。