その「無借金経営」が、あなたの尊厳を奪うかもしれない
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〜ある成功者の転落に学ぶ、本当の生存戦略〜
先日ネット記事を見ていたら、懐かしいインフルエンサーの名前が目にとまりました。
数年前までブログ界隈で活躍し、収入が伸びたことからサラリーマンを辞めて独立。その後も著書を数冊発行し、セミナーも次々と開催して破竹の勢いで活躍していたことから、私も興味を持って動向を追っていた一人でした。
あるときを境にめっきり名前を見なくなったのですが、変化の激しいこの世の中ですので、「名前を見なくなった」こと自体、特に意識することなく時が流れていました。
しかし、その記事によると、彼が表舞台から消えていた期間はまさに「壮絶」の一言。人気商売の恐ろしさと、経営における「守り」の盲点を痛感させられる内容でした。
彼の人気の秘訣は、ブログを利用した圧倒的な発信力と発信量でした。自身のコンプレックスの克服や、「好きなことをして生きる」姿をリアルタイムで発信し続けるスタイルは、多くの共感を呼んでいました。成功とともに収入は増え、公私を共にするパートナーも見つけて華やかな生活を送っていましたが、そのパートナーとの関係悪化をきっかけに、人生の歯車が一気に逆回転し始めたといいます。
記事の見出しには「年収5500万円から生活保護に」という衝撃的な言葉が躍っていました。詳しい経緯は割愛しますが、うつ病の発症、活動休止、そして自己破産に至るまでのプロセスは、すべての経営者にとって他人事ではない教訓に満ちています。
私が特に恐ろしいと思ったのは、「特定の収入源に頼るリスク」と、「無借金経営によるキャッシュフローの喪失リスク」です。
彼は、ブログによるアフィリエイト収入や自身の発信を起点とした売上がメインだったのでしょう。いわゆる「一本足打法」の状態です。こうした「個人の人気」に依存するビジネスは、本人の心身の状態がそのまま売上に直結します。一度心が折れ、発信が止まれば、蛇口を締められるように収入は途絶えてしまいます。
しかし、本当に彼を追い詰めたのは、収入がなくなった後の「資金調達手段」が皆無だったことでした。
ここで、世間で美徳とされる「無借金経営」の落とし穴が浮き彫りになります。彼は稼いでいる間、おそらく融資を必要とせず、金融機関との取引実績を作っていなかったのでしょう。記事の中で彼は、困窮してから銀行へ融資を頼みに行っても、どこも相手にしてくれなかったと語っています。
銀行という組織は「雨が降っている時には傘を貸してくれない」ものです。晴れている時に「借りて、期限通りに返す」という実績を積み上げてきた人にだけ、嵐の夜に傘を差し出してくれる。これが金融の冷徹なルールです。
さらに残酷なのは、人間関係です。公的な信用(銀行との実績)がない彼は、知人や友人に借金をお願いせざるを得なくなりました。しかし、お金が絡む人間関係は驚くほど脆いものです。返済が滞れば、それまで「親友」だと思っていた人々からもSNSをブロックされ、ファンは引き潮のように去っていく。彼は孤独の中で、尊厳を削りながら自己破産という道を選びました。
もし、彼が絶好調の時にあえて融資を受け、銀行との太いパイプを築いていたらどうなっていたでしょうか。手元に「再起するための時間」を買うためのキャッシュがあれば、生活保護に頼る前に、もっと静かな環境で治療に専念できていたかもしれません。
「無借金」という言葉は耳に心地よいものですが、裏を返せば「いざという時に自分を守ってくれる制度的な後ろ盾がない」ということでもあります。
特に、自分自身が最大の資本である私たちのようなビジネスにおいて、わずかな利息を払ってでも「実績」を作っておくことは、単なるコストではありません。それは、自分が倒れた時に家族と自分の尊厳を守り抜くための「経営継続保険」の保険料なのです。
弁護士はじめ、士業の人たちは本当に借金が下手です。「借りないこと」のリスクの面にも目を向けてみる必要があるのではないでしょうか。
あなたのビジネスは今、一本の足だけで立っていませんか? そして、あなたの「無借金」は、嵐の夜にあなたを守ってくれる盾になっていますか?
この衝撃的な告白は、私たちに「真の健全経営とは何か」を重く問いかけています。
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