「ナノバナナ」旋風とGemini 3の衝撃。AI全盛期の2026年年賀状、その「著作権」は誰のもの?
- イトウの経営Column
- tags: 生成AI 著作権

はじめに:2025年に突然やってきたAI新時代
師走も半ばを迎え、街路樹のイルミネーションが目に沁みる季節となりました。 皆様、2025年はどのような一年でしたでしょうか?
ビジネスの世界を振り返ると、今年もやはりテクノロジー、特にAI(人工知能)の進化に振り回され、そして助けられた一年だったと言えるでしょう。記憶に新しいのは、急に進化したと言われるGemini3と、この秋、SNSを席巻した謎のミーム動画「ナノバナナ」。私も事実上、ChatGPTからGeminiに乗り換えました。
衝撃のナノバナナ。ハイクオリティな画像はもちろん、霞ヶ関文書も再現するという芸の細かさ。「もはや、人間にしかできないクリエイティブなど存在しないのではないか?」
そんな畏怖すら感じる問いを抱えながら、多くの方が向き合う現実的な年末業務。そう、年賀状の準備です(私自身は、公私ともに年賀状は卒業してしまっています…。ゴメンナサイ)。
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来年、2026年は「午(うま)年」。 「最新AIを使えば、躍動感のある馬のイラストなんて数秒で用意できる。今年の年賀状はこれでいこう」
そうお考えの経営者様、広報担当者様も多いのではないでしょうか。確かに、AIは業務効率化の強力な武器です。
ちょっとまって。生成AIで作った画像の著作権ってどうなってるんだ?
今回は、AI全盛期に迎える新年の挨拶を、企業のコンプライアンス問題に発展させないための、少しディープな法務コラムをお届けします。
第1章:AIが生み出した「傑作」は、誰のものでもない?
まずは、AIと著作権を語る上で避けては通れない原則から。
2025年現在の日本の法律実務、および文化庁の見解において、「AIが自律的に生成した画像」には、原則として著作権が発生しません。
これは、多くのビジネスパーソンが誤解している点です。「自分が苦労してプロンプト(指示文)を考えたのだから、出てきた画像の権利は自分(自社)にあるはずだ」と考えがちですが、法的な解釈はそう単純ではありません。
日本の著作権法において、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義されています。現在のところ、AIには人間のような「思想」も「感情」もないとされています。そのため、AIはあくまで「高機能な絵筆」や「カメラ」といった「道具」に過ぎず、道具が自動的に出力した結果物に、独自の権利は認められないのです。
文化庁 AI と著作権に関する考え方について p39以下参照
ビジネス上の重大なリスク:「パクられ放題」の可能性
この原則が、ビジネスの現場でどのようなリスクとなるのか、具体的に見てみましょう。
例えばあなたがGemini 3に「サイバーパンク風の、光り輝くたてがみを持つ機械仕掛けの馬」を生成させたとします。AIによって、以下のようなイラストが出力されました。

あなたは、このハイクオリティな画像を自社の年賀状のメインビジュアルに採用し、さらには「我が社の革新性を象徴する新キャラクター」としてWebサイトにも掲載しました。
ところが数日後、競合他社が全く同じ画像を、自社の広告バナーで使い始めたとします。あなたは激怒し、「それはうちのオリジナルキャラクターだ! 使用を差し止めろ!」と訴えることができるでしょうか?
答えは、「極めて難しい」です。
なぜなら、この画像には(原則として)著作権が発生していないからです。著作権がない以上、「著作権侵害」を主張することはできません。法的には、この画像は誰のものでもない「パブリックドメイン(公有)」に近い状態にあると解釈されるリスクが高いのです。
「AIで作ればタダで素材が手に入る」という安易な考えは、「タダで手に入れたモノは自分のモノではない」という大きな代償を伴う可能性があることを、まずは銘記する必要があります。
第2章:一歩踏み込んだ議論。「創作性」の境界線はどこにある?
ここまで「原則」をお話ししましたが、読者の皆様の中には、このように思われた方もいるかもしれません。
「いや、ちょっと待ってほしい。私は単に『馬の絵』と指示したわけではない。構図、色使い、画風、光の当たり方に至るまで、何千文字もの詳細なプロンプトを練り上げ、何百回も再生成を繰り返して、ようやくこの一枚に辿り着いたのだ。これが『創作』でなければ何なのだ?」
その感覚は、非常に正しいものです。そして、法的な議論もまさにその「境界線」にあります。
AIは「道具」か、「作者」か
2025年の現在、議論は「AIか人間か(0か100か)」という単純な二元論から、「人間がどこまで創作的に関与したか(寄与の度合い)」というグラデーションの議論に移っています。
もし、あなたのAIへの関与が、単なる「アイデアの提示(短いキーワード入力)」の域を超え、以下のようなレベルに達していた場合はどうでしょうか。
- プロンプト自体の創作性: 指示文そのものが、詩や小説のように独創的で、具体的な表現描写に満ちている場合。
- 道具としての使いこなし: AIが出力した結果に対して、人間がパラメータを微調整し、部分的な修正指示を出し続け、まるで絵筆をコントロールするようにして意図する表現へ導いた場合。
このレベルまで「人間の創作的寄与」が認められれば、たとえ出力の大部分をAIが担っていたとしても、全体として「人間の著作物」であると認められる余地は十分にあります。
「証明の壁」という実務的なハードル
しかし、ここにビジネス実務上のジレンマがあります。法的な可能性として「権利が発生しうる」ことと、実際のトラブルの現場で「権利を認めさせる」ことは別問題だからです。
もし裁判になった場合、あなたは「いかに自分が創作的に関与したか」を、プロンプトの履歴や作業ログを提示して証明しなければなりません。しかし、現在のAIツールはブラックボックスな部分も多く、「どこからがAIの自動生成で、どこからが人間の意図か」を客観的に線引きすることは、極めて困難です。
現状のビジネス実務においては、「AI生成物にそのまま独自の著作権を主張するのは、立証のハードルが高すぎる」と考えるのが安全でしょう。
第3章:もっと怖いのは「加害者」になるリスク
ここまでは「自社の権利を守れない」という話でしたが、企業にとってより深刻なのは、知らぬ間に「他者の権利を侵害してしまう(加害者になる)」リスクです。
Gemini 3のような高性能AIは、インターネット上の膨大な画像データを学習して育っています。その学習データの中には、当然ながらプロのイラストレーター、漫画家、写真家が制作した著作物が含まれています。
AIの「過学習」と「依拠性」の罠
例えば、あなたが「2026年の干支だから、〇〇(有名な競走馬漫画)の画風で、躍動感のある馬を描いて」と安易に指示したとします。
AIは忠実に命令を実行し、その漫画家の特徴的なタッチ、構図、キャラクターの造形を色濃く反映したイラストを出力するかもしれません。これを「AIが作ったから大丈夫だろう」と年賀状に印刷し、何千枚も取引先に送付してしまったら、どうなるでしょうか?
受け取った相手の中に、その漫画のファンや関係者がいれば、「これは明らかに〇〇先生の作品のパクリではないか?」と気付きます。
著作権侵害が成立するには、主に「類似性(似ていること)」と「依拠性(既存の作品を知っていて、それに基づいたこと)」が必要です。AIが特定の作品を学習しており、その特徴が強く出ている場合、これらの要件を満たしてしまうリスクが常に潜んでいます。
「AIが勝手にやった」は通用しない
炎上した際に、「指示したのは人間だが、描いたのはAIだ。AIが勝手に似せてしまったのだ」という言い訳は通用しません。
最終的にその生成物を「採用」し、自社の表現として外部に「公表」することを決定したのは、人間であるあなた(会社)だからです。AIの性能が上がり、特定の作家の画風を完璧に模倣できるようになればなるほど、コンプライアンス上のリスクも比例して高まっていくのです。
文化庁 AI と著作権に関する考え方について p32以下参照
第4章:2026年を生き抜く、賢いAI活用の作法
ここまで脅かすようなことばかり書いてきましたが、決して「AIを使うな」と言いたいわけではありません。AIは正しく使えば、年賀状作成のような定型業務を劇的に効率化し、人間のクリエイティビティを拡張してくれます。
重要なのは、リスクを理解した上で、適切な「作法」を身につけることです。2026年の年賀状作成において、企業が守るべき3つのポイントを提案します。
1. 利用規約(Terms of Service)を再確認せよ
著作権法以前の問題として、意外と見落としがちなのが、使用するAIサービスの「利用規約」です。
- そのサービスは、生成物の「商用利用」を認めていますか?(無料プランでは不可、というケースも多いです)
- 生成物の権利帰属はどう規定されていますか?
- 他者の権利侵害が発生した場合の免責事項はどうなっていますか?
会社の公式年賀状は、立派な「商用・業務利用」にあたります。規約違反でアカウントが停止されたり、損害賠償を請求されたりしては目も当てられません。2025年版の最新規約を必ずチェックしましょう。
2. 「類似性チェック」をルーチンワークに
AIが生成した画像をそのまま使う前に、必ずひと手間かけましょう。Google画像検索などのツールを使い、生成された画像が、既存の有名なキャラクターやイラストに酷似していないか確認するのです。
特に干支である「馬」は、競走馬、アニメ、ゲームなど、既存の著作物が多いモチーフです。無意識の「パクリ」を防ぐための、最低限の防波堤となります。
3. 「人間の手」を加え、魂を吹き込む
これが最も確実かつ、本質的な対策です。
AIが生成したものを「完成品」とするのではなく、あくまで「下書き」や「素材パーツ」として扱いましょう。そこから社内のデザイナーが加筆・修正を行ったり、複数の素材を組み合わせてコラージュしたり、自社のメッセージに合わせて大きく加工するのです。
AIが出力した生のデータに、人間が明確に手を加えることで、その加工部分について確実に「人間の著作権」を発生させることができます。

このイラストのように、AIが提示した「2025」の惰性を、人間が意思を持って「2026」へと書き換えていく。そんな姿勢こそが、法的リスクを回避し、同時にオリジナリティのある年賀状を作る秘訣と言えるでしょう。
おわりに:技術が進化するほど、「人間」が問われる
「ナノバナナ」の衝撃は、AIが到達した表現力の高さを私たちに見せつけました。しかし、どれほどAIが進化しても、それがビジネスの文脈で使われる限り、最終的な責任を負うのは人間です。
年賀状の本質は、一年間の感謝と、新しい年への変わらぬお付き合いをお願いする「心」を伝えることにあります。
コンプライアンスという強固な土台の上で、最新技術も賢く取り入れながら、相手の心に届く一枚を準備する。そんな「リーガルマインドを持ったクリエイティビティ」こそが、AI全盛期の2026年を勝ち抜く企業の条件になるのかもしれません。
皆様、少々早いですが、どうぞ良いお年をお迎えください。
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