事業継続はモームリ? 退職代行業者と弁護士法における問題点を解説
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退職代行サービスが広く利用されるようになるにつれて、そのサービス提供の適法性が問われるケースが増加しています。最近では、退職代行業者「モームリ」(運営会社:アルバトロス)の事業を巡り、代表者が弁護士法違反で逮捕され、提携していた弁護士側も書類送検されたとの報道がありました。本稿では、この事件を契機として、何が法的に問題であったのか、そして今後どのような点が問題になり得るのかを、弁護士の視点から解説します。
弁護士法上の「非弁提携」とは
今回の事件でまず焦点となっているのが、弁護士法第72条に違反する「非弁提携」です。依頼者が弁護士を探す際に紹介を求めるのは自然な行為ですが、弁護士業界には一般のビジネスとは異なる厳格なルール、すなわち「非弁提携の禁止」が存在します。
これは、弁護士がブローカーや特定の業者と組むことを禁じるものです。「非弁提携」とは、弁護士資格を持たない者(非弁護士)から事件の紹介を受け、その対価として紹介料を支払ったり、非弁護士に自身の名義を利用させたりする行為を指します。法律(弁護士法)や弁護士会のルール(職務基本規程)では、以下の行為が厳しく禁止されています。
- 紹介料の授受の禁止: 依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼や対価を支払うこと(職務基本規程13条)。
- 非弁護士との提携禁止: 法律事務を行う資格のない業者(整理屋・事件屋など)から紹介を受けたり、これらの者を利用したりすること(職務基本規程11条)。
- 名義貸しの禁止: 自身の名前を使って非弁護士に法律業務を行わせること(職務基本規程11条)。
「紹介料」の授受が禁止される背景
ビジネスにおいて紹介料の支払いは一般的ですが、弁護士業務でこれが許されると、依頼者にとって深刻な問題が生じます。
- 依頼者の不利益: 紹介料(キックバック)を支払う業者が介在することで、弁護士費用が不当に高額化したり、不要な紛争を煽って報酬を得ようとする動きが生じたりします。
- サービスの質の低下: 業者の利益が優先され、「儲かる案件」のみが弁護士に回されるなど、依頼者の真の利益に基づいた適切な弁護活動が行われなくなる可能性があります。
- 責任の所在の不明確化: 資格のない業者が実質的な業務を行い、弁護士が名義を貸すだけの状態になると、トラブル発生時の責任の所在があいまいになり、依頼者が保護されません。
報道によると、モームリ事件では、表面上は「紹介料」とは異なる名目で金銭のやり取りが行われていた可能性が指摘されています。
- 名目の偽装: 顧客紹介の対価であるにもかかわらず、「広告料」などの名目で金銭が授受されていた場合でも、その実態が紹介の対価と評価されれば、違法な非弁提携(周旋)に当たります。
- 信頼の悪用: モームリが「弁護士監修」や「労働組合提携」を全面的に掲げ集客し、集めた顧客を特定の弁護士に裏で流して利益を得るというスキームが、組織的な非弁提携の温床となっていた疑いが持たれています。紹介先の弁護士法人が労働組合に「賛助金」を支払っていたとされる点についても、実態のない労働組合への支払いがモームリへの紹介料に当たると見られています。
過去に問題となった「非弁提携」
司法書士は認定を受ければ一定額(140万円)以下の簡易裁判所管轄の民事事件などを扱えますが、それを超える額の事件や、権限外の業務を行うことは非弁行為となります。 過去には、権限外の過払金返還請求事件を扱い、提携する弁護士法人に紹介して「書類作成費用」などの名目で実質的な紹介料を受け取っていた事例があります。
また、行政書士が「街の法律家」「借金などの返済にお困りの方はご連絡ください」といったチラシを配り、実質的に多重債務者の法律相談窓口となっていた事例もあります
次なる問題:「非弁行為」の境界線
非弁提携の問題は、ある意味でモームリ固有の問題と捉えられるかもしれません。
しかし、サービス開始当初から、モームリの事業実態が「非弁行為」にも該当するのではないかという疑念があり、これに捜査のメスが入れば、同業他社への影響は計り知れません。
非弁行為とは、弁護士資格を持たない者が、報酬を得る目的で、法律事務(法律事件に関する一切の事務)を取り扱うことです。
退職代行において、単に退職の意思を会社に伝える行為は、一般的に「事実の通知」であり、法律事務には当たらないと解されています。モームリ自身も、「退職代行は単なる「通知」に徹しており、違法性はない」と説明しています。
弁護士以外が交渉を行えば違法になります。ただ本来退職に「交渉」は一切必要ありません。退職意思の通知で問題なく退職は確定すると法律で定められています。当社は「通知」に徹しているため、違法性は一切ございません。(「モームリ」ウェブサイトより引用)
しかし、会社との交渉や法的な主張に至った場合は「法律事務」に該当し、非弁行為となる可能性が極めて高くなります。
実際、「通知」と「法律事務」の間には明確な境界線はなく、相手との会話において一切交渉の要素を含まない「通知」に徹することは困難を極めます。
もし、モームリ側が「法律事務」にあたるような発言をしていた記録などが見つかれば、非弁行為での摘発も視野に入ってくる可能性が考えられます。
「実態のない労働組合」にも要注意
退職代行業者を選ぶ際、「弁護士監修」と並んで安心材料とされるのが「労働組合提携」という言葉です。しかし、今回のモームリ事件では、労働組合の実態にもメスが入るかもしれません。ここでは、なぜ「名ばかりの労働組合」が作られるのか、その危険性について解説します。
なぜ「労働組合」が必要なのか?
民間企業(株式会社など)が運営する退職代行サービスは、法的に「本人の代わりに退職の意思を伝えること」しかできません。会社側と「有給休暇の消化」や「退職日の調整」などの交渉を行うことは、弁護士法で禁じられている「非弁行為(ひべんこうい)」にあたるためです。
一方で、労働組合には憲法で保障された「団体交渉権」があり、会社と交渉を行うことが可能です。そのため、多くの民間業者は「労働組合と提携している」と謳うことで、「私たちは会社と交渉ができます(だから安心です)」とアピールし、法的なグレーゾーンを回避しようとします。
モームリ事件で露呈した「トンネル組織」の実態
逮捕された「モームリ」の運営会社も、「労働環境改善組合」という労働組合との提携を公表していました。しかし、報道によれば、この組合の実態は以下のようなものでした。
• 代表者が運営会社の社員: 組合の代表を務めていたのは、モームリ運営会社の社員とのこと。
• 運営の道具: この社員は警察の調べに対し、「組合に実態はなく、モームリを運営する仕組みの一部だった」という趣旨の話をしています。
• 資金の隠れ蓑: 弁護士への違法な紹介料(キックバック)を、組合への「賛助金」という名目にすり替えてやり取りするための、いわば「トンネル組織」として利用されていた疑いが持たれています。
「偽装労組」を利用するリスク
このように、形式上は「労働組合」と名乗っていても、実質的には運営会社が支配している「偽装労組」であるケースが存在します。
もし、あなたが依頼した退職代行サービスの提携先が「実態のない労働組合」だった場合、法的な保護を受けられない可能性があります。会社側から「その組合は実態がないため、団体交渉には応じない」と拒否されたり、今回のように運営会社が摘発された際に「非弁行為(違法な交渉)」とみなされ、サービスが停止して退職手続きが宙に浮いてしまうリスクがあります
まとめ:適法なサービス利用のために
そもそも、退職代行サービスを利用するにあたって民間業者を選ぶと、本来請求できた法的権利を見逃したり、場合によっては退職の効果すら生じないこともありえます。
安易なサービス選びは、依頼者が結果的に違法行為に加担することになったり、肝心な局面で法的サポートを受けられず不利益を被ったりするリスクを伴います。トラブルに巻き込まれることを避けたいのであれば、最初から適法な弁護士に相談することが、最も確実かつ安全な選択肢と言えるでしょう。
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