謝ったら負け、は本当か?
- イトウの経営Column
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弁護士・中小企業診断士の伊藤です。
私たちの仕事のほとんどはトラブルの解決です。交渉や訴訟、不祥事の始末や報告書の提出など、トラブルの種類は様々で、方針が極めて重要になります。
ということで、初期段階で方針の打合せをするわけですが、その際クライアントから「この点を謝ったら非を認めることになりませんか?」と質問されることがよくあります。「謝ったら負け」という考え方ですよね。
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もちろん、事実関係自体に争いがあり、自社の認識としては全くの事実無根ということであれば、堂々とその旨を主張していく必要があるでしょう。
しかしながら、事実関係に概ね争いがないようなケース、あるいは、事実関係について事実上争いようがないケースにおいて、「謝る」こと自体がどのような意味があるのかを振り返ってみます。
「謝る」ことに対する不安
「謝る」という選択が取れないいちばんの不安は、「事実を認めることになってしまう」ことです。そして、「事実を認める」ことによって、自身にとって取り返しのつかない不利益が生じてしまう、というご本人なりのワーストシナリオが見えています。
それを回避するために「謝る」ことをしない選択をしようとするわけです。
(私は全然賛成しないのですが、)「交通事故の現場で謝ってはいけない」という言説がまかり通っているのはこうした背景があるようです。
「謝る」=事実を認める、は切り離し可能
ところが、謝ることと事実を認めること自体は、実は論理的に直結するものではありません。相手に対して謝罪する状況が生じている段階で、相手の見え方とこちらの見え方が異なっているわけです。譲れない事実については認めないまま(はっきりといわないまま)謝罪することは十分に可能です。
「事実を認めることになる」から「謝らない」はこの時点で既にねじれてしまっているわけです。
「事故に遭った」という怒りの感情に対して謝罪することは、必ずしもその事故の過失を自ら認めたことを意味しないわけですね。
「事実」は証拠で決まる=謝るかどうかは実はあまり関係ない
裁判に視点を移しましょう。裁判では、実は「あのとき謝ったじゃないか」ということ自体では事実関係は決まりません。もちろん裁判の手続きの中で事実を認めれば、その事実は争えなくなりますが、裁判に至る前に謝ったこと自体で事実関係を決めることはほぼありません。裁判官にとっていちばん興味があるのは証拠です。証拠に矛盾する謝罪はほとんど意味を持ちません。
交通事故であれば、それぞれの車両の動きや合図の有無、速度などの状況の方が大事であって、それは謝ったかどうかは関係ありません。
「謝る」選択を取らないことで回避できる問題か
話を元に戻しましょう。「謝る」選択を取らない理由は、「事実を認めることになってしまうから」というものだったとしましょう。
さて、この「事実を認めることになってしまう」事態は、「謝る」選択を取らないことで回避できるのでしょうか。
さきほど事実の認定については証拠で決まるというお話をしました。証拠の評価において、こちらにとって都合の悪い事実が認定されていまうと、それを認めていようと認めていまいとその事実は認定されてしまうわけです。
そうするとどうでしょうか。残るのは、「謝るべき状況なのに謝らない」という状況です。
「謝る」状況に追い詰められてから謝ることがいちばんの誤り
当初謝らなかった人が、謝らざるを得ない状況に追い込まれてから「謝る」というのは最悪です。人間の歴史はこの誤りの繰り返しと言っても過言ではないかも知れません。
人間は意外と「謝る」人に寛容
他方、人間は意外と最初から謝る人に対しては寛容です。頭を下げ続ける人に攻撃を続けることは、普通の人にとってはそれ自体苦痛に感じるものです(時折そうでない人もいますが、そういう場合はその人自身が責められる状況になります)。
早く謝ることは、早い解決、早い沈静化を生むことにつながります。
謝るべきかを自分たちで決めるのは実は難しい
ここまでお読みいただき、「あ、(8チャンネル)の会見の話だな」と思った方。残念、偶然です。
この話をしようと思ったのは、他でもない多数の弁護士から相談を受けてきた際にずっと思ってきたことなのです。客観的には謝る状況なのに、主観的には「相手が謝るべきだ」とおもっていることも散見されました。
弁護士でも、謝るべきポイントを見誤るケースを何度も目の当たりにしたことから、これをまとめようとおもったところ、たまたま8チャンネルの後になってしまったというタイミングでした。
ときにカスタマーハラスメントとしての対応を取るべき場面もあります。
窮地に陥ったときにこそ、自分の状況を誰かに相談し、ポジショニングをしっかり冷静に見極めることが重要です。