イトウの経営Column

書評「BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?」すべてのリーダーへ

弁護士法人ASK代表の伊藤です。たまにはビジネスに役立つ書評を。

「思い立ったら即行動! 動きながら考えて、軌道修正しながらゴールに突き進む!」 なんか成功につながる秘訣に聞こえませんか? これを実行している人も多いのでは?

そんな常識(?)を打ち砕く書籍の紹介です。

「BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?」(サンマーク出版)

ビッグプロジェクトのマネジメントの話でしたが、すべてのリーダーが読むべき良書でした。私などは、「あれ? これまで真逆をやってた?」と耳(目?)の痛い思いをしながらも、取り上げられるエピソードも非常に面白く、あっという間に読み終えてしまいました。

ゆっくり考えすばやく動く

プロジェクトは、一定の期日までに、一定のコストで完成させ、一定の便益をもたらすという約束で実行されるものだ。しかし、本書によると、期日もコストも便益も予定通りに進むプロジェクトは全体の0.5%に過ぎない(!)とのこと。

では、コストの見積を多めに見積もり、計画に余裕を持たせればいいのか?答えはノー。

多めに見積もったつもりでも、まだまだリスクを過小評価している。

めったに起こらないが、起こったときに破滅に導く要因を「ブラックスワン」と呼んでいるが、このブラックスワンを排除することが壊滅的な失敗を排除する秘訣。

うまくいかないプロジェクトはズルズルと長引きがちだが、うまくいくプロジェクトはスイスイと進む。ズルズルと長引くと、開いた窓からブラックスワンが飛び込んできて、プロジェクトを壊滅させる。成功するためには、「窓を早く閉めて、スピーディーに終わらせる」ことである。

でも、大型プロジェクトを「スピーディーに終わらせる」のはそもそも無理では? いやちがう。安全な港で時間をかけて計画を行い、計画が決まったら窓を閉めて荒波での航海を最短距離で切り抜けることで成功に導くのである。ゆっくり考えすばやく動く。

「まず動く」の弊害

思い立ったらまず動く。動きながら考えよう。やればできる。

そう思って始めてみたんだけど、結局うまくいかなかったな、何が悪かったんだろう?

安心してほしい。途中でうまくいかなったわけじゃない。最初から、計画どおりにうまくいかなかっただけなのだ。

人は、慎重に考えるよりも1つに決めたいという欲求がある。「固定化」とは、他に選択肢があるかも知れないのに、唯一の選択肢であるかのようにふるまって結果として予想以上のコストとリスクを負ってしまうことと、本書では定義しているが、この固定化を行うと、目的実現のために、情報をゆがめたりごまかしたりするようになってしまう。

ものごとの決断をするときに、よく「直感を信じよう」という人がいるが、これも陥りやすい罠である。生来的に人は直感を信じたい動物で、あらゆる決断が直感的に行われている。そして、実行したいとおもうことは、前に進んでいる感覚がほしいから、というだけに過ぎないことも多い。

必要な情報や知識が決断時点ですべて手許にあると思ってはいけない。

先入観を排除し、欠点を洗い出し、他の機会にも目を向ける必要がある。「ゆっくり考えすばやく動く」ためには、早く決めてしまわないことを肝に銘じることである。

「経験」の軽視リスク

経験に価値があることは誰もが理解するところである。しかし、大型プロジェクトでは、ほとんど経験が活かされない。誰も成し遂げたことがない、まだ誰もやっていない、ということが、ブレーキではなくむしろ推進すべき理由になってしまう。初めてで唯一無二のことだから、前例から学ぶべきことはない、という思い込みで、経験を軽視してしまうのである。

「初めて」の魅力の背景は先行者利益の独占であろう。しかし、その先行者利益というのは誇張されすぎている。先行したパイオニア企業の倒産率は、追随したフォロアー企業の倒産率よりもはるかに高い上、パイオニア企業の市場シェアよりもフォロアー企業の市場シェアの方が高いというデータがある。結局、利益を得たいのであれば、ファストフォロアーになって、先行者から学ぶことである。

オリンピックというのは、開催が4年ごとであることに加えて、政治的に、他の開催地との違う唯一無二のものを作ろうとするため、経験が蓄積されず、「永遠の初心者症候群」という致命的な欠陥をもっている(聞いているか?東京!)。

なお、上では直感について否定的な説明があったが、「経験に基づく直感」は正しいことが多い。これは言語化されていない暗黙知であることが多いが、非常に強力なツールとなる。

一丸チームですばやくつくる

計画が素晴らしくとも実行するのはチームである。

経験豊富なチームを集め、現場では「組み立てることだけ」に集中し、必要なものをただちに支給する。そんなチームを集められないのであれば、作る必要がある。チームの利害が一致すれば、協力的となる。心理的安全性を保障し、チーム作りにコストをかける。

スモールシング戦略

本書では、高速増殖炉「もんじゅ」の例が取り上げられている。1983年に着手し、2016年に廃止が決定されるまで、推定される廃炉コストを含めて150億ドルの資金を費やして、生み出した電力がほぼゼロというプロジェクトであった。最近、敦賀原発2号機が「不合格」となったとの報道があったばかりである。

このように1つの大きいものをつくることはリスクがあまりに大きい。経験を活用できないまま、オーダーメイドの1点ものを一発で完成させる必要がある上、完成させるまで一切の利益を生まないにもかかわらず、コストは莫大にかかるからである。

大きなものをつくるときでも、小さい(モジュール)ものを集めて最終的に巨大にするという方法が適している。分けることで経験できる数を増やすことができるし、効率もあがる。分けて組み合わせた方がコストも安くなる。また、組み合わせ次第で大きさもカスタムできる。このようなレゴ方式が、スペースXなどさまざまな大型プロジェクトで取り入れられている。

このように、まず、「分けられないか」「ブロックのように組み立てられないか」という発想を持つことがプロジェクト成功への近道である。

まとめ

本書は、文字どおり「ドデカいことをやりとげる」ためのノウハウが詰まっています。でも、みんなが大きなプロジェクトばかりやっているわけではありません。毎日、日々の細々とした作業の積み重ねという人が多いでしょう。そんな人には参考にならない?とんでもない!本書で取り上げられている大プロジェクトを、会社自体、あるいはみなさん1人ひとりに置き換えて考えてみても十分に成り立つ話ばかりではないでしょうか?

普段、計画に十分な時間をおいているでしょうか? 
見切り発車で失敗したことはないでしょうか? 
週末が近づいてくると「土日の自分に期待する」といって結局何もできずに週明けを迎えることはないでしょうか? 私はあります。
人は見積もりが過小すぎる。耳に痛いほど刺さります。

生き方そのものの捉え方を左右する座右の書、といっても大げさすぎないとおもわせる1冊です。