契約のいろは

契約の解釈とは?【よい契約書の作り方】

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当サイトでは、「契約書」の重要性をテーマにコラムを連載しています。これまで一貫して契約をするに当たっては「契約書」を作りましょう、というお話をしてきました。契約書がないと、契約当事者双方の意思が合致しているかがはっきりせず、トラブルにつながりかねません
では、契約書さえ作ってしまえば問題ないでしょうか。

契約は、通常、図やチャートなどではなく、言語(言葉)で表示されます。
言語(言葉)で書かれている以上、契約には必ず、そこに書かれた文言の「解釈」という作業が必要になります。
なぜなら、文言の「解釈」なくしては、その契約の意味内容をはっきりさせることができないからです。

今回は「契約の解釈」について説明します。

解釈の種類

例えばこんな契約条項があるとします。

この売買契約書は“よい契約書”といえるでしょうか?
契約解釈の種類を学びながら、この売買契約書に潜んだ問題について考えていきましょう。

契約の解釈には、
①本来的解釈
②補充的解釈
③補正的解釈
という3つの種類があります。
以下、それぞれ詳しく解説していきます。

本来的解釈とは

「本来的解釈」とは、当事者のした表示の意味内容を確定する作業のことをいいます。

この売買契約書の第1条を見てみましょう。
一見すると、「甲はリンゴ1ダースを1,000円で乙さんに売るんでしょ」と、誰の目にも明らかなように思えます。

しかし、よくよく考えてみると、「リンゴ1ダース」とは、

  • ?大きさや種類を問わずどんなリンゴでもいいから1ダースなのか
  • ?どこかにある特定のリンゴなのか
  • ?特定の銘柄のリンゴなのか
  • ?消費税込みの価格なのか

などといった様々な疑問点が頭に浮かんできます。

このように、契約書の表示の意味内容を読み取る作業が本来的解釈の問題なのです。

補充的解釈とは

「補充的解釈」とは、契約書に定めなかった部分について補充する作業のことをいいます。

当事者が特別な合意をしなかった場合に適用される法規(任意法規)があるときには、法律によって補充されます(民法606条1項など)。
また、慣習があるときには、慣習によって補充されることもあります。

この契約書の第2条を見てみましょう。
甲さんが乙さんに引き渡したリンゴに「数量違い」があったときは、甲さんは乙さんに対して不足分を追加で納入する義務があるというのがこの条項の内容です。

ところで、民法では次のように、売買契約の目的となった物が契約の内容に合わないときに買主が売主に対して主張できる権利を定めています。

(買主の追完請求権)
第562条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2 略

(買主の代金減額請求権)
第563条 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

2以下 略

民法(明治二十九年法律第八十九号)

このように、民法は、「種類、品質又は数量」について、契約の内容に適合しないとき、買主が売主に対して主張できる権利が定められています。

もっとも、この契約書の第2条では、「数量」違いがあったときのことしか書かれていません。
この場合、「数量違い」以外の契約不適合に関しては、買主の追完請求権や代金減額請求権などは認めないとするのか、あるいは民法の一般原則を補充的解釈によって適用するのか。
まさに、これが契約の補充的解釈の問題なのです。

修正的解釈とは

「修正的解釈」とは、当事者がした法律行為の意味を修正する作業のことをいいます。
文言上は広い意味を持つとしても、契約上は限定された意味しか持たないものとして制限的に解釈することや、条項の不当な部分を一部無効であるものとして無効とされた部分を適正な基準で補充したりすることがあります。

どのように解釈をするか

契約の解釈は、先ほど述べた3つの解釈の種類のうち、①本来的解釈が中心となります。

ただ、本来的解釈と一言で言っても、その結果が1つに決まるとは限りません。
「当事者がした契約の意味」をどのように解釈するのか、その解釈の方法にはいくつかのアプローチがあります。

一元説(客観的解釈説)

一元説とは、合意として表示された内容の客観的意味を明らかにすることが契約の解釈であるとする考え方です。

契約書に表示された意味内容がまさに外部の者が信頼する対象だという考えに依っています。
ただし、当事者の内心の意思を軽視するこの考え方には批判が強いと言われています。

たとえば、この売買契約書を交わした甲さんと乙さんが、実は、ミカンの売買契約をしたつもりであったとします。
この売買契約書には「リンゴ」と書かれているのに、そんなことあるの?と思う方がいるかもしれません。
しかし、そんなことが実際にはあるのです。

≪STEP1≫甲さんが「ミカンの売買契約書作っとくね。」といって契約書を作成したところ、商品を「リンゴ」と誤記してしまった。
≪STEP2≫甲さんが「リンゴ」と書かれた売買契約書を乙さんに渡したところ、乙さんは大したチェックをすることもなく、「はいはい、ミカンの売買契約書ね。」といってサインをしてしまった。
≪STEP3≫これで、「リンゴ」と書いてあるミカンの売買契約書のできあがりです。

一元説によると、契約の当事者同士は、売買の対象として「リンゴ」を望んでいるのに「ミカン」の契約が成立してしまいます。

二元説

現在は、当事者間の意思が合致しているかどうかによって場合分けをする二元説が主流となっています。

当事者間の意思が合致しているとき

当事者間の意思(真意)が合致しているときは、表示上の文言にかかわらず、その意思にしたがって解釈することになります。

たとえば、先ほどの例のように、売買契約書を交わした甲さんと乙さんが、実は、ミカンの売買契約をしたつもりであったとします。
この場合、二元説によれば、売買契約書には「リンゴ」と書いてあるが、契約の当事者同士では「ミカン」のつもりであれば、ミカンの売買契約が成立することになります。

当事者間の意思が合致していないとき

では、当事者間の意思(真意)が合致していないときは、どのように解釈したらよいのでしょうか。

このように当事者間の意思が合致していない場合には、二元説の中でも、表示内容の客観的意味を明らかにするべきという「客観的解釈説」と、契約当事者が表示に付与した意味のうちいずれが正当かを比較する「意味付与比較説」(この考えによれば、いずれも正当性がないときは不成立となります)の2通りの考え方に分かれています。

ただし、いずれの考え方にしても、成立した契約と異なる理解をしていた当事者は、錯誤があったということになります。

この売買契約の第1条を改めてみてみましょう。

「甲は乙にリンゴ1ダースを金1,000円で売り渡し、乙はこれを買い受ける。」とされています。
「1ダース」という表現は、通常は「12個」を指す単位です。
したがって、甲さんは1ダースを12個のことだと思っていて、乙さんは1ダースを13個のことだと思っていたとしても、客観的解釈によれば、甲さんは乙さんに対して、12個の引渡義務があるという結論になるでしょう。
仮に、甲さんが12個を渡していれば乙さんからこの売買契約書の第2条に基づいて「足りない1個をよこせ」といわれたとしても、この要求に応じる義務はないのです。

これに対して、甲さんと乙さんとの間で「1ダースとは13個のことを指す」という慣習があるときはどうでしょうか(実際、「パン屋の1ダース(Baker’s Dozen)」という言葉があり、13個のことを言うようです)。
この売買契約書の背景事情として、それまでも甲さんと乙さんとの間では、13個のことを「1ダース」と呼び合っていたなどといったことが加わった場合には、この売買契約における「1ダース」は13個のことをいう解釈も成り立たないわけではなさそうです。

また、ここでいう「リンゴ」はどのようなものでもいいからとにかく「リンゴ」をかき集めればよいのでしょうか。甲さんはとにかく「りんご」だとおもっていたところ、乙さんは長野県産の「シナノスイート」じゃないとダメだと思っていた。

確かに、契約書上はとにかく「リンゴ」であれば問題なさそうです。

ただ、甲さんが、乙さんが品質にこだわる飲食店をしており、その店で「シナノスイートを使った商品開発をするんだ」という話を聞いていたなどという事情が加わると、はたしてここでいう「リンゴ」がどのようなものでもいいのかどうかが怪しくなってきます。

完全合意条項とは

契約によっては、「完全合意条項」と呼ばれる条項を入れることがあります。

(例)

このような条項があると、その契約書において表示されていない合意はすべて考慮されないことになります。
すなわち、当事者間の従前の交渉経緯や契約外の口約束などは全く考慮されず、表示上の客観的解釈のみが解釈の対象となるのです。

こうした合意も原則として有効と考えられていますが、完全合意条項を入れる場合は、通常よりも慎重に条項の確認を行う必要はあります。

よい契約書とは

ここまで見てきたように、契約の解釈の仕方によっては、契約当事者双方の内心(真意)と実際に効力を有する合意内容が異なるケースがあり得ます。

もっとも、契約は、当事者双方の意思表示の合致によって成立するものです。
せっかく作った契約書の書き方に問題があるために、後から見た契約の解釈によって、契約当事者の真意と実際に効力を有する合意内容が異なってしまったら、契約書を作成した意義が失われてしまいます。

したがって、契約書は、当事者双方の内心(真意)が合致し、さらにその表示内容とも整合している必要があります。
また、契約の補充的解釈や修正的解釈によって、契約が当初の当事者が意図しない内容に変更されない、ということも必要です。

弁護士に契約書のチェックを依頼するメリット

契約当事者間だけで契約書を作成していると、一般的には「1ダース」は12個なのに、乙さんは13個のことを「1ダース」と思っていた、などといった個々の事情や契約締結の際の問題点に気が付くことが難しいのが実情です。

契約書に記載する文言はできるだけ特定し、「解釈の幅」を狭くする作業が必要です。「ひな形」を使ってしまうと、汎用性が高い反面(汎用性が高いからこそ)、解釈の幅が広がりがちになります。

この点、弁護士は日頃からさまざまな種類の契約書を目にしており、また契約の解釈において問題となるポイントにも精通しています。

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契約書こそ、弁護士にみてもらいましょう

したがって、契約書を作成する際には、弁護士に相談し、契約当事者間の真意が十分に契約書に反映されているか否か、解釈上何らかの疑義が生じるおそれはないかなどを確認してもらうことが重要です。

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