業務委託契約とは(後編)条項例〜フリーランス保護法、下請法対応【弁護士が解説】
これまで契約に関するいわゆる総論のお話からはじめ、契約条項の一般的な留意点を解説してきました(契約に関する記事一覧はこちら)。
今回のテーマは、現代の経営において切っても切り離せない業務委託契約について。
業務委託契約と一言でいっても、実はその契約の内容は多種多様です。
そこで、今回は、前編に引き続き、「業務委託契約とは(後編)」をお送りします。
後編は、業務委託基本契約書を例にとって、具体的な条項例を解説していきます。
フリーランス保護法、下請法に関するコメントもしておりますので、ぜひ最後までご覧ください。
なお、特定の条項について知りたい方は、「目次」⬇︎からリンク先を選択してお読みいただくことも可能です。
合意条項とは
合意条項とは
合意条項とは、委託者が受託者に対して、どんなことをお願いするのか、が書かれているものです。
おおよその取引の内容を特定し、委託者と受託者の関係や、当事者間で合意が成立したことを明らかにする機能があります。
契約解釈の指針となることも
契約条項に合意条項自体が書かれていても、それ自体で具体的な権利義務関係を規定することはほとんどありません。
しかし、当事者間で契約の各条項の解釈について争いが起きたときには、合意条項が解釈の指針となることもあります。
条項例はこちら
合意条項の定め方の一例です。
委託者は、受託者に対して、●●業務を委託することとし、受託者はこれを受託する。
委託範囲条項とは
委託範囲条項とは
委託範囲条項は、具体的な委託範囲を特定するものです。
フリーランス保護法により明示が求められます
書面による明示が必要です
契約が特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)の対象契約の場合、公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則(以下「本規則」)で定めるところにより、明示すべき事項を、書面または電磁的方法により受託者(特定受託事業者)に対し明示しなければなりません(第3条第1項)。
給付の内容を明示しなければなりません
受託者(特定受託事業者)の「給付の内容」は、明示すべき事項の一つです。
給付の内容とは
「給付の内容」とは、委託者(業務委託事業者)が受託者(特定受託事業者)に委託した業務が遂行された結果、受託者(特定受託事業者)から提供されるべき物品であり、通知において、その品目、品種、数量、規格、仕様等を明確に記載する必要があります(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日公正取引委員会・厚生労働省)第2部第1第1項(3)ウ)。
下請法では役務の内容の明示が必要です
下請代金支払遅延等防止法(下請法)の対象契約の場合、下請事業者が提供する役務の内容(委託の内容が分かるよう明確に記載する。)を明示することが求められています(下請法第3条第1項、下請代金支払遅延等防止法第三条の書面の記載事項等に関する規則(3条規則)第1条第1項第1号)。
条項例はこちら
委託範囲条項の定め方の一例です。
第●条 委託範囲
委託者は、受託者に対し、以下の業務(以下「本件委託業務」という。)を委託し、受託者はこれを受託する。
(1) ●●
(2) ●●
(3) (1) 及び (2) に関連して、委託者が受託者に委託する一切の業務
適用範囲・個別契約条項とは
適用範囲条項とは
適用条項の機能
適用範囲条項は、基本契約の性質と、個別契約との間の優先関係を定めるものです。
基本契約は、委託者・受託者間で締結される個々の契約に共通して適用になる事項を定める役割をしています。
個別契約との関係
個別契約において特別な定めがない限りは基本契約が適用になります。
個別契約において特別な定めをした場合は、個別契約の方が優先すると定めるのが一般的です。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
条項例はこちら
適用範囲条項の定め方の一例です。
1. 本件契約に定める事項は、本件委託業務に関して委託者及び受託者間で締結される個々の契約(以下「個別契約」という。)の全てに適用される。
2. 委託者及び受託者は、両者の合意により、個別契約において、本件契約に定める条項の一部の適用を排除し、または本件契約と異なる事項を定めることができる。
個別契約条項とは
個別契約条項に定められること
個別契約条項では、個別契約において定めるべき事項、及び個別契約成立のための方法を規定しています。
実際の取引の方法
委託者は受託者に対して、これらの事項について具体的に記載した書面(注文書)によって申し込み、受託者がそれを受託する書面(請書)を交付することによって、個別契約を成立させるのが一般的です。
条項例はこちら
個別契約条項の定め方の一例です。
1. 委託者及び受託者は、個別契約において、以下の事項を定める。
(1) 本件委託業務の具体的内容(範囲、仕様等)
(2) 本件委託業務の期間または納期
(3) 本件委託業務のスケジュール
(4) 委託者及び受託者の役割分担
(5) 委託者が受託者に提供する貸与品・支給品の内容及び提供方法
(6) 成果物の明細
(7) 成果物の納入場所
(8) 委託料及びその支払方法
(9) その他本件委託業務の実施に必要な事項
2. 個別契約は、委託者が受託者に、前項の事項を記載した書面により申込みを行い、受託者がこれを承諾する請書等の書面を委託者に交付することにより成立する。
報告条項とは
報告条項とは
報告条項とは、委託業務の履行状況について、受託者が委託者に対して報告することを定めるものです。
報告条項の機能
(準)委任型の場合、受託者は、委託者の請求があれば、いつでも事務処理状況を報告し、委任事務の終了後は顛末の報告義務を負います。
他方で、請負型の場合、当然には受託者は報告義務を負いません。
そのため、いずれの類型の契約であっても、委託者としては受託者に進捗の確認をする権利を規定しておいた方が望ましいです。
条項例はこちら
報告条項の定め方の一例です。
受託者は、委託者からの請求があったときには、本件委託業務の履行の状況について、ただちに報告しなければならない。
納入条項(成果物がある請負型の場合)とは
納入条項とは
納入条項とは、受託者が委託者に対して成果物を納入する場合の条項です。
成果物を納入する場合には必ず定める
何らかの成果物を委託者に納入するタイプの請負契約の場合は、どこに(誰に)どのような方法で納入することで受託者の義務を履行したといえるかを定めるための納入条項が必要です。
納入条項は契約の内容次第
常に一定の場所(者)に納入するのであれば納入条項で具体的に定めておきます。
また、個別契約ごとに異なるのであれば、その旨を記載しておきます。
フリーランス保護法・下請法では明示義務があります
フリーランス保護法や下請法が適用になる契約においては、それぞれ給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日等や場所を明示する義務があります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
条項例はこちら
納入条項の定め方の一例です。
1. 受託者は、個別契約において定めた納期までに、成果物を、委託者が指定した様式及び方法で、委託者に納入する。なお、納入費用は受託者の負担とする。
2. 受託者が、前項に規定される納期までに成果物を納入できないことが予想される場合には、速やかにその旨を委託者に通知し、委託者の指示を受けるものとする。
3. 受託者は、委託者の責めに帰すべき事由による場合を除き、成果物を納期までに納入できなかった場合には、当該納入遅延により委託者に生じた一切の損害を賠償しなければならない。
検収条項とは(成果物がある請負型の場合)
検収条項とは
検収条項とは、受託者から納入を受けた委託者の義務を定める条項です。
受託者から委託者に納められた成果物が契約に適合しているかどうかを確認し、合格の条件、不合格品についての扱いなどを定めるものです。
フリーランス保護法・下請法では明示義務があります
フリーランス保護法や下請法が適用になる契約においては、その検査を完了する期日を明示する義務があります。
また、受託者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず給付の拒絶、返品、不当な給付内容の変更ややり直しを求めることも禁止されています。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
条項例はこちら
検収条項の定め方の一例です。
シンプルな例
1. 委託者は、成果物引渡後●日以内にこれを検査し、所定の仕様や明細等との不一致や不具合が発見された場合は、受託者に申し出るものとする。
2. 受託者は、前項の申し出があった場合には、委託者の指示に基づき、速やかに、受託者の費用負担により、不一致や不具合の修正等の対応をすることとする。
詳細に定める例
1. 委託者は、成果物の納入を受けたときは、(成果物が別紙仕様書の仕様に沿っているかにつき、)速やかに検査を行い、●日以内に検査の結果を受託者に通知する。
2. 前項の検査に合格した時をもって、個別契約の完了とし、検収とする。
3. 検査の結果が不合格の場合、受託者は、委託者の指示に基づき、速やかに不足品もしくは代品を納入し、または修理をした上で、委託者の再検査を受けるものとする。
4. 委託者は、成果物について、第1項の期間内に所定の検査を完了することが困難になった場合、受託者と協議の上、検査期限の延長を行うことができるものとする。
5. 委託者が受託者に検査の結果を通知しないまま、または検査期間の延長の申し出をすることなく、第1項の期間が経過したときは、検査に合格したものとする。
所有権の移転条項・危険負担条項とは(成果物がある請負型の場合)
所有権の移転条項、危険負担条項とは
所有権の移転条項、危険負担条項とは、成果物の所有権の移転時期や危険負担に関して定めるものです。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
条項例はこちら
所有権の移転条項の例
所有権の移転条項の定め方の一例です。
成果物の所有権は、検収合格の時をもって、受託者から委託者に移転する。
危険負担条項の例
危険負担条項の定め方の一例です。
成果物の委託料の完済前に生じた成果物の滅失、毀損その他の損害は、委託者の責めに帰すべきものを除き受託者の負担とし、委託料の完済後に生じたそれらの損害は、受託者の責めに帰すべきものを除き委託者の負担とする。
委託料条項・支払条項とは
委託料条項・支払条項とは
委託料条項・支払条項とは、業務委託契約の委託料(報酬)と委託料の支払方法に関して定めるものです。
フリーランス保護法・下請法では明示義務があります
フリーランス保護法や下請法が適用になる契約においては、報酬額、支払期日の明示が義務とされており、不当な減額が禁止されます。
また、不当に安い報酬(買いたたき)も禁止されています。
請求書による場合、支払期日が給付を受領したときから60日を超えないように注意する必要があります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
条項例はこちら
委託料条項の例
委託料条項の定め方の一例です。
委託料が定額の場合
本件委託業務の対価(以下「本件委託料」という。)は個別契約において定めるものとする。
委託料が月額固定報酬の場合
本件契約の委託料は、1か月あたり●円とする(消費税別途)。
委託料支払条項の例
委託料の支払期日を特定する場合
委託者は、●年●月●日までに、受託者の指定する銀行口座に振込送金する方法により委託料を支払う。振込手数料は委託者の負担とする。
検収合格後の請求書の授受によって支払う場合
1. 受託者は、本件検査の合格後速やかに、本件委託料及びこれにかかる消費税相当額の支払を請求する請求書を委託者に送付する。
2. 委託者は、前項に基づく請求書を受領した月の翌月末日までに、本件委託料及びこれにかかる消費税相当額を受託者が指定する金融機関の口座に振込送金する方法により、受託者に支払う。
3. 前項の支払に要する振込手数料は、委託者が負担する。
費用負担条項とは
費用負担条項とは
費用負担条項とは、業務の遂行のために要した費用を、委託者または受託者のいずれが負担するかを定める条項です。
費用も含めた明示が求められる
先ほど述べた通り、報酬の額は、委託者が受託者に対して明示すべき事項の一つです。
そして、委託者は、業務委託にかかる業務の遂行に受託者が要する費用等(例えば材料費、交通費、通信費等であるが、名目を問いません。)を委託者自身が負担する場合には、原則として当該費用等の金額を含めた総額が把握できるように報酬の額を明示する必要があります。(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日公正取引委員会・厚生労働省)第2部第1第1項(3)キ(ウ))。
仮に、費用負担の条項がなければ、特段の事情がない限り、委託者は委託料(報酬)条項で明示された報酬額のみを支払えば足りると解釈されることになるため、注意が必要です。
受託者に買い取らせることはできません
委託者は、受託者に発注した給付の内容を均質にし、またはその改善を図るため必要がある場合、その他正当な理由がある場合を除いて、受託者に対して、委託者の指定する製品(自社製品を含む。)や原材料等を強制的に購入させたり、サービス等を強制的に受託者に利用させて対価を支払わせたりしてはならないとされています。
条項例はこちら
費用負担条項の定め方の一例です。
本件業務の遂行のために受託者が支出した費用は受託者が負担し、委託者の別段の同意がある場合を除き、委託者にその全部または一部を請求することはできない。
知的財産条項とは
知的財産条項とは
知的財産条項とは、業務委託契約自体から創出されたり、業務遂行の過程で生まれる知的財産の帰属に関して定めるものです。
フリーランス保護法では明確な記載が求められています
フリーランス保護法が適用になる契約においては、委託にかかる業務の遂行過程を通じて、給付に関し、受託者の知的財産権が発生する場合、委託者が、目的物を給付させるとともに、業務委託の目的たる使用の範囲を超えて知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを「給付の内容」とする場合は、通知の「給付の内容」の一部として、当該知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載する必要があります(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日公正取引委員会・厚生労働省)第2部第1第1項(3)ウ)。
受託者の利益を不当に害することはできません
また、フリーランス保護法が適用になる契約において、委託者が、受託者に対し「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」により、受託者の利益を不当に害する行為は禁止されています(本法第5条第2項第1号)。
委託業務の目的物たる給付に関し、受託者の知的財産権が発生する場合において、委託者の以下の行為は、この不当な経済上の利益の提供要請に該当します(同考え方第2部第2第2項(2)カ(ウ)(エ))。
不当な経済上の利益の提供要請にあたること
- 受託者に発生した知的財産権を、業務委託の目的たる使用の範囲を超えて無償で譲渡・許諾させること
- 委託者が、受託者が知的財産権を有する情報成果物について、収益を受託者に配分しない、収益の配分割合を一方的に定める、受託者による二次利用を制限する等して受託者の利益を不当に害する場合
- 情報成果物等の作成に関し、受託者の知的財産権が発生する場合において、委託者が通知の「給付の内容」に知的財産権の譲渡・許諾が含まれる旨を記載していないにもかかわらず、当該情報成果物等に加えて、無償で、作成の目的たる使用の範囲を超えて当該知的財産権を委託者に譲渡・許諾させること
下請法の適用契約においても、委託者は、自己のために、受託者に金銭、役務その他の経済上の利益を提供させ、下請事業者の利益を不当に害してはならないとされています(下請法第4条第2項第3号)。「金銭、役務その他の経済上の利益」とは、協賛金、協力金等の名目のいかんを問わず、下請代金の支払とは独立して行われる金銭の提供、作業への労務の提供等を含むとされています(下請法に関する運用基準第4の7)。知的財産については、例えば、情報成果物作成委託において、委託者が、受託者に対し、番組制作業務を委託していた事案で、受託者に発生した番組の知的財産権を譲渡させていたところ、さらに、番組で使用しなかった映像素材の知的財産権を無償譲渡させることはこれに違反するとされています(公正取引委員会・中小企業庁「下請取引適正化推進講習会テキスト」85頁)。
条項例はこちら
知的財産条項の定め方の一例です。
1. 本件委託業務の遂行の過程で行われた発明、考案等及び創作等によって生じた産業財産権及び著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)その他の知的財産権(ノウハウを含む。)については、本件委託業務の内容に含み、全て委託者に帰属させるものとする。なお、受託者は、委託者に権利を帰属させるために必要となる手続を履行しなければならない。
2. 受託者は、委託者に対して、本件委託業務の遂行の過程で得られた著作物にかかる著作者人格権を行使しないことを約する。
3. 両当事者は、前二項に定める知的財産権の帰属及び著作者人格権不行使の対価が本件委託料に含まれていることを相互に確認する。
保証条項とは(成果物がある請負型)
保証条項とは
保証条項とは、業務委託契約において成果物が発生する場合に、受託者が、成果物の品質や契約適合性、権利非侵害の保証をする条項です。
条項例はこちら
保証条項の定め方の一例です。
受託者は、委託者に対し、次の各号を保証する。
(1) 本件仕様が委託者の要求を満足する品質及び性能であること
(2) 本件成果物が本件仕様に合致していること
(3) 本件成果物及びその使用が第三者の有する工業所有権、著作権、肖像権、プライバシー権その他一切の権利を侵害しないこと
製造物責任条項とは(成果物がある請負型)
製造物責任条項とは
製造物責任条項とは、業務委託契約において成果物が発生する場合に、受託者が、製造物責任を負担する旨の条項です。
条項例はこちら
製造物責任条項の定め方の一例です。
本件成果物の契約不適合その他の不具合または欠陥により、本件成果物または本件成果物を組み込んだ製品、システム等の使用者その他の第三者の生命、身体または財産に損害が発生した場合において、委託者が当該損害に起因する損害を被ったときは、受託者はこれを賠償する。
第三者の異議等の処理条項とは
第三者の異議等の処理条項とは
処理条項とは、契約当事者(委託者・受託者)ではない第三者から権利侵害等の主張がなされた際の、責任と処理方法に関して定める条項です。
条項例はこちら
第三者の異議等の処理条項の定め方の一例です。
第●条 第三者の異議等の処理
1. 受託者は、本件業務の実施内容または本件成果物に関し、第三者に損害が生じ、または委託者もしくは委託者の取引先等が第三者から異議、苦情等の請求もしくは知的財産権をはじめとした権利の侵害等の主張を受けた場合には、自己の責任と費用負担においてその一切を解決し、委託者に損害を及ぼさないよう対処する。
2. 前項の場合、受託者は、委託者に対し、随時または委託者の要請に応じ、経緯、内容及び処理方法等を書面により報告する。
3. 第1項の場合であっても、委託者が希望する場合は、委託者は、自らその処理にあたることができる。この場合、委託者による処理の過程で発生した費用については、合理的ではないものを除き、受託者が負担する。
4. 第1項の損害または権利侵害等が専ら委託者の責めに帰すべき事由によって生じた場合、前三項の規定は適用されず、受託者は、当該損害及び権利侵害等について何らの責も負わない。
秘密保持条項とは
秘密保持条項とは
秘密保持条項とは、契約当事者間の秘密保持に関する条項です。
秘密保持条項の機能
業務委託契約の場合、相手方の営業上や技術上の秘密を取り扱うことが多く、また基本契約では長期間継続する関係になります。
そのため、秘密保持に関する条項は極めて重要です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
条項例はこちら
秘密保持条項の定め方の一例です。
1. 各当事者は、本件契約に関し、秘密に取り扱う旨明示された上で相手方から開示された情報(以下「本件秘密情報」という。)を、相手方の事前の書面による承諾なく第三者に開示、漏えいしてはならない。
2. 前項の規定にかかわらず、以下の各号に該当する情報は、本件秘密情報の対象から除外する。
(1) 情報受領者が本件秘密情報の開示を受け、または知得する前に、公知であった情報
(2) 情報受領者の責めに帰せざる事由により公知となった情報
(3) 本件秘密情報によらず独自に考案または創出した情報
(4) 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に入手した情報
3. 第1項の規定にかかわらず、各当事者は、本件秘密情報について法令または金融商品取引所の規則により開示が義務づけられた場合、かかる義務の範囲内に限り、当該情報が秘密を保持すべきものであることを示して開示できる。この場合、かかる開示を行う当事者は、開示先に対し当該情報を秘密に取り扱うよう要請するとともに、開示前に(やむを得ない事由により開示前の通知を行えない場合は開示後ただちに)その旨を相手方に通知しなければならない。
4. 各当事者は、相手方の事前の書面による承諾なく、本件秘密情報を本件契約と関係のない目的のために利用してはならない。
5. 各当事者は、相手方から書面により要求があったときまたは本件契約が終了したときは、本件秘密情報の利用をただちに中止するとともに、本件秘密情報並びに本件秘密情報を記録した媒体及びその全ての複写、複製物について、相手方の指示に基づき、速やかに返却または消去、破砕等の処分を行わなければならない。ただし、各当事者は、本件秘密情報のうち、法令上保持が義務づけられたものについては、かかる法令の遵守のために必要不可欠な範囲に限り、相手方に通知し、かつ本件契約上の義務を遵守することを条件に、相手方の指示の後も引き続き保持することができる。
権利義務の譲渡に関する条項とは
権利義務の譲渡禁止条項とは
業務委託契約の場合、相手方の個性や技術、ノウハウに重きを置いて契約に至るケースが多く、契約上の地位や権利義務関係を無断で移転されては、当初の目的を実現できなくなるおそれがあります。
そこで、契約において、相手方の事前の承諾なく契約上の地位を移転することを禁止する規定を置くのが一般的です。
条項例はこちら
権利義務の譲渡禁止条項の定め方の一例です。
第●条 権利義務の譲渡等の禁止
委託者及び受託者は、相手方の書面による事前の承諾を得た場合を除き、本件契約に基づいて発生する相手方に対する権利及び義務並びに本件契約上の地位を、第三者に譲渡、承継もしくは移転し、または担保の用に供してはならない。
不可抗力免責条項とは
不可抗力免責条項とは
不可抗力免責条項とは、自然災害などの不可抗力により業務委託契約の履行ができなくなったときの権利義務関係に関する規定です。
条項例はこちら
不可抗力免責条項の定め方の一例です。
1. 天災地変、戦争、暴動、内乱、延焼による火災、洪水、法令の改廃制定、停電、公権力の介入、ストライキその他の労働争議、輸送機関の事故、感染症の蔓延その他自己の責めに帰すべからざる事由より本件契約上の義務の履行が妨げられた場合、各当事者は、当該事由に基づく本件契約上の義務の不履行について、損害賠償責任その他一切の責任を負わない。
2. 前項の場合、本件契約上の義務の履行が妨げられた当事者は、速やかに相手方に通知する。
契約の解除条項とは
解除条項とは
解除条項とは、業務委託契約の解除に関する条項です。
フリーランス保護法では事前予告が義務化されています
原則
フリーランス保護法が適用になる契約においては、委託者は、6か月以上の期間行う業務委託(契約の更新により当該期間以上継続して行うこととなるものを含みます。)にかかる契約の解除をしようとする場合には、原則として、受託者に対し、少なくとも30日前までに、その予告をしなければなりません(フリーランス保護法法第16条第1項)。
例外
例外として、以下の場合には、30日前予告は不要とされています(同法同条同項、厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第4条)。
- 災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合
- 他の事業者から業務委託を受けた委託者(特定業務委託事業者)が、当該業務委託にかかる業務(「元委託業務」)の全部または一部について受託者(特定受託事業者)に再委託をした場合であって、当該元委託業務にかかる契約の全部または一部が解除され、当該受託者(特定受託事業者)に再委託をした業務(「再委託業務」)の大部分が不要となった場合その他のただちに当該再委託業務にかかる契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含みます。以下も同様です。)をすることが必要であると認められる場合
- 委託者(特定業務委託事業者)が受託者(特定受託事業者)と業務委託にかかる給付に関する基本的な事項についての契約(「基本契約」)を締結し、基本契約に基づいて業務委託を行う場合または契約の更新により継続して業務委託を行うこととなる場合であって、契約期間が30日以下である一の業務委託にかかる契約(基本契約に基づいて業務委託を行う場合にあっては、当該基本契約に基づくものに限ります。)の解除をしようとする場合
- 受託者(特定受託事業者)の責めに帰すべき事由によりただちに契約の解除をすることが必要であると認められる場合
- 基本契約を締結している場合であって、受託者(特定受託事業者)の事情により、相当な期間、当該基本契約に基づく業務委託をしていない場合
なお、(4)の受託者(特定受託事業者)の「責めに帰すべき事由」とは、受託者(特定受託事業者)の故意、過失またはこれと同視すべき事由をいいますが、判定に当たっては、業務委託にかかる契約の内容等を考慮の上、総合的に判断すべきであり、受託者(特定受託事業者)の「責めに帰すべき事由」が本法第16条の保護を与える必要のない程度に重大または悪質なものであり、したがって委託者(特定業務委託事業者)に受託者(特定受託事業者)に対し30日前に解除の予告をさせることが当該事由と比較して均衡を失するようなものに限るとされています(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日公正取引委員会・厚生労働省)第3部第4項(4)エ)。
条項例はこちら
解除条項の定め方の一例です。
通常の業務委託契約の場合
第●条 契約の解除
1. 各当事者は、相手方が以下の各号の一に該当する場合には、通知催告等何らの手続を要することなく、ただちに本件契約及び本件個別契約の全部または一部を解除することができる。
(1) 本件契約または本件個別契約の各条件の一に違反し、相手方から相当の期間を定めて是正を催告されたにもかかわらず、当該違反が是正されないとき
(2) 本件契約または本件個別契約の各条件の一に違反し、かつ当該違反を是正したとしても、本件契約の目的を達成することが困難であるとき
(3) 差押え、仮差押、強制執行または競売の申立てを受けたとき(当該申立を受けた当事者が、本件契約上の債務の履行に支障が生じないことを合理的な証拠に基づいて示したときは、この限りではない。)
(4) 租税の滞納処分を受けたとき
(5) 支払を停止したとき
(6) 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、もしくは特別清算開始の申立てを受け、または自ら申立てをなしたとき(当該申立てを受けた当事者が、本件契約上の債務の履行に支障が生じないことを合理的な証拠に基づいて示したときは、この限りではない。)
(7) 監督官庁等から営業の停止もしくは営業にかかる許可の取消しまたはこれらに類する処分を受けたとき
(8) 本件契約にかかる事業の全部もしくは重要な一部の譲渡の決議をし、または営業を廃止したとき
(9) 自己振出もしくは自己引受の手形、または自己振出の小切手が不渡りとなったとき
(10) 相手方の名誉、信用を失墜させ、もしくは相手方に重大な損害を与えたとき、またはそのおそれがあるとき
(11) 資産、信用、支払能力等に重大な変更を生じたとき
2. 各当事者は、第●条第1項(不可抗力)の事由に基づき相手方の債務の履行が妨げられた場合、当該事由の発生から60日経過後も当該事由が継続しているときは、相手方に通知することにより、損害賠償責任その他一切の責任を負うことなく本件契約を解除することができる。
フリーランス保護法が適用される契約の場合
1. 委託者または受託者は、相手方が本件契約に違反したときは、30日以上の予告期間を設けて書面により通知することで、本件契約及び本件個別契約の全部または一部を解除することができる。
2. 前項の定めにかかわらず、委託者は、災害その他やむを得ない事由により予告をすることが困難な場合その他法令で定める場合には、30日以上の予告をせずに本件契約及び本件個別契約の全部または一部を解除することができる。
有効期間条項とは
有効期間条項とは
有効期間条項とは、契約の有効期間に関する規定です。
フリーランス保護法では事前予告が義務化されています
原則
フリーランス保護法が適用になる契約においては、委託者(特定業務委託事業者)は、6か月以上の期間行う業務委託(契約の更新により当該期間以上継続して行うこととなるものを含みます。以下「継続的業務委託」といいます。)にかかる契約の期間の満了後に更新しない場合には、受託者(特定受託事業者)に対し、少なくとも30日前までに、その予告をしなければなりません。
例外
ただし、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合は、事前予告の必要はありません(本法第16条第1項)。
契約の不更新とは
契約の期間の満了後に更新しない(以下「不更新」といいます。)とは、継続的業務委託にかかる契約が満了する日から起算して1カ月以内に次の契約を締結しないことをいいます。
委託者(特定業務委託事業者)による予告義務の対象となる、契約の不更新をしようとする場合とは、不更新をしようとする意思をもって当該状態になった場合をいいます。
具体例
契約の不更新に該当すると考えられる例と該当しないと考えられる例は、次のとおりです(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日公正取引委員会・厚生労働省)第3部第4項(2))。
契約の不更新をしようとする場合に該当すると考えられる例
①切れ目なく契約の更新がなされているまたはなされることが想定される場合であって、当該契約を更新しない場合
②断続的な業務委託であって、委託者(特定業務委託事業者)が受託者(特定受託事業者)との取引を停止する等次の契約申込みを行わない場合
契約の不更新をしようとする場合に該当しないと考えられる例)
①業務委託の性質上一回限りであることが明らかである場合
②断続的な業務委託であって、委託者(特定業務委託事業者)が次の契約申込みを行うことができるかが明らかではない場合(ただし、次の契約の申込みを行わないことが明らかになった時点でその旨を伝達することが望ましいとされています。)
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有効期間条項の定め方の一例です。
本件契約の有効期間は、●年●月●日から●年●月●日までとする。ただし、かかる期間満了の30日前までに各当事者のいずれからも相手方に対する書面による更新拒絶の意思表示がない場合、本件契約は、期間満了の翌日から起算してさらに1年間同一条件にて更新されるものとし、以後も同様とする。
仕掛品の取扱条項とは
仕掛品の取扱条項とは
業務完了前に契約が終了した場合、残っている仕掛品を受託者のもとに置いておくことが適当でない場合があり得ます。
そのような場合には、委託者が、相当な対価を支払って、受託者から委託者に仕掛品を引き渡す旨の規定をしておいた方が安心です。
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仕掛品の取扱条項の定め方の一例です。
1. 原因のいかんを問わず、本件個別契約が本件業務の完了前に終了した場合に、委託者が請求したときは、受託者は、本件成果物のうち本件契約の終了の時点において作成済の部分(以下「仕掛品」という。)を、速やかに委託者に引き渡す。
2. 前項に基づく仕掛品の引渡しと引換えに、委託者は、仕掛品の完成度合いに応じて別途両当事者間で協議の上委託者が決定する価額の対価を受託者に支払う。なお、本項の支払に関しては、第●条(支払条項)第2項及び第3項の規定を準用する。
損害賠償責任条項とは
損害賠償責任条項とは
損害賠償責任条項は、契約当事者間の損害賠償に関する規定です。
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損害賠償責任条項の定め方の一例です。
本件契約に関して、本件契約の当事者が、相手方に対し損害を与えた場合、当該相手方は、当該当事者に対し、一切の損害(直接損害、間接損害、逸失利益及び弁護士費用等の紛争解決費用を含む。)の賠償を請求することができる。
反社条項とは
反社条項とは
反社条項とは、反社会的勢力の排除条項です。
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反社条項の定め方の一例です。
第●条 反社会的勢力等の排除
1. 委託者及び受託者は、本件契約締結時現在において、自らが暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ・特殊知能暴力集団・暴力団員でなくなってから5年を経過していない者等、その他これらに準ずる者(以下、これらを「反社会的勢力等」という。)に該当しないこと、及び、次の各号の関係に該当しないことを表明し、かつ、将来にわたって該当しないことを確約する。
(1) 反社会的勢力等によって、その経営を支配される関係
(2) 反社会的勢力等が、その経営に実質的に関与している関係
(3) 自社もしくは第三者の不正の利益を図り、または第三者に損害を加える等、反社会的勢力等を利用している関係
(4) 反社会的勢力等に対して資金等を提供し、または便宜を供する等の関係
(5) 役員等の反社会的勢力等との社会的に非難されるべき関係
2. 両当事者は、自ら、その役員等または第三者を利用して次の各号のいずれの行為も行わないことを誓約する。
(1) 暴力的な要求行為
(2) 法的な責任を超えた不当な要求行為
(3) 取引に関して脅迫的な言動をし、または暴力を用いる行為
(4) 風説を流布し、偽計もしくは威力を用いて相手方当事者の信用を毀損し、または相手方当事者の業務を妨害する行為
(5) その他前各号に準ずる行為
3. いずれかの当事者において、上記二項のいずれかに違反した場合、相手方当事者は、催告なしで本件契約をただちに解除できるものとする。
4. 本条の規定により本件契約が解除された場合には、解除された当事者は、解除により生じる損害について、解除した当事者に対し一切の請求を行わない。
存続条項とは
存続条項とは
存続条項とは、契約が終了した後も存続する規定に関して定めておくものです。
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存続条項の定め方の一例です。
本件契約が終了した後も、第●条、第●条から第●条まで及び本条は引き続き存続するものとする。
合意管轄条項とは
合意管轄条項とは
合意管轄条項とは、契約当事者間でトラブルが起きた場合に備えて、予め合意管轄に関して定めておく条項です。
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合意管轄条項の定め方の一例です。
第●条 合意管轄
本件契約に関する紛争については、●●地方裁判所または●●簡易裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
弁護士にもご相談ください
前編と後編に分けて業務委託契約について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
業務委託契約は契約の類型が非常に多く、もっともイメージのつかみにくい契約の1つかもしれません。
今回は、典型的な条項にのみしぼって解説してきましたが、契約の内容によっては非常に細かい取り決めをする必要があるケースもあります。
業務委託契約についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。
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