契約のいろは

取引基本契約とは?信頼関係を長い取引につなげる契約条項【弁護士が解説】

これまで契約に関するいわゆる総論のお話からはじめ、契約条項の一般的な留意点を解説してきました(契約に関する記事一覧はこちら)。
また、契約の各論のスタートでは、多くの方にとって、最も身近な売買契約について解説しました。

今回のテーマは、取引基本契約書です。

本解説記事の目的

日常生活で行われている売買契約について例を挙げてみると、例えば、
・お散歩途中のコンビニで飲料水やお菓子を買うこと
・お出かけをした時にふらっと立ち寄ったお店で洋服を買うこと
・マイホームやマイカーを買うこと
などが挙げられます。

では、ビジネスの世界ではどうでしょうか?
ビジネスの世界でも、当然のことながら、商品や原料の仕入れなどの場面で売買契約が行われています。
しかし、事業者間の売買契約では、個人的に行われる売買契約とは異なり、決まった相手(取引先)から何度も反復的に買い入れ(仕入れ)などの取引を行うことが珍しくありません。

このような場合、同じ相手なのに、売買契約を締結する都度、売買契約書を準備・作成し、売買契約書を取り交わすということになれば、迅速な取引が阻害されてしまいます。
また、数ある売買契約のうち、どれか一つの売買契約でトラブルがあったときに、「あれ?この取引の売買契約書はどれだっけ?」「その売買契約書では何と書いてあったっけ?」と混乱することも必至です。

そこで、事業者間における反復継続的な取引では、取引の開始に先立ち、取引基本契約書が交わされることが一般的です。

このページは、そんな取引基本契約書について詳しく解説することを目的としています。
*なお、今回、主に取り上げるのは、製品等の供給を継続的に行う契約関係(継続的供給契約、継続的売買契約と呼ばれることもあります。)を想定しています。

取引基本契約書とは

取引基本契約書とは?

取引基本契約書とは、企業間で行われる取引に関する基本的な合意を文書化したものです。

これまでの契約に関する記事でも少し解説しましたが、売買契約書において記載するべき事項としては、

・目的物である財産権の移転
・代金の支払合意

に加えて

・目的物の特定
・引渡方法
・検収
・契約不適合責任
・所有権の移転時期
・危険負担
・代金支払方法

などが挙げられます。

これらの事項について、売買契約を締結する際に、売買契約書を作成して、当事者間で内容を明確に定めておくことはとても大切です。

企業間取引の実態

他方で、企業間の取引では、同じ当事者間において、一定の範囲内の取引が、何度も反復継続して行われることがあります。
このような反復継続した取引の場合、契約当事者間では、「ほとんどの事項がすべての取引において共通して適用になる」と合意(理解)しているのが実態です。

取引基本契約書の役割

では、契約当事者間では、「ほとんどの事項がすべての取引において共通して適用になる」と合意していることを明らかにするためには、どうしたらよいのでしょうか?
言い換えれば、「当事者間で今後行われる取引について適用になる基本ルールを定めましょう」という理想を形にしたい。
そのようなときに役に立つのが取引基本契約(書)です。

「取引基本契約」では、当事者間で契約における基本ルールを定め、取引ごとに内容が異なる部分(具体的な商品、数量、価格、引渡時期、引渡方法など)については、「別途定める」として個別契約に委ねることになります。
これによって、先ほど述べたような、反復継続した取引において、「ほとんどの事項がすべての取引において共通して適用になる」という契約当事者間の合意(理解)を形にすることができるのです。

取引基本契約と個別契約の関係

売買契約の成立時期

取引基本契約自体は、具体的な財産権の移転の合意ではなく代金支払義務も生じません。
そのため、取引基本契約は、売買契約ではありません。
個別契約によって売買の対象などが特定されることで初めて売買契約が成立することになります。

よくある個別契約の例

取引基本契約を定めておけば、その後の個別契約においては、取引基本契約において「別途定める」とした部分について定めれば足ります。
そのため、多くの企業間取引においては、買主側が商品名、数量、価格、納期などを記載した「注文書」を発行し、売主側が「注文請書」(注文書と一体化していることもあります)を返送することで個別契約が成立するとしている例がよく見られます。

基本契約と個別契約の記載が矛盾する場合

なお、個別契約書や「注文書」では、「この件だけは納期をいつもより早めて」「訳あり商品なので契約不適合責任は免除して」など、取引基本契約書の記載と矛盾する内容が記載されることがあります。
このような場合に備えて、取引基本契約では、基本契約と個別契約に矛盾が生じた場合(異なる事項が記載された場合)に、いずれの記載が優先するかについてもあらかじめ取り決めておく必要があります。

取引基本契約の条項

では、ここからは、取引基本契約書の条項例を具体的に見ていきましょう。

契約の目的

契約の目的とは?

「契約の目的」の条項は、契約当事者間の取引の目的を記載する部分です。

ここでは、契約の目的それ自体のみならず、契約に至った背景事情や経緯、当事者が達成しようとする事業目的、取引の社会的・経済的意義、当事者それぞれの役割、信義誠実の原則に基づいて取引を行うことなども記載されることがあります。
言い換えれば、「そもそも何のための契約か」ということを明らかにする条項といってもいいでしょう。

契約の目的はなぜ大切?

通常は、この「目的」の記載が、当事者の権利や義務を直接導くことはありません。
信義誠実の原則に基づくことは契約上当然ともいえます。
しかしながら、個別の条項の解釈において双方の意見が対立したときに、その解釈の指針としてこの目的条項の記載が役に立つことがあります。

したがって、「契約の目的」なんて大して意味のないものなどとは思わず、契約の目的も大切な条項であると理解してください。

条項例(製品が決まっている場合)

売主は、買主に対して、●●(以下「本件製品」という。)を継続的に売り渡し、買主は、これを継続的に買い受ける。

条項例(基本原則について言及する場合)

買主及び売主は、●●を目的として本契約を締結し、各々、信義誠実の原則に従って、本契約及び個別契約に基づく権利を行使し、義務を履行するものとする。

適用範囲

適用範囲とは?

「適用範囲」の条項は、その取引基本契約を、契約当事者間のどの範囲の取引にまで及ぼすかを明確にする部分です。

適用範囲の条項では、たとえば、
・当事者間のすべての売買契約に適用するのか
・特定の商品に関する売買契約に適用するのか
・買主の特定部門が関与する売買契約にのみ適用するのか(大きな会社や企業グループがあるときは、部署ごとで取引条件が変わることもあります)
などを明確に規定する必要があります。

個別契約との優先関係も

また、先ほど、取引基本契約では、基本契約と個別契約に矛盾が生じた場合(異なる事項が記載された場合)に、いずれの記載が優先するかについてもあらかじめ取り決めておく必要がある、というお話をしましたが、基本契約と個別契約の優先関係もこの条項のなかで取り決められることが一般的です。

通常は、取引基本契約の定めと個別契約の定めが異なるときは、個別契約の定めを優先することが一般的ですが、取引担当者による恣意的な条件変更を防止するなどの目的から、基本契約の定めを優先することもあります。

条項例(適用範囲)

1 本件契約に定める条項は、別途書面により合意した場合を除き、本件製品に関する売主及び買主間の個々の取引契約に適用される。

2. 個別契約の内容が本件契約と異なる場合には、個別契約の定めが優先するものとする。

個別契約の成立

個別契約の成立とは?

先ほど説明したとおり、取引基本契約を締結しただけでは売買契約は成立しません。
具体的な個別契約が成立して初めて売買契約が成立し、契約当事者間において、売買契約上の権利義務が発生します。
そのため、取引基本契約書では、個別契約の成立に関する条項をおく必要があります。

具体的には、「個別契約の成立」の条項では、どのような事項に関して個別の合意をすれば売買契約が成立するのか、を定めておくことになります。

個別契約が成立する条件も

また、「個別契約の成立」の条項では、個別契約が成立する条件についても定めておく必要があります。
契約は口頭でも成立しますが、このような口約束での取引が常態化すると、言った言わないのトラブルが発生することは必至です。また、そのような発言があったからと言ってそれが注文の意味なのか、単なる雑談や意見なのかという、発言の意味合いについても争いになりかねません。
そのため、「個別契約の成立」の条項においては、注文は書面(メール等も含む)に限定するなどによって、口頭での契約を排除し、後のトラブルを防止することが考えられます。

許諾の回答は必要?

なお、契約は「申込み」と「承諾」により成立します。
そのため、買主側が注文書を送信しても、売主側がこれを承諾しなければ売買契約は成立しません。
一般的には、売主側が「注文請書」を発行することで、買主側の契約の申込みに対して承諾することにより、契約が成立することになります。
しかし、売主が注文請書を発行しないまま放置してしまった場合、契約が成立するかどうかはっきりしない状態が続いてしまいます。
そこで、「個別契約の成立」の条項においては、売主が注文書を受領してから一定の期間、諾否の回答をしないときは注文を承諾したものとみなす規定をおくことで、契約が成立するか否かが不明(不安定)な状態を回避することが考えられます。

条項例(個別契約の成立:注文書による場合)

1. 売主及び買主は、個別契約において、発注年月日、本件製品の名称、仕様、数量、納入日、納入場所、単価、代金の額、支払日及び支払方法等を定める。

2. 個別契約は、買主が売主に、前項の取引内容を記載した書面により申込みを行い、売主がこれを承諾する請書等の書面を買主に交付することにより成立する。

3. 売主は、買主からの申込書面を受領してから●日以内に、注文請書を発出するものとする。

4. 売主が、前項の期間内に、買主からの申込みを承諾する請書等または買主からの申込みを承諾しない旨の書面を、発出しなかったときは、当該個別契約は成立したものとみなされる。

条項例(個別契約の成立:メール等の注文書による場合)

1. 売主及び買主は、個々の取引について、買主が次の各号に掲げる事項を記載した注文書(メール、FAX、インターネット上の注文システム等を含む。)により申し込み、売主がこれを承諾することにより、個別契約を締結するものとする。

(1) 発注年月日

(2) 品番・仕様

(3) 数量

(4) 単価・代金額

(5) 納期

(6) 納入場所

(7) 支払期日・支払方法

(8) 受渡条件

(9) その他(細部約定事項、特有の取引条件等)

2. 売主が前項の注文書を受領してから●日以内に諾否の回答をしないときは、売主は買主の申込みを承諾したものとする。

条項例(インターネット上で注文する場合)

1. 買主は、売主指定のウェブサイト(以下「注文サイト」という。)上にて、所定の項目を入力して、本件製品の注文を行うことにより、個別契約を申し込む。

2. 売主は、前項の注文情報を受領した場合、当該注文を承諾する旨及び注文内容を記載したメッセージ(以下「注文完了メッセージ」という。)を、買主の電子メールに送信するものとする。

3. 売主が注文完了メッセージを買主に発信した時点、または注文サイト内の注文履歴に注文内容が表示された時点で、売主・買主間の個別契約が成立するものとする。

4. 注文サイト上における、注文データや注文完了メッセージの送受信の失敗、遅延、未着、または注文履歴の表示エラー等の通信障害により、注文後[24]時間を超えても個別契約の成否の確認ができない場合、売主及び買主は、当該個別契約を変更または解除することができる。ただし、当該通信障害が、一方当事者側の設定、設備、接続環境に起因していた場合は、当該当事者は、注文代金(送料を含む。)を上限として、相手方に生じた損害を賠償する責任を負うものとする。

検収

検収の条項は、通常の売買契約とほとんど変わるところはありません。
売主としては、納品された商品について検査し、問題があれば交換や返品を請求することになり、他方、買主としては、この検収をクリアすることで売主としての義務を一旦果たしたことになります。
ただし、取引基本契約は、契約期間中、一定の範囲に属する取引にすべて適用されるため、通常の売買契約よりも「検収」の条項の重要性は高いといえます。
検収について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

条項例(検収)

1. 買主は、本件製品の納入を受けたときは、(本件製品が別紙仕様書の仕様に沿っているか、)速やかに検査を行い、●日以内に検査の結果を売主に通知する。

2. 前項の検査に合格した時をもって、個別契約の完了とし、検収とする。

3. 検査の結果が不合格の場合、売主は、買主の指示に基づき、速やかに不足品もしくは代品を納入し、または修理をした上で、買主の再検査を受けるものとする。

4. 買主は、本件製品について、第1項の期間内に所定の検査を完了することが困難になった場合、売主と協議の上、検査期限の延長を行うことができるものとする。

5. 買主が売主に検査の結果を通知しないまま、または検査期間の延長の申し出をすることなく、第1項の期間が経過したときは、検査に合格したものとする。

契約不適合責任

契約不適合責任の条項(目的物に契約不適合が発見された場合の規定)も、通常の売買契約とほとんど変わるところはありません。
ただし、契約不適合責任については、期間を長期にすれば買主に有利、短くすれば売主に有利になります。特に、継続的取引においてはその意味が大きくなるため、慎重に設定する必要があります。
また、取引基本契約は、契約期間中、一定の範囲に属する取引にすべて適用されるため、通常の売買契約よりも「契約不適合責任」の条項の重要性は高いといえます。
契約不適合責任について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

条項例(契約不適合責任)

1.売主から引き渡された本件製品の全部または一部について、不具合がある場合、数量違いがあった場合、品番違いがあった場合、及び、合意された仕様を満たさない製品があった場合には、買主は、その旨を、本件製品受領後●か月以内に売主に申し出るものとする。

2.売主は、前項の申し出があった場合には、買主の指示に基づき、速やかに、売主の費用負担により代替品や不足品の納入、修理、過剰納品の引取り等を行う。この場合、売主は、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることはできないものとする。

所有権の移転時期

所有権の移転時期の条項も、通常の売買契約とほとんど変わるところはありません。
所有権の移転時期については、こちらの記事をご覧ください。

条項例(所有権の移転時期)

本件製品の所有権は、第●条に定める本製品の【引渡/検収/代金完済】の時をもって、売主から買主に移転する。

危険負担

危険負担の条項も、通常の売買契約とほとんど変わるところはありません。
危険負担については、こちらの記事をご覧ください。

条項例(危険負担)

本件製品について生じた滅失、毀損その他の危険は、【引渡し/検収/代金完済】前に生じたものは買主の責めに帰すべき事由がある場合を除き売主の、【引渡し/検収/代金完済】後に生じたものは売主の責めに帰すべき事由がある場合を除き買主の負担とする。

代金の支払い

取引基本契約においては、一定期間、反復継続して取引を行うことが前提になっています。
そこで多くの取引基本契約では、
・毎月の締め日を設定し売主は、その締め日までの取引について集計して一定の日までに請求をする
・買主はその請求書を受領した後、一定の日までに支払う
という合意をすることとされています。
なお、代金支払の一般的な解説についてはこちらの記事をご覧ください。

条項例(代金の支払い)

1.売主は、毎月末日、同月中に納入した本件製品を集計し、翌月日までに、買主に対し、明細書を添付した請求書を送付する。ただし、本件契約に定める検品の手続において、不具合等の申し出があった本件製品については集計の対象外とする。

2.買主は、前項の請求書を受領後●日以内に(最終日が土日祝日の場合はその直後の営業日)、売主の指定する銀行口座に振込送金する方法により請求金額を支払う。振込手数料は買主の負担とする。

相殺

取引基本契約においては、一定期間、反復継続して取引を行うことが前提になっています。
そのため、売主としては、買主の経済状況が不安定になるなど、将来的に代金回収の不安が生じることがあります。
そこで、取引基本契約では、債権を保全するために、弁済期が到来しているかどうかにかかわらず相殺予約の合意をしておくことが一般的です。
このような相殺の規定をおくことで、取引の安全を図ることができます。

条項例(相殺)

買主は、売主から支払を受けるべき債権(本件契約及び個別契約に基づく債権に限定されない。)がある場合には、売主への本件契約に基づく債務と対当額で相殺することができる。

再委託

売買契約の対象となる目的物が汎用品や市販品である場合、売主は基本的にどこからでも目的物を調達してくることができます。そのため、大きな問題が生じることはありません。
しかし、企業者間の継続的な取引では、買主として、売主の技術力や生産体制、コスト、信用性などに着目して、「その売主」だからこそお願いをする、と考えていることが通常です。
そのため、買主にとって、買主の知らない間に売主が、その業務を別の第三者に委託することが望ましくないケースもあります。
そこで、売主が、勝手に第三者に委託することを防止するため、再委託の禁止条項を入れることがあります。

条項例(再委託を原則禁止する場合)

売主は、買主の事前の書面による同意がある場合を除き、本件製品の製造にあたり、その製造業務の全部または一部を第三者に委託してはならない。

なお、買主として、売主の再委託を可能とすることもできます。
再委託を可能とする場合には、以下のような規定をおくことが考えられます。

条項例(再委託を可能とする場合)

売主は、その責任において、本件製品の製造業務の一部を第三者に委託することができる。なお、売主は、再委託先の履行について、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。

秘密保持

取引基本契約においては、一定期間、反復継続して取引を行うことが前提になっています。
そのため、相手方に対して、少なからず自社の営業上や技術上の秘密を開示することになること(可能性)が考えられます。
仮に、相手方が、第三者に対して、自社の取引情報などの重要な情報を漏洩してしまうと、他の取引先や顧客からの信用・信頼を失うおそれがあります。
そこで、取引基本契約においても、通常の契約と同様、秘密保持条項を設けておくことが望ましいといえます。

条項例(秘密保持)

売主及び買主は、本件契約及び個別契約の履行に関して知った相手方の営業上または技術上の機密を、本件契約または個別契約の履行以外の目的に使用したり、第三者に開示等したりしてはならない。ただし、次の各号の情報については、この限りではない。

(1) 開示時に公知であったもの

(2) 開示時に既に所有していたもの

(3) 開示後に、自己の責めに帰さない事由により公知となるか、第三者から正当に入手したもの

(4) 独自に開発したもの

契約期間

取引基本契約においては、一定期間、反復継続して取引を行うことが前提になっています。
そのため、取引基本契約では、始期と終期を明確にした有効期間(契約期間)を定めておくのが一般的です。
また、円満に取引が継続しているにもかかわらず、うっかり契約を更新することを忘れ、基本契約の有効期間が切れてしまうのは両当事者にとって不利益が生じかねません。
そこで多くの契約においては、契約の当事者のいずれからも契約を終了する申し入れがない限り、その後も契約が自動的に更新されていく条項(自動更新条項)が付されています。

条項例(契約期間)

本件契約の有効期間は、●年●月●日から●年間とする。ただし、期間満了の●か月前までに、買主及び売主のいずれからも契約を終了する旨の書面による申し出がなされない場合は、さらに●年間延長されるものとし、以後も同様とする。

中途解約

取引基本契約は、一定期間の継続的取引を前提としており、契約当事者は、契約期間中、この基本契約の拘束を受けます。
取引関係が円満であれば特段の問題は生じないと考えられますが、時の経過によって、社会経済情勢の変動や技術の進歩といったマクロ的要因、他方当事者の信用リスクの顕在化や価格競争力のある第三者の出現、取扱商品の需要の減退などミクロ的要因、その他複合的な要因で、契約関係を途中で解消したいと考えるかも知れません。

そこで、契約期間中であっても、一定の予告期間を設けた上で中途解約することを認める条項を設けておく必要があります。
それが中途解約条項です。
なお、中途解約があったとしても、契約解消の効果は将来に向かってのみ生じ、既に発生している個別契約などは有効に存続します。

条項例(中途解約)

いずれの当事者も、本件契約期間中であっても、●か月以上の事前予告を書面で相手方に通知することにより、本件契約を解除できる。ただし、本件契約を解除した場合であっても、解除時点で既に締結済みの個別契約は有効に存続する。

期限の利益の喪失

先ほど説明したとおり、取引基本契約においては、
・まず売主が製品などを買主に対して納入し、
・その後に買主が定められた期限内に代金を支払う
とされていることが一般的です。
しかし、仮に、買主の信用に不安が生じたときなどの場合にまで、本来の支払期限まで待たなければならないとすれば、売主としては、代金の回収ができなくなってしまいます。
そこで、このような事態に備えて、一定の事由が生じたときには、売主が買主に対して、直ちに代金全額の支払いを請求できるようにするような規定をおいておくことが考えられます。
具体的には、期限の利益(支払期限まで支払を待ってもらう利益)を喪失させる条項を定めておくことになります。

条項例(期限の利益の喪失)

買主(または売主)に、次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合、買主(当該当事者)は当然に期限の利益を失い、ただちに支払義務を負うものとする。

(1) 監督官庁から営業許可の取消または停止等の処分を受けたとき

(2) 支払停止もしくは支払不能の状態に陥ったとき、または手形もしくは小切手の不渡りを発生させたとき

(3) 第三者より差押え、仮差押、仮処分もしくは競売その他これらに相当する手続の申立て、または公租公課の滞納処分その他これに相当する処分を受けたとき

(4) 破産手続開始、民事再生手続開始、特別清算手続開始その他これらに相当する手続開始の申立てを受け、または自ら行ったとき

(5) 解散の決議をしたとき

解除

取引基本契約は、一定期間の継続的取引を前提としており、契約当事者は、契約期間中、この基本契約の拘束を受けます。
しかし、仮に、相手方に期限の利益の喪失事由が生じたような場合にまで、本来は円満な取引の継続を前提とした契約に拘束されることは、あまりにも不利益が大きいといえます。
このような場合、他方当事者としては、契約の拘束から直ちに解放されたい(=契約を解除したい)と考えるはずです。
民法上、契約を解除するためには、原則として、解除をする前に、相手方に対して催告をする必要があるとされています。
そこで、取引基本契約では、一定の事由が生じた場合、無催告で解除することができるような定めをおいておくことが通常です。
契約の解除について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

条項例(解除)

1.買主または売主に、次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合、相手方は、本件契約をただちに催告なく解除することができる。

(1) 監督官庁から営業許可の取消または停止等の処分を受けたとき

(2) 支払停止もしくは支払不能の状態に陥ったとき、または手形もしくは小切手の不渡りを発生させたとき

(3) 第三者より差押え、仮差押、仮処分もしくは競売その他これらに相当する手続の申立て、または公租公課の滞納処分その他これに相当する処分を受けたとき

(4) 破産手続開始、民事再生手続開始、特別清算手続開始その他これらに相当する手続開始の申立てを受け、または自ら行ったとき

(5) 解散の決議をしたとき

2.買主または売主は、相手方が本件契約に違反し、相当の期間をおいて催告したにも関わらずこれを是正しないときは、本件契約を解除することができる。

損害賠償

契約の当事者は、契約に関連して相手方に損害を生じさせた場合、相手方に対して、損害を賠償する責任を負います。
損害賠償の定めは、いかなる契約においても特に重要性の高い条項の一つです。
損害賠償条項については、こちらの記事で詳しく記載しておりますのでご参照ください。

条項例(損害賠償)

買主または売主は、相手方の本件契約または個別契約違反により損害を被ったときは、相手方に対し、その賠償を請求することができる。

反社会的勢力の排除

近年、反社会的勢力の排除は特に重要視されています。
政府は、2007年6月19日、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」とする政府方針を発表するなどしており、反社会的勢力の取引からの排除が求められています。
特に継続的契約においては、相手方が反社会的勢力に該当するという一事をもって契約関係から離脱できるための条項を作っておくことが、自社のビジネス継続のために必要になります。

条項例(反社会的勢力の排除)

1.両当事者は、本件契約締結時現在において、暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ・特殊知能暴力集団・暴力団員でなくなってから5年を経過していない者等、その他これらに準ずる者(以下、これらを「反社会的勢力等」という。)に該当しないこと、及び、次の各号の関係に該当しないことを表明し、かつ、将来にわたって該当しないことを確約する。

(1) 反社会的勢力等によって、その経営を支配される関係

(2) 反社会的勢力等が、その経営に実質的に関与している関係

(3) 自社もしくは第三者の不正の利益を図り、または第三者に損害を加える等、反社会的勢力等を利用している関係

(4) 反社会的勢力等に対して資金等を提供し、または便宜を供する等の関係

(5) 役員等の反社会的勢力等との社会的に非難されるべき関係

2.両当事者は、自ら、その役員等または第三者を利用して次の各号のいずれの行為も行わないことを誓約する。

(1) 暴力的な要求行為

(2) 法的な責任を超えた不当な要求行為

(3) 取引に関して脅迫的な言動をし、または暴力を用いる行為

(4) 風説を流布し、偽計もしくは威力を用いて相手方当事者の信用を毀損し、または相手方当事者の業務を妨害する行為

(5) その他前各号に準ずる行為

3.いずれかの当事者において、上記二項のいずれかに違反した場合、相手方当事者は、催告なしで本件契約をただちに解除できるものとする。

4.本条の規定により本件契約が解除された場合には、解除された当事者は、解除により生じる損害について、解除した当事者に対し一切の請求を行わない。

存続条項

継続的契約である取引基本契約においては、契約が解除または期間満了によって終了した場合、その効果は将来に向かって生じることになります。
ただ、契約不適合責任や秘密保持条項、損害賠償、合意管轄などの規定については、契約終了後も、契約において定めた事項によってお互いを拘束しておく必要があります。
そこで、契約が終了した場合であっても、一部の規定については、その後も一定期間は、存続する旨の存続条項を明示しておくことが望ましいといえます。
存続条項について、詳しくはこちらをご覧ください。

条項例(存続条項)

本件契約が終了した後も、第●条、第●条から第●条まで及び本条は引き続き存続するものとする。

紛争解決条項

契約は、円満なときよりも、万が一紛争が生じたときに備えたものでもあります。
そのため、取引基本契約においては、契約の相手方との関係に問題が生じたとき、すなわち、紛争が生じたときにどのような指針に基づいて解決するのか、を定めておくことが必要です。
それが、紛争解決条項です。
紛争解決条項について、詳しくはこちらをご参照ください。

弁護士にご相談ください

取引基本契約書は、企業間の取引を円滑に進めるための重要な契約文書です。
契約書を適切に作成し、双方の権利や義務を明確にすることで、将来的なトラブルを未然に防ぐことが可能になります。

これから円満な取引を開始しようという際には、なかなか将来の紛争リスクを想像しにくいものです。
しかし、契約はあらゆる紛争リスクを想定して作成する必要があります。
「今は関係がいいから契約書なんて大丈夫」と思わず、契約を始める時は、顧問弁護士にリーガルチェックを依頼することがおすすめです。ぜひ弁護士にご相談ください。