売掛金が支払われない?!債権回収の注意点
債権回収をするうえで注意しなければならないことがあります。時効の問題、事前の情報の把握や自分自身で債権回収を行う場合に気をつけることなど様々な部分に気を配る必要がありますので、個別に説明いたします。
1 消滅時効について
取引先に対する売掛金等を回収することができずに、請求書や督促のお手紙を送り続けていませんか。督促を続けているから時効が成立しないと思っていませんか。
法律上、督促を続けたとしても、消滅時効はリセットしません。督促や請求を続けているだけで安心していると、いつの間にか時効が完成してしまうということも考えられるので、気をつけてください。
以下、消滅時効について、ご説明いたします。
(1) 消滅時効
消滅時効とは、権利を行使することなく、一定の期間を経過することにより、権利を消滅させ、権利行使をすることをできなくさせる制度です。
(2) 時効期間及び起算点
従前、旧民法では、消滅時効は、権利を行使することができる時から進行し、債権は、10年間行使しないときは、消滅すると規定され(一般債権の消滅時効)、また、債権の種類(職業別の短期消滅時効)によって、異なる消滅時効の期間を設けていました(例えば、卸売業の代金債権につき2年、医師の診療債権につき3年等)。
改正法(2020年4月1日施行)では、職業別の短期消滅時効の規定を廃止し、権利を行使することができる時から10年という一般債権の消滅時効の制度を残しました。なお、商事消滅時効に関する規定も削除されました。
さらに、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときも、債権は時効によって消滅するという主観的な起算点も設けられました。
このように、改正法では、従前ばらばらであった時効期間が統一され、権利を行使することができる時から10年間という客観的な起算点と権利を行使することができることを知った時から5年間という主観的な起算点が規定され、いずれか早く到来した段階で消滅時効が完成することになります。
(3) 時効の更新及び完成の猶予
改正法では、従前規定のあった、時効の中断及び停止という規定ではなく、新たに時効が進行を始めるという「時効の更新」という規定と一定期間時効が完成しないという「完成の猶予」という規定が設けられました。
民法は、時効の更新に関する事由として、裁判上の請求、支払督促、強制執行、担保権の実行や承認などを規定しております。
そのため、単に相手方に督促を続けただけでは、時効の更新事由には当たらないので、進行している時効を一度リセットするためには、訴訟等の裁判上の請求をするか、相手方が貴社の権利を認める旨の内容を証拠に残すかなどの方法をとってください。
2 相手方の情報の把握
債権回収をするうえで、回収をより確実なものとするためには、相手方の情報を具体的に細かく把握することが重要です。
(1) 相手方の住所
まずは、相手方の住所・所在地です。法人であれば、登記事項証明書(商業登記簿謄本)によって、本店所在地を確認することができますが、取引相手が法人化していない個人事業主の場合、事務所や事業の場所等をしっかり把握しておきましょう。
住所等が分からない場合でも、公示送達という方法で訴訟の手続きを行うことはできますが、公示送達の方法で勝訴しても、相手方の手元に実際に送達されることはないので、任意に支払いをするということは見込めず、また、従者が分からない以上、事務所等に置かれている動産類等に対する差押えをすることもできず、回収は難しくなりますので、相手方の住所はしっかりと把握しておきましょう。
(2) 財産状況の把握
相手方のメインバンク等取引している金融機関はどこなのか、不動産は所有しているのか、相手方が取引している会社等はどこなのかなど相手方の財産状況を把握することは重要です。
判決等により、貴社の請求権が認められたとしても、相手方に全く支払いの意思がなく、任意の支払いが見込めない場合には、強制執行により回収を試みるしかありません。
もっとも、強制執行をする場合でも、どの財産を差し押さえるのか特定する必要がありますので、相手方の財産状況を把握していなければ、回収は非常に困難になります。
(3) 相手方の経営状況の把握
取引先である会社や個人の経営状況を把握することは非常に大事です。万が一、破産手続きをとられた場合には、全額回収の見込みはほとんど無くなります。
できるだけ取引先の会社の代表者等とコミュニケーションをとって経営状態がどういった状態なのか情報の収集に努めましょう。
万が一、不安がある場合には、担保を取ったり、保証人を立ててもらったりということも考えられます。
3 貴社自身で回収する場合の注意点
貴社自身で債権回収をする場合でも、違法な行為にならないように注意しましょう。法律上支払わなければならないにもかかわらず、約束を守らずに支払わないのが悪いのだから、何をしても許されるというものではありません。
例えば、相手方の了承を得ずに、勝手に敷地内に入れば住居侵入罪になり、相手方から「帰ってくれ」、「出て行ってほしい」と言われているにもかかわらず、支払うまで帰らないと述べて居座っていると不退去罪になる可能性もあります。
また、脅し文句を用いて支払いを要求すれば、恐喝罪になる可能性もあります。
このように、貴社自身で債権回収を行う場合でも、しっかりとした手段・方法をとらないと違法になりますので、どのようにすればいいのかなど事前に弁護士に相談することをおすすめします。
以上のように、債権回収をするに当たっての注意点を説明しましたが、手段や方法も含めて、時効の管理など様々な面に注意をする必要があり、スムーズに手続きを進めるためにも専門家である弁護士のアドバイスを受けるべきです。
まずは、弁護士法人ASKにご相談ください。