会社の運営

株券発行前の株式譲渡の有効性【最高裁判決】

会社法では、ペーパーレス化により株式の流通性を高めるとともに、株券発行にかかる事務的な負担を軽減する観点から株券の不発行を原則とし、定款において定めをおいた場合には、例外的に株券を発行できるとされています(会社法214条1項)。

定款で株券発行の定めをおいた場合、株券発行会社は、株式を発行した日以後、遅滞なく、株券を発行しなければなりません(会社法215条1項)。
ただし、株券発行会社が非公開会社である場合には、株主からの請求があるまでは、株券を発行しなくてもよいことになっています(会社法215条4項)。

なお、同条にいう株券の発行とは、会社法216条に定める形式を具備した文書を株主に交付することをいい、当該文書を株主に交付したときに初めて株券となるため、会社が株主に対して当該文書を交付しない限りは株券たる効力を有しないと解されています(最判昭40.11.16)。

では、株券発行会社において、株券発行前に株式が譲渡された場合、会社は株券発行前であることを理由として、株式譲渡の効力を否定できるのでしょうか。

各株券引渡請求及び独立当事者参加事件・最高裁令和6.4.19判決

事案の概要

本件は、Xさんが、Y社らに対して、Xさんが各社の株式を有する株主であることの確認等を求める訴えを提起し、最高裁判所において
①株券発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはないこと
②株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができること
が示された事案です。

事実の経過

Aさんの株式取得

株式会社植宗は、平成16年1月、株式会社植宗エクステリアの設立に当たり、その株式200株(本件株式1)を引き受け、本件株式1の株主となりました。
株式会社植宗エクステリアは、公開会社でない株券発行会社でした。

平成24年4月、株式会社植宗は、Aさんに対して、本件株式1を譲渡し、植宗エクステリアの取締役会は、Aさんへの本件株式1の譲渡を承認しました。

Cさんの株式取得

一方、Y1社は、平成18年5月、株式会社植宗エクステリアの募集株式310株を引き受け、当該株式の株主となりました。
Y1社は、同年8月頃、Bさんに対し、当該株式のうち240株(本件株式2)を譲渡し、株式会社植宗エクステリアの取締役会は、Bさんへの本件株式2の譲渡を承認しました。

その後、平成25年7月、Bさんは、Cさんに対して本件株式2を譲渡し、株式会社植宗エクステリアの取締役会は、Cさんへの本件株式2の譲渡を承認しました。

株券の発行

株式会社植宗エクステリアは、株券発行会社であったものの、設立以来、株券を発行したことはありませんでした。

平成29年10月、Aさんは、本件株式1について、債権者代位権に基づいて、株式会社植宗の株式会社植宗エクステリアに対する株券発行請求権を行使し、同社に対し、株券の交付を自己に対してすることを求めました。
これにより、Aさんは、株式会社植宗エクステリアから、本件株式1にかかる株券として、本件株券1の交付を受けました。

また、Cさんも、同月、本件株式2につき、債権者代位権に基づいて、Y1社の株式会社植宗エクステリアに対する株券発行請求権を行使し、同社に対し、株券の交付を自己に対してすることを求めました。
これにより、Cさんは、株式会社植宗エクステリアから、本件株式2にかかる株券として、本件株券2の交付を受けました。

Xさんへの株式譲渡

令和2年3月、Aさんは、Xさんに対して本件株式1を譲渡し、本件株券1を交付しました。
また、同年7月、Cさんは、Xさんに対して本件株式2を譲渡し、本件株券2を交付しました。
株式会社植宗エクステリアの取締役会は、AさんおよびCさんからXさんに対する本件株式1および本件株式2の譲渡をそれぞれ承認しました。

訴えの提起

その後、Xさんは、株式会社植宗に対して、Xさんが本件株式1を有する株主であることの確認等を求め、また、Y1社に対し、Xさんが本件株式2を有する株主であることの確認等を求める訴えを提起しました。

争点

本件では、①株券発行前になされた株券発行会社の株式の譲渡は有効か否か、また、②株券発行会社の株式の譲受人が譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使できるか否かが争点となりました。

原審の判断

原審は、

「株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、会社法128条1項により、当該株式に係る株券を交付しなければ、譲渡当事者間においても、その効力を生じないから、本件株式1について株式会社植宗からAさんに、本件株式2についてY1社からBさんに、それぞれ有効に譲渡されたということはできない。また、株式会社が会社法216条所定の形式を具備した文書を株主に交付したときに初めて当該文書が株券としての効力を有することになると解すべきところ、本件株券1及び2は、株主である株式会社植宗らに交付されたものでないから、株券としての効力を有せず、Xさんは本件株式1及び2に係る株券の交付を受けたということはできない。」

として、Xさんの請求はいずれも認められないと判断していました。

本判決の要旨

これに対して、最高裁は、次のとおり述べ、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻す判断を示しました。

争点①株券発行前になされた株券発行会社の株式の譲渡は有効か否か

株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡の譲渡当事者間での効力

会社法は、株主はその有する株式を譲渡することができると規定するとともに(127条)、株式は意思表示のみによって譲渡することができることを原則とするところ、同法128条は、株券発行会社の株式の譲渡について特則を設け、同条2項は、株券の発行前にした譲渡につき、株券発行会社に対する関係に限ってその効力を否定している。そして、同条1項は、株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じないと規定しているところ、株券の発行前にした譲渡について、仮に同項が適用され、株券の交付がないことをもって、株券発行会社に対する関係のみならず、譲渡当事者間でもその効力を生じないと解すると、同項とは別に株券発行会社に対する関係に限って同条2項の規定を設けた意味が失われることとなる。また、株券の発行前にした譲渡につき、上記原則を修正して譲渡当事者間での効力まで否定すべき合理的必要性があるということもできない。以上によれば、同条1項は、株券の発行後にした譲渡に適用される規定であると解するのが相当であるというべきである。
したがって、株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはないと解するのが相当である。

本件の検討

そうすると、本件株式1の株式会社植宗からAさんへの譲渡は、本件株式1に係る株券の交付がないことをもって譲渡当事者間での効力が否定されることはなく、また、本件株式2のY1社からBさんへの譲渡及び同人からCさんへの譲渡は、本件株式2に係る株券の交付がないことをもって譲渡当事者間での効力が否定されることはないというべきである。

争点②株券発行会社の株式の譲受人が譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使できるか

代位行使の可否

また、株券発行会社の株式の譲受人は、株券の発行前に株式を譲り受けたとしても、当該株式に係る株券の交付を受けない限り、株券発行会社に対して株主として権利を行使することができないから(会社法128条2項)、当該株式を譲り受けた目的を実現するため、譲渡人に対して当該株式に係る株券の交付を請求することができると解される。そうすると、株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、民法423条1項本文(平成29年法律第44号による改正前のもの)により、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができると解するのが相当である。

直接交付請求の可否

そして、株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使する場合、株券発行会社に対し、株券の交付を直接自己に対してすることを求めることができるというべきであり(大審院昭和9年(オ)第2498号同10年3月12日判決・民集14巻482頁、最高裁昭和28年(オ)第812号同29年9月24日第二小法廷判決・民集8巻9号1658頁参照)、株券発行会社が、これに応じて会社法216条所定の形式を具備した文書を直接譲受人に対して交付したときは、譲渡人に対して株券交付義務を履行したことになる。
したがって、上記文書につき、株券発行会社に対する関係で株主である者に交付されていないことを理由に、株券としての効力を有しないと解することはできない。

まとめ

そうすると、前記事実関係の下では、本件株券1及び2につき、それぞれAさん及びCさんに交付されたことをもって、本件株式1及び2に係る株券としての効力を有しないということはできないから、上記両名から本件株券1及び2の交付を受けたXさんは、本件株式1及び2に係る株券の交付を受けたと認められる余地がある。

ポイント

本件は、株式会社植宗エクステリアの株式を取得したXさんが、従前の同株式の株主であるY社らに対して、Xさんが同株式を有する株主であることの確認等を求めた事案でした。

まず、会社法128条1項は、「株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない」と規定されていることから、争点①として、株券発行前にした株券発行会社の株式の譲渡が有効であるか否かが問題となりました。
この点について、本判決は、会社法128条2項が、「株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない」と規定し、株券の発行前にした譲渡について、株券発行会社との関係に限ってその効力を否定していることなどを指摘し、株券発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、株券の交付がないことをもって効力が否定されることはなく、有効であると判断しました。

また、本件では、Y社等から株式譲渡を受けたAさんやCさんが株式の譲渡人に代位して株式会社植宗エクステリアに対して株券の発行と交付を求め、同株券の交付を受けていたことから、争点②として、株券発行会社の株式の譲受人が、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使できるか否か問題となりました。
この点について、本判決は、株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使できる当該株券発行会社が、同請求に応じて株券を直接に譲受人に対して株券を交付したときは、株式の譲渡人に対して株券交付義務を履行したことになると判断しました。

弁護士にもご相談ください

冒頭でも述べたとおり、会社法では、株券不発行が原則とされています。
もっとも、会社法施行前から続く企業の中には、未だに古い定款が生き続け、株券発行会社となっていることもあります。
非公開会社の場合には、株主からの請求があるまでは株券を発行しないことができるため、気付かずにそのまま株券発行会社が続いてしまっているケースがあるのです。

もっとも、株券発行になっている場合には、事業承継やM&Aなどによって会社の全株式を譲受人に譲渡する際に、譲受人に対して株券を発行しなければならなかったり、株主が株券を喪失した場合に備えた管理をしなければならなかったりするなど、一定のリスクや負担を負うことになります。
株券発行会社から株券不発行会社への移行は、定款の変更によって行うことが可能ですが、定款の変更にも会社法上、必要となる手続きが決まっていますので、定款変更等についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。