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株主総会議事録閲覧謄写請求できる「債権者」の範囲【最高裁判決】

会社法では、株主や会社債権者が、会社の事業状態や財産、損益の状況など会社に関する情報を取得するための方法として、株主総会議事録や取締役会議事録、株主名簿、計算書類等の閲覧等を請求することができることが定められています(会社法125条2項、3項、318条4項、371条2項~4項、6項、433条1項・2項、442条3項)。

では、会社に対して、株式買取請求権を行使した株主は、会社との関係において「債権者」として、株主総会議事録の閲覧謄写請求をすることができるのでしょうか。

今回は、株式併合に反対し、株式買取請求権を行使して会社から代金の仮払いを受けた元株主が、会社に対して株主総会議事録の閲覧謄写を求めた事件において、元株主が会社の「債権者」に該当するか否かが争われた事件を紹介します。

株主総会議事録閲覧謄写請求件・最高裁令和3.7.5判決

事案の概要

本件は、Y社における株式併合によって保有する株式が1株に満たない端数になるとして会社法182条の4第1項に基づき株式買取請求権を行使したXさんが、Y社に対して、Xさんは同株式の価格の支払請求権を有しているから、Y社の「債権者」に当たるなどと主張して、会社法318条4項に基づき、株主総会議事録の閲覧および謄写を求めた事案です。

事実の経過

XさんとY社の関係

Y社は、昭和50年1月13日に設立された電子機器・部品その他の物品の販売等を目的とする株式会社でした。
そして、Xさんは、Y社の株主として、同社株式4万4400株を保有していました。

株式併合の決議

平成28年7月4日、Y社は、臨時株主総会及び普通株式の株主による種類株主総会を開催し、同月26日を効力発生日としてY社の普通株式とA種種類株式のそれぞれ125万株を1株に併合する旨の決議をしました。

Xさんによる株式買取請求

Xさんは、Y社の上記各株主総会に先立って、普通株式とA種種類株式のそれぞれ125万株を1株に併合する旨の議案(本件議案)に反対することをY社に通知しました。
そして、実際に、Y社の上記各株主総会においても、本件議案に反対しました。
その後、Xさんは、同月25日までに、会社法182条の4第1項に基づき、Y社に対して、自身の保有する株式を公正な価格で買い取ることを請求しました。

価格決定の申立て

Y社は、本件株式の価格の決定についてXさんとの間で協議を行いましたが、協議は整わず、会社法182条の5第2項所定の期間内に、東京地方裁判所に対して、本件株式の価格の決定の申立てをしました。

代金の仮払い

会社法182条の5第5項は、株式の価格の決定があるまでは、株主に対して、会社が公正な価格と認める額を支払うことができることが定められているところ、Y社、同年10月21日、Xさんに対して、Y社自らが公正な価格と認める額として1332万円を支払いました。

訴えの提起

他方で、Xさんは、Y社に対して、Xさんは本件株式の価格の支払請求権を有しているから、Y社の債権者に当たる(会社法318条4項)などと主張して、Y社に対して、平成29年3月期の定時株主総会の議事録及び平成28年7月5日以降に開催されたすべての株主総会の議事録の閲覧謄写を求める訴え(本件訴え)を提起しました。
なお、Y社による本件株式の価格決定の申立て事件については、本件訴えの原審口頭弁論終結時において、未だ係属中でした。

争点

本件では、株式買取請求権を行使し、会社から代金の仮払いを受けたXさんが、会社に対して株主総会議事録閲覧謄写を求めることができる「債権者」(会社法318条4項)に当たるか否かが争点となりました。

要するに

Xさん
Xさん

「株式買取請求権」という債権を持っているので私は「債権者」だ!

いやいや、Xさんには払うべきもの全部払ったんだから、Xさんの債権はありません!
なので、Xさんは「債権者」にはあたりません!

Y社
Y社

という争いです。

本判決の要旨

株式買取請求権を行使した株主の地位

会社法318条4項は、株式会社の株主及び債権者は株主総会議事録の閲覧等を請求できる旨を定めている。そして、同法182条の4第2項各号に掲げる株主(反対株主)は、株式併合により1株に満たない端数となる株式につき、同条1項に基づく買取請求をした場合、会社との間で法律上当然に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずることにより上記株式につき公正な価格の支払を求めることのできる権利を取得し最高裁平成22年(許)第30号同23年4月19日第三小法廷決定・民集65巻3号1311頁参照)、同法318条4項にいう債権者に当たることとなると解される。

裁判所
裁判所

株主が買取請求権を行使したら当然に「債権者」に当たることになります

仮払いによって価格支払い請求権が消滅するか

ところで、会社は、上記株式の価格の決定があるまでは、上記買取請求をした者に対し、自らが公正な価格と認める額を支払うことができる(同法182条の5第5項)。もっとも、上記株式の価格は上記の者と会社との間の協議により又は裁判によって決定されるところ(同条1項、2項)、同法182条の4第1項の趣旨が、反対株主に株式併合により端数となる株式につき適切な対価の交付を確保することで上記株式についての反対株主の利益の保護を図ることにあることからすれば、上記裁判は、裁判所の合理的な裁量によってその価格を形成するものであると解される(前掲最高裁平成23年4月19日第三小法廷決定参照)。

そうすると、上記協議が調い又は上記裁判が確定するまでは、この価格は未形成というほかなく、上記の支払によって上記価格の支払請求権が全て消滅したということはできない。

裁判所
裁判所

会社が「仮払い」をしたとしても、裁判が確定するまで価格が未形成なので、「債権者」としての地位は失われません。

情報取得の必要性の有無

また、同法318条4項の趣旨は、株主及び債権者において、権利を適切に行使し、その利益を確保するために会社の業務ないし財産の状況等に関する情報を入手することを可能とし、もってその保護を図ることにあると解される。そして、上記買取請求をした者は、会社から上記支払を受けたとしても、少なくとも上記株式の価格につき上記協議が調い又は上記裁判が確定するまでは、株式併合により端数となる株式につき適切な対価の交付を確保するため会社の業務ないし財産の状況等を踏まえた合理的な検討を行う必要がある点においては上記支払前と変わるところがなく、上記情報の入手の必要性は失われないというべきである。

結論

したがって、同法182条の4第1項に基づき株式の買取請求をした者は、同法182条の5第5項に基づく支払を受けた場合であっても、上記株式の価格につき会社との協議が調い又はその決定に係る裁判が確定するまでは、同法318条4項にいう債権者に当たるというべきである。

ポイント

本件は、Y社における株式併合によって保有する株式が1株に満たない端数になるとして会社法182条の4第1項に基づき株式買取請求権を行使したXさんが、Y社に対して、Xさんは同株式の価格の支払請求権を有しているから、Y社の「債権者」に当たるなどと主張して、会社法318条4項に基づき、株主総会議事録の閲覧および謄写を求めた事案でした。

これに対して、Y社は、XさんがY社から会社法182条の5第5項に基づく仮払いを受けており、同株式の価格が仮払いの額を上回らない限り、Xさんは「債権者」に当たらないと主張していました。

もっとも、裁判所は、株式買取請求をした者は、会社から仮払いを受けていた場合であっても、同株式の価格について会社と協議が整い、または価格の決定にかかる裁判が確定するまでは、株主総会議事録の閲覧謄写を請求することができる「債権者」に当たると判断しました。

本判決に照らすと、会社は、株主から株式買取請求権を行使され、同価格の決定に関する裁判等が確定するまでの間において、「債権者」として株主総会議事録の閲覧謄写請求がなされた場合には、債権者該当性を否定することができないことになります。

弁護士にもご相談ください

冒頭でも述べたとおり、株主や会社債権者は、会社法上、株主総会議事録や取締役会議事録、株主名簿、会計帳簿等の閲覧等を請求することができます。
会社としては、これらの請求を受けた場合、正当な権利行使である限りは、株主や会社債権者に対して閲覧等の機会を設けなければなりません。

もっとも、場合によっては、当該閲覧等の請求が正当な目的ではない可能性もあります。
仮に不当な目的での請求に応じてしまった場合には、会社の機密情報が外部に漏れてしまうなどのリスクもあるため、株主等から会計帳簿等の閲覧謄写請求などを受けた場合には、当該請求が会社法上の要件を満たすものであるか否か、拒絶事由に該当しないか否かなどの点を顧問弁護士にも相談し、慎重に対応することが大切です。