会社の運営

委任状の送付が株式買取請求権行使のための反対通知にあたる? 【最高裁令和5年10月26日決定】

会社が吸収合併等の組織再編をすると、会社は組織再編によって事業の性質が大きく変わり得るため、株主にとっては、当初会社に対して投資した意味合いが変わってしまうことが考えられます。
このように会社の組織再編は、株主の利益に重大な影響を及ぼす可能性があるため、会社法では、一定の要件の下で、株主が投下資本の回収を図ることができる機会が与えられています。

具体的には、組織再編に反対する株主は、会社に対して、自己の保有する株式を「公正な価格」で買い取ることを請求することができ(会社法785条、797条、806条)、株式買取価格である「公正な価格」について、株主と会社との間で協議が成立しなかった場合には、裁判所に対して価格決定の申立を行うことができます(会社法786条、798条、807条)。

ここで、株式買取請求権を行使することができる「反対株主」とは、組織再編について株主総会の決議を要する場合には、
①当該株主総会において議決権を行使できる株主であって、当該株主総会に先立って当該組織再編に反対する旨を会社に通知し、かつ、当該株主総会において当該組織再編に反対した株主
②当該株主総会において議決権を行使することができない株主
のいずれかの株主をいうとされています(会社法785条2項、797条2項、806条2項)。

さて、今回、吸収合併消滅会社の株主が、吸収合併のための株主総会に先立って行われる株主総会の招集通知に同封されていた議決権代理行使を勧誘する会社からの委任状に、当該議案には反対する旨の記載をした上で、会社に同封したことが、反対株主の株式買取請求権の要件である「反対する旨」の通知に当たるのか否かが問題となった事件がありました。

令和5年10月26日・最高裁決定

事案の概要

吸収合併契約の締結

B社は、令和2年10月15日、C社との間で、効力発生日を同年12月1日として吸収合併をする旨の吸収合併契約(本件合併契約)を締結しました。

議決権代理行使の勧誘

B社は、「第1号議案 C社との吸収合併契約承認の件」を決議事項(本件議案)とする臨時株主総会(本件総会)を令和2年11月13日に開催することとしました。
そして、同月9日、B社は、B社の株式を有するAさんに対して、本件総会の招集通知を発するとともに、本件総会にAさん自身が出席しない場合には、この招集通知に同封された委任状用紙に本件議案に対する賛否を記載するなどして委任状を作成し、これを返送するよう議決権の代理行使を勧誘しました。

本件委任状用紙には、作成日付、議決権の個数、株主の住所、氏名を記載する欄があったほか、宛先としてB社御中との印字があり、これに続いて、「委任状」という表題の下に、
「私は、・・・を代理人と定め下記の権限を委任いたします。」
「令和2年11月13日開催の記者臨時株主総会及びその継続会または延会に出席して下記の議案につき私の指示(〇印で表示)にしたがって、議決権を行使すること。ただし、議案に対して賛否の表示のない場合及び原案に対して修正案または動議が提出された場合は、いずれも白紙委任いたします。」
とそれぞれ印字され、その下に「賛」または「否」のいずれかに〇印を付けて本件議案に対する賛否を記載する欄が設けられていました。

Aさんによる委任状の作成

Aさんは、令和2年11月10日、議決権の代理行使の勧誘に応じ、本件委任状用紙を用いて、上記の「・・・」の部分にB社代表取締役の氏名を記載するとともに、本件議案に対する賛否の欄の「否」に〇印を付け、その欄外に「合併契約の内容や主旨が不明の上、数日前の通知であり賛否表明ができません(合併契約書を表示してください)」との付記をするなどして委任状を作成し、B社に返送しました。

Bさん
Bさん

「否」っと
「数日前の通知であり賛否表明ができません」
これでよし。合併に反対したぞ

株主総会の決議

B社では、令和2年11月13日に本件総会が開催され、本件合併契約を承認する旨の決議がなされました。
この決議が行われるにあたり、B社代表取締役は、Aさんが返送した委任状に基づき、Aさんの代理人として本件議案に反対する旨の議決権の行使をしました。

Aさんは本案に反対する議決権として行使します。
ただ、本合併契約の承認を可決します。

B社
B社

Aさんによる株式買取請求

Aさんは、令和2年11月30日までにB社に対しAさんの有するB社の全株式を公正な価格で買い取ることを請求しました。
もっとも、AさんとB社との間で「公正な価格」の決定について協議が整わなかったため、令和3年1月20日、Aさんは、会社法786条2項に基づき、価格の決定の申立てを行ったという事案です。

争点

本件の争点は、AさんがB社に対して委任状を送付したことが、吸収合併等をするための株主総会に先立って消滅株式会社等に対してされる当該吸収合併等に「反対する旨」の通知(会社法785条2項1号イ)にあたるか否かです。

会社法
第785条 吸収合併等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる
一 第七百八十三条第二項に規定する場合
二 第七百八十四条第二項に規定する場合
2 前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主(第七百八十三条第四項に規定する場合における同項に規定する持分等の割当てを受ける株主を除く。)をいう。
一 吸収合併等をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主
イ 当該株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該吸収合併等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主
二 前号に規定する場合以外の場合 全ての株主(第七百八十四条第一項本文に規定する場合における当該特別支配会社を除く。)
3以下 (省略)

会社法(平成十七年法律第八十六号)

本決定の要旨

反対株主の株式買取請求権の意義

会社法785条1項、2項1号イは、吸収合併等をするための株主総会において議決権を行使することができる株主が反対株主として株式買取請求をするためには、上記株主総会に先立って当該株主が反対通知をすることを要する旨規定している。
その趣旨は、消滅株式会社等に対し、吸収合併契約等の承認に係る議案に反対する株主の議決権の個数や株式買取請求がされる株式数の見込みを認識させ、当該議案を可決させるための対策を講じたり、当該議案の撤回を検討したりする機会を与えるところにあると解される。

委任状の送付と反対通知の関係

そして、本件のように、株主が上記株主総会に先立って吸収合併等に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を消滅株式会社等に送付した場合であっても、当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案して、吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるときには、消滅株式会社等において、上記見込みを認識するとともに、上記機会が与えられているといってよいから、上記委任状を消滅株式会社等に送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である

Aさんの委任状について

これを本件についてみると、本件委任状は、B社が、Aさんに対し、宛先を自社とする本件委任状用紙を送付して議決権の代理行使を勧誘し、Aさんが、これに応じて、本件委任状用紙の各欄に記載をするなどして作成し、B社に対して返送したものである。
そうすると、Aさんが本件賛否欄に記載したところは、代理人となるべき者に対して議決権の代理行使の内容を指示するだけのものではなく、上記勧誘をしてきたB社に対する応答でもあったということができ、本件委任状の送付は、B社に向けて本件吸収合併についてのAさんの意思を通知するものでもあったというべきである。
そして、本件賛否欄には「否」に〇印が付けられていたのであるから、本件吸収合併に反対する旨のAさんの意思が本件委任状に表明されていたことは明らかである。
なお、本件付記は、その記載内容等からすると、本件議案に反対する理由を記載したものとみるべきであって、本件付記があることは、本件吸収合併に反対する旨のAさんの意思が本件委任状に表明されていたとの上記判断を左右するものではない。

結論

以上からすると、本件委任状の送付は、本件吸収合併に反対する旨のAさんの意思をB社に対して表明するものということができる。

したがって、AさんがB社に対して本件委任状を送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。

解説

反対株主の株式買取請求権

前述のとおり、会社の組織再編について、反対する株主は、会社に対して、一定の要件の下、自己の保有する株式を買い取るよう請求することができます(会社法785条1項)。
もっとも、単に当該組織再編に反対していればよいというわけではなく、組織再編について株主総会の承認を要する場合において、議決権を行使することができる株主の場合には、株主総会に先立って、組織再編に反対する旨の通知をし、かつ、当該総会において反対の議決権を行使する必要があります(会社法785条2項1号イ)。

従来の考え方

株主総会に先立つ「反対する旨」の通知の方法については、会社法に特段の定めがなく、従来、書面または電磁的方法による議決権行使をすることができる株主が、組織再編に反対する旨の議決権行使書面を提出するか電子投票をした場合には、反対通知として有効な通知であるものと考えられていました。
他方で、本件のように、株主が会社による委任状の勧誘に対して反対の表示をして返送をした場合については、議決権行使の代理人に対する指示にすぎず、組織再編を実行しようしている当該会社に対する「反対する旨」の意思の通知には当たらないと考えられていました。

本件のポイント

本件事案は、B社とC社が吸収合併契約(組織再編)を締結し、株主総会において、この吸収合併契約の承認を得ようと考えていたところ、これに反対するB社株主のAさんが、株主総会の招集通知にB社が同封した議決権代理行使を勧誘する委任状用紙に、同議案に反対する旨を記載した上で、B社に返送し、後に反対株主として株式買取請求権を行使したという事案でした。

従来の考え方に沿って解釈した場合、Aさんの行為は、単に議決権行使の代理人に対する指示にすぎず、反対株主の株式買取請求権を行使するための要件である「当該株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知」(会社法785条2項1号イ)に該当しないようにも思えます。

しかし、本最高裁決定は、Aさんのように、会社による議決権代理行使を勧誘する委任状用紙に対して、反対の意思表示を付して返送した場合であっても、「当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案して、吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるときには、・・・委任状を消滅株式会社等に送付したことは、反対通知に当たる」と判断しています。

したがって、今後は、委任状の作成経緯や送付経緯、記載内容などの諸般の事情を勘案して、組織再編に反対する旨の株主の意思が会社側に表明されているといえる場合には、委任状勧誘に対する反対の意思表示も「反対する旨」の通知に該当し得ることになります。

顧問弁護士にご相談を

組織再編は会社法上定められた複雑な手続を履践していく必要があります。
それぞれの手続を必要かつ十分に行っていないと、場合によっては組織再編が無効になってしまうおそれがあります。
また、手続をきちんと守っているケースであっても、組織再編に反対する株主から株式買取請求権を行使される場合や株式の公正な価格をめぐる紛争が起こることもあるでしょう。
このように組織再編に付随する論点や問題やたくさんありますので、組織再編を行う場合には、顧問弁護士と相談しながら一つ一つ丁寧に進めていくことが肝要です。