法律コラム

障害者への合理的配慮の提供義務化に向けて【改正障害者差別解消法ポイント解説】【2024年4月施行】

令和5(2023)年3月に障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)が改正され、事業者による障害のある方への合理的配慮の提供が義務化されました。

本改正に伴うルールは令和6(2024)年4月1日から施行されます。

このページでは、障害者差別解消法の改正に伴い事業者に求められる合理的配慮義務について、そのポイントを具体的に解説しています。
障害のある人もない人もともに生きる社会の実現を目指して、それぞれの企業がどのような取り組みを行うことができるのか、一緒に考えていきましょう。

障害者差別解消法の改正に至る背景

厚生労働省による「生活のしづらさなどに関する調査」や「社会福祉施設等調査」、「患者調査」などによると、我が国の各区分における障害者数の概数は、身体障害者436万人、知的障害者109万4000人、精神障害者614万8000人となっており、国民のおよそ9.2パーセントは何らかの障害を抱えながら生活をしています。
そして、いずれの区分においても、障害者数は増加傾向にあり、すべての国民が障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重し合い、その人らしさを認め合いながら、ともに生きる社会を実現することは喫緊の課題です。
このような社会の状況を基に、政府は、障害者の活動を制限し、社会への参加を制約する社会のさまざまなバリアを除去するための取り組みをさらに進めていくため、障害者差別解消法を改正しました。

改正障害者差別解消法では、行政機関等及び事業者に対して、障害のある人への障害を理由とする不当な差別的取り扱いを禁止するとともに、障害のある人から申出があった場合に合理的配慮の提供を求めることなどを通じて、障害のある人もない人も共に生きる社会の実現を目指しています。

障害者差別解消法の対象

障害者

障害者差別解消法における「障害者」とは、障害手帳を持つ人のことだけを対象にするものではありません。
身体障害のある人、知的障害のある人、精神障害のある人、発達障害のある人、高次脳機能障害のある人、その他心や体のはたらきに障害のある人、難病などに起因した障害を有する人など、障害や社会の中にある有形・無形のさまざまなバリアによって日常生活や社会生活に相当な制限を受けているすべての人が対象になります。
もちろん、この中には大人だけでなく障害のあるこどもも含まれます。

事業者

障害者差別解消法における「事業者」とは、商業その他の事業を行う企業や団体、店舗など同じサービス等を反復継続して行う意思を有するものをいいます。
営利・非営利の別、個人・法人の別は問いません。
個人事業主やボランティア活動をするグループなどであっても事業者に含まれます。

分野

障害者差別解消法の対象となる分野は、教育、医療、福祉、公共交通等だけでなく、日常生活及び社会生活の全般に関わるさまざまな分野が幅広く含まれます。
なお、雇用や就業については、「障害者の雇用の促進等に関する法律」によって定められることになっています。

合理的配慮の提供とは

障害のない人にとっては特に不便もなく簡単に利用できる設備やサービス等であっても、障害のある人にとっては利用が難しく、結果的に日常生活や社会生活において活動が制限されてしまっているケースは多々あります。
障害のある人の生活のしづらさを解消するためには、障害のある人にとってバリアとなっている障壁を取り除いていかなければなりません。
そこで、改正障害者差別解消法では、行政機関等や事業者に対して、障害のある人に対する「合理的配慮」の提供を求めています。

第8条(事業者における障害を理由とする差別の禁止)
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

事業者に求められる合理的配慮の提供義務

改正障害者差別解消法では、

  1. 事業者が
  2. その事務や事業を行うにあたり
  3. 個々の場面において、障害のある人から「社会的なバリアを取り除いてほしい」との意思の表明があった場合に
  4. その実施に伴う負担が過重ではないときには
  5. 社会的なバリアを取り除くために必要かつ合理的な配慮を講ずること

を義務付けています。

合理的配慮の内容

合理的配慮の内容は個々の場面に応じて異なるため、一義的に決められるものではありません。
したがって、各事業者は、障害のある人の状態、年齢、性別などに留意しながら、それぞれの場面で求められる配慮について柔軟に対応していく必要があります。

内閣府が公表しているリーフレットでは、以下に示すような具体例が紹介されていますので、このような例も参考にしながら、日常生活や社会生活の中にあるさまざまなバリアについて考え、また、事業者として合理的配慮を求められた際に円滑な対応がとれるように、いまから十分な準備を進めていきましょう。

合理的配慮の提供に向けた留意事項

事業者に求められる合理的配慮とは、事業者がその事務や事業を行うにあたり、社会的なバリアを取り除くために必要かつ合理的な配慮を講ずることをいいます。
そこで、合理的配慮は、それぞれの事務・事業の目的、内容、機能に照らして、

  1. 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること
  2. 障害者でない人との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること
  3. 事務・事業の目的、内容、機能の本質的な変更には及ばないこと

という3つの要件を満たす必要があるとされています。

たとえば、障害のある人から、抽選販売を行っている限定の商品に関して、「抽選申込みの手続が難しいので、その商品をあらかじめ別途確保しておいてください。」と求められた場合はどうでしょうか。

このような場合に、“抽選販売を行っている限定の商品”であるにもかかわらず、事業者がその商品をあらかじめ別途確保しておくことは、かえって、障害者でない人との比較において同等の機会の提供(上記2の要件)とはいえなくなってしまうおそれがあります。
そこで、事業者として、「申し訳ありませんが、商品をあらかじめ別途確保しておくことはできません。」と対応を断ることは合理的配慮の提供義務に違反しないと考えられています。

ただし、事業等の目的、内容、機能に照らして検討する必要があるため、実際の場面では個々の状況を個別具体的に判断していくことが重要です。

過重な負担とは

事業者には、障害のある人から「社会的なバリアを取り除いてほしい」との意思の表明があった場合に合理的配慮を提供する義務がありますが、その実施に伴う負担が過重である場合にはこの限りではありません。
事業者にとって過重な負担であるか否かは、それぞれの事案ごとに、

  1. 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
  2. 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
  3. 費用・負担の程度
  4. 事務・事業規模
  5. 財政・財務状況

といった要素等を考慮しながら、具体的な場面や状況に応じて総合的かつ客観的に判断する必要があります。

たとえば、店員の数も少ない小売店を、店内がとても混雑している時間帯に訪れた視覚障害のあるお客さんから、「店内に付き添って買い物を補助するのを手伝ってほしいのですが。」と求められた場合はどうでしょうか。
このような場合に、店員のうち一人が、視覚障害のあるお客さんに付き添って買い物を補助していると、人手が足りなくなり、お店の運営が回らなくなってしまうおそれがあります。

そこで、事業者として、「申し訳ありませんが、お店が混雑していて、付き添いの買い物をすることはできないのですが、買いたい物を教えてくだされば、私が代わりに商品を準備することができます。この方法でのお買い物ではどうでしょうか?」などと代わりの提案をすることは合理的配慮の提供義務に違反しないと考えられています。
ただし、実際の場面では個々の状況を個別具体的に判断していくことが重要です。

合理的配慮の提供に向けた建設的対話

事業者に合理的配慮の提供が義務付けられているのは、障害のある人にとって社会生活上のバリアとなっている障壁を取り除き、障害のある人も障害のない人も共に生きる社会を実現するためです。

そこで、合理的配慮の提供に当たっては、障害のある人が求めている必要かつ合理的な配慮について、障害のある人と事業者とが対話を重ね、ともに考え、最もよい解決策を検討していくことが重要であると考えられています。
このような対話は「建設的対話」と呼ばれています。

障害のある人と事業者とが建設的対話を進めていくことで、当初、障害のある人が求めていた配慮を事業者が実現できない場合であっても、それに代わる配慮の提供の可能性を模索したり、より柔軟な解決策を導いていったりすることも可能となります。

また、建設的対話を通じて、障害のある人と事業者とが、それぞれの有する情報を交換し合うことによって、互いの置かれている状況についてより深く認識することができ、双方が納得のできる形で社会的なバリアを除去するという目的を達成していくことができるようになります。
「合理的配慮」という難しい言葉に捉われることなく、まずは障害のある人との十分な対話を心がけていきましょう。

差別的取り扱いの禁止とは

障害者差別解消法では、事業者が、障害のある人に対して、正当な理由なく、障害があることを理由として、サービス等の提供を制限したり、拒否したりすること、サービス等の提供にあたって、場所や時間帯を制限したり、障害のない人に対しては付さないような条件を付したりすることなどが禁止されています。
障害のある人に対する不当な差別的取り扱いの禁止は、これまでの障害者差別解消法においても定められていましたが、今回の改正の経緯も踏まえて、改めて確認しておきましょう。

第8条(事業者における障害を理由とする差別の禁止)
1 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

不当な差別的取り扱いの禁止

障害者差別解消法では、

  1. 事業者が
  2. その事務や事業を行うにあたり
  3. 障害を理由として
  4. 障害者でない者と比較して
  5. 正当な理由のない差別的取り扱いをすること

などにより、障害のある人の権利や利益を侵害することが禁止されています。

たとえば、障害のある人が来店した際に、保護者や介助者がいなければ一律に入店を断ること、賃貸物件を探している障害のある人に対して、障害のある人向けの物件はないなどとして対応を拒絶すること、障害のある人に対して、障害のあることを理由に一律に接遇の質を下げることなどは、すべて不当な差別的取り扱いに該当します。
このように “障害があることを理由”に障害のある人と障害のない人を区別し、障害のある人を不利に扱うことがないよう、個々の状況に応じながら対応する必要があります。

正当な理由とは

障害者差別解消法は、不当な差別的取り扱いを禁止するものであり、正当な理由がある場合には、障害のある人に対して、障害を理由として異なる取り扱いをしたとしても、不当な差別的取り扱いと評価されることはありません。

ここでいう「正当な理由」とは、
①当該行為(取り扱い)が客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり
②その目的に照らしてやむを得ないといえる場合
をいいます。

たとえば、実習を伴う講座を実施する際に、障害の特性に照らして、実習に必要な作業の遂行上、具体的な危険の発生が見込まれる場合において、別の実習を設定することは、当該障害のある人の安全性を確保するという正当な目的の下に行われたやむを得ないものであるといえるため、不当な差別的取り扱いには該当しないと考えられます。

もっとも、正当な理由に該当するか否かは、個々の事案ごとに、事業者、障害者、第三者の権利利益(安全の確保、財産の保全、事業の目的、内容、機能の維持、損害発生の防止等)など観点を考慮し、具体的状況や場面に応じて総合的かつ客観的に判断する必要があります。

また、正当な理由があると考えられる場合であっても、一方的に異なる取り扱いを行うのではなく、障害のある人に対して、なぜ異なる取り扱いをする必要があるかを丁寧に説明し、十分な理解を得るように心がけることが大切です。

まとめ

ポイント

改正障害者差別解消法の内容についておさらいしましょう。

✔障害者差別解消法は、障害のある人もない人も、互いにその人らしさを認め合いながら、共に生きる社会の実現を目指すことを目的としています。
✔障害者差別解消法では、事業者が、障害のある人に対して、正当な理由がないにもかかわらず、障害があることを理由として、差別的な取り扱いをすることを禁止しています。
✔改正障害者解消法では、事業者が、障害のある人から社会の中にあるバリアを取り除くための配慮を求められたとき、合理的配慮を講ずることを義務付けています。

事業者のどのような対応が差別的取り扱いに該当するのか、また、合理的配慮としてどのような対応を行うべきか、はそれぞれの場面や状況に応じて異なるため、事業者は障害のある人と建設的対話を行い、互いの有する情報や意見を伝え合いながら、相互に理解を深めていくことが最も重要です。

注意事項

事業者が、障害者差別解消法に違反する行為を繰り返し、自主的な改善を期待することが困難な場合等には、国の行政機関から報告を求められたり、助言、指導もしくは勧告をされたりする場合があります。
また、事業者が、国の行政機関などから報告を求められたにもかかわらず、報告をせず、または虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料に処せられることになるため、注意が必要です。

本改正は、2024(令和6)年4月1日から施行されます。

障害者差別解消法の概要や障害特性ごとの合理的配慮の提供に関する事例等は、内閣府のポータルサイトでも紹介されていますので、障害のある人から合理的配慮の提供を求められた際に、円滑な対応がとれるように準備ができているか、法律の内容や社内のマニュアルの有無、相談体制の整備状況などについて、改めて確認しておくことが重要です。

障害者に対する配慮義務が問題になった事例も紹介しています。こちらもご参照ください。

ぜひ弁護士にもご相談ください

改正障害者差別解消法の施行が迫る中、社内のルールやマニュアル、設備等の見直し、相談窓口の設置など、進めなければならないことがたくさんあります。
また、障害のある人が社会生活や日常生活の中で抱えるバリアは多種多様であり、事業者に求められる配慮もそれぞれの場面や状況に応じて異なります。
本改正に伴うさまざまな対応を行う中では、「これって事業者として合理的配慮を提供したことになるの?」「障害のある人からこんな配慮を求められたけど、どうしたらいいの?」など、あらゆるお悩みが生じてくることがあるかもしれません。
そのような場合には、抱え込むことなく、ともに社会の中にあるバリアについて考え、障壁を取り除く方法を模索する相手として、ぜひ弁護士にもご相談ください。