雇用分野における障害者差別禁止と合理的配慮提供義務とは【障害者雇用促進法】
改正障害者差別解消法の施行が始まっています
令和6(2024)年4月1日から、障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が施行され、事業者による障害のある方への合理的配慮の提供が義務化されました。
改正障害者差別解消法では、行政機関等及び事業者に対して、障害のある人への障害を理由とする不当な差別的取り扱いを禁止するとともに、障害のある人から申出があった場合に合理的配慮の提供を求めることなどを通じて、障害のある人もない人も共に生きる社会の実現を目指しています。
詳しくはこちらをご覧ください。
雇用の場面でも合理的配慮の提供が義務化されています
障害者差別解消法の対象となる分野は、教育、医療、福祉、公共交通等だけでなく、日常生活及び社会生活の全般に関わるさまざまな分野が幅広く含まれます。
このうち、雇用や就業に関する分野については、障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)と同法に基づき厚労大臣が定める指針によって、事業者がとるべき措置が定められています。
そこで、本ページでは、雇用分野における障害者差別の禁止と合理的配慮の提供義務について解説します。
障害者雇用促進法とは
障害者雇用促進法は、障害者の職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じて、障害者の職業の安定を図ることを目的とする法律です。
具体的には、
- ・障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置
- ・雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保
- ・障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置
- ・職業リハビリテーションの措置
- ・その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと
などにより、かかる目的を達成することが期待されています。
障害者雇用促進法は定期的に改正されています
障害者雇用の現状
厚労省が、令和6(2024)年12月20日に公表した「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」によると、障害者の雇用義務のある民間事業者(※常用労働者数が40.0人以上の企業・法定雇用率2.5%)に雇用されている障害者の数は677,461.5人でした。
前年より35,283.5人増加(対前年比5.5%増)しており、21年連続で過去最高を更新しています。
もっとも、法定雇用率未達成企業は63,364社であり、障害者を1人も雇用していない企業は、未達成企業の57.6%を占めています。
このように民間企業における障害者雇用は未だ十分に進んでいるとはいえません。
障害者雇用促進法の定期的な改正
かかる障害者雇用の現状を踏まえて、障害者雇用促進法は定期的に改正がなされています。
直近の令和4(2022)年改正では、
- ・事業主の責務として障害者の職業能力の開発及び向上が含まれることの明確化
- ・週所定労働時間10時間以上20時間未満で働く重度の障害者や精神障害者の実雇用率への算定による障害者の多様な就労ニーズを踏まえた働き方の推進
- ・企業が実施する職場環境の整備や能力開発のための措置等への助成による障害者雇用の質の向上
などが盛り込まれ、令和5(2023)年4月1日以降、順次施行されています。
最新情報を常にチェックしましょう
厚労省HPでは、障害者雇用対策や障害者雇用促進法の改正に伴うポイントなどが掲載されています(厚労省HP:「障害者雇用対策」)。
先ほど述べたとおり、障害者雇用促進法は定期的な改正がなされており、制度の見直しや拡充などが図られています。
事業主としては、常に最新情報をチェックしておくことが大切です。
雇用分野における障害者差別は禁止・合理的配慮の提供は義務です
障害者雇用促進法のポイントは多岐にわたりますが、ここからは、中でも特に重要な
- ①雇用分野における障害者差別の禁止
- ②雇用分野における合理的配慮の提供義務
- ③相談体制の整備・苦情処理、紛争解決の援助
について詳しく解説します。
(※これらの制度は、平成25年の障害者雇用促進法の改正に伴い、平成28年4月1日から施行されています。)
対象
事業主
対象となる事業主は、事業所の規模や業種に関わらず、すべての事業主が対象となります。
障害者
対象となる障害者は、障害手帳を持っている方に限定されません。
身体障害や知的障害、精神障害、発達障害、その他心や体のはたらきに障害があるため、長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な方が対象となります。
①雇用分野における障害者差別の禁止とは
障害者雇用促進法において、募集・採用、賃金、配置、昇進、教育訓練などの雇用に関するあらゆる局面における障害者差別が禁止されています。
障害者であることを理由とする差別とは
具体的には、
- ・障害者であることを理由に障害者を排除すること
- ・障害者に対してのみ不利な条件を設けること
- ・障害のない人を優先すること
は障害者であることを理由とする差別に該当し、禁止される行為です。
禁止される差別に該当する例
厚労省の事業者向けパンフレットでは、禁止される差別に該当する場合として、以下の具体例が挙げられています。
《募集・採用時の差別の例》
・単に「障害者だから」という理由で求人への応募を認めないこと
※特例子会社を設置している親会社で求人募集を行う場合や、障害者のみを対象とする求人募集を行っている事業所において、別に求人募集を行う場合であっても、全ての求人において、障害者だからという理由で障害者の応募を受け付けないことは禁止される差別に該当します。
・業務遂行上必要でない条件を付けて、障害者を排除すること
※障害者のみ一定の資格等を応募の要件とすることも禁止される差別に該当します。
《採用後の差別の例》
・労働能力などを適正に評価することなく、単に「障害者だから」という理由で、異なる取扱いをすること
※単に障害者であることを理由として、昇進の対象としない、特定の職務を割り当てる(割り当てない)、雇用形態を変更する、障害者のみを退職の勧奨対象とすることなどが禁止される差別に該当します。
禁止される差別に該当しない例
他方で、厚労省の事業者向けパンフレットでは、禁止される差別に該当しない場合として、以下の具体例が挙げられています。
・積極的な差別是正措置として、障害者を有利に取り扱うこと
(Ex)障害者のみを対象とする求人(いわゆる障害者専用求人)
・合理的配慮を提供し、労働能力などを適正に評価した結果として障害者でない人と異なる取扱いをすること
(Ex)障害者でない労働者の能力が障害者である労働者に比べて優れている場合に、評価が優れている障害のない労働者を昇進させること
・合理的配慮に応じた措置をとること
・その結果として、障害者でない人と異なる取扱いとなること
(Ex)研修内容を理解できるよう、合理的配慮として障害者のみ独自のメニューの研修をすること
②合理的配慮の提供義務とは
障害者雇用促進法では、雇用分野における合理的配慮の提供が義務化されています。
合理的配慮とは
合理的配慮とは、
- ・募集及び採用時においては、障害者と障害者でない人との均等な機会を確保するための措置
- ・採用後においては、障害者と障害者でない人の均等な待遇の確保または障害者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するための措置
のことをいいます。
合理的配慮の提供にあたり注意したいこと
障害の種類によっては、見た目だけではどのような支障があり、どのような配慮が必要なのかわからない場合があります。
また、障害の部位や等級が同じであっても、障害者一人ひとりの状態や職場環境などによって、求められる配慮は異なります。
そのため、障害者雇用における合理的配慮の提供は、多様で個別性が高いものであることに留意する必要があります。
そして、具体的にどのような措置をとるかについては、障害者と事業主とがよく話し合った(建設的対話を行った)上で決めていくことが大切です。
募集・採用時の合理的配慮のための手順
募集・採用時においては、以下のような手順に沿って合理的配慮の措置を講ずることが必要です。
(1)障害者からの申し出による把握
募集・採用時においては、まず、障害者から事業主に対して、支障となっている事情や必要な配慮を申し出ていただくことになります。
(2)必要な配慮に関する話合い
この申し出があった場合には、当該障害者と事業主との間で、具体的にどのような合理的配慮を提供するか、をよく話し合っていくことが求められます。
採用後の合理的配慮のための手順
採用後においては、以下のような手順に沿って合理的配慮の措置を講ずることが必要です。
(1)配慮を必要としている障害者の把握・確認
↓
(2)必要な配慮に関する話合い
↓
(3)合理的配慮の確定
↓
(4)職場内での意識啓発・説明
(1)配慮を必要としている障害者の把握・確認
・労働者本人からの申出の有無に関わらず、事業主から障害者に対して職場で支障となっている事情の有無を確認してください。
・全従業員への一斉メール送信、書類の配布、社内報等の画一的な手段により、合理的配慮の提供の申し出を呼びかけることが基本となります。
(2)必要な配慮に関する話合い
・障害者本人から、障害の状況や職場で支障となっている事項、配慮事項への意向を確認することが必要です。
・障害者本人の意向が十分に確認できないなどの場合には、障害者の家族や支援機関の担当者から、支障となっている事項やその対処方法についての意見を聞くことも有効です。
(3)合理的配慮の確定
・障害者の意向を十分に尊重しつつ、提供する合理的配慮を決め、障害者本人に伝えます。
・その際、障害者が希望する措置が過重な負担であり、より提供しやすい措置を講じることとした場合には、その理由を障害者本人に説明する必要があります。
(4)職場内での意識啓発・説明
・障害者が職場に適応し、有する能力を十分に発揮できるよう、一緒に働く上司や同僚に、障害の特性と配慮事項を理解してもらえるように職場内での意識啓発が必要です。
・なお、説明にあたっては、障害者本人の意向を踏まえ、説明内容や説明する対象者の範囲などについて、障害者本人と十分に打ち合わせをしておくことが大切です。
必要な配慮について話し合う際の参考例
先ほども述べたとおり、障害者雇用における合理的配慮の提供は、多様で個別性が高いものです。そのため、具体的にどのような措置をとるかについては、障害者と事業主とがよく話し合った(建設的対話を行った)上で決めていくことが特に大切です。
厚労省の事業者向けパンフレットでは、参考例として、話し合いを行うに当たって、障害特性や状況等を踏まえ、次のような観点から話し合いを進めることが挙げられています。
合理的配慮の具体例
厚労省の事業者向けパンフレットでは、合理的配慮として、以下の具体例が示されています。
《募集・採用時の合理的配慮の例》
- ・視覚障害がある方に対し、点字や音声などで採用試験を行うこと
- ・聴覚・言語障害がある方に対し、筆談などで面接を行うこと
《採用後の合理的配慮の例》
- ・肢体不自由がある方に対し、机の高さを調整することなど作業を可能にする工夫を行うこと
- ・知的障害がある方に対し、図などを活用した業務マニュアルを作成したり、業務指示は内容を明確にしてひとつずつ行ったりするなど作業手順を分かりやすく示すこと
- ・精神障害がある方などに対し、出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること
その他の好事例
なお、上記の例はあくまでも合理的配慮として挙げられる一例を示したものです。
例えば、令和6(2024)年3月に厚労省が公表した「障害者への合理的配慮好事例集」では、個々の職場で実際に取り組みが行われた合理的配慮措置の内容が詳細に記載されています。
「合理的配慮指針事例集」(厚労省HP)なども参照しながら、各企業の取り組みについて知り、自社における合理的配慮の提供の方法について考えていくことが大切です。
過重な負担について
過重な負担がある場合には除外されます
雇用における合理的配慮の提供は義務です。
しかし、合理的配慮は「過重な負担」にならない範囲で事業主に講じていただくことを前提としています。
そのため、合理的配慮の提供義務において、事業主に対して「過重な負担」を及ぼすことになる場合は除くこととされています。
過重な負担とは
「過重な負担」と言えるかどうかは、
- ・事業活動への影響の程度
- ・実現困難度
- ・費用負担の程度
- ・企業の規模
- ・企業の財務状況
- ・公的支援の有無
という6つの要素を総合的に勘案し、個別に判断されます。
③相談体制の整備・苦情処理・紛争解決の援助
相談体制の整備
障害者雇用促進法では、事業主が、障害者からの相談に適切に対応するために、相談窓口の設置などの相談体制の整備を義務付けられています。
相談体制の整備その他の雇用管理上必要な措置とは、以下のものなどが挙げられています。
- ・相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
- ・相談者のプライバシーを保護するために必要な措置をとること
- ・相談したことを理由とする不利益な取扱いを禁止し、労働者にその周知・啓発をすること
- (Ex:終業規則、社内報、パンフレット、社内HPなどで規定する)
苦情の処理
事業主は、障害者に対する差別禁止や合理的配慮の提供に関する事項について、障害者からの苦情を自主的に解決することが努力義務とされています。
紛争解決の援助制度
障害のある労働者と事業主の話合いによる自主的な解決が難しい場合においては、紛争秋結を援助する仕組みとして
(1)都道府県労働局長による助言・指導または勧告
→簡単な手続で迅速に行政機関に解決してもらいたい場合
(2)第三者(障害者雇用調停会議)による調停制度
→公平・中立性の高い第三者機関に援助してもらいたい場合
が整備されています。
ポイント
本ページで解説したこと
今回は、障害者雇用促進法の中でも、事業者が特に留意するべき
✔︎雇用分野における障害者差別の禁止
✔︎雇用分野における合理的配慮の提供義務
✔︎相談体制の整備・苦情処理、紛争解決の援助
について解説しました。
合理的配慮の提供は社会の関心が高まっています
特に事業者による合理的配慮の提供義務については、改正障害者差別解消法の施行に伴い、改めて社会の関心が高まっています。
障害のある人もない人も共に生きる社会の実現を目指して、事業者として取り得る措置を考えていく必要があります。
合理的配慮の提供に向けて建設的対話を心がけましょう
合理的配慮の提供に当たっては、障害のある人が求めている必要かつ合理的な配慮について、障害のある人と事業者とが対話を重ね、ともに考え、最もよい解決策を検討していくことが重要であると考えられています。
このような対話は「建設的対話」と呼ばれています。
障害のある人と事業者とが建設的対話を進めていくことで、当初、障害のある人が求めていた配慮を事業者側が実現できない場合であっても、それに代わる配慮の提供の可能性を模索したり、より柔軟な解決策を導いていったりすることも可能となります。
また、建設的対話を通じて、障害のある人と事業者側とが、それぞれの有する情報を交換し合うことによって、互いの置かれている状況についてより深く認識することができ、双方が納得のできる形で社会的なバリアを除去するという目的を達成していくことができるようになります。
「合理的配慮」という難しい言葉に捉われることなく、まずは障害のある人との十分な対話を心がけていきましょう。
自主点検も大切です
厚労省HPでは、雇用分野における障害者差別禁止と合理的配慮の提供に向けて、「自主点検資料」が掲載されています。
点検事項を読んで「はい」に該当するかどうかをチェックする簡単なものですが、まずは、この自主点検資料をもとに社内の点検をすることも大切です。
弁護士にもご相談ください
障害のない人にとっては、いわば「当たり前」の社内の設備や制度などであっても、障害のある人にとってはバリアになっていたり、利用が難しい制度の内容になっていたりすることが多々あります。
障害のある人にとってもない人にとっても働きやすい就業環境の整備に向けて、常に職場内の状況や課題を見つめ直し、改善を図っていくことが重要です。
雇用分野における障害者差別の禁止や合理的配慮の提供を含む障害者雇用に関するお悩みは弁護士法人ASKにご相談ください。
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