不動産賃貸借契約の無催告解除は可能か?【東京地裁令和6年11月28日判決】
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契約を解除したいとき、どうしたらいいのでしょうか?
契約の解除とは、契約が成立した後に生じた一定の事由を理由として、契約の効力を一方的に消滅させる意思表示のことをいいます。
すなわち、解除権の行使は、相手方に対する意思表示によって行われるのです。
一言で「解除」といっても、民法では、「催告による解除」と「催告によらない解除」という2つのパターンが定められています。
通常は、契約の相手方が債務を履行しない場合、相手方に対して相当期間を定めて履行の催告を行い、その期間内に履行がないときは、契約を解除することになります。これが「催告による解除」(民法541条本文)です。
他方で、債務の全部の履行が不能であるときや、債務者が債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときなど、一定の場合には、相手方に対して履行の催告を行うことなく、直ちに契約の解除をすることができます。これが「催告によらない解除」(民法542条1項)です。
なお、解除の意思表示は、撤回をすることができないので、一度、解除の意思表示をしてしまった場合には、その効力を一方的に消滅させることはできなくなります。
したがって、契約の解除については、解除事由の有無を含めて、慎重に判断することが大切です。
契約関係についてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。
裁判例のご紹介(建物収去土地明渡請求事件・東京地裁令和6年11月28日判決)
さて、今回は、土地の賃貸借契約について、無催告解除が許されるかどうか?が争われた裁判例をご紹介します。

*判例事項2025.11.01(No,2631号)9ページ以下参照*
どんな事案?
賃貸借契約の締結
Xさんらは、平成13年2月13日、Yさんらとの間で、本件土地をYさんに賃貸する内容の賃貸借契約を締結し、その頃、本件土地を引き渡しました。

本件建物の建築
Yさんらは、平成13年6月頃、B銀行から融資(本件住宅ローン)を受けたうえ、同借入金をもって本件土地上に本件建物を建築し、現在もこれを所有しています(Y1:4/10持分、Y2:6/10持分)。
Z社の連帯保証契約
Z社は、平成13年6月頃、本件住宅ローンに基づくYさんらの借入金債務について、Yさんらとの間で保証委託契約を締結したうえ、同契約に基づき、B銀行との間で連帯保証契約を締結しました。
また、平成13年6月18日、Yさんらに対する保証委託契約に基づく求償金を保全するため、本件建物に抵当権の設定を受けました。
XさんらによるZ社に対する承諾書の差し入れ
その後、平成13年10月6日、Xさんらは、Z社に対して、
「借主(Yさんら)が賃貸料の支払を遅延する等、賃借権の消滅もしくは変更をきたすようなおそれのある場合は、ただちに契約の解除をせず、相当期間の予告をもって貴社(Z社)に代払いの請求をなし、その期間内に貴社から支払がないときに限り解除するものとします。」
という記載のある承諾書を差し入れました。
解除の意思表示
そして、Xさんらは、平成29年11月11日にYさんらが受領した同月7日付内容証明郵便による通知書において、Yさんらに対し、Yさんらには平成29年6月支払い分(同年7月分)から同年10月支払い分(同年11月分)までの本件賃料の不払いがあるとして、本件賃貸借契約を解除するとの意思表示を行いました。
訴えの提起
その上で、Xさんらは、Yさんらに対して、本件賃貸借契約終了に基づき、本件土地上に建築された本件建物を収去して土地を明け渡すことを求めるなどの訴えを提起しました。

何が問題になった?(争点)
この裁判では、Xさんらによる本件土地の賃貸借契約の解除が有効かどうか、を判断する前提として、主に次の2点が問題になりました。
①平成29年7月分から同年11月分までの本件賃料の不払いについて、Xさんらによる催告が認められるか?
②仮に、①の催告が認められない場合、XさんらとYさんらとの間の信頼を裏切って、賃貸借契約の継続を著しく困難ならしめるような特段の事情(=無催告解除が許されるべき特段の事情)が認めらるか?
*なお、その他にも争点がありますが、本解説記事では省略しています。
裁判所の判断
裁判所は、これらの争点について、以下のとおり判断しました。
| 争点 | 裁判所の判断 |
|---|---|
| ①平成29年7月分から同年11月分までの本件賃料の不払いについて、Xさんらによる催告が認められるか? | ×(賃料の支払催告の事実は認められない) |
| ②仮に、①の催告が認められない場合、XさんらとYさんらとの間の信頼を裏切って、賃貸借契約の継続を著しく困難ならしめるような特段の事情(=無催告解除が許されるべき特段の事情)が認めらるか? | ×(無催告解除が許されるべき特段の事情は認められない) |
本判決の要旨
ここからは、裁判所が上記のような判断に至った判決の要旨をご紹介します。
争点①(平成29年7月分から同年11月分までの本件賃料の不払いについて、Xさんらによる催告が認められるか?)について
▶︎不動産賃貸借契約の解除の場合にも「催告」を要する
「民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)541条は、契約の当事者の一方に債務不履行があったときは、相手方は、「催告」を要件として当該契約を解除することができる旨を定めており、この規定は、本件賃貸借契約のような不動産賃貸借契約にも適用されると解される(最高裁判所昭和49年(オ)第603号同裁判所昭和49年4月26日第二小法廷判決・民集28巻3号467頁参照)。」
▶︎Xさんらの通知は催告に当たらない
「そして、Xさんらは、本件不払期間分(平成29年7月分から同年11月分まで)の本件賃料の不払について、XさんらがYさんらに催告をしていないことを自認しているところであり(…)解除の意思表示に係る本件通知書にも、「賃貸料を、平成29年6月分から平成29年10月分まで未納です。」であるとか、「以前より、不規則延滞があり、帳簿記入上で支障が発生しています。」、あるいは「前記(Yさんらの)所業は、当方の忍耐の容認限界を、遥かに越えています。」との記載とともに、解除の意思表示(「よって本書面で、本契約を解除する事を、通知いたします。」との記載)がされているにとどまり、本件不払期間に発生した本件賃料の支払について、Yさんらに対して明示的にその支払を求める催告文言の記載や、Yさんらが支払をすべき期間(相当期間)に関する記載は何らされていない。したがって、Xさんらが、本件不払期間分の本件賃料の不払について、Yさんらに対し、本件通知書をもって民法541条所定の催告を行ったと評価することはできず、他に上記催告の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。(…)」
上記主張も、採用することができない。
争点②(仮に、①の催告が認められない場合、XさんらとYさんらとの間の信頼を裏切って、賃貸借契約の継続を著しく困難ならしめるような特段の事情(=無催告解除が許されるべき特段の事情)が認めらるか?)について
▶︎賃料の不払期間は5か月にすぎない
「(…)本件賃料の不払期間(本件不払期間)は、平成29年6月支払(同年7月分)から同年10月(同年11月分)までの5か月間であり(…)、その間の不払賃料額の合計は10万5910円(=2万1182円×5か月)にすぎない。」
▶︎Yさんらが賃料不払をするに至った経緯
「(…)Yさんらは、本件賃貸借契約の締結以降本件主位的解除に至るまでの約15年の間、その大部分の期間は、Xさんらに対し、おおむね約定どおりに本件賃料の支払を行っており、Yさんらが、前記のとおり、本件賃貸借契約で定められた金額どおりに賃料の支払を行わなかったことがある理由は、不払分や前払分を含めた数か月分の本件賃料がまとめて支払われたり、誤ってXさんらに支払われた振込手数料相当額について、事後的な精算等が必要となり、X1さんとY1さんとの間の話合いによりそれを差し引いて支払うこととされたりしたためであることが認められる。
▶︎Xさんらによる督促への対応状況
「そして、本件不払期間よりも前の期間に発生した本件賃料の不払についてみると、(…)都度Yさんらは、Xさんらからの電話等による督促に応じるなどの形で、いずれも直ちに不払を解消しており、本件不払期間(平成29年7月分から同年11月分まで)に発生した本件賃料の不払についても、Xさんらから本件通知書により主位的解除の意思表示がされた平成29年11月11日の直後である同月24日には、本件通知書に記載された5か月分の未払賃料(合計10万5910円)のほか、前払分として1か月分の本件賃料(2万1182円)を加えた合計12万7092円を本件賃料振込先口座に振り込んで支払い、直ちにその不払を解消していることが認められる。その後もYさんらは、同年12月5日、Xさんらに対し、平成30年3月支払分までの前払分を含めた4か月分の本件賃料として合計8万4728円を支払い、その後に発生した賃料についても、本件賃料振込先口座に振り込んで支払おうとしたものの、Xさんらによって口座解約がされ、新たな賃料振込先口座が指定されなかったため、これを支払うことができなかったことが認められる。」
▶︎Xさんらが催告をしていれば支払われる相当の蓋然性があった
「以上のような事実関係に加え、Xさんら自身、(…)「Yさんらは言われた直後には守る」などとして、YさんらはXさんらが督促をした直後には不払賃料の支払に応じている旨主張していることにも照らすと、仮に、主位的解除の原因となった本件不払期間分の未払賃料について、XさんらがYさんらに対し、相当期間を定めた催告を行っていたとすれば、Yさんらがその相当期間内に、催告に係る未払賃料(本件不払期間分の本件賃料)を支払っていた相当程度の蓋然性があったものと認められる。」
▶︎無催告解除が許されるべき特段の事情は認められない
「以上を総合すれば、本件不払期間に発生した本件賃料について、Yさんらに不払の事実があったからといって、直ちにXさんらとYさんらとの間の本件賃貸借契約上の信頼関係を破壊するに足りる不信行為とまでは評価することはできず、その他、Yさんらによる前記のようなそれまでの本件賃料の支払状況を斟酌しても、主位的解除については、Yさんらに本件賃貸借契約の継続を著しく困難にならしめるような特段の事情(無催告解除が許されるべき特段の事情)は認められないといわざるを得ない。」
結論
「以上のとおり、本件不払期間の本件賃料の不払(債務不履行)を原因とする本件賃貸借契約の解除(主位的解除)は、債権者(賃貸人)であるXさんらの催告がないまま行われたものであり(…)、無催告解除が許されるべき特段の事情も認められない(…)から、無効というべきである。」
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さて、今回は、不動産の賃料不払いを理由とする無催告による契約解除が許されるか?が争われた裁判例をご紹介しました。
まず、本判決において、裁判所は、賃貸人から賃借人へ行なわれた通知の中で、明示的な支払いを求める催告文言や、支払いをすべき期間に関する記載がないことなどを指摘し、解除の前提となるべき「催告」が行なわれていないことを認定しています。
そして、裁判所は、賃料不払いの期間やその金額、不払いに至った経緯、賃貸人に及ぼす影響、従前の賃貸人による催告への賃借人の対応状況など諸般の事情を総合的に鑑みて、無催告解除が許されるべき「特段の事情」があるとはいえないとして、解除が無効であるとの結論を導いています。
このように契約解除にあたっては、それぞれの契約ごとに必要となる手続・プロセスがあります。これを欠いてしまうと、契約を解除したつもりであっても、解除が無効と判断されてしまうこともあるので要注意です。
契約関係のことについてお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。
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