所属タレントの写真をホームページに掲載するのは問題?【パブリシティ権】【肖像権】【東京地裁令和5年12月11日判決】
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パブリシティ権とは
人の氏名や肖像等は、個人の人格の象徴であることから、当該個人は、氏名や肖像等をみだりに利用されない権利を有すると解されています。
一方で、たとえば芸能人の芸名や肖像などの場合には、その氏名や肖像それ自体に商業的な価値を有しています。
そこで、人の氏名や肖像等が、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合には、社会の耳目を集めるなど、その氏名や肖像等が報道されたり、論説や創作物等において使用されたりすることを受忍しなければならないことがあるのです。
このように顧客吸引力を排他的に利用する権利は、「パブリシティ権」と呼ばれます(最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決)。
しかし、パブリシティ権も、人格権に由来する権利の一内容を構成していることに変わりはありません。
そこで、パブリシティ権が侵害されている場合には、当該個人は、人格権の侵害を理由とする差止めや不法行為に基づく損害の賠償などを求めることができます。

裁判例のご紹介(損害賠償請求事件・東京地裁令和5年12月11日判決)
さて、今回は、そんなパブリシティ権をめぐり、芸能プロダクションが所属タレントの肖像写真をホームページに掲載することはパブリシティ権を侵害するのか?が争われた裁判例をご紹介します。
事案の概要
この事案は、タレントのXさんが、芸能活動の専属契約を締結していた芸能プロダクションのY社に対して、専属契約が解除されたにもかかわらず、Y社のホームページ上にXさんの肖像写真等を掲載している行為が、肖像権やパブリシティ権を侵害していると主張し、Y社に対して損害賠償の支払いなどを求めた事案です。
事実の経過
Xさんについて
Xさんは、タレント、モデル、演劇、その他の芸能活動を行っていました。
Y社について
他方、Y社は、タレントやモデルの育成、マネジメントを主とするプロダクション業務などを業とする芸能プロダクションでした。
専属契約の締結
XさんとY社は、平成30年12月5日頃、XさんがY社の専属タレントとして、Y社の指示に従って芸能活動を行い、Y社がXさんに対して、当該芸能活動に係る報酬等を支払うことを内容とする専属契約(本件契約)を締結しました。
本件契約の解除
Xさんは、本件契約締結から令和2年7月頃までの間、Y社の専属タレントとして芸能活動を行っていました。
しかし、同月4日、XさんはY社の従業員に対して、事務所(Y社)を辞めたい旨を伝えました。
そして、Xさんは、令和2年8月7日、Y社に対して、本件契約を解除する旨の解除通知書(本件通知書)を送付しました。

事務所、辞めます。契約解除します!
別件訴訟の提起
そこで、Y社は、Xさんに対して、本件契約の解除が無効であるとして、本件契約が存続していることの確認などを求める別件訴訟を提起しました。
これに対して、Xさんは、Y社に対して、本件契約に基づく未払い報酬などの支払いを求める反訴を提起しました。
もっとも、裁判所は、令和4年11月29日、Y社の請求とXさんの請求いずれも棄却する旨の判決を言い渡し、その後、同判決は確定しました。
契約解除は無効です!


未払い報酬を払ってください!

いずれの請求も棄却します!
写真等の掲載の継続
ところで、Y社は、本件通知書の受領後である令和2年9月7日以降も、自社のホームページにおいて、Xさんの肖像写真及び氏名(本件写真等)を削除することなく掲載を続けていました(本件掲載)。
しかし、上記の別件訴訟の判決が令和5年4月18日に確定したことから、Y社は、同日、自社のホームページから本件写真等を削除しました。

私の写真、HPから消してください!
裁判が終わったので消しましたよ!

訴えの提起
Xさんは、本件契約が解除されたにもかかわらず、Y社がホームページ上にXさんの本件写真等を掲載している行為は、肖像権やパブリシティ権を侵害していると主張し、Y社に対して損害賠償の支払いなどを求める訴えを提起しました。

問題になったこと(争点)
Xさんが主張していたこと
Xさんは、Y社が専属契約の終了後も自社のHPにおいてXさんの肖像写真及び氏名(本件写真等)を削除することなく掲載を続けていたことは、パブリシティ権及び肖像権を侵害する、と主張していました。
争点
そこで、本件では、
①Xさんのパブリシティ権を侵害するかどうか?
②Xさんの肖像権を侵害するかどうか?
が問題になりました。
裁判所の判断
裁判所は上記①、②の問題点について、次のように判断しました。
争点 | 裁判所の判断 |
---|---|
①Xさんのパブリシティ権を侵害するか | ×(パブリシティ権を侵害しない) |
②Xさんの肖像権を侵害するか | ×(肖像権を侵害しない) |
本判決のポイント
なぜ裁判所はこのような判断をしたのでしょうか
争点①Xさんのパブリシティ権を侵害するかどうか?
《パブリシティ権の侵害とは》
まず、裁判所は、従来の判例(最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁)を参照し、肖像等を無断で使用する行為は、
〈1〉肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、
〈2〉商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、
〈3〉肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合
に、「パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である」との判断枠組みを示しました。
《本件掲載は顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえない》
その上で、裁判所は、Y社は、
「所属タレントを紹介するY社のホームページにおいて、XさんがY社に所属する事実を示すとともに、Xさんに関する人物情報を補足するために、本件写真等を使用したことが認められる」ところ、「本件写真等は、商品等として使用されるものではなく、商品等の差別化を図るものでもなく、商品等の広告として使用されるものともいえない」ことから、「Y社が本件写真等を使用する行為は、専らXさんの肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、パブリシティ権を侵害するものと認めることはできない」
と判断しました。
争点②Xさんの肖像権を侵害するかどうか?
《肖像権の侵害とは》
次に、裁判所は、従来の判例(最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁など)を参照し、
「肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、みだりに自己の容ぼう等を撮影等されず、又は自己の容ぼう等を撮影等された写真等をみだりに公表されない権利を有する」
と示しました。
他方で、裁判所は、
「人の容ぼう等の撮影、公表が正当な表現行為、創作行為等として許されるべき場合もあるというべきである」ことから、容ぼう等を無断で撮影、公表等する行為は、
〈1〉撮影等された者(以下「被撮影者」という。)の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき、
〈2〉公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき、
〈3〉公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときなど、被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合
に限り、「肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となる」
との判断枠組みを示しました。
《Xさんの利益を害するものではない》
その上で、裁判所は、前述のとおり、Y社は
「所属タレントを紹介するY社のホームページにおいて、XさんがY社に所属する事実を示すとともに、Xさんに関する人物情報を補足するために、本件写真を使用したものであ」り、また、「本件写真の内容は、白色無地の背景において、Xさんの容ぼうを中心として正面から美しくXさんを撮影したものであることが認められ」、「本件写真は、私的領域において撮影されたものではなく、Xさんを侮辱するものでもなく、平穏に日常生活を送るXさんの利益を害するものともいえない」ことから、「Y社が本件写真を使用する行為は、Xさんの肖像権を侵害するものと認めることはできない」
と判断しました。
解説
今回ご紹介した裁判例では、芸能プロダクションが所属タレントの写真などを自社のホームページ上に掲載する行為が、所属タレントのパブリシティ権を侵害するか否かなどが争われました。
パブリシティ権は、本判決でも参照された最高裁判決(ピンクレディー事件)において、確立されました。同判決では、パブリシティ権侵害に基づいて不法行為が成立する場合の3要件が示されています。

本件において、Y社は、XさんがY社に所属すること、Xさんに関する人物情報を補足することを目的として、Xさんの写真等をホームページ上に掲載していました。
そこで、裁判所は、Y社がXさんの肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえないとして、パブリシティ権侵害を否定しています。
弁護士にもご相談ください
近年、芸能プロダクションと所属タレント(あるいは元所属タレント)との間において、パブリシティ権や肖像権侵害に基づく差止請求や損害賠償請求などの紛争が生じるケースが増えています。パブリシティ権の侵害などの人格権が侵害されている場合において、適時・適切な権利救済を求めることの重要性が強く認識されつつあるのかもしれません。
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