法律コラム

換金可能なポイントが換金できなくなった?規約変更の有効性【東京地裁令和5年9月4日判決】

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お買い物の時にポイントを貯めるのが当たり前の時代になりました。
「楽天ポイント」や「Vポイント」(旧Tポイント)、「PayPayポイント」、「Pontaポイント」、「dポイント」などのポイントがよく知られていますが、このほかにも「Amazonポイント」であったり、「LINEポイント」であったり、それぞれのドラッグストアやスーパーがオリジナルで発行するポイントであったり・・・と多種多様なポイントが存在します。

今は現金化できないポイントや仮想通貨での賃金の支払いは認められていませんが、賃金のデジタル払いも解禁され、いずれはポイントでの給与の支払いが行われる時代がやってくるかもしれません。

さて、今回は、換金可能であったはずのポイントが、事業者の規約改定によって換金不可とされてしまったことから、顧客が会社を訴えた事案をご紹介します。

裁判例のご紹介・東京地裁令和5年9月4日判決

どんな事案?

Y社による商品とポイントの販売

Y社は化粧品等の販売を行う株式会社でした。
Y社は化粧品等の販売のほかに、ポイント商品(購入月の翌々月から10か月間または12か月間にわたって毎月購入額の3〜5%のポイントが付与され、最終月には購入額と同額のポイントが付与される商品)を販売していました。

ポイントの換金停止

ポイントは1ポイント=1円で換金可能とされ、ポイントの有効期間は発生後6か月とされていました。
ところが、令和2年1月頃、Y社はポイントの換金を停止(換金停止措置)をしました。

Y社の規約の定め

Y社が作成した「概要書面」(2019年4月版)には、「社会情勢の変化・経済情勢の変動・各システムの変更・関連法規変更及び遵守に伴い、当社が必要と判断した場合は、概要書面・契約書面及び契約内容(取扱商品・特定負担・特定利益の算出方法等)を予告なしに追加・訂正・加筆等により改定があるものとし、会員はそれを了承しているものとします。」との記載がありました(本件改定規約)。

訴えの提起

そこで、ポイント商品を購入したY社の顧客のXさんらは、Y社に対して、Xさんらの保有のポイントが換金されたことを前提として換金相当額の支払いなどを求める訴えを提起しました。

問題になったこと

Xさんらの主張

Xさんらは、Y社が一方的に本件換金停止措置を実施したことについて、そもそも本件改定規約に該当する事情は生じておらず、変更には効力がないことから、Y社は1ポイント=1円で換算した金員を支払う義務があると主張していました。

Y社の主張

これに対して、Y社は、Y社のポイントは本件改定規約中の「特定利益」に該当するところ、「社会情勢の変化・経済情勢の変動」に当たる事情があったことから、Y社は有効に本件換金停止措置を行うことができると反論していました。
また、Y社は、Xさんらに付与されたポイントが既に有効期間を徒過していることから、換金を請求することはできない、と反論していました。

争われたこと

そこで、本件では、

  • ①Y社による換金停止措置が有効かどうか?
  • ②ポイント有効期間が進行していたかどうか?

が争いになりました。

裁判所の判断

裁判所は、争点①及び②について、以下のとおり判断しました。

争点裁判所の判断
①Y社による換金停止措置が有効かどうか?無効である。
②ポイント有効期間が進行していたかどうか?進行していない。


本判決のポイント

なぜ裁判所はこのような判断をしたのでしょうか。

争点①(Y社による換金停止措置が有効かどうか?)について

裁判所は、保有するポイントを1ポイント=1円の計算でY社から支払いを受けられることがXさんらとY社との間の販売契約上の合意内容となっていたことを認定した上で、Y社が主張する本件改定規約はXさんらに対して周知されておらず、Xさんらに対して効力を有しないことから、Y社による換金停止措置が無効であると判断しました。

「Y社はXさんらに対してポイント商品を販売しているところ、(…)Y社は、会員に付与したショッピングポイントについて、会員からの申込みに基づいて1ポイント=1円として換金可能であることを周知した上で、ポイント商品を販売したものと認められる。そうすると、Y社の会員が、Y社に申込みを行うことにより、保有するポイントについて、1ポイント=1円の計算でY社から支払を受けられることは、Y社とXさんらとの間のポイント商品に係る販売契約上の合意内容となっていたものであり、Y社は同合意に拘束されるものといえる。

(…)本件改定規約に係る記載は、Y社作成の「概要書面」と題する書面(甲2)に記載があることは認められるものの(…)、同書面は「2019年4月版」であって(…)個々のXさんらにおいて本件改定規約の内容について説明を受け、これを了承した上でY社の会員として登録したことを裏付ける事実の立証はないというほかなく、本件改定規約の効力がXさんらに及ぶことを裏付けるに足りる的確な証拠はない。

また、仮に本件改定規約の効力がXさんらに及ぶとしても、本件改定規約は、「概要書面・契約書面及び契約内容(取扱商品、特定負担・特定利益の算出方法等)」について改定があり得ることを記載したものにすぎず、本件改定規約において想定されているのは、事情変更に即した契約書面等の軽微な修正や利益算出方法の小幅な変動等であると解される。
他方、(…)ポイントそのものが商品となったものであるから、ポイントに関わる取り決めは当該商品の本質的な要素であるということができる(…)

以上の点からすると、本件換金停止はY社の一方的な措置であって無効であり、Xさんらは、本件換金停止の実施にかかわらず、Y社との合意に基づき、Y社に対して、保有していたポイントの換金を求めることができる(…)。」

争点②(ポイント有効期間が進行していたかどうか?)について

また、裁判所は、Y社が一方的に換金停止措置を講じており、Xさんらにとって権利行使が困難な事情が継続していたことに鑑み、ポイント発生後6か月という有効期間は進行しないと判断しました。

「(…)Y社は、遅くとも令和2年1月頃には、会員に対するポイントの換金をXさんらの承諾なく一方的にほぼ停止したのであるから、遅くともこの時期までにはポイントの換金について履行拒絶の意思を明らかにしていたものといえる。そのような状況下においては、XさんらにおいてY社に対してポイントの換金を求める手続を行うことは期待できない。少なくともY社がポイントの換金に対応していない期間においては、Xさんらにおいて権利行使が困難な事情があったと認められるから、ポイントの有効期間は進行しないものと解されるところ、Y社は本件訴訟においても換金請求に応じる理由はないとしてXさんらの請求を争うものであるから、権利行使が困難な事情が継続しており、ポイントの有効期間はなお進行しないものと解される。よって、ポイントの有効期間の経過をいうY社の主張は理由がない。」

弁護士にもご相談ください

ポイントは今では生活に欠かせないものになっています。
販売促進や顧客へのPRの観点から独自のポイントを取り入れることもあるでしょう。
しかし、今回ご紹介した裁判例のように企業側の事情によってポイントが廃止されるという場合には、顧客に対する影響も非常に大きいものとなります。
ポイントを導入する場合には事前にその後の対応まで考えておく必要がありそうです。

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