法律コラム

義務なく他人のために事務の管理を始めた者とは?【最高裁令和7年7月14日判決】

弁護士法人ASKの弁護士相談・顧問契約をご希望の方はこちらまで

事務管理費用の請求とは?

義務もないのに他人のために何かをする。
そんなことあるの?と思われるかもしれません。
実は日頃の生活でもよくあり得ることなのです。

例えば、「お隣さんの垣根が壊れているけれど、どうやらお隣さんは長期にわたって家を空けているようだ。自分の家の防犯にもなるから、垣根を直しておこう。」といったケースがよく挙げられるところです。

このようなケースは、民法では、事務管理(民法697条)と呼ばれています。
具体的には、以下の要件を満たすとき、事務管理が成立します。

他人の事務
その事務の管理
他人の事務を管理する義務の不存在
他人のためにする意思
本人の意思・利益に反するのが明白でないこと
*【有斐閣『民法(全)第3版補訂版』(著者)潮見佳男(補訂者)長野史貫・下村信江・冷水登紀代 参照】

事務管理が成立する場合に、管理者が、事務管理の際に本人のために必要な費用、有益な費用を支出したときには、管理者は、本人に対して、費用の償還を請求することができます(民法702条1項)。
これが、いわゆる事務管理費の請求と呼ばれるものです。

「管理者としてお金を払ったけど、この費用を相手に請求することができるの?」などなどお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。


裁判例のご紹介(事務管理費用償還請求事件・最高裁令和7年7月14日判決)

さて、今回は、事務管理費用の償還請求が認められるかどうか?が争われた最高裁判例をご紹介します。

どんな事案?

この事案は、廃棄物最終処分場が立地するF県X市が、F県外の他の地方公共団体であるYらに対して、事務管理に基づく費用等の償還を求めた事案です。

何が起きた?

Yらについて

Yらは、市町村又は一般廃棄物の処理に関する事務を共同処理するために市町村によって設置された一部事務組合です。
Yらは、区域内で生じた一般廃棄物について、廃棄物処理業者であるKセンター株式会社に委託して、X市の区域内に存在する廃棄物最終処分場(本件最終処分場)で処分していました。

Kセンターについて

Kセンターは、平成8年5月以降、本件最終処分場において、平成4年5月のF県知事への届出に係る埋立容量を大幅に超える量の廃棄物を埋め立てていました。
しかし、平成12年8月、F県の行政指導を受け、本件最終処分場への廃棄物の搬入を停止しました。

本件最終処分場に関する報告

F県及びX市によって設置されたS市民間最終処分場環境保全対策協議会は、平成18年2月、本件最終処分場において、埋立地からの浸出液が混入した地下水が処理されないまま周辺の河川に流出しており、本件最終処分場から流出する地下水に複数の有害物質が基準値を超えて含まれ、上記河川の下流域の農作物や井戸水等に影響を生ずるおそれがあることを報告しました。

X市市長による命令

X市の市長は、平成18年5月、本件最終処分場において廃棄物の処理及び清掃に関する法律(法)6条の2第2項に規定する一般廃棄物処理基準に適合しない処分が行われたことにより、生活環境の保全上支障が生じ又は生ずるおそれがあり、その支障の除去又は発生の防止のために必要な措置(支障の除去等の措置)を講ずべきであるとして、法(平成18年法律第5号による改正前のもの)19条の4第1項に基づき、Kセンターに対し、本件最終処分場から外部への漏水防止対策、埋立地からの浸出液の浄化対策等を講ずべきことを命じました。
そして、X市は、同年7月以降、X市の市長による上記の命令に係る法19条の7第1項に基づく措置として、F県と共に諸施設の設置工事等を実施しました。

訴えの提起

このような設置工事等の実施を経て、X市は、これらの工事等の実施によりYらの事務の管理をしたなどと主張して、Yらに対し、事務管理に基づく費用償還請求等として、工事等の費用の一部に相当する金員の支払を求める訴えを提起しました。

裁判で問題になったこと(争点)

この裁判では、X市が求める事務管理費用の請求が認められるか否かを判断する前提として、Yらが本件最終処分場に関して、本来は“支障の除去等の措置を講ずる法的義務”を負っており、X市が「他人の事務の管理」をしたといえるのかどうか?が問題(争点)になりました。


原審の判断

原審の裁判所は、以下に引用するように、Yらが本件最終処分場に関して、“支障の除去等の措置を講ずる法的義務”を負っているとはいえず、X市が「他人の事務の管理」をしたとはいえないことから、事務管理は成立しないとしてX市の請求を認めませんでした。

「市町村等から一般廃棄物の処分の委託を受けた者が、当該市町村等の区域外において上記一般廃棄物の不適正な処分を行い、これに起因して生活環境の保全上支障が生じ又は生ずるおそれがある場合、上記市町村等がその支障の除去等の措置を講ずる法的義務を負うことを具体的に定める法令の規定が見当たらないことなどからすれば、上記市町村等が上記法的義務を負うということはできない。したがって、この場合に、上記処分の場所がその区域内に含まれる市町村が、その支障の除去等の措置を講じたとしても、上記委託をした市町村等の事務の管理をしたものとはいえず、事務管理は成立しない。」


最高裁の判断

しかし、最高裁は、本件においてX市は「他人の事務の管理」をしたといえるとして、事務管理の成立を認め、「X市が事務管理に基づく費用償還請求としてYらに償還を求めることができる費用の額等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す」という判断を示しました。


本判決の要旨

以下、最高裁がこのような判断に至った判決の要旨をご紹介します。

法の趣旨とは

「法(…)の規定は、市町村の区域内で生ずる一般廃棄物について、排出者である個々の住民にその処理の責任を負わせたのでは継続的かつ安定的な処理が行われることが期待できないことから、一般廃棄物の適正な処理により生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るため、個々の排出者に代わって、住民の福祉の増進を図る役割を広く担う市町村に、その区域内の一般廃棄物を適正に処理する責任を負わせたものと解される。」

廃棄物処理を委託した市町村には支障の除去等の措置を講ずる法的義務がある

「そして、これらの規定は、市町村が市町村以外の者に委託して当該市町村の区域外で行った一般廃棄物の処分が一般廃棄物処理基準に適合せず、これに起因して生活環境の保全上支障が生じ又は生ずるおそれがある場合も当然に想定していると考えられるところ、この場合においても、上記の委託をした市町村が一般廃棄物の処理について個々の排出者に代わってその処理の主体として負っている責任を全うするためには、上記委託をした市町村が自らその支障の除去等の措置を講ずる必要があるというべきである。
上記の場合には、立地市町村(上記処分の場所がその区域内に含まれる市町村をいう。以下同じ。)において、当該立地市町村の住民の健康や生活環境への影響を防ぐといった観点から、その支障の除去等の措置を講ずることが求められることもあるが、そのようなときであっても、上記委託をした市町村は、個々の排出者に代わって一般廃棄物の適正な処理に関する責任を負うものであって、その区域内において処分を行うことに伴う様々な事実上の負担を免れるという利益を得ているのであるから、本来的にその支障の除去等の措置を講ずべき地位にあるというべきであり、そのように解することが一般廃棄物の円滑な処理に資するものであり、関係市町村間の衡平にもかなうと考えられる。そうすると、上記委託をした市町村は、その支障の除去等の措置を講ずる法的義務を負うというべきである(…)。」

処分場の立地市町村が支障の除去等をした場合には事務管理が成立する

「以上によれば、市町村から一般廃棄物の処分の委託を受けた者が、当該市町村の区域外において一般廃棄物処理基準に適合しない処分を行い、これに起因して生活環境の保全上支障が生じ又は生ずるおそれがある場合に、立地市町村がその支障の除去等の措置を講じたときは、当該立地市町村が上記委託をした市町村の事務の管理をしたものとして、事務管理が成立し得ると解するのが相当である。立地市町村が法19条の7第1項に基づきその支障の除去等の措置を講じた場合には、その措置は当該立地市町村の事務としての性質を有するところ、この場合であっても、上記委託をした市町村が本来的にその支障の除去等の措置を講ずべき地位にあるものとしてこれを講ずる法的義務を負うことに変わりはなく、事務管理の成立が否定されるものではない。そして、以上のことは、上記委託をした者が一般廃棄物の処理に関する事務を共同処理するために市町村によって設置された一部事務組合であっても異なるものではない。」

原審へ差し戻す

「以上と異なる見解の下に、X市の事務管理に基づく費用償還請求を棄却すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。(…)以上を踏まえて、X市が事務管理に基づく費用償還請求としてYらに償還を求めることができる費用の額等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。」

弁護士法人ASKにご相談ください

さて、今回は、事務管理に基づく費用償還請求が認められるかどうか?が争われた裁判例をご紹介しました。
今回の裁判例の事案は、公共団体が主体になっていたことや、廃棄物処理の最終処分場に関する問題であったことから、ややイレギュラーな感じがあるかもしれません。
ただ、冒頭でもご説明したとおり、事務管理は、日頃の生活の中でも問題になってくる場面が多々みられます。
事務管理やその費用の請求などをめぐってお悩みがある場合には、ぜひ弁護士法人ASKにご相談ください。

弁護士法人ASKの弁護士相談・顧問契約をご希望の方はこちらまで