法律コラム

債権執行とは?第三債務者への送達後の電子記録債権の支払いと転付命令の効力【最高裁令和5年3月29日決定】

お金を貸したけれど、返してもらえない。
債権者が、債務者を被告として、貸金の返還を求める訴えを提起したところ、裁判で勝訴判決を得た。
ところが、債務者はなお判決で命じられた義務を履行しない。
このような場合、債権者はどうしたら良いのでしょうか?

今回は、債権者の債権回収の方法の一つである債権執行について簡単に解説するとともに、 “第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合に、差押えに係る金銭債権について発せられた転付命令が第三債務者に送達された後に電子記録債権の支払がされたとき、転付命令の効力がどうなるの?”という点が争いになった最高裁決定(令和5年3月29日 第三小法廷決定)をご紹介します。

債権者がとり得る手段

強制執行とは?

冒頭の事例に戻って、金銭債権を有する債権者が債権を回収する方法について考えてみましょう。
債務者が判決で確定した義務を履行しないような場合、債権者がとり得る手段としては、民事執行の申立てをし、債務者の財産に対して強制執行手続を開始してもらうことが考えられます。

強制執行には、金銭執行と非金銭執行がありますが、上記のような金銭の支払いを目的とする請求権を実現するための強制執行は、金銭執行に当たります。
他方で、金銭の支払いを目的としない請求権を実現するための強制執行が、非金銭執行です。たとえば、建物明渡請求権を実現するための強制執行などが非金銭執行にあたります。

そして、金銭執行は、さらに、何を対象として強制執行を行うかによって

  1. 不動産執行:不動産に対する強制執行(強制競売/強制管理)
  2. 船舶執行;船舶に対する強制執行
  3. 動産執行:動産に対する強制執行
  4. 債権執行等:債権その他財産権に対する強制執行

に区別されます。

債権執行とは?

強制執行の一つである債権執行は、債務者の有する債権を差し押さえて行われます(民事執行法第143条以下)。
債権執行では、債務者の有する債権が執行の対象となることから、債務者の有する債権の債務者が手続の中で現れることになります。この債務者のことを第三債務者と呼びます。
債権は、不動産のように目に見える形では存在していないものの、第三債務者の協力が得られれば、債権者としては債権回収の可能性が高まることから、債権執行は債権者が行う強制執行の手続のかなりの割合を占めています。

債権執行の流れ

債権執行の手続は、差押え、換価・満足の段階があります。

差押え

債権の差押えは、執行裁判所の発する差押命令によって行います。
差押命令においては、
・債務者に対して第三債務者への取立てその他の処分を禁止し、
・第三債務者に対して債務者への弁済を禁止する
ことになります(民事執行法第145条)。

差押命令は、債務者と第三債務者に送達され、第三債務者に送達された時に効力を生ずるため、送達後に債務者が第三者に債権を譲渡したり、第三者のために質権を設定したりしたとしても、これらの行為は債権者に対抗することができません。
また、差押命令が第三債務者に送達された後に、第三債務者が債務者に弁済をしたとしても、債権者は、第三債務者に対して支払いを請求することができます。

換価・満足

差押命令がなされた場合、第三債務者としては、「債権者と債務者との間の問題なんて、自分は関係ないよ!」と言いたい場合もあります。
このような場合、第三債務者としては、供託をすることによって、債権者と債務者との間で起きている紛争などに関して、利害関係を持たない立場になることが認められています(民事執行法第156条)。

では、第三債務者による供託がなされない場合、債権者が換価・満足を得る方法としては、どのような方法があるでしょうか?
この場合、大きく分けて、

  • ①取立て
  • ②転付命令の取得
  • ③その他

の3つのものがあります。

①取立てとは

債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したときは、差し押さえられた債権を取り立てることができます(民事執行法第155条1項本文)。
取立てという言葉は使われていますが、実際の意味合いとしては、債権者が、第三債務者に対して請求をし、第三債務者に支払ってもらうことができるということです。
ただし、債権者が支払いを受けることができるのは、あくまでも債務者に対して有する債権と執行費用の額です。債権者がこれを超えて、第三債務者から支払いを受けることはできません(同項ただし書)

②転付命令とは

転付命令とは、被差押債権が金銭債権の場合に、被差押債権を差押債権者の債権(請求債権)及び執行費用の支払いに代えて、券面額で差押債権者に移転させることを命ずる裁判のことです(民事執行法第159条1項)。
転付命令が第三者に送達される時までに差押え若しくは仮差押えが競合し又は配当要求があると、転付命令の効力は生じません(民事執行法159条3項)。
転付命令が確定すると、債権者が債務者に対して有する債権と執行費用は、債務者が第三債務者に対して有する債権が存在する限り、その券面額で、転付命令が第三債務者に送達された時に、弁済されたものとみなされます(民事執行法第160条)。
すなわち、(差押)債権者が転付命令を取得すると、債務者が第三債務者に対して有する債権(被差押債権)が、(差押)債権者に帰属することになるのです。

③その他

また、その他の換価・満足の方法としては、譲渡命令、売却命令、管理命令などがあります。
具体的には、「差し押さえられた債権が、条件付若しくは期限付であるとき、又は反対給付に係ることその他の事由によりその取立てが困難であるとき」は、執行裁判所が、差押債権者の申立てにより、
・譲渡命令:その債権を執行裁判所が定めた価額で支払に代えて差押債権者に譲渡する命令
・売却命令:取立てに代えて、執行裁判所の定める方法によりその債権の売却を執行官に命ずる命令
・管理命令:管理人を選任してその債権の管理を命ずる命令
・その他相当な方法による換価を命ずる命令
を発することができるとされています(民事執行法第161条)。

最高裁第三小法廷 令和5年3月29日決定

ここまで、債権執行について簡単に説明しました。
最後に、“第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合に、差押えに係る金銭債権について発せられた転付命令が第三債務者に送達された後に電子記録債権の支払がされたとき、転付命令の効力がどうなるの?”という点が争いになった最高裁決定(令和5年3月29日 第三小法廷決定)をご紹介します。

事案の概要

本件は、Xさん(相手方)がYさん(抗告人)の有する各売掛債権について差押命令の申立てをし、これに基づく差押命令が発せられたのに対して、Yさんが請求債権の大部分は従前の債権執行手続により、すでに消滅していると主張して執行抗告をした事案です。

事実の経過

債権者の転付命令等の取得と第三債務者の支払い

令和3年11月、債権者であるXさんは、債務者であるYさんが第三債務者に対して有する売掛債権について差押命令及び転付命令(本件転付命令等)を得ました。
ところが、本件転付命令等の第三債務者は、本件差押命令の送達を受ける前に、Yさんとの間で、本件転付命令等にかかる売掛債権の一部(本件被転付債権)について、その支払いのために電子記録債権を発生させていました。
そこで、第三債務者は、Yさんに対し、この電子記録債権の支払いをし、Xさんに対しては本件被転付債権の支払いをしませんでした。

債権者の差押命令の申立て

令和4年1月、Xさんは本件転付命令等と同一の債務名義に基づき差押命令の申立てを行い、本件差押命令が発せられました。
本件差押命令の執行債権には、本件転付命令の執行債権が含まれていましたが、本件被転付債権の額が控除されていませんでした。

Yさんによる執行抗告

これに対して、Yさんは、本件被転付債権は本件転付命令が第三債務者に送達された時点で存在したから、本件転付命令の執行債権は、本件被転付債権の券面額で弁済されたとみなされ(民事執行法第160条)、本件差押命令は、超過差押え(同第146条)に当たるとして、その取消しを求める執行抗告をしました。

民事執行法第160条(転付命令の効力)

転付命令が効力を生じた場合においては、差押債権者の債権及び執行費用は、転付命令に係る金銭債権が存する限り、その券面額で、転付命令が第三債務者に送達された時に弁済されたものとみなす。

民事執行法第146条(差押えの範囲)

1 執行裁判所は、差し押さえるべき債権の全部について差押命令を発することができる。

2 差し押さえた債権の価額が差押債権者の債権及び執行費用の額を超えるときは、執行裁判所は、他の債権を差し押さえてはならない。

争点

本件では、第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合において、転付命令が第三債務者に送達された後に電子記録債権の支払いがされたとき、この支払いによって民事執行法第160条による執行債権及び執行費用の弁済の効果が妨げられることになるか否か、が争点となりました。

原審(福岡高裁令4・5・31)の判断

原審裁判所は、差押えに係る金銭債権がその支払のために発生した電子記録債権の支払により消滅し、第三債務者がこれを差押債権者に対抗することができるときは、前記差押えに係る金銭債権について発せられた転付命令により執行債権等が弁済されたものとみなされることはないとして、Yさんの執行抗告を棄却しました。

本決定の要旨

これに対して、本判決は、以下のように示し、「第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合において、上記差押えに係る金銭債権について発せられた転付命令が第三債務者に送達された後に上記電子記録債権の支払がされたときは、上記支払によって民事執行法160条による上記転付命令の執行債権及び執行費用の弁済の効果が妨げられることはない」と判断しました。

送達前に電子記録債権を発生させ、送達後に支払った場合の効力

第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合には、上記送達後にその電子記録債権が支払われたとしても、上記差押えに係る金銭債権は消滅し、第三債務者はその消滅を差押債権者に対抗することができると解される(最高裁昭和46年(オ)第521号同49年10月24日第一小法廷判決・民集28巻7号1504頁参照)。

争点に対する判断

もっとも、転付命令が効力を生じた場合、執行債権及び執行費用は、転付命令に係る金銭債権が存する限り、差押債権者がその現実の満足を受けられなくても、その券面額で転付命令が第三債務者に送達された時に弁済されたものとみなされる(民事執行法160条)。

上記差押えに係る金銭債権について転付命令が発せられ、これが第三債務者に送達された後に、第三債務者が上記電子記録債権の支払をした場合には、上記転付命令に係る金銭債権は上記の弁済の効果が生ずる時点で存在していたのであるから、上記の弁済の効果が妨げられる理由はないというべきである(その場合、差押債権者は、債務者に対し、債務者が支払を受けた上記電子記録債権の額についての不当利得返還請求等をすることができることは別論である。)。

結論

したがって、第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合において、上記差押えに係る金銭債権について発せられた転付命令が第三債務者に送達された後に上記電子記録債権の支払がされたときは、上記支払によって民事執行法160条による上記転付命令の執行債権及び執行費用の弁済の効果が妨げられることはないというべきである。

これと異なる原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、本件支払がされた時期等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

ポイント

どんな事案だったか?

本件は、債権者であるXさんが、Yさんが第三債務者に対して有する各売掛債権について差押命令の申立てをし、これに基づく差押命令が発せられたのに対して、Yさんが請求債権の大部分は従前の債権執行手続により、すでに消滅していると主張して執行抗告をした事案でした。

何が問題になったか?

本件では、第三債務者が差押命令の送達を受ける前に、債務者であるYさんとの間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させており、さらに、転付命令が第三債務者に送達された後に、第三債務者がYさんに対して、電子記録債権の支払いをしていたことから、この支払いによって民事執行法第160条による執行債権及び執行費用の弁済の効果が妨げられることになるか否か、が問題となりました。

本決定のポイント

この点について、本決定は、「第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合において、上記差押えに係る金銭債権について発せられた転付命令が第三債務者に送達された後に上記電子記録債権の支払がされたときは、上記支払によって民事執行法160条による上記転付命令の執行債権及び執行費用の弁済の効果が妨げられることはない」と判断しました。
すなわち、本決定によれば、第三債務者の債務者Yさんに対する電子記録債権の支払いによって、民事執行法第160条にいう執行債権及び執行費用の弁済の効果が生じることになります。

残された問題

さて、本決定の見解に立った場合、債権者であるXさんは、現実には債権回収ができていない(満足を受けられていない)にも関わらず、民事執行法第160条により、弁済の効果があったものとみなされてしまいます。
そのため、Xさんとしては、失った被転付債権をいかに回収するかという問題が生じます。

裁判所は、転付命令という制度が、転付債権者が他の債権者に優先して債権を回収することができるものであり、執行における平等主義の例外となる制度であること、このような制度を利用して債権を独占的に取得した以上は、当該債権消滅のリスクも転付債権者が負うべきであることなどを根拠として、被転付債権の事後的な消滅により転付命令の効力が失われる場面をできるだけ限定する方向で判断をしています。
しかし、仮に、電子記録債権が債務者であるYさんに帰属し、第三債務者がYさんに対して支払いをした場合には、Xさんとしては、Yさんに対する不当利得返還請求をすることになるでしょう。
また、電子記録債権がさらに別の第三者に譲渡され、第三債務者が当該第三者(譲受人)に対して支払った場合、Xさんとしては、当該譲受人には不当利得返還請求をすることは難しいため、結局は、Yさんに対して電子記録債権の譲渡代金について不当利得返還請求するということになりそうです。
このように考えると、転付命令が元々リスクのある制度であるとしても、結局のところ、本決定の判断は、全体的に迂遠な方法を債権者に強いるもののように思え、この点には疑問が残るところです。

弁護士にもご相談ください

さて、今回は、債権者の債権回収の方法の一つである債権執行について簡単に解説するとともに、転付命令をめぐる最新判例を紹介しました。
商品の売買代金請求権や請負工事の報酬請求権、貸金の返還請求権、保証債務の履行請求権などの債権を有している場合、適時・適切に回収を図っていくことは、とても大切です。
ちょっと支払いが遅いけど、もう少し待っていれば大丈夫・・・。
そんな思いで1か月、2か月、と時が経過してしまうと、結局、債務者等から支払いを受けることができない事態に陥ってしまうこともあります。
債権回収にお悩みがある場合には、できる限り早めに弁護士に相談することがおすすめです。