法律コラム

日本版DBS法とは?【こども性暴力防止法】

イギリスやドイツ、フランスなど諸外国では既に職種にかかわらず、被用者又は使用者が、犯罪歴証明書を求めることができる制度が存在していました。
また上記の3か国では、いずれもこどもの安全確保を目的として、こどもに関わる職種については犯罪歴照会を行うことを義務化しています。

日本においても、長年にわたり、こどもに対する性暴力が問題視されていましたが、具体的な対策や対応が遅々としてなされていませんでした。

そのような中、令和6(2024)年6月19日、こどもたちを性被害から守るため、学校設置者等及び民間教育保育等事業者に対して、就職希望者の性犯罪歴の有無の確認を義務付ける、「こども性暴力防止法」(いわゆる日本版DBS法)が成立し、同月26日に公布されました。
この法律は、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲において政令で定める日に施行されることになっています。

日本版DBS法については、まだまだ課題があるとされていますが、まずは施行の前に、どんな法律なのか確認しておきましょう。
なお、本解説記事は、こども家庭庁のHP「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(こども性暴力防止法)」に関するページを参照しています。

こども性暴力防止法の目的

こども性暴力防止法(正式名称;「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」)は、児童対象性暴力等が児童等の権利を著しく侵害し、児童等の心身に生涯にわたって回復し難い重大な影響を与えるものであることに鑑み、児童等に対して教育、保育等の役務を提供する事業を行う立場にある学校設置者等及び認定を受けた民間教育保育等事業者が教育等及び教育保育等従事者による児童対象性暴力等の防止等の措置を講じることを義務付けることなどを目的としています。

義務を負うのはだれ?

子ども性暴力防止法(以下「法」と呼びます。)において、こども性暴力の防止等の措置を講ずる義務を負うのは、学校設置者等及び民間教育保育等事業者です。

対象「事業」の考え方

対象「事業」の範囲の考え方については、こどもの未熟さ等に乗じた性犯罪を防ぐため、事業の性質が、次の3つの要件を満たすものを対象範囲として検討するとされています。

支配性こどもを指導するなどし、非対称の力関係がある中で支配的・優越的立場に立つこと
継続性時間単位のものを含めてこども生活を共にするなどして、こどもに対して継続的に密接な人間関係を持つこと
閉鎖性親等の監視が届かない状況の下で預かり、養護等をするものであり、他者の目に触れにくい状況を作り出すことが容易であること

学校設置者等とは

学校設置者等とは、行政が監督認可などの権限を有する学校、保育所、児童養護施設などをいいます(法2条3項)。

対象事業の例として、学校設置者等については、対象となる事業者の範囲が明確であり、問題が生じた場合の監督や制裁の仕組みが整っている次のような施設・事業が検討されています。

  • 学校教育法上の設置・認可の対象となっているもの
    • 学校(幼稚園、小中学校、義務教育学校、高校、中等教育学校、特別支援学校、高等専門学校)
    • 専修学校(高等課程)
  • 認定こども園法又は児童福祉法上の認可等の対象となっているもの
    • 認定こども園
    • 児童福祉施設(保育所、指定障害児入所施設等、乳児院、母子生活支援施設、児童館、児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設、児童自立支援施設)
    • 児童相談所(一時保護施設を含む)
    • 指定障害児通所支援事業(児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援、居宅訪問型児童発達支援)
    • 家庭的保育事業等(家庭的保育事業、小規模保育事業、居宅訪問型保育事業又は事業所内保育事業)
    • 乳児等通園支援事業(こども誰でも通園制度)

民間教育保育等事業者とは

民間教育保育等事業者とは、行政の監督・認可などの権限が及ばない放課後児童クラブ(学童)認可外保育所学習塾などをいいます(法2条5項)。

民間教育保育等事業者については、各種学校等、児童福祉法上の届出事業や、現在全く業規制がない分野であって行政が事前に事業の範囲を把握しきれていないもの等について、認定制度(義務の対象となる事業者が講ずべき措置と同等の措置を実施する体制が確保されているものとして認定)を設けてその対象となることが検討されています。

対象事業の例としては、以下のものが挙げられています。

  • 学校教育法に規定される専修学校(一般課程)及び各種学校(准看護学校、助産師学校、インターナショナルスクール等)
  • 学校教育法以外の法律に基づき学校教育に関する教育を行う事業(高等学校の課程に類する教育を行うもの。公共職業訓練中卒者向けコース等を想定)
  • 児童福祉法上の届出の対象となっているもの等
    • 放課後児童クラブ等
    • 一時預かり事業
    • 病児保育事業
    • 子育て短期支援事業
    • 認可外保育施設
    • 児童自立生活援助事業
    • 小規模住居型児童養護事業
    • 妊産婦等生活援助事業
    • 児童育成支援拠点事業
    • 意見表明等支援事業
  • 障害者総合支援法上に規定されるもの(障害児を対象とするもの)
    • 居宅介護事業
    • 同行援護事業
    • 行動援護事業
    • 短期入所事業
    • 重度障害者等包括支援事業
  • 民間教育事業(児童に技芸又は知識の教授を行うもの。(※一定の要件を認定))
    • 学校塾、スポーツクラブ、ダンススクール等

(※の一定要件については、「対面指導」「習得するための標準期間が6か月以上」「事業者が用意する場所」「技芸又は知識の教授を行う者が政令で定める人数以上」が検討されています。)

学校設置者等及び民間教育保育事業者の責務は?

どんな責務を負うか

学校設置者等及び民間教育保育事業者は、児童等に対して、教育、保育等の役務を提供する事業を行う立場にあるものとして、以下の責務を負います(法3条1項)。

  • 児童等(法2条1項)に対して当該役務を提供する業務を行う教員等(法2条4項)及び教育保育等事業者(法2条6項)による児童対象性暴力等(法2条2項)の防止に努めること
  • 仮に児童対象性暴力等が行われた場合には、児童等を適切に保護すること

対象「業務」の考え方

対象「業務」の範囲の考え方については、こどもの未熟さ等に乗じた性犯罪を防ぐため、業務の性質が、次の3つの要件を満たすものを対象範囲として検討するとされています。なお、判断にあたっては、こどもから見て、当該業務が支配的・優越的であるという観点も重視されます。

支配性こどもを指導するなどし、非対称の力関係がある中で支配的・優越的立場に立つこと
継続性時間単位のものを含めてこども生活を共にするなどして、こどもに対して継続的に密接な人間関係を持つこと
閉鎖性親等の監視が届かない状況の下で預かり、養護等をするものであり、他者の目に触れにくい状況を作り出すことが容易であること

また、派遣や委託関係にあるものであるか否かや、当該業務を有償・無償のいずれで行っているかにとらわれることなく、その実態に即して判断する方向で検討されています。

教員等とは

教員等として、現在事業所管法令に規定があるものとしては、

  • 校長、園長、教諭、養護教諭
  • 寄宿舎指導員
  • 施設の長
  • 保育士
  • 児童指導員
  • 児童福祉司
  • 心理療法担当職員

などが挙げられます。

ただし、先ほどの①から③の要件を満たすものであれば現在規定がない業務であっても、実務を踏まえつつ、こどもと接する状態等に応じて対象に含めるよう各事業所管法令を整備する方向で検討されています。

教育保育等従業者とは

教育保育等従業者は、民間教育保育等事業者の認定の申請時に、従業者の業務の詳細を説明する資料を提出させ、対象業務に該当することを確認する(対象業務に該当するかどうかの基準はガイドライン等で示すことを想定)とされています。

例えば、次のような例が挙げられています。

  • 放課後児童支援員
  • 家庭的保育者
  • 子育て支援員
  • スイミングクラブ指導員
  • ダンススクール講師 など

学校設置者等が講ずべき措置とは?

学校設置者等は、大きく分けて次の5つの措置を講じる必要があります。

  • 教員等に対する研修の実施

  • 児童対象性暴力等を把握するための措置

  • 犯罪事実確認義務等

  • 犯罪事実確認の結果を踏まえた必要な措置

  • 児童対象性暴力等が疑われる場合などに講ずべき措置

以下、具体的にみていきましょう。

教員等に対する研修の実施

まず、学校設置者等は、教員等に児童対象性暴力等の防止に関する関心を高めるとともに、そのために取り組むべき事項に関する理解を深めるための研修を教員等に受講させなければなりません(法8条)。

児童対象性暴力等を把握するための措置

また、学校設置者等は、児童等との面談その他の教員等による児童対象性暴力等が行われるおそれがないかどうかを早期に把握するための措置として内閣府令の定めるものを実施しなければなりません(法5条1項)。
また、教員等による児童対象性暴力等に関して、児童等が用意に相談を行うことができるようにするために必要な措置として内閣府令で定めるものを実施しなければなりません(法5条2項)。

犯罪事実確認義務等

そして、特に注意しなければならないのが、犯罪事実確認義務です。
学校設置者等は、教員等として、その本来の業務に従事させようとする者について、当該業務を行わせるまでに、犯罪事実確認書(法33条1項)による特定性犯罪事実該当者(法2条8項)であるか否かの確認を行わなければなりません(法4条1項)。
なお、学校設置者等は、法の施行時の現職者についても、犯罪事実確認を行わなければならず(法4条3項)、その後も定期的に犯罪事実の確認が行わなければならないとされています(法4条4項)。

犯罪事実確認の結果を踏まえた必要な措置

学校設置者等は、犯罪事実確認にかかる者については、既に述べた研修の実施や児童対象性暴力等を把握するための措置、犯罪事実確認義務等の結果を踏まえて、その者による児童対象性暴力等が行われるおそれがあると認めるときは、
・その者を教員等として本来の業務に従事させないこと
・その他の児童対象性暴力等を防止するために必要な措置
を講じなければなりません(法6条)。

児童対象性暴力等が疑われる場合などに講ずべき措置

また、学校設置者等は、教員等による児童対象性暴力等が行われた疑いがあると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、その事実の有無及び内容の調査を行わなければなりません(法7条1項)。
加えて、児童等が教員等による児童対象性暴力等を受けたと認めるときは、内閣府令で定めるところにより、当該児童の保護及び支援のための措置を講じなければなりません(法7条2項)

民間教育保育事業者の講ずべき措置等とは?

民間教育保育事業者の認定

民間教育保育事業者は、申請により、その行う民間教育事業について、先ほど述べた学校設置者等が講ずべき措置と同等のものを実施する体制が確保されている旨のこども家庭庁長官(内閣総理大臣の委任)の認定を受けることができるとされています(法19条)。
こども家庭庁長官が認定を行った場合には、認定の申請をした者に通知されるほか、インターネットの利用等で公表されます(法22条)

認定事業者の講ずべき措置等

上記の認定の上で、認定事業者は、先ほど述べた学校設置者等が講ずべき措置と同等の実施等を行うことが義務付けられています(法20条26条27条)。

認定事業者に関する表示

また、認定事業者は、認定事業者に関する広告等に、こども家庭庁長官が定める表示を付することができるとされています(法23条)。

こども家庭庁長官の監督権限等

このほかにも、法28条から法32条においては、こども家庭庁長官の監督権限の規定が設けられています。

帳簿の備付け及び定期報告

認定事業者等は、内閣府令で定めるところにより、帳簿を備え、これに犯罪事実確認の実施状況を記載し、これを保存しなければなりません(法28条1項)。
そして、認定事業者等は、犯罪事実確認等の実施状況及び犯罪事実確認記録等の管理の状況について、内閣府令で定めるところにより、定期的に、こども家庭庁長官に対して、報告しなければなりません(法28条2項)。

報告徴収及び立入検査

また、こども家庭庁長官は、犯罪事実確認等の適切な実施及び犯罪事実確認記録等の適正な管理を確保するために必要な限度において、認定事業者等に対し、犯罪事実確認等の実施状況及び犯罪事実確認記録等の管理の状況に関し必要な報告若しくは資料の提出を求め、又はその職員に、認定事業者等の事務所、認定等事業を行う事業所その他必要な場所に立ち入り、犯罪事実確認等の実施状況及び犯罪事実確認記録等の管理の状況に関し質問させ、若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させることができるとされています(法29条1項)。

適合命令及び是正命令

こども家庭庁長官は、認定事業者等が認定の基準のいずれかに適合しなくなったと認めるときは、当該認定事業者等に対し、期限を定めて、当該基準に適合するために必要な措置をとるべきことを命ずることができます(法30条1項)。

また、こども家庭庁長官は、認定事業者等が犯罪事実確認記録等の適正な管理に違反している場合には、当該認定事業者等に対し、当該違反を是正するために必要な措置をとるべきことを命ずることができるとされています(法30条2項)。

廃止の届出

認定事業者等は、認定等事業を廃止するときは、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ、その旨及び廃止しようとする日を、こども家庭庁長官に対して届け出なければなりません(法31条1項)。
この届出があった場合。こども家庭庁長官は、遅滞なく、その旨及び廃止の日をインターネットの利用その他の方法により、公表します(法31条2項)。
なお、認定等は、廃止の日として届け出られた日以後は、その効力を失うことになります(法31条3項)。

認定等の取消し等

さらに、こども家庭庁長官は、偽りその他不正の手段により認定等を受けたときや、適合命令・是正命令に違反したときなど、法32条に定める事由に該当する場合には、認定等を取り消すものとする、としています(法32条)。

犯罪事実確認の仕組み

対象となる特定性犯罪前科等とは?

犯罪事実確認の対象となる「特定性犯罪」前科には、不同意わいせつ罪、不同意性交罪などの刑法犯(特別刑法犯を含む)に加えて、痴漢や盗撮などの各自治体の条例違反も含まれています(法2条7項)。

照会できる期間はどれくらい?

犯罪事実確認書を照会できる期間は、法2条8項に定められています。

拘禁刑(服役)刑の執行終了等から20年
拘禁刑(執行猶予判決を受け、猶予期間満了)裁判確定日から10年
罰金刑刑の執行終了等から10年

犯罪事実確認の流れは?

犯罪事実確認書交付のフローは、次のような流れが検討されています。

①対象事業者が、従業者(就労希望者を含む)について、こども家庭庁長官に対して、犯罪事実確認書の交付を申請する(法33条1項〜4項)。

②申請事業者が、従業者に、自己の戸籍情報等をこども家庭庁長官に提出させる(法33条5項〜7項

③こども家庭庁長官が、本人特定事項を提供して、法務大臣に犯罪照会をする(法34条2項)。

④法務大臣が、こども家庭庁長官に対して、犯歴の有無の回答をする(34条2項)。

⑤法務大臣から犯歴有無についての回答がなされた場合、こども家庭庁長官が、特定性犯罪前科の有無について記載した犯罪事実確認書を作成して対象事業者に交付する(35条1項、3項、4項)。

*なお、特定性犯罪前科がある場合には、こども家庭庁は、あらかじめ従業者に対して、その旨を通知し(35条5項)、従業者は、通知内容が事実でないと思料する場合には、2週間以内に、その訂正請求をすることができるとされています(法37条)。
*また、訂正請求期間中に本人が内定等辞退をすれば、申請は却下され、手続は終了します。

学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(こども性暴力防止法)/概要・参考資料(こども家庭庁HP)

犯罪事実確認記録等の適正な管理等

犯罪事実の有無及びその内容は、プライバシーに関わる秘匿性の高い個人情報であり、特に慎重に扱われなければなりません。
そのため、確認実施者(法11条)及び認定事業者は、犯罪事実確認記録等を適正に管理することが求められています(法14条法27条)。
また、犯罪事実確認記録等の適正な管理の観点から、法においては、
・利用目的による制限や第三者に対する提供の禁止(法12条
・犯罪事実確認書に記載された情報の漏洩等の報告(法13条
・犯罪事実確認記録等の廃棄及び消去(法38条
・職員等の秘密保持義務(法39条
・情報不正目的提供罪(法43条
・犯罪事実確認書不正取得罪(法44条
・虚偽表示罪及び情報漏洩罪等(法45条
などが定められています。

まとめ

こども性暴力防止法のポイントのおさらいです。

まず、学校設置者等及び民間教育保育事業者は、児童等に対して、教育、保育等の役務を提供する事業を行う立場にあるものとして、次の責務を負うことになります。

また、学校設置者等は、次に掲げる措置を講ずる義務があります。

民間教育保育事業者の場合については、申請により、その行う民間教育事業について、学校設置者等が講ずべき措置と同等のものを実施する体制が確保されている旨のこども家庭庁長官の認定を受けることができ、かかる認定の上で、学校設置者等が講ずべき措置と同等の措置を講ずる義務を負うことになります。

また、確認実施者及び認定事業者は、犯罪事実確認記録等を適正に管理することが求められています。
前科は個々人のプライバシーに関わる非常にセンシティブな情報であることを理解し、取り扱いには特に注意することが重要です。

弁護士にもご相談ください

こども性暴力防止法は、こどもと関わる事業を実施したり、施設を運営したりする事業者が無視することができない法律です。
この法律の施行にあたり、お悩みがある場合には、まず弁護士に相談してみることがおすすめです。